シオン(キャサリン)とアマモ
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
キャリフォルニア星域軍の内戦の影響で、ローサンジェルへ向かう旅客船の数が減少しており、その為席がなかなか取れない状況だった。電子頭脳が頑張って席を何とか確保したが、人型ドローンは貨物室に入ることになってしまった。
「じゃあ、アマモさんに会いに行くね。人型ドローンは、ローサンジェルに着いたら、シンデンが操ってくれるって事なんだよね」
「そうだ。まあ旅客船がローサンジェルに着く前に着いているはずだから、安心しろ。後、旅客船にはお前一人で乗ることになる、よそ様に迷惑をかけるなよ。ビジネスクラスだから、快適な旅だぞ」
「もう、子供じゃ無いんだから。そんな事言わないでよ」
シオンはそう言ってすねるが、見た目は大人でも中身は十二歳の子供である。
「…分かった。これはお前が傭兵になれるかどうかの試験も兼ねている。もし何か問題を起こしたら傭兵となる話は無しにする」
「わ、分かった。私頑張るわ」
傭兵となる話を持ち出すことで、シオンの気を引き締めておいた。
「俺は先に出るからな。通常空間なら渡した端末から俺と通信できる。俺が超光速空間に入っていた場合でも、メッセージを入れておけば、通常空間に出たときに受信できる。俺もお前に連絡を取る可能性があるから、超光速航法から出たときは、必ず端末をチェックしろ」
「サーイエッサー」
シオンは軍隊のような敬礼をするが、それじゃ傭兵じゃなくて軍隊である。
「じゃあ、俺は行くぞ」
「あ、ちょっと待って」
そう言ってシオンはシンデンを引き留めると、頬にキスをしてきた。俺は突然のシオンの行動に何もできなかった。いや俺は生きていた間、女性にキスなんてされた事ないから、戸惑うのも当然だ。
「アマモさんも、良くシンデンと分かれる際にしてたって言ってたから」
もしシンデンに霊子が書き込まれていたら、顔が真っ赤になっていただろう。今はコントロール中だから、顔は無表情のままである。
「…姉さん余計な事を」
動揺も見せずにシンデンは立ち去るが、操っているバックアップ霊子の方は、ないはずの心臓がバクバクしていた。
★☆★☆
ホルルの傭兵ギルドで、ギルドマスターにステーションから出て行く事を告げる。このギルドマスターにはお世話になった事もあるので、挨拶のつもりだった。まあ留守なら言伝でも頼もうと思ったのだが、ギルドマスターはシンデンを部屋に招き入れた
「何処へ向かうつもりなのだ」
「キャリフォルニア星域に入国できないからな。ここの依頼はキャリフォルニア星域に絡む物が多いからな、何処か…アールランド星域にでも向かおうと思っている」
「あの女傭兵とは別れたのか?」
「ああ、彼女は故郷に帰ると言ってた。傭兵として働くなら連絡をよこせとは伝えた。新人傭兵の教育依頼で働いてくれたのだ、その時は支援ぐらいしてやる」
「なるほどな。傭兵ギルドとしては、まあもめ事さえ起こさなければ良いのだ」
ギルドマスターは、シンデンの向かう先を聞いて、シオンと俺の間を男女関係にあると思っただろう。しかし本当は義父と養女の関係である。
傭兵ギルドを出て、ステーションを離脱。超光速航法に入ってしまえば、後はもう誰も帆船を追いかけることなどできない。海賊の巣から出発したクローン脳の運搬船とコンテナとは、ハーウィ星域と隣接するアソナ星域の途中で合流予定である。
アソナ星域はハーウィ星域より小さく寂れた星域のため、超光速空間に船影も少ない。誰にも見つからずに帆船と運搬船は合流して、コンテナに帆船を格納する。
そして運搬船は、アソナ星域の外れの小さなステーションに入港した。
>『シオンの方は…。どうやら上手く旅客船に乗ったようだな。後は問題なくローサンジェルに向かうだけだな』
>『運搬船をアソナ星域の弱小運送会社に偽装完了。ローサンジェルへの特産品輸送コンテナとして運搬され、ローサンジェルで数日保管の後、特産品の売り込みに失敗して、アールランド星域へ配送するという予定になります』
>『電子頭脳さん、お疲れさま。今度は順調にいってほしいな』
>『同感です。今でも資金はギリギリです。あの運搬船も売り払いたいのですが、まあジャンク扱いで買いたたかれるでしょうね』
>『帆船を隠して移動する事があれば、役に立つんだ。アールランド星域まで移動させて、何処か人目の着かない宇宙空間で放置させておいてから、クローン脳と人型ドローンだけ回収しよう』
キャリフォルニア星系の海賊の巣を便利に使ってきたが、あの恒星系は星域軍も知っている。何かの拍子に海賊の巣を点検されても困るので、運搬船は孤独に宇宙空間を漂流させておくのが一番見つからない方法である。
俺達は運搬船に運ばれて、キャリフォルニア星域に入る。キャリフォルニア星域は内戦の影響で治安が悪くなっていると思ったが、海賊に襲われることも無く再びローサンジェルのステーションに辿り着いた。
>『シオンは、二十時間後に到着か。今のところ問題は無いな』
シオンは端末からシンデンに向けて色々通信を送って来た。内容は旅客船の話や、隣の席の変な男からナンパされたとか、まあ色々だった。俺はシンデンとして無難な返事を送っておいた。
★☆★☆
シオンの乗る旅客船は問題なくローサンジェルに着いた。人型ドローンはまだ貨物室の中であるが、到着と同時にシオンが通信を送ってくる。
『ヤッホー、シンデン。着いたよ~』
『シオン、俺の名前を迂闊に声に出すな。この通信は傍受されないが、監視カメラだけじゃ無く音声も確認されている可能性も考えろ』
『うう、いきなり怒られた』
『姉さんに会って、お前が無事なことを理解して貰う。そして傭兵として働く事を許可して貰う。その為にはローサンジェルで失敗はできない。分かったな!』
『分かった』
シオンはシンデンに怒られて涙目だが、ここまで来て星域軍にシオンが捕まってしまっては困るのだ。
貨物扱いだった人型ドローンが活動を再開し、ロビーで項垂れているシオンを迎えに行く。軌道エレベータに乗って、地上に降りて、施設に向かう。問題は施設内のアヤモとどうやってシオンを会わせるかだが、その方法はシオンが知っていた。
『アヤモさん、何時も決まった時間に施設から出て散歩するんだよ。その途中で会えば大丈夫でしょ』
『監視とかされてないのか?』
『さあ?街の監視カメラには映っていると思うけど、それぐらいじゃ無い?』
『監視カメラなら何とかなるか。よし、その方法で会おう』
アマモのいる施設から五百メートルほど離れた公園。そこでシオンはアマモと会うことに決めた。決めた理由は、公園が観光名所かつ市民の憩いの場となっているため、シオンと人型ドローンがいても不自然では無いからだ。
「アマモさんが来たわ」
『人型ドローンがよろけたフリをして、姉さんの前に立ちふさがる。それを切っ掛けにしてお前が話しかけろ』
「う、うん。分かった」
公園の側の道を通るアマモの前に、俺が操る人型ドローンが足の故障を装ってよろけて倒れる。アマモは驚いた様だが、特に怪しむ事もなく、立ち止まった。
ここでシオンがアマモに話しかければ良いのだが、シオンは何故か立ち止まったままである。こうなれば俺が何とかするしかない。
「姉さん、すまないが話をしたい。この人型ドローンを助け起こして、そこにいるシオン、いやキャサリンと話をしてくれ」
「えっ、貴方、シン…なの」
アマモは少し動揺したが、直ぐに人型ドローンに駆け寄った。
「ああ、人型ドローンを操っているのは、俺だ。そしてキャサリンは死んでなどいない」
「やっぱりそうだったのね。傭兵ギルドからメッセージを貰ったけど、信じてはいなかったわ。貴方が必ず連れて帰ると約束したんだもの」
「ああ、心配をかけてすまなかった。キャサリン…いや今の名前はシオンだが、彼女と話をして欲しい」
「あの女性がキャサリンなの?確かに顔は似てるけど…」
「ああ、そうだ。事情は説明する」
アマモは人型ドローンを立ち上がらせると、公園のベンチに一緒に腰掛けた。シオンはまだ立ったままだ。
「シオン、姉さんに話をするんだろ。早くしろ」
「う、うん。……アマモさん、私、迷惑をかけちゃって…御免なさい」
シオンは、アマモの前に跪くと抱きついて泣き出した。
「ううん、ちっとも迷惑じゃ無いわよ。お帰りなさい」
泣きじゃくるシオンをアマモはそっと抱き返した。
★☆★☆
結局、シオンがキャサリンだと分かり、シンデンと傭兵をすることについては心配されたが、それが一番安全だと説明して納得して貰った。
アマモとシオンとの話、そして大人になった事情を説明した。そして俺達がアマモと話せる時間も限界に来ている。
アマモとシオンが話している光景は施設や星域軍には知られたくない。現在電子頭脳が施設周辺の監視カメラをハッキングして、アマモは散歩している事になっている。その散歩をするアマモが公園に着くまで後三分程だ。
「キャ…シオンちゃん、元気にね。時々で良いから顔を見せてね」
「うん、分かった」
「姉さん、そろそろ時間だ」
「シ、貴方は何時もそうね。そうね、シオンちゃんが怪しまれるのは不味いわね。じゃあ、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
シオンとアマモの別れはすんだ。アマモは俺の事をシンデンとは異なる人物と感づいていたが、その事をシオンには告げなかった。
アマモは施設に帰っていく。その姿をシオンと見送る。
「さて、船に戻るか。シオンはアールランド星域までまた別行動になるが、問題は起こすなよ」
「分かってるって」
そうして、俺とシオンの傭兵活動が始まった。
一章終わりみたいな感じです。
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