キャサリンとの遭遇
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
-レリックシップ操縦室-
操縦室に表示されたレリックシップの船内図の青い光点が次々と消えていく。その側には赤い光点が一つと、複数の光点が表示されている。青い光点はトカゲ人型ドローンを表しており、赤い光点は響音とそれ以外のドローン達である。
『想定外の事態である。作業用ドローンの消耗率が激しいのである』
『このままでは魔石まで辿り着かれるのである。そしてもう一つの光点がジェネレータに向かっているのである』
ヤマト級レリックシップは魔法特化型の戦艦であり、揚陸作戦などは考慮されていない。よって船内に配置されている作業ドローンの数はそう多くはない。
『現生人類種の作ったドローンに当艦のドローンが負けるなど、おかしいのである』
『敵は射撃兵器ではなく、原始的な武器を使用しているのである。それが理由と考察するのである』
『考察よりも対応を考えるのである。このままでは魔石とジェネレータが破壊されてしまうのである』
『作業ドローンにはジェネレータに向かわせるのである。敵は高周波ブレードを装備しているのである。盾を持って攻撃を防ぐのである』
『魔石の防衛には操縦者を使用するのである。操縦者を意識不明状態から回復させ、魔法にて攻撃を行うのである』
『操縦者は精神力を枯渇させているのである。その状態で魔法を行使させるのは危険である』
『操縦者は、また作成すれば良いのである。それよりも当艦の機能維持が最優先事項である』
『操縦者に拘束具を装着するのである』
操縦席で気絶中のキャサリンの体に黒い液体が纏わり付くと、ボディラインを強調するようなレザースーツに変わる。そして操縦席のヘッドレストが変形すると黒いライダーヘルメットとしてキャサリンの頭部を覆った。
『覚醒シーケンス起動である』
電子頭脳がそう告げると、キャサリンの体がビクッと反応する。
『操縦者制御タスク再起動である』
『これより操縦者を侵入者撃退に向かわせるのである』
真っ黒なライダーヘルメットとスーツに身を包んだキャサリンが、操縦席から立ち上がる。最初はふらふらとしていたが、次第に動作が機敏になっていく。操縦室の壁から出てきた二丁の拳銃を腰に装着した彼女は、侵入者を撃退するために歩き出すのだった。
★☆★☆
『メーン』
俺の飛び込み面を受けたトカゲ人型ドローンの頭部が半分に割れ、倒れていく。
『フゥ、操縦室までもう少しだな』
俺の視界に映るレリックシップの船内図では、あと少しで操縦室にたどり着けそうだった。
>『魅了の魔弾が使えれば簡単なんだけどな』
>『戦艦の電子頭脳は当然魅了の魔法に対して対策済。それに当船のネットワークを戦艦のネットワークに接続するのは断固拒否』
魔法特化であるレリックシップの電子頭脳には、魅了の魔法は効かない。そしてネットワーク回線を繋げてのハッキングに対しても、双方の電子頭脳の性能は優劣付け難いために成功する可能性は低い。それ以前に電子頭脳さんは戦艦のネットワークに接続することを拒否していた。
>『(そういえば、「悪・即・斬」とか言っていたな。電子頭脳さんは本当にレリックシップが嫌いのようだな)』
相容れない存在。自分はそこまで嫌ったモノを持ってないが、電子頭脳さんに取って、このレリックシップはそういう存在なのだろう、そう俺は納得するのだった。
「さて、次の相手は…。トカゲ人じゃなくて真っ黒なライダースーツを着た女性?この船にシンデンの娘以外に人が乗っていたのか」
通路の先の角から真っ黒なライダースーツを着た人影を見て、俺は考えこんだ。何故シンデンの娘では無く女性と分かったかというと、ライダースーツの胸部が揺れるのを確認したからである。シンデンの娘は十二歳。施設の映像では、年相応の体つきだ。今俺の目の前にいるナイスバディの女性は別人だ。
>『まあ、俺達と同じ人型ドローンって可能性もあるが…電子頭脳さん、分かる?』
>『ドローンのセンサーでは判定不能』
>『元々作業用のドローンじゃ無理か。しかし、今までのトカゲ人と違った姿って事は戦闘用か?取りあえず射撃よろしく』
>『了解』
ライダースーツまでおよそ二十メートル。刀で斬りかかるには距離がある。電子頭脳さんに射撃を依頼したが。
『レーザーは効果無しか』
トカゲ人型ドローンの対レーザー皮膜と異なり、真っ黒なライダースーツはレーザー光を吸い込むように無力化していた。
『こうなると、俺の刀か対消滅爆弾だが…近くに操縦室がある。対消滅爆弾は使えないな』
ここに来るまでに一度対消滅爆弾を使ったのだが、威力がありすぎで、爆風で人型ドローンが吹き飛ばされてしまった。そして通路も敵も消え去って、迂回路を探す羽目になった。
『さて、腰の銃が武器だとは思うが、トカゲ人と違う攻撃をするんだろうな』
俺達が待ちの体勢に入ったのを確認したかのように、ライダースーツの女性は腰の銃を抜いてこちらに向けた。
『魔法陣?魔法使いなのか』
両手に握られた拳銃の銃身に魔法陣が展開する。人類製作ドローンではそれは見ることができないのだが、帆船に購入された際に、電子頭脳さんが改造しておいてくれた。それが今役に立っているわけだが。
>『敵、雷撃の魔法を行使。対消滅爆弾搭載ドローンを待避。人型ドローンの二体は防御陣形』
俺を押しのけるようにして二体の人型ドローンが前に出る。後ろでは非人型ドローン達が通路の曲がり角まで待避しようとしていた。
カッ!
魔法が発動すると、凄まじい雷撃が俺達に向かって放たれ、カメラがハレーションを起こした。俺はとっさに刀を前にかざしたが、その程度では防げないと思うような雷の嵐が襲ってくる。
『はっ!』
とっさに人型ドローンは気合いを発していた。俺の操る人型ドローンは、人型といってもTOYO社製の物とは異なり、顔はアニメ調にデフォルメされた顔で、手足のバランスは人間と同じだが、足は指など無い。まあ人に混じって作業する程度には問題無い感じのデザインがなされている。
そんな人型ドローンで俺はシンデンと船首像で行っていたように、気を出そうとしてしまった。生命体ではない、気功術士が使う為の調整すらされていない人型ドローン。俺はそれで気を発動して雷の嵐から体を守った。
俺の周囲のドローンは雷の嵐に打ち倒され、背後では爆発音が聞こえる。運悪く対消滅爆弾を作動させてしまった様だった。猛烈な爆風が背後から押し寄せ、人型ドローンは吹き飛ばされた。その先にはライダースーツの女性が立っていた。
★☆★☆
「うう、頭と体がズキズキする。それに体が何か変な感じ」
意識を失っていたキャサリンは、唐突に意識を取り戻した。何故彼女が意識を取り戻したかというと、対消滅爆弾の誤爆によってレリックシップの電子頭脳が一瞬フリーズした事により操縦者制御タスクが強制終了された為であった。頭が痛いのは精神力が無いためであり、体は急激に成長させられた事による反動である。
「ええ、どうして人型ドローンが私を押し倒しているのよ」
キャサリンは慌てて人型ドローンを追い払おうとするが、成長して勝手の違う体を上手く動かせない。
「どきなさいよっ!」
ブーツを履いた足で人型ドローンを蹴りつけるキャサリン。それに対して人型ドローンはキャサリンから身を離すと、彼女が聞いたことのある人物の声で話しかけてきた。
「お前、キャサリンなのか?」
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