海賊の墓場
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
『マスター操舵室に到着しました』
『ちょっと、これが宇宙船の操舵室って、本当なの?』
響音によって操舵室に連れて行かれたシオンは、そこで驚いていた。
『少し普通の宇宙船とは違うが、そこが操舵室だ』
『見晴らしが良いって、これじゃ宇宙船じゃなくて「傭兵の基礎」に乗ってた海上艦船の操縦室じゃ無い。それも超古代のやつでしょ』
シオンが驚くの当然である。響音に運ばれてきた操舵室とは、帆船の甲板上に舵輪が付いているだけの場所であった。一応シールドで気密が保たれているし、必要な情報はホロモニターに表示される為、操船に問題は無いが、宇宙船のコクピットと認める人はいないだろう。レリックシップを作った奴は松○時空に毒されていたとしか言いようがない。
『俺の船はレリックシップだ。超古代の船で間違いはない。早く舵輪を握るんだ。もう船を分離するぞ』
『ええっ、もう分離しちゃうの』
『このままではボブの船が離脱した地点を過ぎてしまう。早く舵輪を握って超光速航法回路に意識を向けろ』
『うう、これは貸しだからね。後で私のお願い聞いてよね!』
シオンは若干涙目になりながらも、舵輪を握って超光速航法回路を駆動した。
『覚えておこう。良し、分離開始だ』
シンデンの合図と共に、帆船と船首像が分離を開始する。拘束を解かれた船首像は、人型宇宙船として超光速空間を進み始める。
『分離完了。シオン、ボブの追跡を頼むぞ。電子頭脳の命令を聞いていれば問題は無い』
『…分かったわ』
不安そうなシオンの声だが、実際は俺と電子頭脳がサポートするのだから問題など起きようが無い。リモートで動いている船首像の方が心配なぐらいだ。
『シンデンさん。あの、船がおかしな状態になっていますが大丈夫なのでしょうか』
予想通り、船団の責任者から通信が入る。
『俺の船は二隻の宇宙船に分離可能でな。俺の後輩の傭兵には離脱した傭兵の回収命令したのだ。船団の護衛は俺がのるこの人型宇宙船で行う。例え星域軍が襲って来たとしても、俺なら守り切れる。心配不要だ』
『当船団が星域軍に襲われるような事などありません。分かりましたシンデンさんの判断を信じます』
AA+ランクかつ、星域軍とも戦ったと噂されるシンデンのネームバリューは凄い。船団の責任者はシンデンの言葉をそのまま信じてくれた。まあ、船団に後ろめたいことが無ければ当然であるだろう。
★☆★☆
船首像と分離した帆船は、シオンの操船で傭兵が超光速空間から離脱したポイントに何とか辿り着いていた。
『もう少し浅瀬に近づいてください』
『簡単に言うけど、私、初心者なのよ。超光速航法で微妙な進路修正は難しいのよ。それにシンデンの声で話すのは止めてよ』
『マスターから「俺の声の方で指示しろ」と命令されておりますので』
『くう、いらないことを~。指示されたポイントに着いたわよ』
『確認しました。超光速航法回路の駆動を停止してください』
『はい、停止したわよ』
『操縦者は流されないように、舵輪をしっかり握ってください』
『えっ?流されるって、どういうことよ?』
超光速航法回路が停止すると、帆船は沈み始める。つまり帆船の甲板は水(液体エーテル)によって激しく水流が巻き起こるのだ。操舵室はシールドされているが、水の流れを全て防ぐ事はできない。帆船を設計した異星人はおかしい奴だった。この操船方法だが、シンデンは気功術士であったため対応可能であった。しかしシオンは魔法使いで、普通の女性並みの腕力しか無い。
『シオン様、揺れますので御注意ください』
『ええ、勝手に抱きつかないでよ。きゃあ、水が流れ込んでくるとか、どうなっているのよ』
シオンが水に流されないように響音が背後から彼女を支える事で、超光速空間からの離脱は無事終了する。
『超光速航法を止める度に、あんな目にあうの?レリックシップっておかしいよ』
『これが、本船の仕様ですので』
『改善しなさいよね』
『初代マスターの命令で、この操舵室の仕様変更は禁じられております』
『初代マスターって頭おかしいわ!』
シオンが電子頭脳に怒鳴り返しているが、俺もその点には同意する。
『まあ、良いわ。さっさとあの新米傭兵の船を探してシンデンの元に戻るわよ』
『現在捜索中』
ボブは浅瀬(重力異状)に乗り上げて超光速空間から出てしまった。重力異状とはダークマターと呼ばれる暗黒物質が原因であり、宇宙空間には何も無い。しかしダークマター密度が高い宇宙空間では、電磁波による探索の範囲が制限される。そういった特性と、好きこのんで浅瀬に近づく者がいないことから、海賊が巣を作っていたりする。
>『見つからないな。超光速空間で離脱したポイントが間違っていたのか?』
>『そんな事はありません。出現地点の誤差は0.1光秒以内です。暗黒物質密度が濃く、スキャンの範囲が制限されていることが理由です。…本船から0.05光秒の金属反応を検出しました。傭兵の宇宙船を発見しました』
>『良かった、見つかったか。それじゃ直ぐに向かうぞ』
傭兵の船を探して彷徨き回る羽目にならず俺は安心した。
『傭兵の船を発見しました。本船は回収のために移動します』
『うん、任せた』
シンデンが「傭兵の追跡と回収は電子頭脳がやってくれる」と言ったことも有り、シオンは頷いた。
>『傭兵の船は逃げ出すそぶりも無いな。宇宙船の故障かな?』
>『救難信号も出ていません。ジェネレータも稼働中です』
>『通信を送るか?』
>『通信を送るのはシオンとなりますが、実行しますか?』
>『いや、止めておくか。シオンが通信したらボブの奴は逃げ出しそうだ。ステルスモードに入って、一気に船を回収しよう。あのサイズならこの船の甲板に乗せられるよな。牽引じゃ途中で逃げ出すかもしれない』
>『可能です。バックアップ霊子の作戦を実行します』
ステルスモードを起動して帆船はボブの宇宙船に接近していった。
>『多数の金属反応…宇宙船を探知しました』
>『まさか、待ち伏せか?ボブの奴、新米傭兵のフリをした海賊だったのか』
>『新たに探知した宇宙船は全てジェネレータが停止。生命反応もありません』
>『なんだよそれ。もしかして、この宙域って廃棄宇宙船を捨てる場所だったのか』
>『その様な情報はありません』
>『少し気になるな。ボブの船を回収してから調べてみよう』
ボブの船は慣性で移動しているだけだったので、回収と甲板への固定はあっという間に終わる。ボブの様子は響音に確認して貰ったが、気絶していただけだった。目を覚ますと騒ぎ出すこと間違い無しなので、このまま眠って貰う事にする。
>『それじゃ、あの漂流している宇宙船を調べるか。…うん、海賊の船だな』
>『ここは海賊の巣であったと思われます。船体の劣化状態から、海賊が船を放置したのは百年以上前と思われます』
>『なるほど、古い海賊の巣か。しかし海賊が宇宙船を捨てるって良くあることなのか?』
>『本船のデータにはありません』
>『つまり異常事態って事だな』
>『船内の調査を提案します』
>『時間をかけると船団に追いつけなくなるぞ』
>『海賊船であれば、売却可能なお宝を搭載している可能性があります。今の資金状態の改善に繋がります』
>『良し、調査するぞ』
俺達の懐は寂しい。それが改善できる可能性があるのなら当然手を出す。
『えーっ、放棄された海賊船の調査って、そんな事してても大丈夫なの。私は早くシンデンの所に戻りたいんだけど』
シオンは早くシンデンの元に戻りたいと駄々をこねるが。
『海賊がお宝を所持している場合、回収すればお金になります。マスターも喜ぶでしょう』
『シンデンが喜ぶ。あたしも手伝う。ちょっと、人型ドローン、どうして私を捕まえるのよ。お宝を見つけてシンデンに喜んで貰うのよ』
『シオン様、漂流宇宙船の探査を行うのは危険です』
シオンが海賊船に向けて飛び出しそうになるが、それは許可できないので響音に捕まえて貰う。帆船から作業ドローンが飛び立ち、海賊船の調査を開始する。
>『うーむ、倉庫に碌な物がないな。一応操縦席も見てみるか?』
海賊船の倉庫はほとんど売り払った後なのか、碌な物が残っていなかった。まあ、少しは金になりそうな物もあったが雀の涙程度である。
>『…マスター、この空域からの撤退を進言します』
>『えっ、撤退って。まさか海賊が残っていたの?』
>『この海賊達は、霊子力兵器によって殲滅された可能性があります』
電子頭脳が映し出した海賊船のコクピット映像には、操縦席に座ったままミイラとなった海賊が映し出されていた。その死に顔は、何も感情がない無表情であった。こんな顔をするのは霊子を失った人間だけだろう。
>『霊子力兵器って、まさか此奴らを殺したのはあのヤマト級レリックシップか?』
>『その可能性が高いですが、他のレリックシップやレリックの可能性もあります』
>『分かった、無駄にシオンを危険にさらすわけにはいかない。直ぐにここを離れるぞ』
霊子力兵器で攻撃されると、霊子のみが破壊される。宇宙船や海賊が無傷なのに、宇宙船を漂流している原因として十分考えられるのだ。
もし今ヤマト級のようなレリックシップが襲ってきたら、シオンを守り切ることは不可能だろう。
>『(帆船やヤマト級みたいなレリックシップが他にもいるのか…)』
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