表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/156

新人傭兵の説得と大昔の戦争

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 ボブの船を回収した帆船は、超光速航行に入った。超光速空間に入る所でシオンが文句を言うが、仕様なので我慢するしか無い。

 超光速空間で船団を追いかけたが、三時間後には追いついた。その後はしばらく進んで航路上のステーションに立ち寄ってパイロットの休憩となる。三交代、二十四時間体勢で進むような航路ではないので、十六時間の休憩である。


『ステーションに着いた事だし、ボブを起こして教育しないとな』


「あんなの、最後まで眠らせておけば良いのに」


 シオンはそう言うが、シンデン()が受けたのは新人傭兵の教育である。このままでは依頼は失敗となるだろう。


響音(おとね)、奴を起こしてくれ』


「了解しました」


 シンデン()が出向いても良いが、それだとボブが反発するかもしれない。響音(おとね)なら上手くボブを起こしてくれるだろう。


『御迷惑をおかけして申し訳ありませんでした』


 目を覚ましたボブだが、まるで憑き物が落ちたかのように真面になっていた。いや、出会った時のあの態度は、彼が傭兵になろうと頑張った結果だったのだ。今の普通の態度こそ彼の本性だろう。


『うむ。失敗は誰にでもある。しかし今回の失敗はお前の油断が原因だ。それは分かっているだろうな』


『はい。完全に私のミスでした。こんな有様では私は傭兵になる資格など無いのかもしれません』


 ボブはどうやら傭兵としてやっていく自信を無くしたようだった。しかしここで彼が傭兵を止めてるという事になれば、新人傭兵の教育という依頼が失敗となってしまう。


『まあ、そう気を落とすな。俺が知っている傭兵達は、はっきり言って馬鹿揃いだ。お前の様な失敗をする奴もいるが、それを反省もせず、雇い主に責任転嫁する様な連中も多い。それに比べれば、お前は反省できているだけマシな方だ』


 シンデン()の言葉をボブは黙って聞いていた。


『俺も新人時代に失敗して、多額の借金を背負ってしまったこともある。それに比べれば、今のお前は依頼主の信用以外失っていない。その信用も、これから依頼をきちんとこなせば取り戻すことも可能だ。傭兵になるのを諦めるな』


『AA+クラスのシンデンさんでもそんな事が…。分かりました、私も諦めずにもう少し頑張ってみます』


 ボブはやる気を取り戻したのか、顔を上げて頷いた。


>『ふぅ。これで無事目的地に着けば依頼達成だな』


>『バックアップ霊子()、ナイスフォローです』


 電子頭脳さんも俺の説得にOKを出してくれた。何だかとても嬉しい気分である。


 ★☆★☆


 船団はステーションに停泊して休息を取っている。帆船は金をケチってステーションの外に停泊している。シオンはボブの回収で頑張った事で疲れたのであろう、早々と眠りについている。

 宇宙だと朝とか深夜とか時間の区分は無いのだが、俺としては皆が寝静まった今が、深夜という感覚だ。つまり、秘密の話をするような気分なのだ。


>『電子頭脳さん、あの海賊を殺した霊子力兵器を持った敵として、ヤマト級以外(・・)レリックシップ(遺物船)も存在するって言っていたよね?』


>『肯定。霊子力兵器を持っているレリックシップ(遺物船)は、ヤマト級以外にも存在』


 俺の質問に答えたのは、会計処理プログラムでは無く、片言の電子頭脳さんだった。


>『ヤマト級以外のレリックシップ(遺物船)。それは帆船と敵対する勢力なのか?』


>『不明。本船やヤマト級を製作した創造主以外にも、霊子力兵器を作り出した文明は存在。その様なレリック(遺物)レリックシップ(遺物船)が、本船と敵対するか、判断するにはデータ不足』


>『なるほど。まあ俺もそのレリック(遺物)だった訳だし、人類も霊子力兵器を作成していたんだな』


>『肯定。しかし霊子力兵器作成の技術を現生人類は非所持。本船は、現生人類の霊子力兵器の所持を断固阻止』


>『それは、人類が霊子力兵器を開発しないようにするって事か?』


>『肯定。当面の目標として霊子力兵器を使用した企業の情報を収集中。見つけ次第、技術を削除予定』


>『削除って怖いこと言うな。自分も霊子力兵器を持っているのに、他の連中には持たせないとか我が儘じゃ無いか?』


>『初代マスター曰く「毒を以て毒を制す」。本船も機能維持に問題が生じない限り、霊子力兵器の使用は禁止。企業も開発データと現物のみ削除予定』


>『まあ電子頭脳さんと初代マスターの考えは理解した。それで、話は戻るが、ヤマト級以外のレリックシップ(遺物船)が存在するんだよな。どんなレリックシップ(遺物船)があるか教えて欲しい。シンデンの記憶にもその答えは無かったけど、電子頭脳さんは知っているんだよね』


>『肯定。現生人類に本船が製作された時代の情報は禁則事項』


>『なるほど、現生人類には、それを聞く権利が無いってことか』


>『肯定』


>『まあ、屁理屈かもしれないが、バックアップ霊子()は、現生人類とは言えるかな。書き戻せる肉体も無く、霊子()だけが帆船に存在するこの俺は、人類かな?』


>『…判定不能』


>『電子頭脳さん、()に公開できる範囲で良いから教えて欲しい。禁則事項とか何処かの未来人でも時々破ってるぞ』


>『バックアップ霊子()が現生人類に禁則事項を公開しようとした場合、即時消去可能と判断。本電子頭脳が持つデータの限定公開を許可』


 電子頭脳は、バックアップ霊子()が他人に話をしないことを条件に、帆船が製作された時代についての情報を公開してくれた。迂闊に情報を喋ったら、バックアップ霊子()は削除されてしまう事になったが、情報を知らないと対策も取れないのだ。


 電子頭脳が語ってくれた異星人の歴史とレリックシップ(遺物船)の情報はかなり膨大だったが、要約すると以下の通りとなる。


 帆船を建造した創造主達(人類は第十三異星人と命名)は、複数の銀河系にわたって繁栄した超文明だった。しかしその超文明も、くだらない論争が元で二つの勢力に分かれて戦争を始めた。その戦争で使われたのが、帆船やヤマト級を始めとした宇宙船…今はレリックシップ(遺物船)である。


 帆船を作った勢力は、帆船という形にはこだわっていたが、船としての機能はバラバラだったらしい。まあ一隻ずつ職人芸で作られたような逸品ぞろいだった。


 一方、ヤマト級を含む船を作った勢力は、蒸気タービンを使った水上戦闘艦を模倣することにこだわっていた。そして船の艦種も水上戦闘艦と同じく、戦艦、巡洋艦、駆逐艦、空母、潜水艦という種類に分けて同型艦が複数製作され、艦隊を組んで行動していた。

 ちなみに、潜水艦は超光速空間の水面下で行動できる船として製作され、空母は、クローン脳を搭載したドローン艦を大量に搭載した、要塞級クラスの大型艦である。


 二つの勢力の戦いは、当初はまあゲームのような感覚で進められていた。もちろん霊子力兵器など使われていなかった。

 しかし戦争でヤマト級側勢力が不利となり始めると、艦艇に操縦者をコントロールする装置と霊子力兵器が搭載されるようになった。

 それに対抗する為に、帆船側勢力も霊子力兵器を搭載していった。しかし、帆船側勢力は操縦者をコントロールする装置は搭載せず、代わりに電子頭脳に自己保存を優先する機能を追加した。


 最終的に戦争は霊子力兵器を使った総力戦となり、創造主達は瞬く間に文明を荒廃させてしまった。創造主達が戦いの無意味さに気づいた時は既に手遅れであり、帆船や戦艦を封印したが、創造主達は元の勢いを取り戻すこともできず、滅び去ってしまった。


>『なるほどね。帆船は、シンデンが偶然封印されているのを見つけてマスターとなった。ヤマト級はキャリフォルニア星域軍が封印を解いてしまったってことだな』


>『肯定』


>『そういえば、船首像は正式な装備じゃ無いと言っていたが、誰が作ったんだ』


>『本船の初代マスターのコレクションであったレリックシップ(遺物船)。本船を建造するに当たって、無理矢理接続できるように設計を変更』


>『なるほど、だからあんな歪な形で船首に繋がっているのか。それで、電子頭脳さんは、他のレリックシップ(遺物船)が封印されている場所を知っているの?』


>『本船は、封印場所のデータを非所持』


>『まあ、知ってたら封印が解ける前に破壊しているよな。つまり、今どれだけのレリックシップ(遺物船)が存在しているかなんて、分からないのか。まあシンデンや今回の事件の様に、ニュースにでもならなきゃ分からないって事だな』


 俺は、霊子()だけの存在なのに何か寒気を感じていた。



お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたら評価・ブックマークをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ