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脱出(2)

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 無言で歩く人型ドローン()の後を付いてくるキャサリン。会話がなくても元来た道を帰るだけ。そうであれば良かったのだが、もちろん邪魔が入る。


「ちっ、トカゲ人(ドローン)か」


 俺達の脱出の行方を妨げるようにトカゲ人型ドローンが現れる。倒さなければ前に進めない。しかし今戦えるのは人型ドローン()だけである。


>『援護射撃がないと、刀の間合いに飛び込めないな』


>『幼生体…キャサリンを盾にすることを推奨』


>『あのスーツはレーザーを防げるから盾にはなるか…って、そんな事できるかーっ』


 キャサリンから完全に信用されていない人型ドローン()が「盾になってくれ」とか言えばどうなるか、人間なら馬鹿でも分かる話である。電子頭脳の判断は合理的ではあるが、人の心情を全く理解していない。


>『前に進まないと脱出はできない。こうなったら一か八か、試してみるしかない』


「お前はここで待っていろ。俺が何とかする」


 刀を手に人型ドローン()は通路を走る。トカゲ人型ドローンが俺を狙ってレーザーを撃ってくる。


「はっ!」


 俺は刀を振りかざすと気合いを込める。すると人型ドローンでは発動不可能であるはずの気が刀身にあつまり、レーザーを弾き飛ばす。


「グギャ!?」


 トカゲ人型ドローンのAIは、レーザーを弾いた人型ドローン()に驚く。そして更にレーザーを発射するが、その全てを俺は弾き飛ばす。


「どう!」


 気を纏った刀による斬撃が、トカゲ人型ドローンを上下二つに分かつ。緑色の体液なのかオイルなのか分からない液体を吹き出して、トカゲ人型ドローンが倒れ伏す。


>『ふぅ、良かった俺の勘違いじゃなかったか。原理は不明だが、人型ドローン(この体)でも俺は気功術が使えるみたいだ』


 キャサリンの放った魔法を人型ドローン()は気のフィールドで防いだ。シンデンの体を通し船首像を使って気を扱っていた感覚でやってしまった事だが、どうやら偶然とか奇跡ではなかったようだ。


>『電子頭脳さんは、この人型ドローンで気功術が使える事を知っていたのか?』


>『否定。気功術は生命体のみ使用可能。生体パーツを使用したドローンを気功術者が精神リンクにて操作し、気功術を発動した実験例が確認されているが、実験に使用されたドローンは気によって爆発。バックアップ霊子()が行っている現象は理解不能の現象』


>『気で爆発って…そんな事にならなくて良かったと言うべきだな。良かった、これで俺一人でも何とか戦える』


>『気の発生原理の検証を推奨』


>『人型ドローン()が生きて帰れたら、好きなだけやってくれ。今は脱出が最優先だ』


>『了解』


「おい、先に進むぞ」


「…その刀、見たことある。シンデン(義父)の刀だよね。どうして人型ドローン(貴方)がそれを持っているの?」


 キャサリンは人型ドローン()の持つ刀を見てそう言った。人型ドローン()がシンデンの刀を持っている事が信じられないようであった。


「それは、…人型ドローンを操っているのが俺だからだ。自分の刀を使っても良かろう」


「嘘、シンデン(義父)は人型ドローンが嫌いだってアヤモが言ってた。そんなシンデン(義父)が大事にしていた刀を人型ドローンに預けるわけがないわ」


「…体が動かせない状態にある。だから俺が人型ドローンを操ってお前を助けに来た」


 キャシーにシンデンが既に死んでしまっている事は話せない。だから半分正解の情報を伝える。


「ええっ、体が動かせないって。そんな事、アヤモさんから聞いてないわ。どうして、何が事故にでも遭ったの」


 キャシーは慌てて人型ドローン()に駆け寄ってくる。


 キャサリンの剣幕を見て、俺はシンデンの今の状況を伝える時が怖くなった。俺のせいでシンデンは死んでしまったのだ。シンデンの記憶を持っているから、だから俺はシンデンの真似をできるが、アヤモのようにキャサリンは気づいてしまうかもしれない。


「そんな事は後で教えてやる。今はこの船から脱出することだけを考えろ」


「う、うん」


 今はキャサリンを無事アヤモの元に連れ戻すことが重要だと、俺は真実を告げなかった。キャサリンは頷くと、人型ドローン()と一緒に歩き始める。隣に並んで歩くのは、人型ドローン()がシンデンだと思ったからであろう。その姿に俺の心がチクリと痛む。


 ★☆★☆


 何度かのトカゲ人型ドローンとの戦闘を経て、人型ドローン()とキャサリンは突入口に辿り着いた。


「ここを出れば脱出できる」


「うん…。えっ?」


 キャサリンは人型ドローン()の言葉に素直に頷く。そして人型ドローン()は甲板に一歩を踏み出したが、キャサリンは付いてこない。


「どうした、ついてこい」


 そう叫んで、俺は甲板に空気が無い事に気づいた。どんな原理か不明だが、大きく破損した状態でもレリックシップ(遺物船)は船内の空気を確保していた。しかし船外というか甲板は超光速空間であり空気は存在しない。


 俺は転生してから肉体を持っていなかった為、基本的な事を実感できていなかったのだ。


>『超光速空間って何でできているんだ。風や水はあるが、あれは何でできているんだ』


>『超光速空間には人類が生存するための大気組成は皆無。通常はマナと気体と液体状態のエーテルが存在』


>『エーテル。そんな架空の物質、いや異星人がそう定義した物質が存在しているのか。それじゃあ人間は超光速空間に生身で飛び出すと窒息死してしまうのか』


>『肯定』


>『あのキャサリンが着ているスーツには、気密性あると思うか?』


>『本船まで辿り着けば確認可能』


>『帆船まで辿り着くのまでに確認が必要なんだよ!』


 鶏が先か卵が先か馬鹿のような論争であった。


>『電子頭脳さん、船にも宇宙服とかあるだろ。いやあのヘルメットは脱げないみたいだ。何か彼女を安全に連れ出す物を準備してくれ』


>『了解。直ちに手配』


 電子頭脳は機械故に、俺はこの世界の常識を知らなかった故に、キャサリンを助け出すために必要な物を準備していなかった。


 一方、キャサリンはなぜ甲板に出なかったかというと。


「(綺麗な場所。でも私はステーションにいたはずなのに、どうして海にいるんだろう。惑星に連れてこられたの?でも、太陽も雲も無い海だけの惑星ってどこだろう)」


 超光速空間を初めてみたキャサリンは、その光景に心を奪われていただけだった。


 ★☆★☆


 俺に続いて甲板に出ようとしたキャサリンを人型ドローン()は振り返って踏みとどまらせた。


「外に出るのは待て。そのスーツのまま外に出ては危険かもしれない。そのスーツは宇宙服のように機密性があるのか?」


「宇宙服?さあ、気がついたら着ていたし分からない。息も苦しくないから何処かから空気が入ってくるんだと思うよ。変な声が拘束具とか言っていた気がするけど、宇宙服かどうか知らないわ」


「そうか。じゃあしばらくここで待つんだ。そのスーツが宇宙服じゃない場合、お前はここから出たら窒息死してしまうかもしれない。お前がここから外に出られる物を準備する」


「うん、分かったわ」


 窒息死すると言われて、キャサリンは恐ろしくなったのか船内に引っ込む。


「俺は敵が来ないか見張っている。お前は外には出るなよ」


 俺はそう言って内部を見張っていると、奥の方から人影が近づいて来た。


響音(おとね)、今まで何をしていた」


 やって来た人影が響音(おとね)である事は、人型ドローンの視界に映る船内図で表示されているから分かっていた。超光速空間(甲板)では光通信しかできないのに、一歩船内に入ると通信できるという現象だが、電子頭脳によると超光速空間を満たすエーテルが原因らしい。俺達が侵入している間も電子頭脳と通信できていたのは、突入口に二台の非人型ドローンがいて、帆船の光通信を中継していたからだ。今も俺と帆船の間の通信はその二台によって中継されている。


「遅くなり申し訳ありません。邪魔者()の駆除に手間取りました」


「G?このレリックシップってそんな物までいたのか」


「はい、久しぶりの大掃除でした。おかげでメイド服が破損してしまいました。マスター申し訳ありません」


 響音(おとね)が申し訳なさそうに謝る。確かに響音(おとね)の着るメイド服には、焼け焦げた跡や何かに噛みつかれた跡が残されていた。だが響音(おとね)の被害はそれだけであり、インナーや肌には傷一つ無かった。


>『(Gってトカゲ人(ドローン)の事かよ。脱出の時出てくる数が少ないと思ったら、響音(おとね)が成敗していたのか)』


 おそらく響音(おとね)のメモリーを覗けば、Gとの戦い知ることができるだろう。しかし俺には、それを見る勇気は無かった。


「無事で何よりだ。俺と一緒にこの娘を守れ」


「了解しました」


 そんな俺と響音(おとね)のやり取りを、キャサリンが驚いた顔で見ていた。

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