キャサリンとの話し合い
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
シンデンと響音とキャサリンは、船首像…帆船と分離した状態は人型宇宙船といった方が良いだろう…で海賊の巣に隠れていた。
キャサリンはまだ昏睡状態であった。海賊の巣には古びてはいたが、まだ稼働する医療施設があったので、念のためにそこに彼女を運び込みベッドに寝かせておいた。彼女が来ていたスーツは電子頭脳と響音によって脱がされており、今は入院患者の着るような服を着せてある。
基本的にキャサリンの面倒は響音に任せていた。しかし目が覚めた時にシンデンが居た方が良いと考え、シンデンも同席している。シンデンは動けないと言う設定の為、車椅子に乗せてある。
「…ん」
海賊の巣にキャサリンを運び込んで半日ほどで、ようやく彼女は意識を取り戻した。
「キャサリン、気がついたか」
「シンデン?どうしてここに…」
キャサリンはシンデンの顔をみて驚き、ベッドから立ち上がろうとするが、ふらついて倒れそうになる。それを支えたのは響音であった。
「貴方はあの時の人型ドローン…」
「私はマスターから響音と名前を頂いております。以後は響音とお呼び下さい」
響音は人型ドローンと呼ばれるのが嫌なのか、そう言いながらキャサリンをベッドに横たえた。
「マスターってシンデンの事?」
「…そうだが」
何が不満なのか、キャサリンは響音を睨んでいた。
>『キャサリン、響音さんを睨んでるんだけど、もしかして戦っていた時の事を覚えているのかな?』
>『レリックシップのコントロール下にあった操縦者の記憶については、データ不足の為推測不能』
「キャサリン、お前はどこまで覚えている。レリックシップからお前を助け出した時のことは覚えているか?」
「もちろん!えーっと、確か目が覚めたら、シンデンが操っている人型ロボットがいて、それから気持ちの悪い通路を歩いて、外を見たら海を見たわ。しばらく待てと言われて待っていたら、その人型ドローンがやって来て、…そして…声が響いて…」
そこまで話したところで、キャサリンはガタガタと震えだした。
「そこまで覚えているなら良い。それ以上は悪い夢とでも思っておけ」
シンデンはキャサリンの手を握りそう言うと、彼女は落ち着きを取り戻した。
>『ふむ、もしかして人型ドローンと戦っていた時の記憶もあるのかな?』
>『今後の為、記憶について詳細にデータ採取を推奨』
>『電子頭脳さん、俺はキャサリンが嫌がる事は聞き出さないよ』
クゥ
小さくキャサリンのお腹が鳴る。キャサリンは顔を真っ赤にしているが、丸一日以上何も飲み食いしていない事は分かっている。点滴で水分や栄養は与えていたが、それでもお腹はすくのだ。
「まずは食事が必要だな。響音、消化に良い食事を準備してくれ」
「承知しました」
響音が食事の準備のために部屋を出て行く。つまり部屋には二人っきりとなる。
俺には何をどうすれば良いか分からない。と言うか、他人の養女に義父のフリして話しかけるとか難しすぎる。
「…」
「…」
>『ここは年長者である俺から話しかけるべきだな。そうだ施設を抜け出した後、どうしてレリックシップに乗ってしまったか、それぐらいは聞いても大丈夫だよな』
「キャサ「あの」」
シンデンが口を質問しようとしたところで、キャサリンも口を開く。シンデンとキャサリンは、相手の話を聞こうと視線で譲り合った。結局、シンデンから先に話をする事になった。
「お前が、施設から家出した後、どうやってあのレリックシップに乗ることになったか、その経緯を知りたい。話したくないかもしれないが、聞かせてくれないか」
「…分かったわ」
それからシンデンは、キャサリンが施設を家出してから何をしてきたかを聞かされた。結論として、「シンデンが指名手配された」というメッセージはキャサリンを不安にさせたが、それは施設を抜け出すような直接の原因ではなかった。レリックシップから送られた「声」でキャサリンは誘導されてしまったのだ。たまたまメッセージとレリックシップからの誘導が重なっただけだった。
>『しかし、「仇を取る」というのはどういう意味だったんだ』
>『戦艦を建造した勢力と本船の初代マスターは対立関係。その為本船は戦艦の僚艦を戦闘にて破壊』
>『なるほど、つまりあのレリックシップは、帆船を狙って動き出したのか』
>『肯定』
>『しかし、シンデンは傭兵として有名だったはずだ。この船のことも、もっと早く知っていたと思うが?』
>『否定。本船の詳細な情報はネットに上がらないように情報を操作』
>『電子頭脳さん、データの改竄は犯罪ですよと。まあ、それは置いておいて。今回急にキャサリンを使って動き出したのはなぜだ』
>『戦艦は操縦者の成長を待っていた可能性大。本来はもっと後に活動予定と推測。予定を変更したのは、キャリフォルニア星域軍と本船との交戦情報と、キャサリンが魔法を規定レベルで使用可能と判断。加えてキャリフォルニア星域軍の内戦を利用して霊子の収集を画策』
>『なるほど。キャリフォルニア星域軍がシンデンを罠にかけた事から、始まったのか』
電子頭脳の推測を聞いて、俺は今回の事件の概要を理解した。
「…私を怒らないの?」
「なぜ怒る必要がある。まさか施設を家出したことで怒られると思っていたのか?」
「だって、泥棒もしちゃったし…」
「それはお前がレリックシップに誘導されていたからだ。それに未成年者の犯罪の責任を取るのは、保護者の役目だ」
「それじゃ、シンデンが捕まっちゃうの?それともアヤモさんが…」
「お前が盗んだという証拠はないのだろ。まあ道義的に問題はあるが、そこは姉さんに話して何とかして貰おう」
シンデンに怒られると思っていたキャサリンだったが、その気が無いと知るとホッとした顔をする。
「キャサリン、お前も俺に聞きたい事があるんじゃないのか?」
「う、うん。その、シンデンはこの後私を施設に連れ戻すつもりなの?」
「姉さんに連れて帰ると約束したからな」
「でも、私もうこんな体になっちゃったよ」
キャサリンは自分の体を指さしてそういった。今の彼女は、長い金髪にプロポーションも抜群な大人の女性。顔はキャサリンの面影はあるが、この状態のキャサリンを十二歳と言い張るのは難しい。そして成長した体を元に戻す方法は、帆船も持っていなかった。
確かに、今のキャサリンは施設に戻る事は出来ない。しかしアヤモさんに連れて帰ると約束した以上、俺が何とかするしかない。
>『さて、どうやってローサンジェルまでキャサリンを連れて行こう。あんな戦いの後だ、キャリフォルニア星域軍に見つかったら不味いよな』
>『肯定。戦闘になる可能性大。後、傭兵ギルドからの出頭要請を受信』
>『キャリフォルニア星域のか?』
>『否定。ハーウィ星域ホルルの傭兵ギルドの要請』
>『良かった。ハーウィ星域なら話が通じそうだな。船の修理が終わり次第傭兵ギルドへ出頭すると返信してくれ。傭兵ギルドに行くまでに、キャサリンをアヤモさんに会わせる方法を考えよう』
>『了解』
「…取りあえず、ハーウィ星域の傭兵ギルドから呼び出しを受けている。船の修理が終わり次第、今回の件について報告に出向くつもりだ。キャサリンを姉さんの元に連れて行くのはその後だ」
「それって、シンデンと一緒にハーウィ星域に行くってこと?」
「ここに残りたいなら、響音に世話を頼むが…」
「そんなの嫌に決まってるじゃない。絶対についていく!」
キャサリンはそう言ってシンデンに飛びつく。体を動かせない設定のシンデンはキャサリンに抱きつかれ、ほおずりまでされていた。
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