脱出(1)
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
>『他のドローンは全滅か?』
>『肯定』
>『しかし、この状況、どうしよう。魔法を使ってきたって事は人間だよな』
今俺が操っている人型ドローンは、爆風に吹き飛ばされてライダースーツの女性を押し倒した状態である。彼女が敵じゃなければ慌てて立ち上がる場面だが、いまそうしてしまうと魔法で攻撃されてしまうだろう。
>『取りあえず、このまま押さえ込んでしまえば魔法は使えないはずだな』
>『否定。熟練の魔法使いであれば、無詠唱で魔法を発動可能。早急な無力化を推奨』
>『そんな事を言ってもな。無力化って、この拳銃を取り上げりゃ良いのか?』
ライダースーツの女性が持ってた拳銃には魔石がはめ込まれており、それが魔法の発動体だと思われる。危険なので奪おうとしたのだが、女性が突然暴れ出す。
「ええ、どうして人型ドローンが私を押し倒しているのよ」
>『そりゃ、魔法を撃たれたくないからな』
俺はじたばたと暴れる女性を押さえつけるが、女性はおれを蹴りつける。まるで子供が暴れるような動きであり、人型ドローンを破壊するような威力は無い。
「どきなさいよっ!」
>『報告。その人類種女性の音声が幼生体に酷似』
>『この女性がシンデンの娘だって?そんなことあるわけ無いだろ。彼女はまだ十二歳で、大人の女性じゃないだろ』
>『幼生体と体格は不一致。しかしマスターとの通信時の音声データと声紋が七割一致』
>『…本当かよ』
>『確認を推奨』
>『分かった』
「お前、キャサリンなのか?」
シンデンの音声・口調で俺は女性に問いかけた。
「えっ、どうして私の名前を知っているの。それにその声…」
俺の問いかけに女性が驚いたように問い返す。
>『マジかよ。本当にキャサリンなのか。…いやその演技をしている可能性もあるか』
>『質問を継続』
「俺はキャサリンを助けに来た。お前が本当にキャサリンなら、両手の銃を捨てろ」
「…私は本当にキャサリンよ。それと人型ドローンのくせにパパの声で話さないで」
彼女はそう言いながら両手から拳銃を放した。
>『さて、本人はそう言っているが…どうやって確認したら良いのか』
>『声紋以外の情報が必要』
「お前がキャサリンと声は似ている。だがキャサリンはまだ十二歳の子供だ。お前はとても十二歳とは思えない」
「何を言っているの。私はまだ十二歳の…えーーーーっ、私の体どうなっちゃたの」
自分の豊満な肢体を自覚したのか、女性が驚きの声をあげる。
>『自分の体の状況が理解できていないみたいだな。電子頭脳さん、この時代の人類はイスカン○ル人みたいに一年で成長するとか進化しちゃった?』
>『否定。イスカン○ルと言う星系について電子頭脳は情報を不所持。人類種の体型は、居住惑星の重力によって変化するが、幼生体の居住惑星においては人類発祥の地と同等』
電子頭脳さんから送られてきたデータによると、銀河系に広がった人類はその居住する惑星の重力によって身長や筋力などにばらつきが発生するが、成長は年齢に応じて進む。つまり、一年とか数日で急に大人になる様な進化はしていなかった。
>『それと、魔法で大人になるとかできるのか?魔法があるんだから、「メーキング○ップ」とか、変身魔法で大人なれるとか』
>『否定。バックアップ霊子のイメージのような魔法は非在。幼生体の急成長の原因は、戦艦の電子頭脳による成長促進剤の投与と推測。成長促進剤は、戦艦がクローン脳ユニットを生成するために使用』
>『成長促進剤って、それで急激に成長させるとか、やばい感じがするんだが』
>『肯定。成長促進剤投与は生命体の細胞分裂を促進し成長を早めるが、人類種の細胞は分裂に限界が存在』
人の細胞にはテロメアという細胞の寿命を決める物があるのだが、それは細胞分裂を起こす度に短くなる。つまり細胞分裂を早めるということは細胞の寿命も早まるのだ。
>『やはりやばい薬じゃないか。その成長促進剤で、キャサリンがいきなり大人になる可能性はあるって事か』
>『肯定』
「キャサリン、そのヘルメットを外すことは可能か?」
「ん、ちょっと待って」
女性がヘルメットを外そうとするが、どうやらスーツと一体化しており外れない様であった。
「外れないみたい」
「困ったな」
>『残ったのは俺一人だ、彼女がキャサリンであるなら、確保して逃げ出すしか無いと思うが?』
>『肯定。現有戦力で妥当な判断』
「よし、俺に付いてこい。とにかくこの船から脱出するぞ」
俺は立ち上がって、ヘルメットを脱ごうと格闘しているキャサリンに手を差し伸べる。
「…ん、まああんたを信用したわけじゃないけど、この船から逃げられるならついていくわ」
キャサリンは俺の手を握りかえした。
『さて、元来た道を帰りたいが、どうしようかな』
キャサリンを連れて逃げだそうと振り返ったが、帰り道は対消滅爆弾によって破壊されていた。十メートルほどの穴の先に通路が見えているが、この人型ドローンの脚力ならギリギリ飛びつけそうだが、キャサリンもいる。
「あそこまで跳ぶことは可能か?」
「そんなの無理に決まっているでしょ」
「アヤモからお前が魔法を使えると聞いたが、魔法で飛行するとかできないのか」
「…魔法はあるけど、目が覚めてから頭がズキズキしてるの。魔法が使える状態じゃないわ」
魔法を行使するには精神を集中する必要がある。そして頭痛がすると言う事は、今のキャサリンは精神力が無い状態であろう。
「そうか、こうなったら先に進むか、俺が抱えて跳ぶしかないか。お前の体重はどれぐらいある?」
「レディに体重なんて聞くとかあんた失礼ね。それに体が変わっちゃったから体重なんて分からないわよ」
「ふむ」
俺はキャサリンを抱きかかえると、体重を計測する。
「あんた、いきなり何するの」
突然お姫様抱っこ状態になったキャサリンが、人型ドローンの頭をポカポカと殴るが、ダメージはない。
>『六十キロ、意外と重いな。電子頭脳さん、行けそうか?』
>『脚部モータのリミッターを解除すれば可能』
通路を先に進むという手段もあるが、俺一人ではさすがに無理である。やはり跳ぶしかない。
「しっかり捕まっていろ」
「えっ、きゃぁーーーっ」
人型ドローンの脚部モータのリミッターを解除。そしてキャサリンを抱えたまま人型ドローンは穴を飛び越えた。
「あんたね、跳ぶなら跳ぶって先に言ってよ」
キャサリンを通路に降ろすと彼女が文句を言う。
「分かった。次はそうする。さて、進むぞ。ついてこい」
「…」
歩き出した人型ドローンの後をキャサリンは無言でついてくる。もっと会話なりすれば良いのかもしれないが、シンデンの娘に何を話して良いのか俺には分からない。シンデンの記憶でも、彼はキャサリンとほとんど会話をしていなかった。
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