罠
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
『ここが操縦室だ』
『やはり誰もいませんね』
軍拡派の提督と副官は、すんなりと操縦室まで辿り着いた。操縦室も船内制圧ドローンで調査済みでトラップが無い事は確認済みである。
『とにかく電子頭脳にアクセスする、お前はそこで待っていろ』
『提督のお側を離れるわけには…』
『電子頭脳へのアクセスコードをお前に見せるつもりはない。外で何も起きないことを見張っていろ。電子頭脳、入力端末を出せ』
提督が操縦席に座りそう言うと、ホログラフのキーボードが出現する。キーボードが現れると同時に操縦室の扉が閉まり、副官が閉め出されしまう。副官は慌てて扉を開こうとするが、扉には開くための機構その物が存在していなかった。
扉が急に閉まり提督は一瞬動揺したが、それ以上の動きがなかったので、キーボードで自分のIDコードを入力する。
「IDコードの入力を確認したのである。生体認証を実施するのである。操縦者は生体認証のため宇宙服を脱ぐのである」
『ええぃ、面倒な。この部屋の気密は…大丈夫のようだな』
宇宙服のセンサーにて、操縦室には空気が存在し、ガスやウイルス、マイクロマシンなど人体に有害な物質がないことを確認してから、提督は宇宙服を脱いだ。
「生体認証を始めろ」
「生体認証を始めるのである。…操縦者の資格を確認したのである」
『魔力パスの接続も正常に働いていたのである』
「おい、頭の中に響いた声は一体何なのだ」
『魔力パスを通した念話である。操縦者はこれで本船と繋がったのである』
「なるほど、つまり考えるだけでレリックシップを操縦できるのだな。すばらしいシステムだ。魔力パスと言うことは魔法使いでなければ扱えないシステムなのだな」
『その通りである』
人類も人型兵器などの操縦には同様なシステムを作り出していたが、巨大な戦艦などを操る程のシステムは作り出せていなかった。しかしレリックシップは、電子頭脳によるサポートで全てが操縦者の思うがままに操れる。その機能を知って提督は自分が乗り込んだ事が正解であったと確信した。
「分かった、まず現在の船の状況を報告しろ」
『了解したのである』
提督の脳内にレリックシップの船体の状況が表示される。
「通常兵器は全滅か。魔法は…戦略級魔法砲撃は使用可能。よしこれが無事なら良い。船体の自動修復にはどの程度かかる」
『船内の補修には二百四十時間、船体及び武装の補修は材料が不足しているのである。修理は現状不可能である』
「そうか。いや戦略級魔法砲撃が使用可能であるならそれで良い。今傭兵の船は我が艦隊によって移動も攻撃もできない状態だ。急いで首都星に戻るぞ。首都星まで戻れば傭兵の船も追っては来ないであろう」
『その必要は無いのである』
「何を言っている。儂の命令に従え」
『傭兵の船はここで始末するのである』
「馬鹿を言うな。傭兵のレリックシップは損傷しているが、我が軍の新型ドローンを破壊するだけの力を持っているのだぞ。有人戦艦に攻撃できない事を利用して動きを封じている今が逃げ出すチャンスなのだ」
『そう、チャンスなのである。操縦者制御タスク起動』
「何を勝手に、ぐはっ…」
レリックシップの操縦者制御機能が提督の意識を乗っ取る。
『ぬう、予想より魔法能力が低いのである。これでは戦略級魔法砲撃を撃つのに力が足りないのである』
『足りない分は生命力で補えば良いのである』
『この操縦者の生命力は低いのである。戦略級魔法砲撃を撃つと同時に死ぬと思われるのである』
『せっかくお膳立てしたキャラック級を沈める絶好の機会である。操縦者が死んでも実行すべきである』
『了解したのである』
軍拡派の提督は、レリックシップの電子頭脳にマスターと登録した際に、魔法使いであった為に魔力パス(バックドア形式)を埋め込まれていた。キャサリンを失った電子頭脳は、ちょうど近くにいた提督を誘導して自分の中に引き込んだのだ。加えて帆船にやられた物理攻撃をまねて、艦隊の船を使って動けないように提督に命令させた。これで動けない帆船を戦略級魔法砲撃で攻撃して沈める、それが電子頭脳が考えた作戦であった。
『戦略級魔法砲撃を準備するのである』
旗艦に接舷したレリックシップが帆船に向けて回頭を始める。旗艦のオペレータはそれに気づくと慌てるが、提督が乗っているレリックシップに攻撃を仕掛けることはできない。それどころか青いドローンはレリックシップの回頭を手伝っている。元々クローン脳ユニットはレリックシップが作り出した物である。時間さえかければ、その制御を奪うのは簡単である。
レリックシップは回頭しながら戦略級魔法砲撃の発射準備に取りかかる。船体の前半部分が喫水線の辺りで上下に割れて、発射態勢が整う。
「戦略級魔法砲撃の準備を開始。無詠唱による発動不可能。詠唱を開始する。万物の根源たるマナよ、我が元に集え、万物の根源たるマナよ、我が元に集え…」
提督が呪文を唱え始めると、魔石を中心に魔法陣が展開して膨大なマナが集約していく。そして提督は、戦略級魔法を発動するのに必要な力を生命力で補った結果、体がミイラのように干からびていった。
『キャラック級へ照準、完了である。戦略級魔法砲撃発射するのである』
「集いしマナよ、煉獄の炎の矢となりて我が敵を滅せよ、メギドファイア」
戦略級魔法砲撃の巨大な炎の矢が、軍拡派艦隊によって動きを封じられた帆船に向かって放たれた。
★☆★☆
俺はシンデンの演技をしながら、帆船を取り囲む有人艦の船長に包囲を解いてくれるように交渉したが、その努力は実っていなかった。シンデンの普段の言動をまねて交渉に臨んだが、脅しに近い言動となるため艦長達は逆に反発して包囲を強める結果となってしまう。
>『ああ、疲れた。これ本当にどうするかな。もう超光速航法を一旦離脱してから入り直したら包囲から抜け出せないかな』
>『否定。船体が接触している状態では、一方的に超光速航法を解除することは不可能』
>『それ、接舷される前に教えて欲しかったな』
>『交渉継続』
>『電子頭脳さん、代わりに説得してくれないかな』
>『本船の機能維持のため交渉に処理を割り振る余裕無』
>『逃げやがったな』
>『包囲中の戦艦が移動を開始』
>『ん、包囲を止めるのか。もしかして俺の説得がようやく効いたのかな』
>『否定。戦艦が再び戦略級魔法砲撃を発射準備中。照準は本船』
>『キャサリンを取り戻したのに、誰か魔法使いがあの船に乗り込んだのか。それにしても味方ごと撃つとかあり得ないだろ』
>『戦艦に取って軍拡派は利用するだけの存在』
>『軍拡派からも霊子を収集つもりだったな。さて、如何するか。気を使って移動すれば船体が崩壊するかもしれないし、仮に俺達が逃げ出せたとしても、周りの有人戦艦は逃げ切れない』
>『肯定』
>『いくらシンデンが優秀な気功術士でも、有人戦艦を守るだけの気のフィールドは張れない。帆船を守るだけで手一杯だな』
>『肯定』
>『電子頭脳さん、俺達以外も助かる作戦って無いの』
俺としてはもう手詰まりで、有人戦艦を助けることは諦めていた。何せ包囲が解けているとはいっても、まだ目の前には有人戦艦が複数存在している。超光速航行を解除して逃げだそうとしている船もいるが、船体が水面に沈む前に戦略級魔法砲撃を受けてしまうだろう。
>『…バックアップ霊子に作戦を提案。ただし、成功の可能性は極小』
>『あるのか。教えてくれ』
夜の更新できると思いますが、遅くなりそうです。
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