事情の把握
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
- 簡単な世界説明 始まり -
有馬拓也が冷凍にされてから、地球は世界大戦や宇宙大戦を繰り返しながらも、太陽系を開発していった。しかし核融合エネルギーまで開発できた人類だが、その程度では太陽系を超え恒星間へ進出する事は難しかった。
恒星間の膨大な距離を前に宇宙開発の停滞という行き詰まりが人類にのし掛かってきた時、月面の地下深くから異星文明の宇宙船が発掘された。その宇宙船は核融合どころか化学ロケットエンジンの推進機しか見つからなかったのだが、明らかに恒星間を渡ってきた物であった。技術解析の結果、そのレリックシップから、人類は超光速航法の技術を入手することができた。
得られた超光速航法技術は、回路を動作させられるパイロットさえ揃えられれば、化学ロケットエンジンレベルでも恒星間航行が可能という技術難易度であった。太陽系内で個人が宇宙船を利用している状態であった人類は、個人レベルで他の恒星系へ進出することが可能となってしまったのだ。太陽系外への進出が可能となった人類は、国家や企業、果ては個人レベルで銀河に散らばり、居住可能な惑星や資源のある恒星系に植民地を築いていった。
そうして約千年程かけて生存領域を拡大していった人類だが、銀河系の三割ほどの領域に進出したにもかかわらず、人類以外の知的生命体とは出会わなかった。ただ、月で見つかったような異星人が存在したという遺跡は発見されており、そこからは超光速航法のような画期的な技術や予想もしなかった精神系技術を得ることができた。
人類にとって素晴らしい宇宙開拓時代ではあるが、それは必ずしも明るい話だけでは無かった。異星人の遺物から得られたテクノロジーは時として人類を滅ぼすほどの物があり、それを巡って戦争が始まり地球から離れた星系が地球から独立し星間国家を名乗るようになってしまった。また人類が広範囲に散らばった結果、法では守り切れない勢力…まあ所謂宇宙海賊といった者達が出現し、宇宙客船や貨物船、開発途上の星を狙った略奪(個人単位から国家レベル単位での)行為などが発生する状況となった。地球を始め各星間国家は軍事力を持っていたが、全てを守る程の力はなく、結果西部開拓時代よろしく『自分の身は自分で守る』事が認められるようになっていった。
ただ、個人単位での戦力を認めると言ってもある程度の縛りは設けられ、デブリ破壊以上の武力を持つ場合は、国家や企業や民間軍事組織、傭兵ギルド・冒険者ギルドのような何らかの組織に属すべきと、星間ルールとして決められたのだった
- 簡単な世界説明 終わり -
>『なるほど、俺が凍結いる間に世界はこんなことになっていたのか…。しかし冷凍された俺はどうして宇宙船の電子頭脳の中で目覚めたのだろう』
シンデンが死ぬまでの記録と、現在の世界がどうなっているかを船のメモリーから読み取った俺は、腕を組んで考え込んでしまった。
>『ピッ、霊子力兵器は、生命体の意識を取り込んだり放出することにより巨大な力を発揮する兵器。過去に発見された第十六異星人の遺跡を巡る戦いで使用された巨人型霊子力兵器によって、星域国家の生命体が全滅した事例あり。その霊子力兵器と同様な兵器が使用されたと仮定すると、先の戦闘で放出された生命体の意識…霊子力の出力が本船の許容量を超えていたため、マスターの霊子を吹き飛ばしてしまったと判断。マスターは全力で気を遣うために霊子力で本船と接続していた。その状態の本船は、マスターと一体化しており霊子と記憶はバックアップの対象となっている。霊子力兵器による攻撃を受けても霊子のバックアップがあればマスターは復旧可能であった。しかし全力可動中に船外に出てしまった状態で、想定外出力の霊子力兵器の攻撃を受けてしまい、マスターとの霊子力の経路を通じて、マスターの霊子バックアップ領域に別な霊子が記録されてしまったと推測する。なお、マスターの肉体の霊子が消え、バックアップも上書きされたため、マスターの復旧は不可能』
俺の疑問に対して船の電子頭脳が長々と返答を返してきた。このシンデンの帆船に搭載されている電子頭脳だが、レリックシップに搭載されているだけはあり、人類のAIとはかけ離れた人格すら持っているような高性能な物であった。そしてその電子頭脳上に間借りしているような形で存在する俺には、右脳で疑問に思ったことが左脳から解答されるような妙な感じ伝わってくる。「ピッ」と言うのが煩わしいが、考えるだけで答えが返ってくるので非常に便利である。
>『つまり、俺は霊子力兵器によって放出された意識というか霊子であって、それが船のメモリーに記録された状態なのか?』
>『ピッ、肯定』
>『愛想のない返事だな。じゃあ、俺はプログラムみたいな物なのか。あの脳みその中にまだ俺の意識は生きているのか?』
資源運搬船の操縦ブロック内に漂うケースに船首像カメラの視線が移る。
>『ピッ、否定。既に霊子は解放されており、あの脳幹には、もう霊子が存在しません』
>『俺の魂はここにしかない…ということか』
>『ピッ、肯定』
俺は、自分が単なる記録でないことに安堵する。
>『魂があれば復旧可能というなら、俺の魂をシンデンの体に書き込めば、シンデンは生き返るんじゃないのか?』
>『ピッ、否定。異なる霊子を肉体に書き込むことは可能だが、実行は非推奨』
俺は一瞬シンデンの体を使って自分が復活できるかと考えたが、どうやらそう都合良く魂は上書きできない物らしかった。電子頭脳によると、肉体と魂は強固に結びついているため、他の魂を上書きした場合、その違和感から魂が狂ってしまうとのことだった。電子頭脳が安易にシンデンの復旧を選択しなかったことに俺は感謝した。
>『じゃあ、あのケースの俺の脳に書き戻せば…、いやそれは無しだ』
『ピッ、了解。マスターの霊子が不在の状況下では、バックアップの霊子が本船の主導権を握っている。霊子バックアップの喪失は本船の機能喪失につながる様な要求は、非推奨事項』
>『ああ、じゃあ今この船の主導権を握っているのは、俺か』
>『ピッ、肯定』
>『とにかく自由になるのは…、今のところこの船首像を動かすぐらいか。とにかくシンデンの体を回収しないと駄目なようだな』
俺が帆船の制御を握ったとはいえ、シンデンの体が操縦席に座っていないと、航行を含め各種制御ができない状況であった。俺は船首像の手をそっと使ってシンデンの体をコクピットに収めた。
>『ピッ、マスターの肉体がコクピットに入ったことを確認、操作系を正常稼働状態移行します』
シンデンがコクピットに収まることで、帆船の機能が正常状態に復旧する。霊子が無く、リビングデッド状態ではあるが、シンデンはパイロットして認証されたようだった。
>『後は俺の脳を回収して…。スーツ男も霊子がない状態だし…代わりに戻しておくか』
スーツ男も霊子力兵器によって霊子がない、リビングデッドとなっていた。スーツ男を操縦ブロックに押し込み、俺は自分の脳を回収した。
>『ちょっと、ケースが小さすぎて捕まらん。ってようやく取り出せたか』
>『ピッ、超光速航法から多数の艦艇が離脱するのを検知』
>『多数の宇宙船か。このタイミングで現れるって事は、シンデンを罠にはめた星域軍だよな』
>『ピッ、肯定』
>『スーツ男は救難信号とか出してなかったし、これは霊子力兵器で無人となったはずの帆船を回収しにきた感じだな』
>『ピッ、その推測を肯定』
>『シンデンがこの状況で、俺が星域軍を説得できる可能性とか…無理だな。それに奴らの狙いがこの帆船というなら、仮にシンデンが生きていたとしても、話を聞くとは思えない。戦っても負けないとは思うが、ここは一旦逃げるべきだな』
>『ピッ、肯定。直ちに当宙域からの撤退を推奨』
>『ですよね~。捕まったらバックアップの俺の存在とか消されるって、シンデンの記憶から読み取れるな。とにかく逃げよう』
>『ピッ、了解。コースの選択を希望』
>『ステルスモードでの移動は可能か。それなら小惑星帯に入りこんでしまえば追跡は困難なはず。星域軍を避けて小惑星帯の反対側に抜けてから超光速航法で離脱しよう』
船の電子頭脳と一体化している俺は、この帆船にしか見えないレリックシップの機能を全て把握できていた。その性能は星域軍の最新鋭の宇宙艦隊と互角に勝負ができるほどである。電磁的なセンサーから船を隠すシールドや光学センサーを欺く光学迷彩に加え、帆船の移動は熱探知できない完全慣性制御による推進で移動すれば。ほぼ追跡は不可能である。そう理解できてしまった俺は、帆船の航路を設定した。
>『ピッ、航路設定を確認。全速で当宙域を離脱』
ステルスモードを起動した帆船は、小惑星帯に向けて舵を切るのだった。
★☆★☆
帆船が姿を消して一時間後、キャリフォルニア星域軍の艦隊は資源運搬船の残骸が漂う宙域にたどり着いた。艦隊は、資源運搬船を含めた残骸を調べていたが、シンデンの船がどこに向かったか、突き止めることはできなかった。
「提督、資源運搬船と三隻の海賊船、そして多数の戦闘ドローンの残骸を発見しましたが…」
「シンデンの船は見つからなかったか」
「はっ。現在捜索中ですが、残骸すら見つかっておりません。破壊されなかった場合、どこに向かったか、現在その足取りを調査しております」
キャリフォルニア星域軍、第一艦隊旗艦であるアルキメデスの艦橋で、艦隊司令官である提督は部下からそのような報告を聞かされていた。
「新型戦闘ドローンも破壊されたか。…霊子力兵器だったか、それが発動したのは確かなのか?」
「企業からの報告では、発動したのは確実だそうです」
「ステーションを一瞬で滅ぼす兵器にも耐えるか。…よし、傭兵ギルドにはシンデンが契約違反で逃亡した旨で指名手配を行うように連絡しておけ」
「はっ」
「傭兵ギルドがこちらの言うままに指名手配をするとは思えないが、もし傭兵ギルドがシンデンを除籍し指名手配するなら、大手を振って奴から船を取り上げることが可能となる。いや、傭兵ギルドの抗議など無視しても奪い取るだけの価値が、レリックシップにはあるのだ」
傭兵ギルドに通信を送るべく通信機を操作する将校を見ながら、提督はそう呟くのだった。
電子頭脳の会話が片言なのは、意図して変な日本語になっています(異星人製作感出したかったので)
後、主人公の境遇が分かり辛いと感想があったので、帆船の機能と主人公の境遇を箇条書きで説明します
(1)主人公の脳は冷凍され、霊子力兵器として使用されました。
(2)帆船には霊子力兵器による攻撃に対抗する為、操縦者の魂をバックアップする機能を持っていました。
霊子力兵器から魂を保護するフィールドもあるので、バックアップは念の為の機能です。
もしフィールドを張る事が間に合わず、シンデンの魂が破壊されてもバックアップから魂を書き戻すことでシンデンは復活可能です。
(3)今回は帆船はフィールドを張る事が出来ておらず、シンデンも船外に出ており、帆船(船首像)と気で接続していた状態で、霊子力兵器の攻撃を受けてしまいました。
この時点でシンデンの肉体の魂は消失し、帆船も想定外の状況で攻撃を受けました。
(4)本来の機能なら魂のバックアップは無事であり、シンデンは復活出来たのですが、そのバックアップに何故か主人公の魂が書き込まれてしまいました。
原因としては、シンデンが船外にいて、更に気で繋がった状態で霊子力兵器の攻撃を受けた事+αが原因と思われます。
これは帆船とそのシステムを作った異星人にも想定外の状態です。
(5)主人公は、単に電子頭脳に転生したのではなく、電子頭脳内の魂のバックアップ領域に存在します。
通常は操縦者の魂=バックアップ魂なので、それに対応する規定が無い為、帆船の電子頭脳はバックアップをマスターとして認識することにしました。
主人公は、上記の通り特殊な状態で転生しています。
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