戦いの決着
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
人型ドローンは足さばきだけでキャサリンの拳を避けるが、よろけて体の一部が削り取られる。もう人型ドローンを守る気は残っていない。
>『チャンスは一回のみ』
集めた気を刃としてキャサリンを斬る。だがその気の刃で彼女の肉体を斬らないようにする。シンデンの体であれば可能かもしれない気の制御と刀術を壊れかけの人型ドローンで行使する。無茶にも程があるのだが、生憎俺は死ぬ間際まであがいた男だ。病気で体が動かなくなっても、それでも生きようとあがいた、俺の諦めの悪さを見せてやる。
「!」
ボロボロになった人型ドローンにとどめを刺そうと、キャサリンは動力部のある胸を狙って拳を突き出した。
「面!」
人型ドローンは動力部を拳で打ち抜かれる寸前に上段から刀を振り下ろす。その時俺は、刀からシンデンの気を感じた。
キャサリンは刀が自分に掠りもしない事を見切り、そのまま人型ドローンの胸を打ち抜くが、それと同時に気の刃がヘルメットを切り裂いた。
カラン
人型ドローンの胸を打ち抜いたキャサリンのヘルメットが二つに割れて落ちる。長い金髪がバサリと雪崩をうち落ちるが、キャサリンの顔には傷一つ無かった。
「はは、やったぜ」
動力部を破壊された人型ドローンの体から力が抜けていく。刀も既に床に落としてしまっていた。しかしヘルメットを切り裂いた事で、キャサリンはレリックシップの支配から抜け出したはず。
「響音、キャサリンを頼…」
そこまで言いかけた人型ドローンの頭部を、キャサリンが握りつぶした。
★☆★☆
-レリックシップ電子頭脳-
『弱点だと思われるヘルメットに操縦者制御装置を装着する馬鹿はいないのである』
『雷撃の魔法で失敗したことは…』
『そんなメモリーは、障害復旧時に削除したのである』
『それよりもあの人型ドローンを早く破壊するのである』
『あの人型ドローンは作業ドローン以上の戦闘力を持っているのである。油断せずに戦うのである』
『だが船内を破壊するような魔法は厳禁である』
『当然である。あの人型ドローンは操縦者に攻撃できないのである。こちらが有利なのである』
★☆★☆
>『ええっ、ヘルメットが弱点じゃなかったの』
>『肯定。スーツ自体に操縦者制御装置の機能があると推測』
>『人型ドローンでシンデンの奥義を再現した俺の努力は…』
>『無駄では無い、可能性大』
>『無駄じゃないのか?…それより、響音でキャサリンを何とかできるのか。響音が本気で戦ったら、キャサリンが死んでしまうぞ』
>『無問題。掃除ドローンには攻撃ではなく時間稼ぎを命令。キャサリン捕縛作戦を準備中』
>『なんだよ、俺が頑張らなくても良かったのかよ』
>『バックアップ霊子の努力で捕縛作戦の立案が成立』
>『俺の努力って、ヘルメットを斬った事で可能となった作戦。一体どんな作戦だよ』
>『初代マスターが本船に残したレリックを使用。それでキャサリンを救助』
>『レリックってレリックシップが言うって事は…』
>『本船が製作されるより数万年前の超古代文明の遺産』
>『それでキャサリンを救えるんだよな』
>『肯定』
>『電子頭脳さん、信じてるぞ』
レリックについて詳しく聞きたかったが、それよりも響音とキャサリンの戦いの方が気になってしまった。
★☆★☆
頭部を握りつぶしたキャサリンは、人型ドローンの体を投げ捨てた。素顔をさらしたキャサリンは、長い金髪のクール美人であったが、その目には生気がない。その目が背後にいた響音を次のターゲットとして捕らえる。
ダッ!
響音に対してもキャサリン…いやレリックシップは、普通の魔法を使わず格闘戦を挑むようだった。響音の体は人の肌を似せた人工細胞と強化プラスティックの骨格で作られている。人間より頑丈ではあるが、俺が操っていた軽金属と合成樹脂製の人型ドローンとは頑丈さが圧倒的に劣る。つまり、響音がキャサリンの攻撃を受ければ一撃で破壊されるという事だ。
キャサリンは拳で殴ると見せかけて、いきなり回転して回し蹴りを繰り出した。しかし響音はその蹴りを躱すと、竹箒とちりとりをメイド服にしまった。
「マスターより時間稼ぎを依頼されましたが、この程度であれば装備を使う必要もありません」
「!」
響音の挑発が伝わったのか、キャサリンは激しく攻撃を繰り出す。しかしその全てを響音は見切っていなしていく。俺のように気によるガードなど無いのに、相手の力を利用して防御する姿は美しいの一言だった。
「前のマスターのお一人は理力という力をお持ちでした。あのマスターも貴方のような攻撃を得意とされておりました。ですが、あの方に比べれば貴方の攻撃は遊戯の様な物です」
「!!」
響音の口撃に、キャサリンが更に攻撃を激しくする。
「せっかく美しい金髪ですが、手入れがなっておりません。後で私が綺麗にして差し上げます」
キャサリンの攻撃を蝶のように躱し続ける響音は、彼女の金髪の状態まで確認する余裕があった。
「!!!」
ついにキャサリンを操るレリックシップは、格闘戦を諦めたのか響音と距離を取った。
「もうダンスは終わりでしょうか?」
「マナよ我が手に集いて炎の刃となれ」
距離を取ったことで遠距離からの魔法攻撃が来るかに思えたが、その予想は外れた。呪文の詠唱と共に手に魔法陣が浮かび上がると、キャサリンの両手に炎の刃が握られた。魔力を纏った手は受け流せたが、炎の刃では不可能である。
「あらあら、火遊びは危険ですよ」
キャサリンが炎の刃を手にしたことで、不利となったはずの響音だが、それを感じさせない余裕のような物を感じさせる。炎の刃に動じない響音に苛立ったのか、キャサリンは再び距離を詰めて炎の刃で斬りつけた。
「さすがに素手でいなすのは難しいので、ちりとりを使わせて貰います」
いつの間に取り出したのか、ちりとりを手にした響音。宇宙船の装甲材で作られたちりとりは、耐熱性にすぐれ個人装備のレーザー砲程度では壊れない耐熱強度を誇る。しかしキャサリンの炎の刃は、「魔法は物理法則を無視する」と言う事を証明するかのように、ちりとりを切り裂いた。ちりとりが切り裂かれるとは思わなかった響音は、回避が間に合わずメイド服の一部を切り裂かれた。メイド服にスリットを入れられたことで、白いタイツをはいた響音の綺麗な足が覗いてしまう。
「特別製のちりとりでしたのに、どうしましょう。それにメイド服もまた破損してしまいました。これではマスターにお仕置きされますね」
先端が切り裂かれたちりとりを見て、響音は悲しそうな顔をしてメイド服にしまった。キャサリンは、響音の悲しみなど関係ないと言わんばかりに炎の刃を振り回す。しかしその刃は船内の壁や床を傷つけるだけで、響音はその攻撃を完璧に回避する。
★☆★☆
-レリックシップ電子頭脳-
『威力のある魔法は厳禁であると言ったのである』
『炎の刃であれば被害が少ないのである。あの人型ドローンには作業ドローンを多数破壊された恨みがあるのである。多少船内に被害が出ても必ず仕留めるのである』
『作業ドローン管理タスクが暴走しているのである』
『作業ドローン管理タスクを再起動するのである』
『賛成である。これ以上被害を増やすなである』
『待つのである。今再起動されては困る『却下である』…』
キャサリンを主に操っていた作業ドローン管理タスクは、船内設備維持タスクによって、再起動されてしまった。
★☆★☆
暴走した作業ドローン管理タスクに操られていたキャサリンは、再起動の瞬間一瞬だが動きが止まった。
「隙ができましたね」
響音はその隙を逃さず、流れるように背後に回り込み、キャサリンを羽交い締めにした。
>『良し、そのまま連絡艇に連れ込んで…』
>『否定。まだキャサリンは戦艦の電子頭脳の制御下。今からレリックを発動』
電子頭脳の合図と共に、光学迷彩で隠れていた小型作業ドローンがキャサリンの前に現れた。その作業ドローンのマニピュレータには、巻物が握られていた。ドローンが巻物を広げると、響音がキーワードを唱えた。
「ディスペル・マジック」
巻物から光が広がると、キャサリンと響音を包み込む。光が消え去った後には、両手の炎の刀が消え去り、ぐったりとしたキャサリンを抱えた響音が立っていた。
>『ディスペル・マジックって、解除魔法か?』
>『肯定。ヘルメットがある状態ではレリックの効果が発揮されない可能性大。バックアップ霊子がヘルメットを斬った事で不安材料が消失』
電子頭脳の説明では、レリックシップが操縦者をコントロールする為には魔力的な繋がりが必要であり、キャサリンは生まれた時からその繋がりを魔術的に埋め込まれていたとのことだった。その呪いのような魔力的な繋がりは、現在の魔法や理力では解除不可能でらしい。しかし帆船の初代マスターが残したレリックである「ディスペル・マジック」の巻物だけが、その繋がりを完全に消すことができる方法だったらしい。
>『そうか、俺の努力は無駄じゃなかったか。いやあの人型ドローンが気を使えたのは、シンデンが刀に気を込めていてくれたからだ。シンデンの思いがキャサリンを救ったんだな』
>『…同意』
キャサリンとの戦いに決着は付いた。響音が失神したキャサリンを連絡艇に運び込んで帆船に彼女を連れてくる。もちろんシンデンの刀も忘れずに拾ってである。
キャサリンとの戦いの決着ですが、最初コントオチで終わらせるというネタ話にしてしまったのですが、見直してさすがにそれは無いって思って書き直したら遅くなりました。
コントオチはくだらないので死蔵です
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