青いドローンとの戦い、そして提督の決断
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
青いドローンから放たれる理力エネルギー波を左手の盾で防ぐ。そして水面を蹴って一気に近づくと右手の刀で切り裂く。
>『前は霊子力兵器なんて兵器を使ってしまったが、気が使えるなら余裕で戦える。って、背後から撃ってくるなよ』
背後から放たれた理力エネルギー波を、帆船を水上ドリフトさせて躱した。帆船は船尾楼部分が壊れているので、装甲が無い状態だ。そんな場所に攻撃を受けると帆船が機能停止する可能性もある。
>『油断大敵』
>『俺は人間だから、三百六十度監視とか無理なんだよ。電子頭脳さんは背後をしっかり見張っていてくれ』
>『マスターなら、殺気で感知』
>『無茶言うな!』
電子頭脳とそんな会話をしながらも俺は戦っていた。攻撃を仕掛けてくる青いドローンは残り二十四艘。連邦の白い天使だか悪魔なら六分で撃破してしまうだろうが、俺はそこまで時間をかけるつもりはない。
>『遠気斬!』
右手を振ると、気の斬撃が飛び複数のドローンを切り裂く。人型ドローンでシンデンの奥義を再現した今の俺なら、気の斬撃を飛ばすことぐらい容易い。そしてシンデンが使った技は、記憶だけじゃなく彼の体に染みついている。
>『左舷から複数の理力エネルギー波が接近』
>『左手の盾だけじゃ受けきれないか。少し揺れるぞ』
船首像の足を中心にスケート選手のようなスピンを決めると、複数の理力エネルギー波を盾と刀で受け止める。
>『グッ、やばい。空を飛ぶぞ』
>『了解。霊子強制書き込みを実行』
>『ぐぐっ、やっぱり書き込まれた直後はキツいぜ』
シンデンの体に書き込まれた霊子が再び狂いだしたので、上書きされる。頻度は減ったが、それでも数秒に一回は上書きが必要である。霊子上書きにかかる百分の一秒の間、船首像は動きが硬直してしまう。そこを狙われると不味いので、気が狂いそうになる前に俺は、跳躍して空に逃れた。超光速空間の空を飛ぶという概念を知らないドローンの攻撃だからこそ有効な対策である。
>『慣性制御機構の負荷増大。現在の船体では慣性制御可能な範囲の行動を要求』
>『慣性制御の限界を超えたらどうなる?』
>『船体に重大な被害が出る可能性大』
>『分かったよ。だが攻撃を受けるよりはマシだろ』
>『肯定』
>『じゃあ、なるべく早く敵を倒すしかないな。遠気斬!』
俺は再び気の斬撃を飛ばすが、今度は何艘かのドローンが理力フィールドで防御する。
>『護りに入ったか。面倒な奴らだ』
理力フィールドは気を纏った物理攻撃でなければ突破できない。同様に気のフィールドも理力を纏った攻撃で突破可能だ。つまり、青いドローンが護りに入ったことで俺は近づいて殴る必要が出てきたのだ。
青いドローンの全長は四十メートルと、船首像より一回り小さい。理力を使うマニピュレータが搭載されているが、それは格闘戦などできるような強度は持っていなかった。つまり青いドローンがとった戦術は、理力フィールドを張ったままの体当たりであった。
『遠距離攻撃が駄目なら神風特攻。クローン脳だからって扱いが悪いな。だが、そんな見え見えの攻撃なら対応は簡単だぞ』
右手の刀を消してアンカーの名残である鎖を掴むと気を通す。すると鎖は一直線に伸びて長い槍となる。
>『槍は使ったことがないけど、シンデンの記憶にはあるからな』
槍と化した鎖を振るって、俺は特攻してきた青いドローン達を全て突き壊した。
>『これで襲ってきた、青いドローンは全部か?』
>『肯定』
>『それで、肝心のレリックシップは…』
>『戦艦は軍拡派艦隊に合流予定?』
電子頭脳が疑問符を入れて報告するのは俺も理解できた。レリックシップの狙いは霊子の収集であるが、攻撃する手段を持たない状態ではそれは不可能である。
>『体当たりで…って、有人戦艦の方が十倍は大きいな。幾らレリックシップが頑丈でも無理だろ』
>『肯定。戦艦の行動は予測不能』
俺と電子頭脳は頭を捻る(いや捻って無い)が、レリックシップの行動の意図は分からなかった。
>『まあ、何か碌でもない事か悪いことを考えているのは確かだ。さっさと撃破するんだ』
>『同意』
帆船はレリックシップ追いかけて進み出す。
★☆★☆
-軍拡派旗艦-
「提督、レリックシップからまた通信が届きました」
「今度はなんだ、救援は送ったはずだが」
「それが、『船長及び船員の負傷により我、戦闘不能。魔法使いの派遣を求む』だそうです」
「艦長が負傷だと?それに貴重な魔法使いを派遣しろとは、ブラックマーケットの連中は何を考えておるのだ」
「さて、私にも理解できません。して、どう返信されますか?」
「うむ…レリックシップを確保するためには、誰かを送るしかあるまい。『要求を承諾。魔法使いを送る』と返信しろ」
「はつ。…それで、誰をあの艦に送るのでしょうか?」
副長の言葉を受けて、提督は艦橋を見回すが、副官も含めオペレータの中に魔法使いの素質を持つ者はいないことを思い出す。そして穏健派艦隊を追撃する際に、旗艦は有人部隊を回収せずに超光速航法に入った。つまり、旗艦にいる魔法使いは自分だけだと提督は気づいてしまった。彼は魔法使いとして星域軍に入隊し、今の地位に辿り着いた奇特な人物だった。
「他の有人艦に魔法使いが残っている可能性はあるかね」
「有人部隊を回収できた艦もあると思います。ですがあの船に乗ろうという者は…」
今軍拡派艦隊の士気は落ちている。その状況で貴重な魔法使いを送れとは言えないと副官は言葉を濁した。
「…こうなれば儂があの船に乗り込むしかないか」
「て、提督が直接ですか?」
提督の唐突な発言に、副官は慌てた。艦橋のオペレータも皆驚いて提督を見つめる。
「旗艦には私以外、魔法使いはいない。そして他の有人戦艦の連中は当てにならない。この状況では、魔法使いである私が出向くしかあるまい。それとも誰か適任者が居るのかね?」
提督にそう言われて、副官は考えるが、今の艦隊の士気を考えるとそれしか方法が無いと思ってしまった。
「…提督の仰る通りです。しかし、あの船は傭兵の船に狙われています。その様な危険な船に提督を乗せるわけには…」
「いや、あの傭兵はどうやら人を殺すのを躊躇っているようだ。艦隊の有人戦艦に、傭兵のレリックシップを接近させるなと伝えろ。いや戦う必要は無い、接近を止めるだけだ。恐らく攻撃はしてこないはずだ。それで私があの船に乗船するまでの時間稼ぎをさせるのだ。そして儂がレリックシップに乗ってしまえば、傭兵も迂闊には攻撃できなくなる。そのまま首都星に戻れば、傭兵も追ってこられないだろう」
提督は、自分でも考えてもいなかった言葉がすらすらと出てくることに驚くが、放している間にそれが一番よい方法に思えてきた。
「確かに、あの傭兵の噂は私も聞いておりますが…」
「副官、君と議論をしている時間はない。直ぐに命令を各艦に伝えたまえ!」
「はっ。」
提督の迫力に押され、副官は有人艦の艦長に命令を伝える。すると「戦わずに時間稼ぎをしろ」という命令だがすんなりと受け入れられた。
命令が聞き入れられた理由は、有人艦の艦長達は、傭兵としてのシンデンの情報を知っており、彼が有人艦に問答無用で攻撃を仕掛けるような人物ではないことを知っていたからであった。加えて、攻撃を仕掛けたり救援要請を出したりと、おかしな行動を取り続けるレリックシップから離れたいという気持ちがあったからである。
★☆★☆
>『おいおい、どうして有人戦艦が進路を遮ってくるんだよ。まさか移乗攻撃してくるつもりか?』
>『不明。…前方の有人戦艦より通信』
>『内容は?』
>『「我が艦は貴船に攻撃の意図無し。対話を求む」』
>『完全な時間稼ぎだな。軍拡派は何を考えているんだ』
>『強行突破を推奨』
>『それじゃ死人が出るだろ。レリックシップが喜ぶだけじゃないか。って、完全に包囲されてしまったぞ。これ、どうやって抜け出せば良いんだ』
全長三百メートル程度の帆船に対して、有人戦艦は二~三キロメートルの巨大艦である。つまり、超光速空間の水面上で包囲されてしまえば、動きが取れなくなってしまう。
>『レリックシップに物理(包囲)をやり返されたな。こうなったら気の力で飛び抜けてやるか』
俺が船首像の足に気を込めようとしたところで、
>『緊急提言。気功術による跳躍は非推奨』
電子頭脳から待ったがかかる。
>『電子頭脳さん、こうなったら飛び越えるしかないでしょ』
>『有人戦艦を飛び越えるだけの跳躍を行った場合、慣性制御機構で衝撃を吸収しきれず、船体が破損。最悪崩壊の可能性大』
>『そういえば船体がやばい状態だったな。しかし、この状況を打開する方法とか俺は知らないぞ』
>『有人艦の艦長の説得を提案』
>『大学生だった俺に年上の軍人を説得なんてできるかよ。いや試してみるけど、シンデンの真似だと説得じゃなくて脅しになるぞ』
>『同意』
巨大な有人戦艦に囲まれた帆船は、手も足も出ない状態になってしまった。
★☆★☆
艦上の兵器を破壊され満身創痍状態のレリックシップは、青いドローンにエスコートされて軍拡派の旗艦に接舷した。もちろん何か妙なそぶりをレリックシップが見せた場合、青いドローンによって撃破する手はずとなっていた。
『ふん、戦闘不能では無く、戦闘不可能ではないのか?』
旗艦の接舷タラップからレリックシップの状態を見た提督はそう呟いた。
『どうやら艦上の武装は全て破壊された模様です。提督、この状態のレリックシップに攻撃力があるとは思えないのですが…』
『副長、君はこのレリックシップが放った戦略級魔法砲撃を見ていただろう。あれがあれば、穏健派の艦隊など一撃で殲滅できるだろう』
『それは分かりますが、そんな戦力を何故今になって我が方に提供しようと考えたのでしょう』
『ブラックマーケットの連中の考えることは分からん。しかし、これだけの船内制圧ドローンを揃えたのだ。ブラックマーケットの連中の目論見など粉砕してくれるわ』
旗艦とレリックシップが完全に接触すると、接舷タラップから数百の船内制圧ドローンが降下する。船内制圧ドローンに命じてあるのは「星域軍人以外の人間の拘束とトラップなどの発見と解除」である。何か罠を仕掛けていたとしても、ドローンによって排除できるだろうと提督は考えていた。
しかし、現在レリックシップにはトカゲ人型ドローンしか存在しておらず、罠など存在しない。船内制圧ドローンは無駄に動き回るだけだった。
『人っ子一人、トラップも無いとは不思議だな。一体これはどういうことだ?』
『提督、先の戦闘で負傷しているのであれば、医療ポッドに入っているのかしれません。いや、それでも通信を送った人物はいるはず。誰もいないとか…まさか幽霊船でしょうか』
多数の船内制圧ドローンを護衛に付けるとは言え、提督だけを送り出すことは問題と感じて付いてきた副長だが、本当は直ぐにも旗艦に戻りたかった。提督は気にしていない様だが、副官にとって生物的な内装は気味が悪いものだった。
『幽霊船とか馬鹿げている。よし、医療ポッドの中も、いや各部屋を詳しく調査しろ』
提督は船内制圧ドローンにもっと詳しく捜索するように命じた。
『了解シマシタ』
船内制圧ドローンが詳しく調査をするが、事実人も罠も存在しないのだから見つからない。
そこで提督は、ブラックマーケットにレリックシップを預ける前に、操縦室から電子頭脳を操作して、提督をマスターの一人として登録していたことを思い出した。
『こうなったら操縦室に行ってみるしか無いようだな』
『艦橋ではなく、操縦室ですか?』
『この船に艦橋はない。艦橋に見えるのはセンサーの集合体だ。この船は操縦室から船の全てを操作できるようになっているのだ』
まるで長年乗り慣れた船内であるかのように、操縦室に向かって提督は歩き出した。副長は一人逃げ帰ることもできず、提督の後を追いかけた。
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