表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/156

海賊の巣(?)

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

『何処まで連れて行くつもりなんだろうね?』


『この恒星系は星域軍が調査済みで、海賊の巣は無かったはずだ。何処かで超光速航法に入るだろう。とにかくシオンは操舵室で待機だ』


 コンテナを牽引する海賊船は、そのまま恒星系内の中心に向かって進む。その先にはもちろん恒星があるが、そこが目的地のわけが無い。海賊は襲撃地点から恒星を挟んで反対側の宙域に向かって行く。しかしその宙域には何も存在しない。


『シンデン。何も無いけど、海賊の巣ってこんな感じなの?』


『いや、少なくとも船を整備する施設はあるはずだ。しかし、超光速航法に入るには、恒星に近すぎる。何かおかしい。シオンも気を引き締めろ』


>『電子頭脳さん、何か分かるか?』


>『コンテナによって探査機能が制限されています。現状の探査能力では海賊船以外の物体は発見できていません』


 電子頭脳が分からないのであれば、俺にも判断できない。


『シオン、コンテナをパージして逃げ出すかもしれない。そうなっても慌てるなよ』


『え?だって何も無いのに…』


『だからだ。この船が探知できない何かを、海賊は持ってる可能性がある。何も無いことがおかしい…危険だと思わないか?』


『シンデンがそう言うなら…危険って事なのね』


 シオンがゴクリと唾を飲み込んで頷いた。


 コンテナを牽引した海賊船が何か怪しいそぶりを見せたら、俺は逃げるつもりだった。


 スッ


 コンテナを引っ張っていた海賊船が、突然宇宙空間に消えてしまった。超光速航法に入ったわけでも無く、その場から消えたように見えなくなり、探知できなくなったのだ。


『『海賊船が消えた?』』


 シオンとシンデン()が驚きの声を上げた。これは異常事態だろうと、コンテナをパージして逃げ出すべきかと俺は思ったのだが、


>『いえ、消えたのではありません。あれはステルスフィールド内に入ったのです』


 電子頭脳は海賊船が消えた理由を知っているようだった。


>『ステルスフィールドって、この船のステルスモードと光学迷彩を合わせたような物か?』


>『はい。本船と同レベルのテクノロジーで作られた物です。現在の人類の技術では発見不可能でしょう』


>『それじゃ、もしかしてヤマト級と同じようなレリックシップ(遺物船)がいるかもしれないって事だな』


>『可能性は大きいです。即時撤退を…『否定。情報収集のため、現状維持』』


 マスタープログラムが会計処理プログラムを強制停止させたのだろう、電子頭脳さんは撤退から情報収集する事を進言してきた。


>『しかし、レリックシップ(遺物船)がいたら、シオンを危険にさらす事になるぞ』


>『バックアップ霊子()の意思は尊重。しかし、戦力を見極めずに撤退するのは非推奨』


>『…確かに相手の戦力を見ないまま逃げ出すのは不味いか。それに、まだレリックシップ(遺物船)が係わっているとは限らないからな』


 俺は情報収集が必要な事を理解した。直ぐに逃げ出してしまっては、こちらの情報だけ相手に与えることになる。それは完全に悪手である。依頼が罠の可能性はゼロであることは、電子頭脳による情報収集で確認済みだ。もしヤマト級のレリックシップ(遺物船)が係わっていたとしても、相手もこちらの事を知らないはずである。だったら、こちらの正体がばれる前に、先制攻撃をしかけるか、情報収集して逃げ出すのが最善手である。


『シオン、しばらく様子を見よう』


『ええ、海賊船が消えちゃったよ。危険じゃないの?』


『様子見だ!』


『う、うん』


 海賊船からの牽引ワイヤーに引かれて、コンテナ(帆船)もステルスフィールド内に入った。フィールド内に入ると、海賊船も見えるようになった。二隻が向かう先には、二百メートルほどの小さな宇宙ステーションがあった。二隻の海賊船以外は他の海賊船は見当たらない。


>『ふぅ、良かった、ヤマト級レリックシップ(遺物船)はいないみたいだな』


>『ステーションがステルスフィールドの発生源』


 ステルスフィールドを発生させているのは、海賊が向かっているステーションだった。二百メートルというサイズはステーションとしても小型であり、海賊船の整備はできても、コンテナの中身を置いておく場所すらない。つまりコンテナはここから何処かに運び出されているのだろう。そう思ってステーションを見ていた俺は、気づいてしまった。


>『ちょっと待て、あのステーションは、戦艦じゃないか?』


>『…ステーションの母体は、カゲロウ級駆逐艦と判明。ただし、損耗が激しく自己修復機能が誤動作中』


>『ん、自己修復機能が誤動作中って、あのレリックシップ(遺物船)は電子頭脳が制御していないのか?』


>『電子頭脳が破損していると推測。その結果、自己修復機能が暴走し、外部からの資源を使って修復を試みている状況』


>『なるほど。しかし、こっちが近づいたら、電子頭脳がいきなり目覚めるとかありそうだが…』


>『否定。電子頭脳が正常稼働中であれば自己再生は正常動作。よって人工頭脳は破損して停止中と推測』


>『そうなると、謎なのはあの二隻の海賊船だな。どうして輸送船を襲ってコンテナをここに運び込んでいるんだ』


>『カゲロウ級を修理する資材を集めるために運搬船を襲っていたと推測。…海賊船はクローン脳ユニットを搭載した九十二式偵察機が本体と判明。海賊船という先入観が電子頭脳の判断ミスの原因』


>『電子頭脳さんも判断ミスを起こすのか。事前の情報でもただの海賊船という情報しか無かったからな。判断ミスもするさ。あの二隻は、何処かで拾った海賊船の残骸でも拾って偽装したんだろうな。海賊のフリをできるとは、キャリフォルニア星域軍のクローン脳ユニットと違って、自己判断できるって事か』


>『肯定。偵察機は攻撃力は低いが、優秀な思考ルーチンを所持』


>『他に戦力らしき物は見当たらないし、シオンと戦わせても大丈夫か?』


>『肯定。現状の、九十二式偵察機では本船の破壊は不可能』


 電子頭脳さんが言うので、あればまあ安全なのだろう。偵察機というだけに、武装は大したことは無く、レリックシップ(駆逐艦)も武装が全て壊れている。修理する作業ドローンさえ見当たらないと言うことは、修理も海賊船(九十二式偵察機)がやっているのだろう。


『シオン、海賊の巣は特殊なフィールドで隠されていたようだ。見たところ、ステーションに他の海賊もいない。最初の作戦通り、海賊を片付けてしまおう』


『う、うん。分かった』


『じゃあ、始めるぞ。船体の分離開始』


 シンデン()の合図で、コンテナ内で帆船と船首像が分離する。


『コンテナ、パージ』


 シオンの号令でコンテナが分解して、中から帆船と船首像が飛び出す。


 この任務ではシオンが経験を積むという課題の他に、シンデンに書き込まれた俺の霊子()がどれだけ耐えられるかというテストも行っている。暇を見ては試しているおかげで、今なら書き込まれた霊子()は、二時間ほど狂気に陥らずに耐えられる様になった。二時間もあれば海賊船との戦いの間ぐらいは持つはずだ。霊子()がやばくなったら、シンデンの肉体を停止(気絶)させて、帆船に合体させる予定だ。


『無駄な抵抗は止めて、降伏して下さい』


 シオンが海賊船に通信を送るが、クローン脳ユニットがそんな事を聞き入れるわけもない。それ以前に、コンテナから帆船が現れた事で、海賊船(九十二式偵察機)は慌てていた。優秀な思考ルーチンを組み込んであると言っても、人間の様に臨機応変な対応できるわけでは無いようだ。


 あたふたと船首を回頭しているが、偽装に使っている海賊のパーツの為に本来の性能が出せず、速度が遅い。


『良く狙って、発射』


 シオンが慎重に狙いを付けて、右舷の砲塔を発射する。ブラスターの火線が海賊船の電子頭脳を打ち抜くと、海賊船はそのまま宇宙を漂うだけになる。電子頭脳と言ってもクローン脳ユニットでは無く、九十二式偵察機の機体制御を行っている部分である。


『良し、上手くやったな。後はあのステーションだが、スキャンすると無人らしい。俺と響音(おとね)で調査するから、シオンはここで待機していろ』


『壊した海賊船はどうするの?』


 シオンが宇宙を漂う海賊船を指さす。


『もちろん回収する』


 レリックシップ(遺物船)の艦載機だ、海賊船に偽装していたパーツは売却して、後は電子頭脳が改造する予定だ。レリックシップ(遺物船)のクローン脳ユニットなので、通常の人類の物とは異なる。レリック(遺物)電子頭脳と言い張っても、問題無いだろう。世の中には生体パーツだけで作られたレリックシップ(遺物船)もあるのだ。


『電子頭脳が作業ドローンを使って回収してくれるから、後は任せておけ。お前は迂闊に海賊に近寄るなよ。彼奴ら臭いからな』


『海賊さんって、臭いの?』


『小綺麗な海賊がいると思うか。俺でもできれば近寄りたくはない。帆船の作業ドローンに任せておけばよい』


『うん、分かった、任せておく』


 俺の言葉から何を想像したのか、シオンは宇宙服の上から手で鼻を隠した。人間の海賊では無く、クローン脳ユニットが乗っていた事などシオンに知らせる必要は無い。回収作業は電子頭脳が上手く、処理してくれるだろう。


お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたらぜひ評価・ブックマークをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ