キャサリンとの戦い
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
「この人は誰?」
「ん、響音の事か?たまたま拾ったが、便利だから使っている。主に船内を掃除してくれるお掃除ドローンだぞ」
「ふーん。お掃除ドローンね…」
キャサリンはジロジロと響音を見て回る。
「お掃除ドローンなら今使っている人型ドローンでも良いのに、これは人間そっくりなの。それに名前まで付けてるじゃない」
キャサリンが響音の存在に対して問いかけてくるが、何か拒絶感みたいな物が感じられる。
>『これは、響音が男性向けの人型ドローンってことに気がついたのかな』
>『可能性大』
>『うーん、この手の年頃の女の子って、男性向けの人型ドローンに対して嫌悪を感じるかな?』
>『判断不能』
電子頭脳さんに人の感情を理解できるとは思わないが、俺も十二歳の女の子の気持ちなど理解できるわけも無い。
「響音は海賊退治で鹵獲した人型ドローンだ。お掃除ドローンとして使われていたので、船の中の掃除をさせている」
「それだけなのね?」
「うむ。海賊退治の事故で、俺は体が動かせない状態だ。しかたなく響音には身の回りの世話もさせている。この人型ドローンもつい先日購入したばかりだからな。当時は響音を使うしかなかったのだ」
帆船に戻れば響音がシンデンの世話をしている事がばれてしまう。よって俺は正直に伝える事にした。
「シンデンの体が動かなくなったのは最近なの?」
「ああ、お前が施設から家出する数日前だ。姉さんにも伝えてない」
「アヤモさんも知らないのね。…じゃあ、私がシンデンのお世話をするわ。だって私はシンデンの娘だから、家族の世話をするのは当然だわ。人型ドローンなんかに任せるぐらいなら、私にやらせてよ」
「…いや、体が動かせない状態も、もう少しすれば治る。だから心配など不要だ」
俺はキャサリンの申し出に困ってしまい、嘘をついてしまった。彼女は本気でシンデンの事を心配しているのだろうが、俺は体を動かせない人の世話の大変さをよく知っている。何せ自分がそういう状態だったからだ。
「分かったわ」
キャサリンの表情はヘルメットのために分からないが、不満げな声で答えた。
★☆★☆
-レリックシップ操縦室-
キャサリンの放った魔法攻撃で対消滅爆弾が爆発してしまい、その復旧作業に全力を尽くしていたレリックシップだが、ようやく本来の機能を取り戻しつつあった。
『障害から復旧したのである』
『現状の報告である』
『電子頭脳、ジェネレータ、魔石とも無事なのである』
『作業ドローン数が、船体維持の規定値以下である。早急に製造するのである』
『操縦者が敵ドローンに連行されているのである』
『操縦者制御タスクが停止しているのである。直ぐに操縦者制御タスクを起動するのである』
★☆★☆
船首像が帆船に搭載されていた連絡艇を運んできた。全長十メートルほどのラグビーボールのような形である。突入口の手前に置かれた連絡艇の搭乗口から蛇腹状の搭乗通路が延びてくる。
>『連絡艇を準備。搭乗通路は与圧中』
「ようやく準備ができたようだな、これに乗ってこの船から脱出するぞ」
俺はキャサリンに搭乗を促す。ようやくこのレリックシップから脱出できると思ったのだが。
「ひっ」
突然キャサリンが悲鳴を上げる。
「どうした」
「…」
キャサリンに問いかけるが、返事はない。そして彼女の雰囲気が先ほどの少女らしい物から無機質な物に変わっていくのを俺は感じ取った。
>『これは…』
>『戦艦が操縦者をコントロールする機能を復旧』
>『もう少しで逃げ出せたのに…。連絡艇の中に連れ込めば、何とかならないのか』
>『操縦者をコントロールする機能は魔力による操作。本船の機能では対応不能』
後もう少しという所で、キャサリンはレリックシップに操られてしまった。強引に連絡艇に押し込めば何とかなると思ったのだが、魔力的な物だと帆船でも対応は難しいようであった。
>『何か良い手はないのか。ああ、キャサリンを殺すような手は無しだ』
>『対応を検討…』
電子頭脳でも対応が難しい状況らしく、回答がすぐに返ってこない。
電子頭脳とのやり取りの間に、キャサリンが動き出す。拳銃を持っていない彼女には、魔法の発動は無理だと思ったが、小さな魔法陣が胸元に現れる。
「魔法攻撃か!」
人型ドローンは距離を取って刀を構えると、魔法攻撃を防ぐために体に気を纏わせた。
「!」
魔法陣が消えると、キャサリンはもの凄い勢いで俺に突撃してた。魔法攻撃だと思っていた俺は虚を突かれた感じとなり、接近を許してしまった。
「魔法使いだからって、格闘戦ができないわけじゃ無いか」
キャサリンが振るうのは拳であり蹴りであった。刀で攻撃を受けてしまうと彼女を傷つけてしまうため、鞘を付けた状態で捌くが、とても素人の動きとは思えない体術であった。
俺が剣道を習っていた時、警察の人に「剣道だけじゃなく、ある程度の体術も知っておいた方が良い」と教え込まれた経験が無ければ初手で倒されていただろう。剣術家に取って、倒されるというのはもう負けたと同じである。そしてキャサリンから繰り出される攻撃は魔力がこもっているのか、纏った気を削り取っていく。
>『防御だけで手一杯だ、どうにかして彼女を止めないと』
狭い通路の中で刀を扱うのは難しい。そして気を纏うことにも集中力が必要である。
「キャサリン、気をしっかり持て。レリックシップに操られるな!」
「シ…」
ダメ元でキャサリンに話しかけると、一瞬反応があり拳が止まった。もしかしたら話しかけることで、レリックシップの支配から抜け出せるのではと思った。
「キャサリン!」
「…」
しかし次に名前を呼んでも反応がない。レリックシップの電子頭脳も馬鹿ではない。キャサリンへの呼びかけが通じないようにしたのだろう。何度呼んでも反応がない。
>『不味い、体を覆う気が減っていく』
そして戦っている間に、俺は気が少なくなっている事に気づいた。原理不明で人型ドローンが使う事のできた気だが、気の量には限りがあったようだ。今はもう体を纏うだけの気の量が確保できなくなり、腕だけに纏わせている。人型ドローンの体は頑丈ではあるが、魔力がこもったキャサリンの攻撃をそのまま受けると、体がえぐり取られるように削れる。何とか致命傷を避けているが、人型ドローンの体はそろそろ動けなくなる。
>『もう時間が無い。やってみるしかないか』
このままではキャサリンは人型ドローンを破壊してしまうだろう。その前にキャサリンをレリックシップの電子頭脳の支配から解放しなければならない。俺はキャサリンをコントロールしているのはヘルメットであると考えている。まあ人の意識を支配するなら頭であるのは当然とも言える。もし某レンズな人みたいに手に制御装置があるのであれば、俺は切り落としていただろう。帆船の医療施設なら手を再生することぐらい可能である。しかし頭だけは無理である。いや頭も再生できるだろうが、それはキャサリンのクローンであり、キャサリンではない。
>『シンデンの記憶にある奥義、これでヘルメットを斬る』
俺が狙うのはヘルメットを斬ることだ。もちろん兜割ではない。キャサリンの頭を斬ることなくヘルメットを斬る。ル○ン三十世の相棒の石川四十右衛門は、一振りで刀より大きい戦車を中の人を残して車体だけを切り裂いていた。俺はあれと同じ事をしようとしているのだ。もちろんアニメと同じ事を現実でできるわけがない。物理法則を無視する気の刃なら可能である。そしてシンデンはそれを会得していた。
しかし俺はシンデンの記憶を見て、奥義のやり方は理解しているが、この体はシンデンの物ではないし、バックアップ霊子には経験が無い。
「顔に傷ができるぐらいで済めば御の字だな」
俺は鞘から刀を抜くと、正眼に構えた。
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