悪あがき
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
-レリックシップ電子頭脳-
レリックシップの電子頭脳は、キャサリンを奪われ、あまつさえ「魔力的な繋がり」を解除されてしまうとは思ってみなかったレリックシップの電子頭脳は、各タスクの優先権の奪い合いでオーバーヒート寸前であった。
『操縦者が奪われたのである。操縦者に埋め込んだ仕掛けが解除されているのである』
『ディスペル・マジックのスクロールを使うとは、卑怯なのである』
『このままでは帆船に敗北してしまうのである』
『主砲の修理を急ぐのである』
『クローン脳ユニットを増産するのである』
『残存作業ドローンにて操縦者を取り戻すのである』
『軍拡派艦隊に救援を要請するのである』
『『了解である』』
そして、最後に判断を下したのは戦術タスクであった。
電子頭脳は軍拡派艦隊からの光通信に「我は軍拡派に協力する者なり」と返信していた。本当は穏健派艦隊を殲滅した後に軍拡派艦隊を殲滅するとういう悪辣な作戦の布石であった返信だが、今はそれが使えると戦術タスクは判断した。
レリックシップが無ければクローン脳ユニットが生産できないのだから、軍拡派艦隊は救援要請に応じざるを得ない。各タスクも戦術タスクの判断に従った。
★☆★☆
-軍拡派旗艦-
「ふむ、協力する者か。本当にそうか疑わしいが、取りあえず敵対行動をしてこないのであれば助かるな」
レリックシップからの「我は軍拡派に協力する者なり」と言う返信を受け取った提督は、それが本当であるかを疑ってはいたが、胸のつかえが取れたように感じていた。それほどまでにレリックシップが見せた力は凄まじかったのだ。
「提督、あのレリックシップはこれまでの行動の経緯を説明が必要です。光通信だけでは信用できません。接舷してあの船の艦長との会談を要求しましょう」
「そうだな。それがよい。しかし旗艦を接舷させるわけにはいかん。レリックシップには『詳しい事情を聞きたい。有人艦の接舷を要求する』と通信しろ。後、艦隊からレリックシップに接舷する艦を選んでくれたまえ」
副官からの助言に頷いた提督は、レリックシップへの通信と、接舷のために派遣する有人戦艦の選定を命じた。
「はっ、直ちに取りかかります」
副官は通信の送信を命じると、どの有人艦をレリックシップに送るか選定に取りかかった。
『あのレリックシップに接舷しろとだと。提督の命令でも、それは断らざるを得ない。自分はこの船と乗員の命を無駄に危険にさらす命令には従えない。レリックシップに接舷しろと言うなら、あの新型ドローンを当艦の護衛に割り当ててからにしてくれ』
副官が提督からの命令を伝えた有人艦の艦長は、ほぼ同じような返答を送ってきた。レリックシップからの攻撃を恐れ、旗艦だけを新型ドローンで守った事で、有人艦の艦長は提督に対して不満をつのらせていた。そして副官が有人艦の艦長と交渉で手間取っている間に、再び帆船とレリックシップの戦いが始まってしまった。
「このままではレリックシップが破壊されてしまう。何とか救援せねば。誰か向かわせるのだ」
「しかし、艦隊の有人艦長達はその命令に従わないかと」
「なんだと。命令拒否とは何事だ」
副官の言葉に提督は激怒する。
「それは、『新型ドローンが旗艦だけを守っていることが不満である』と言うことでして…」
「艦隊旗艦が沈んでしまっては元も子もないだろう。当然のことに対して不満を言うとは…。ぬう、しかし、どうすれば良いのだ」
提督は唸りながら、どうやって有人艦の艦長を説得するか悩む。旗艦の護衛をしている新型ドローンを護衛に付けてやれば良いだけなのだが、提督は我が身かわいさにその決断ができなかった。そしてそんな提督の優柔不断な態度にますます他の船の艦長は不満をつのらせていった。
軍拡派艦隊が行動を起こせない間に、帆船とレリックシップとの戦いは、帆船の勝利で終わりかけていた。
「提督、レリックシップより『救援を請う』と通信が来ております」
「何っ!直ぐに救援を向かわせるのだ」
レリックシップからの救援要請に対して提督は命じたが、
「今の我が艦隊で、その命令に従う者はいないかと」
「クソッ、命を惜しんで命令拒絶とは、星域軍人として恥ずかしくないのか。後で軍法会議にかけてやる」
提督は自分の事を棚に上げて怒鳴り散らす。
「こうなれば、穏健派の艦隊を捕縛している新型ドローンを攻撃に向かわせてはどうでしょうか?」
「それでは穏健派艦隊が逃げ出してしまうではないか。この機会を逃せば穏健派の殲滅は難しくなるのだぞ」
「提督、『二兎追う者は一兎も得ず』ともうします。あのレリックシップが失われれば軍拡派はおしまいです。何としても確保しなければ」
「ぐぬぬ…」
「急ぎませんと、傭兵がレリックシップを沈めてしまいます」
「しかた有るまい。穏健派艦隊を捕らえていた新型ドローンをレリックシップの護衛に向かわせろ」
副官に急かされて提督はようやく決断をする。
「はっ。直ちに新型ドローンを向かわせます」
旗艦からの指示によって、青いドローンが理力の網を解除し、レリックシップに向かっていった。それに伴い穏健派の艦隊は次々と超光速空間から離脱していった。
★☆★☆
>『これでレリックシップを破壊しておしまいだ』
>『即時実行』
キャサリンと響音を搭載した連絡艇を船内に格納して、俺はようやくレリックシップを破壊するための攻撃に取りかかる。
>『シンデンの体に霊子を上書きするのはキツいんだけどな』
>『根性』
>『電子頭脳さんが精神論を言うなと。まあ気合いで耐えるしかないわ』
>『ぐ、ぐぐ…気持ち悪い…が、耐えられるぞ。練気を開始するぞ』
霊子が上書きされる気持ち悪さにも俺はかなり耐えられるようになった。練気によって船首像に膨大な気が発生する。
『これで終わりだ』
右手はレリックシップを掴んでいるため、手の部分が破壊された左手に巨大な気の刃を形成し、レリックシップに斬りつける。キャサリン不在で魔法を使えないレリックシップにはこれを防ぐのは不可能である。
気の刃がレリックシップを両断しようとしたところで、それを防ぐように防御フィールドが形成された。
>『これは、青いドローンの理力フィールドか』
気がつくとレリックシップの周囲に青いドローンが来ており、それが理力フィールドを張って気の刃を防いでいた。
>『クソッ、ようやくレリックシップを撃破できるという所で邪魔に入るとは。電磁頭脳さん、周囲の警戒はしっかりしてくれ』
>『本船も損傷の為、光学センサーによる索敵能力半減』
>『言い訳は良いから、青いドローンがこちらに攻撃を仕掛けてくる。まずはそっちを片付けるぞ』
>『了解』
帆船が超光速空間で使える攻撃は、霊子力兵器か気による格闘戦のみである。クローン脳を使った砲弾も作成すれば使えるのだろうが、それは俺が製作を許可していない。そして霊子力兵器の使用は絶対にしない。
>『片手だけじゃ不利だ。仕方ないレリックシップの拘束を解くぞ』
右手をレリックシップから放して、左手に気のフィールドによる盾を作り右手には短めの気の刃を作り出す。
>『霊子力兵器を使った時とは違うぜ』
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