帆船による格闘戦
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
帆船はレリックシップに対して、ラムアタックと言う名のドリルアタックを決めた。しかしドリルは船底を削るだけで貫通することなく滑っていく。
>『チッ、想定より気の質が低レベルのため、ラムアタックによる撃破失敗』
ドリルがレリックシップの艦底を貫けなかったことで、電子頭脳が舌打ちをした。
>『(電子頭脳さんが舌打ちするとか。えっ、もしかして怒っているの?)シンデンさんのように上手く気を扱えませんでした。申し訳ありません』
俺は、肉体があればジャンピング土下座する勢いで電子頭脳に謝罪する。
>『謝罪不要。幼生体の救助を最優先に作戦を遂行』
>『そうだ、シンデンの娘さんを助けなきゃ。レリックシップに接舷して移乗攻撃だな』
>『甲板に作業ドローンを待機中。バックアップ霊子は、船首像にて戦艦の武装の破壊を実行』
>『おう、任せてくれ』
浮上した帆船は、レリックシップの右舷に対してTの字の状態となって接舷していた。船首像の手はまだドリルとなっているため、俺はドリルを回転させてレリックシップの側面にある対空機銃群と副砲一基を破壊していった。レリックシップの主砲と副砲が旋回して帆船を狙おうとするが、帆船が側面から船体を傾けているので、直接射撃は不可能である。
>『戦艦の主砲の弾頭は誘導可能。発射阻止を実行』
>『この位置じゃ、船首像の手が届かないんだ。気も船首像の強化に使うのに回している。何か得物はないのか?』
>『アンカーを射出』
帆船の左右舷側からアンカーが射出され、ドリルモードを解除した両手が巨大な鎖を掴み取った。
>『俺、鎖鎌とか使ったことないんだけどな』
高校時代の剣道の経験から気の刀の扱いは何とかなったが、鎖鎌は全く勝手の違う武器である。取りあえず振り回すと、視界にターゲット表示が現れた。
>『操作は補助可能』
>『これなら何とかなるか』
電子頭脳の支援を受けて照準されたレリックシップの砲塔にアンカーを投げつける。アンカーは狙い通りに砲塔に衝突し、その破壊に成功する。しかしアンカーで破壊できたのは前後合わせて四基だけで、未だ前方に一基、左舷に一基の砲塔が生きている。
俺がアンカーで破壊する前に、レリックシップはその二基の砲塔で砲撃を行った。発射された六発の砲弾は、ブーメランの様なU字軌道で帆船に向かって落ちてきた。
>『こなくそ~っ』
なけなしの気を使って船首像の足で水面を蹴り帆船を上に向けると、両手のアンカーを投げつけて、六発の砲弾を打ち落とそうとした。
>『砲弾、四発の破壊を確認』
>『残り二発なら』
超光速空間の空に巨大な火球が生じ、四発の砲弾を破壊した代償としてアンカーは破壊されてしまった。船首像は鎖を投げ捨てると、帆船に落ちてくる二発の砲弾を睨み付けた。
>『船体には命中させない。剣道には二刀流もあるんだよ』
俺は残った二発の砲弾を左右の手刀で弾き飛ばす。左手は砲弾の火球に包まれたが、右手の砲弾は弾き飛ばされて偶然にもレリックシップの船首の生き残った砲塔に命中し爆発する。
>『注意。戦艦逃亡の為に前進を開始』
>『ここまで来て逃がすわけないだろ』
俺達が砲弾を迎撃する隙を狙って、レリックシップは全速で前進して帆船から離れようとするが、俺はその行動を利用した。
>『上手く巻き付けよ』
俺は残った右手で、破壊されたアンカーの鎖をレリックシップの艦橋向かって投げつけた。鎖は狙い通りに艦橋に巻き付いた。右手で鎖を引っ張り、レリックシップが前進する力を利用して、帆船はレリックシップの背後を回って左舷に移動した。
>『これで砲塔は全部潰した。まさか煙突とか艦首と艦尾にミサイル発射管があるとか言わないだろうな』
右手で副砲と対空機銃軍を破壊して、電子頭脳に他の武装がないか確認を取る。
>『否定』
俺は「もう放さないぞ」と言わんばかりにレリックシップの左舷を船首像の右手で掴む。
>『これで、あの衝撃波の魔法でも離れられないだろう。作業ドローンを移乗させて、娘を助け出すぞ』
俺は作業ドローンによる移乗戦を電子頭脳に命じたのだが…。
『報告。先の戦闘機動で、船上にいた作業ドローンが転落し喪失。現在使用可能なドローンは、ステーションで購入したドローンと響音に限定』
砲弾を破壊した時とレリックシップの反対側に回り込む時の無茶な移動で、船上に待機させていた作業ドローンは全て落ちてしまった。まだ帆船の船内には作業ドローンが存在するが、損傷した船体の機能維持のため使う事ができない。よって使用可能となったのは、ステーションで購入したドローンと響音だけであった。
>『相手はレリックシップだが、ステーションで購入したドローンと響音で対処可能なのか?』
>『本船に残されている、小型武装をドローンに装備することで対応可能。掃除ドローンは現状の装備で対応可能と推測』
>『響音には武器を装備しないのか。差別待遇じゃないか?』
>『否定、竹箒とちりとりという装備で、本船の作業ドローンと互角に戦える掃除ドローンに、別な武装は不要と判断』
>『まあ、確かにそうだが。電子頭脳がそう言うなら正しいのか…。響音の件は了解した。突入する人型ドローンだが、そのうちの一体を俺に操らせてくれ。シンデンの使っていた刀を持たせれば、俺も戦えるからな』
>『了解』
三十秒ほどで帆船の甲板に移乗攻撃の為のドローンが集まった。レリックシップの操縦室に繋がる通路は人間サイズの為、非人型でも人間サイズのタイプのドローンが集められていた。
非人型ドローン(空中を浮遊する荷物搬送用小型ドローン)は三十体。そのマニピュレータには、第一次大戦でドイツ軍が使用したM24型柄付手榴弾と同じ形をした対消滅爆弾がくくりつけられていた。威力が高いため、使用の可否は電子頭脳が判断する。
そして人型ドローンはメイド姿の響音を含め十二体。響音以外は、昆虫の複眼のような発射口を付けたライフル型武器を手に持っていた。電子頭脳によるとライフルは高出力のレーザー砲であり、レリックシップのトカゲ人の様な作業ドローンを破壊できる火力があるとのことだった。そして俺が操る人型ドローンの腰には、シンデンが所有していた刀がつり下げられていた。
『ドローンは全員レリックシップへの甲板に移動完了。船内への突入口は…艦橋の根元の扉を破壊して作る』
船首像の右手で甲板のドローン達をレリックシップの甲板に移動させた後、左手で艦橋構造物の扉らしき部分を破壊して、船内への突入口を作った。
『済まないが、船内に入るとどんな攻撃があるか不明だ。まずお前が入ってくれ』
俺の操る人型ドローンは、後ろにいた人型ドローンに威力偵察を命じた。
『船内のお掃除ですね。お任せ下さい』
俺の後ろにいたのは響音だった。彼女は俺の命令通り突入口に走り込んでいった。
『ちょっ、響音さん。どうして俺の後ろに。ええい、全員突撃だ』
響音が突入してしまったことで慌ててしまった俺は、全ドローンに突撃を指示すると、響音を追って自分も突入口に走り込んでいった。
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