逃避行と海賊の巣探索
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
星域軍の追跡を逃れ、小惑星帯を抜けた帆船は、ステルス状態を保ちながら超光速航法可能宙域を目指していた。小惑星帯を航行中に戦闘ドローンによって傷つけられた船体は既に修復済みである。まあ損傷も第一装甲を抜けただけで二次装甲板で止められているので通常航行に影響はなかった。しかし船体の損傷が、樹木がダメージを受けた部分を直すように瞬く間に消えてしまうとかレリックシップはチート過ぎると俺は感じていた。
>『どうやら追跡は振り切ったようだな』
>『ピッ、肯定。超光速航法可能宙域に三〇秒後に到着』
>『ところでさ、逃げることばかり考えて行動しちゃったけど、帆船は、超光速航法に入ることはできるの。俺というバックアップ霊子はあるけど、シンデンは魂がない状態だよ』
この船の持ち主であったシンデンは、超光速航法回路を駆動することができた。しかし俺は霊子はあるが、それは船のメモリー上のバックアップ扱いであり、この状態での俺は生命体とは言えないのだ。
>『ピッ、クローン脳による超光速航法回路の駆動は可能。よって体の有無は無関係。しかしバックアップ霊子による超光速航法回路の駆動は前例は無し。本船の生命エネルギー連結モードを使い、マスターの体を通して回路を操作すれば駆動する可能性大』
>『結局、実際にやってみるしかない、ということですか』
>『ピッ、肯定。なお目的地到着済み。超光速航法の準備は完了』
>『緊張するな。シンデンの体は操縦席の機能を使って遠隔操作してと。…シンデンの体と気の連結は成功。うぁ、霊子の無い体と接続するって、こんなに気持ち悪いのか』
リビングデッド状態であるシンデンの体は、操縦席を外骨格モードに変形させることで、船と生命エネルギー連結状態となった。そこに俺の霊子が入り込んで超光速航法回路を駆動しようとしたのだが、それは俺にとってもの凄く気持ちが悪い状態であった。体を動かすことだけでなく本来意識しない心臓の鼓動や内臓までが違和感を伝えてきた。
>『うぷっ、体が無いのに吐き気がする。確かに魂を他人の体に書き込んだら発狂するわ。ちゃっちゃと終わらせよう。…超光速航法ドライブ!』
俺は気合いをこめて、超光速航法に入れと回路に意思を伝える。バックアップ霊子である俺の意思は、シンデンと気の流れを繋ぐ機構を通し回路に流れ込んだ。
>『ピッ、超光速航法回路の駆動を確認。超光速航法に移行します』
回路が駆動すると、回路からあふれ出した光の文様が船を埋め尽くしたと思うと、帆船は超光速空間に突入した。
一秒ほどの空間感覚の喪失の後、帆船が水面をかき分け浮上する感覚が伝わってきた。超光速空間は超光速航法回路を駆動することによって入ることが可能な亜空間である。人類が存在する宇宙空間と物理法則が全く異なるその空間では、超光速航法回路が発する文様でコーティングされた物質しか存在を担保されない。つまり、超光速航法回路が止まれば、そこで元の宇宙空間に放り出されることになる。その場合、超光速空間で進んだ距離だけ移動した位置に実体化することになる。超光速空間で数十メートル進むと通常空間では数光年進む事となり、光速を超えることが可能となるのだ。
>『これが超光速空間か…』
>『ピッ、肯定。早急な航路の設定を推奨』
>『ああ分かっている。漂流するのは不味いからな。よし、目的の座標は固定した、この航路で行くぞ』
超光速空間は惑星上の海のように認識される空間である。超光速空間に入った宇宙船は、超光速空間の水面上に浮かんでいるような状態となり、目的の座標を決めて進まない限りは海流や風によって流されていく。海流や風と言うのは、この空間の水面に浮かんだ宇宙船を別な座標に移動させようとする力の比喩的な表現である。超光速空間で目標を定めずにこの力に流されてしまうと、目標とする場所と全く異なった場所に辿り着いてしまう。
超光速航法が発見され、初めて超光速航法を行った宇宙船は、海流と風に流されて空間を彷徨ったあげく、行方不明となってしまった。もちろん現在はその現象が解明されており、海流や風に流される事なく航行する事が可能である。しかし、目標を決めずに超光速空間を漂うことで目標から離れた場所に出てしまう恐れがあるため、超光速空間に入るとすぐに航路を設定する必要があるのだ。
俺が航路を決めると、超光速航法回路はそれに従って帆船を進めていった。目的座標は近いのだが、その座標に辿り着くまでには、海には浅瀬や渦潮のような障害物が多数あり航路は複雑な物となっていた。この浅瀬や岩礁といった障害物というのは、実際の宇宙空間に存在する恒星や惑星と言った重力源を示しているらしい。重力源の大きさによって障害物が異なって見えるのだが、例えばブラックホールなどは近寄れば吸い込まれたしまう大渦となってこの空間に存在する。もちろん大渦に近寄って引き込まれれば宇宙船は引きずり込まれバラバラとなるし、浅瀬に引っかかった状態で超光速空間から離脱すると、惑星や恒星上に船は出現してしまうことになる。
超光速航法を行う宇宙船は、惑星や恒星と言った一般的な障害物が公開されているチャートを使って航路を決める。もっとも帆船は公開されている物より詳しいチャートを持っており、軍用のチャートを持つ星域軍並に正確な航路を決めることができる。
>『この船、レリックシップってやっぱりチートだよな』
>『ピッ、否定。チートではなく現生人類の技術が未発達なだけ。目的座標に到着。速やかに超光速航法の解除を推奨』
俺の呟きに電子頭脳が解答する。
>『へいへい、超光速航法回路の停止っと』
目標座標が近距離だったため、超光速空間での移動はわずか数分であった。しかしその数分で数光年離れた恒星系に移動できるのが超光速航法という物である。超光速航法回路を停止した帆船は、今度は海面に沈むと、目的地である宇宙空間に出現した。
>『ピッ、恒星ナンバーZ00R0369から1667.82047599光秒の位置に出現。予定座標との誤差は0.02光秒』
>『赤色巨星の恒星系か。確かに星域軍も企業も調査しないから海賊の巣としては絶好の場所だな』
恒星として不安定な状態である赤色巨星は、人が住むにも鉱山資源を開発するにしても大きな危険性をはらんでいる。銀河には他にももっと有益な恒星系があるので、危険な赤色巨星は放置されているのが現状である。つまり、そういった恒星系に海賊の基地があったりするのだが、基地の在処が判明でもしていない限りは、探索する手間の方が多いため星域軍も調査は行わない。
『しかし、あの三人の記憶もメモリーに記録されていて助かったぜ。証拠として禁忌技術を使った航法装置が無ければ、傭兵ギルドも星域軍の要求をのんで、契約違反による指名手配を受け入れてしまうだろうからな』
小惑星帯を抜けた辺りで船の電子頭脳はキャリフォルニア星域軍が傭兵ギルドへ送った通信を傍受していた。おそらくシンデンに聞かせるつもりで広域受信可能な一般超光速回線にて傭兵ギルドへの通信は送られていた。それを聞いてしまった俺は、すぐに今回の契約について傭兵ギルドの仲裁を頼むという案をあきらめた。こちらには証拠となる通信や通信動画は有るが、肝心の証拠となる禁忌技術の航法装置がない。自分の脳が入った霊子力兵器は有るが、あれは航法装置ではなくしかも証拠として提出してしまうことは俺にはできなかった。
宇宙を彷徨うしかないかとあきらめかけたとき、電子頭脳が霊子力兵器でリビングデッドとなった海賊の記憶がわずかに保存されており、それを分析することで、海賊の巣の場所と今まで確保した航法装置が保管されている事が判明した。
>『と言う事で、海賊の巣を探すわけだが』
>『ピッ、肯定。海賊の巣は第一惑星の衛星に存在』
>『ほいほい、電子頭脳は頼りになるね。しかし惑星と衛星の大きさのバランスが地球にそっくりだな。赤色巨星に焼かれてなきゃ入植も可能だったかもしれないな』
>『ピッ、キャリフォルニア星域国家のデータによると、百二十年前に惑星への入植が行われたデータを発見。入植後、百年で赤色巨星が巨大なプロミネンスを発生させて、惑星は入植者毎焼き尽くされた』
>『…あの三人の海賊もどうしてこんなところに巣を作ったのやら…』
>『ピッ、三人はその入植者の生き残り。入植もキャリフォルニア星域国家による思想犯の流刑地としての役割だった』
>『…なるほどね』
俺は電子頭脳とそんな会話をしながら海賊の巣が存在する衛星に接近していった。海賊の巣は当然隠されており、衛星の表面をスキャンしただけでは見つからない様な場所…この場合は、衛星に刻まれた大地の裂け目に掘られた洞穴のような場所に存在していた。侵入者に対するトラップや迎撃システムがあるかと慎重に周囲をスキャンしながら裂け目を降りていくが、特にそんな物を発見することもなく洞穴に侵入することができた。
>『海賊船は中型船だったから帆船が入れるか心配だったが、問題無いようだな』
>『ピッ、肯定。資源運搬コンテナも入る規模で作られている。どうやら入植者が星間国家に対してテロ活動を行う為の施設の可能性大』
>『じゃあ、あの三人は海賊というよりテロリストだったのかね~』
>『港湾施設への入港を完了。スキャンの結果エネルギー反応が合ったのはこの地点だけである』
俺の意識にスキャンされた基地の構造マップが表示され、海賊が使っていただろう部屋の場所が赤く点滅していた。
>『作業ドローンの改造は終わっているよな。さすがにシンデンをあそこまで誘導するのは難しいぞ』
>『ピッ、肯定。作業ドローンの改造作業は完了。通路や部屋のサイズも作業ドローンの行動可能なレベル』
>『じゃあ、お宝探しと行きますか』
帆船の舷側の一部が開くと、その中から作業ドローンが飛び出した。この帆船の作業ドローンは一般的な作業ドローン(球形のボティに推進機関と一対の操作腕を付けた形)とは異なり、その姿は羽を持った蟻のような昆虫のような形をしていた。昆虫のような形状であるのは、帆船の素材由来の生物をそのまま使ったもので、レリックシップの備品らしく作業用とは思えない性能を持っている。しかし性能が良すぎる為というか、並の戦闘ドローンより力が強いため精密作業をするには向かない。精密作業を行う為の作業ドローンは今度はえらく小型であり、そのため人間が行うような作業を任せるような作業ができない物だった。つまるところ、人手がかかる作業は全てシンデンがやっていた。
しかしそのシンデンが動けない状況のため、急遽作業ドローンして動かさざるを得なかったのだ。
俺の視界が帆船のカメラから作業ドローンの物に切り替わると、作業ドローンは目的の部屋めがけて進んでいった。
>『海賊の巣のわりに綺麗だな』
>『ピッ、肯定。掃除ドローンの存在を確認』
>『なるほど、お掃除ドローンか。そりゃ未来だからお掃除ロボットも進化してるんだろうな…、ってあれが掃除ドローン?』
ロボット掃除機 俺は自分が生きていた時代に存在したロボット掃除機を思い描いていたのだが、廊下を曲がり角から出てきたのはヒヨコ・エプロン身につけ竹箒とちりとりを持った女性だった。
>『ピッ、肯定』
>『つか、あれは掃除ドローンじゃなくて人では?』
>『ピッ、否定。TOYO社製男性向け人型ドローンをカスタマイズした物』
>『いや、男性向けって、そりゃあれだろ。それにカスタマイズとか掃除道具持たせただけだろうに!』
俺が電子頭脳の回答に突っ込みを入れている間に、人型ドローンは竹箒を振りかざして駆け寄ってくる。
>『もしかして、侵入者のお掃除も兼ねている掃除ドローンかよ』
>『ピッ、肯定』
>『海賊の馬鹿野郎~』
既にお亡くなりになっている海賊に俺は盛大に突っ込みを入れるが、襲いかかるラ○ドールもといお掃除ドローンは、そんな事などお構いなしという感じで竹箒を振りかぶって襲ってきたのであった。
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