帆船の反撃
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レリックシップへの攻撃に失敗した帆船は、危機に陥っていた。気もほぼ使い果たし、帆船は超光速空間を這うようにしか移動できなかった。全速で回頭して船首をレリックシップに向けようとしているが、ギリギリ間に合うかどうかという所であった。
>『戦艦が戦略級魔法砲撃を準備中』
>『戦略級魔法砲撃って、それを受けたらこの船はどうなる』
>『戦略級魔法砲撃が直撃した場合、本船の存在が消滅』
>『シールドの魔弾で防御できないのか?』
>『不可能。マスターの気のフィールドを使用しても本船の機能の8割を消失』
電子頭脳は無情にそう告げる。
>『今すぐ、超光速航法を止めて通常空間に脱出するのは…』
>『不可能。超光速航法を止めて本船が通常空間に脱出する前に、戦略級魔法砲撃が本船を直撃』
>『駄目か…』
>『本船の機能損失に陥る可能性大と判断。バックアップ霊子に対処検討を依頼』
そして電子頭脳が、あの時と同じ最終勧告を告げる。
>『霊子力兵器の使用は絶対に認めないぞ。それ以外の方法を考えてやる。いや電子頭脳、お前も考えるんだ』
>『…検討開始』
霊子力兵器を使わせないために、電子頭脳が納得するような行動を思いつかなければならない。電子頭脳も対策を考えているのか、霊子だけの俺にも熱気を感じる。いや帆船の電子頭脳の回路が演算によってオーバーヒートを起こしかけているのだろう。
>『練気はしているが、船を全部覆う、気のフィールドを展開する量には全然足りない。それにシールドの魔弾と気のフィールドを併用しても耐えられないと電子頭脳さんが言っている。それじゃ駄目なんだ…』
対策を考えながら、俺はレリックシップの方を見ると、大量のマナを集めている巨大な魔法陣と魔石に気がつく。
>『あの魔石さえ砕ければ…いや、そんな攻撃手段はこの船には無い。やはり何とか回避するか防御するしかないか。…ん、そういえばレリックシップは海上船艦の姿をしていたから当然と思っていたけど、どうして喫水線まで沈んでいるんだ。超光速空間が海のように思っていたからそれが当たり前のように思っていたが、さっきは海面が凹んで攻撃が失敗してしまった。超光速空間って、空を飛んだり、海面より下の空間を移動することが可能なのか』
>『肯定。通常は指定された水平面状で航行するように超光速航法回路で最適な浮上位置を設定。超光速航法回路の設定を変更すれば、砲弾のように飛行も可能。また物理法則を無視する精神系技術の行使によっても可能。現にバックアップ霊子は気の力で跳躍を実行』
>『なるほど、つまり今この船が水平面に浮上しているのは、超光速航法回路の設定がそうなっているからか。つまり、設定を変えれば水平面に沈むことも可能なのか?』
>『肯定。しかし本船は潜水機能を持っていないため、超光速航法回路の設定を変えても、自力で沈むことは不可能』
>「水面に潜って魔法砲撃を回避しようと思っても、そうは上手くは行かないのか。…自力で沈むことはできない。それって他に力が加われば沈む事も可能ってことか?」
>『肯定。本船を下の方向に押し込む力が働けば沈むことは可能。力が大きければ深く沈むことは可能だが、そのような力はこの現在この空間に存在しない。それこそ、戦略級魔法を直上から撃ち込まれでもしない限り本船の潜水は不可能』
>『戦略級魔法並の力があれば、沈むことはできるのか。……それなら何とかなるか。よし主砲に榴弾を装填しろ。榴弾の爆発の威力を使って船を沈めるんだ、それに…』
>『否定、主砲の榴弾の威力で本船が沈む可能性小』
>『電子頭脳さん、話を最後まで聞けよ。いいか榴弾は戦略級魔法砲撃の直撃させて下へ押しつける力に変えるために使うんだ。その力を受けるのはシールドの魔法と気で作った盾をつかう。船全体を覆うことは不可能だが、シールドの魔法と組み合わせて船の前方に斜めに傾けた頑丈な壁を作るんだ。その壁で戦略級魔法砲撃と榴弾の威力を使って船を沈める。まあ船体にかなりの被害が出ると思うが、船は水面下に沈んで逃げることが可能と考えたんだが』
>『バックアップ霊子の提案を検討……成功確率微小。成功した場合、船体の上部艤装の三割が消失。しかし本船の機能損失は二割程度。現状これ以上の案を電子頭脳は提案不可能。よってバックアップ霊子の提案の実行を許可』
>『分の悪い賭だが、可能性がゼロじゃないなら賭けてみようぜ』
>『バックアップ霊子はマスターと同じ思考ルーチンを実装と判断』
>『それは褒め言葉なのか』
>『肯定』
やることが決まれば、後は少しでも助かる可能性を上げる為に努力するだけだ。主砲には発射後極至近で爆発するように設定した榴弾を装填。俺はシンデンの体のチャクラを回して練気を行うが、今までシンデンの体を使う度に感じていた苦痛が全く感じられず、大量の気を練る事ができた。俺にはシンデンが力を貸してくれたように思えた。
帆船の回頭が完了し戦略級魔法砲撃が放たれるまで実際の時間で五秒程度しか時間が無かったが、俺達は準備を成し遂げた。
>『戦艦が戦略級魔法砲撃を発動』
>『タイミングを合わせて主砲を発射。俺は、気の盾を全力で張る』
>『了解』
戦略級魔法砲撃による巨大な炎が視界を埋め尽くす中、俺はシールドの魔弾を発動し気で強化して前面に斜めに傾けた盾を作り出した。
>『うがががっ、手が、手が折れる』
戦略級魔法と榴弾の爆発による圧力が盾を押しつけて、船が海面に沈んでいく。船首像の腕も気で強化しているが、ビシビシと音を立ててひび割れていく。
>『本船は水面下へ沈降しています。あと二秒で戦略級魔法砲撃が終了』
>『二秒、持たせてみせる』
無限に感じる二秒間だったが、シンデンは気功術を駆使して盾を維持し続けた。
>『本船の深度三十メートル。戦略級魔法砲撃を回避』
>『ふえ。何とか持ちこたえたのか。それで船の損傷は?』
>『メインマストと船尾楼の三割を消失。主砲の発射は不可能。本船の機能の二割損失。損傷は想定の範囲内』
>『大損害だが、動くことは可能か?』
>『航行機能は正常』
>『…このまま浮上しても勝ち目はない。どうだろう、このまま潜航状態でレリックシップの真下まで進むことは可能か?』
>『浮上しつつ航行することで、戦艦の極至近までなら潜水航行可能』
>『良し、戦略級魔法砲撃のお返しだ。戦艦に水面から体当たりして、一気に接舷するぞ』
>『了解。戦艦への突撃を実行』
帆船は浮上しながらも戦艦に向かって進む。船首像の手足も使って水(?)を蹴って推進力に変えて進んでいく。
>『レリックシップはこっちに気づいていないみたいだな』
>『本船が潜水機能を実装していないと戦艦は既知。戦艦には対潜水艦装備は備わっていない為、潜水中の本船は探知不能』
>『それなら完全に不意打ちできるな。何とか、真下まで来られたな。急速浮上してあの船底に突っ込め』
>『衝角モード起動。本船は今よりラムアタックを実行』
電子頭脳が「衝角モード」を起動させると、船首像の腕が前につき出され組み合わわり巨大なドリルに変形する。
>『天元○破するのかよ。ドリル装備とか異星人って実は厨二なのか!』
俺が帆船を作った異星人の趣味に突っ込む絶叫と共に、帆船は戦艦の船底にドリルを突き立てていった。
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