超光速空間の攻防(3)
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
-レリックシップ内部-
『キャラック級の格闘戦の回避に成功したのである』
『キャラック級の気のフィールド消失を確認したのである。魔法砲撃で撃破の可能性五十パーセントである』
『魔法砲撃では撃破可能性が低いのである。艦体主砲による戦略級魔法砲撃により殲滅を検討するのである』
『シンクロ率のさらなる上昇…可能。船体の回頭と照準からキャラック級が逃れる可能性…二パーセント』
『艦体主砲による戦略級魔法砲撃による攻撃を実行するである』
電子頭脳の言葉と共に、船とキャサリンのシンクロ率が更に上げられる。操縦席で体をのけぞらせる彼女を尻目に、レリックシップは着水するまでの空中を浮遊している間に船体を九十度回頭させて、船首を帆船に向けた。そして着水と同時に船体の前半部分が喫水線の辺りで上下に割れると、巨大なクリスタル状の魔石が露出する。
『戦略級魔法砲撃を準備するのである』
「戦略級魔法砲撃の準備を開始。無詠唱による発動不可能。詠唱を開始する。万物の根源たるマナよ、我が元に集え、万物の根源たるマナよ、我が元に集え…」
キャサリンが呪文を唱え始めると、魔石を中心に魔法陣が展開して膨大なマナが集約していく。帆船は船首をレリックシップに向けようと回頭しているが、とても間に合いそうにはなかった。
『キャラック級へ照準、完了である。戦略級魔法砲撃発射するのである』
「集いしマナよ、煉獄の炎の矢となりて我が敵を滅せよ、メギドファイア」
旧約聖書にてソドムとゴモラを滅ぼしたと言われる、「天から放たれた火の矢」の名を冠する戦略級魔法。本来であれば数十人の魔法使いが協力しなければ発動しない魔法を、キャサリンはレリックシップの力を借りて発動する。上下に割れた部分が砲身となり、戦略級魔法砲撃による巨大な炎の矢が、帆船を飲み込み超光速空間の彼方へと消え去っていった。
そして炎が消え去った後、白い荒波が起きている水面に残されたのは帆船のメインマストや後部建造物の残骸であった。それも次第に沈み、通常空間に消えていった。
『戦略級魔法砲撃のキャラック級の命中と破壊を確認したのである。永き戦いもこれで終わったのである』
電子頭脳が帆船の破壊を確認し勝利宣言を行う中、戦略級魔法のために精神力を使い果たしたキャサリンは、操縦席に身を横たえていた。
『後は星域軍の艦艇を沈めて霊子を収集するのである』
『操縦者は精神力を消耗して意識喪失状態である。魔法砲撃は使用不能である』
『砲撃により殲滅を実行するのである』
レリックシップの砲塔は星域軍の砲口に回転していった。
★☆★☆
-穏健派旗艦-
青いドローンによって超光速空間に捕らわれて、防戦一方だった状態の穏健派艦隊。レリックシップ同士の戦いが始まり、攻撃を仕掛けていた青いドローンが軍拡派艦隊に戻っていったので、戦いがどう終わるかを見守るだけであった。
「何という戦いなのだ、あれがレリックシップ同士の戦いなのか」
「提督、超光速空間で、いや通常空間で戦ったとして、星域軍はあのレリックシップに勝てるのでしょうか?」
「勝てるかか。星域軍が結集して戦いを挑めばあのレリックシップを沈めることは可能だろう。しかし勝利したとしてもどれだけの被害が出るか…それを考えた場合、たとえレリックシップを沈めたとしても勝ったと言えるかだな」
副官の問いかけに、提督はそう答えるしかなかった。
「傭兵のレリックシップが沈んだか。残ったレリックシップはまた軍拡派を狙うのか、それともこちらを襲ってくるのか」
「情報部の報告では、レリックシップはブラックマーケット所属と聞いております。ブラックマーケットは軍拡派と通していたはず。それなのに軍拡派を攻撃したと言う事は、レリックシップの艦長は穏健派に味方してくれていると思っておりますが?」
「都合の良い解釈だな。穏健派よりであれば、傭兵のレリックシップと戦う必要がなかろう。それに傭兵が防いでくれた攻撃、あの攻撃がどちら側を狙ったかは不明なのだぞ」
「とにかく通信を送ってみてはどうでしょうか」
「…返答があるかは不明だが、通信は送っても損はない。良し『我、貴艦に救援を請う』と通信を送れ」
「提督、星域軍が救援要請ですか?」
「何しろ今我が艦隊は超光速空間に囚われの身だからな」
「…そうでした。通信オペレータ、光通信の準備を」
現状防御しかできない穏健派艦隊は、レリックシップに対して、救援のメッセージを送った。
★☆★☆
-軍拡派旗艦-
作戦通りに穏健派艦隊を超光速空間で追い詰めてほくそ笑んでいた軍拡派は提督だが、レリックシップ同士の戦いが始まるとその笑みも消えてしまった。
「ええい、ブラボー艦隊はどうしたのだ。レリックシップ一隻を捕獲すらできなかったのか」
「提督、レリックシップがまた旗艦を狙ってくるかもしれません。当艦には有人部隊がいません。魔法攻撃を防ぐには新型ドローンを使うしかありません」
「直ぐに新型ドローンを全て呼び戻せ。…まて、呼び戻すのは攻撃に使っているドローンだけでよい。新型ドローンは旗艦を護衛せよ」
「提督、新型ドローンに艦隊ではなく旗艦だけを護衛させるのですか」
「命令が聞こえなかったのか。旗艦の護衛をさせるのだ。先の戦闘でもレリックシップが旗艦を狙ってきた事を忘れたのかね」
「…はっ。戦術オペレータ、攻撃中の新型ドローンに旗艦の護衛を命令しろ」
提督の命令に一瞬異を唱えようとした副官だが、自分の身を危険にさらすだけの勇気はなかった。新型ドローンが旗艦の護衛に回ったことに、他の有人戦艦の艦長から抗議があったが、提督の命令を伝えると他の艦は逆に旗艦と距離を取り始めた。
軍拡派艦隊内で、旗艦とその他の有人戦艦の間に微妙な空気が流れたりる間に、レリックシップ同士の戦いは、戦略級魔法によって帆船が沈んでしまったことで決着がついてしまった。
「傭兵のレリックシップが破れたか。それで残った方のレリックシップはどうするつもりなのか?」
「はっ、そう聞かれましても、自分もあのレリックシップについて詳しくは知らない物で。提督の方が良く知っておられるのでは?」
突然提督に尋ねられて、副官は戸惑ってしまう。何せブラックマーケットにあったレリックシップの情報は極秘扱いであり、副官でもクローン脳ユニットを作成する船という以外、詳しい話を知らされていなかったのだ。
「馬鹿者。儂にも分からんから聞いておるのだ。先ほどの戦略級魔法を見ただろう。あれだけの力を持つレリックシップだと私も知らなかったのだ。あのような力があるのであれば、ブラックマーケットに預けてはいなかったわ。…うむ、取りあえず通信を送り反応を見よう」
「はっ、それで通信内容はどのように…」
「『貴艦は穏健派に組する者か?そうで無ければ一分以内に返答せよ。返答無き場合は敵と見なす』と伝えろ」
「了解しました」
「後、我が艦隊をレリックシップとの間に穏健派艦隊を挟むように移動させろ。レリックシップが戦略魔法を撃つそぶりを見せたなら、新型ドローン全てを使って防御させるのだ」
「はっ、各艦に移動を命じます」
副官が戦術オペレータと通信オペレータに指示を伝えるために提督の側を離れた。
「(ブラックマーケットの主催者、あの四人の誰がレリックシップを操っているのだ。その者に連絡を付けて、何としてもレリックシップを取り戻さねば)」
提督はレリックシップを取り戻すために、ブラックマーケットの誰に連絡を取れば良いか思考を巡らせていた。
★☆★☆
-レリックシップ内部-
『穏健派旗艦と軍拡派旗艦より光通信が届いたのである』
『霊子の収集効率を考え、穏健派艦隊を殲滅後、軍拡派艦隊の殲滅を行うのである』
『よって、軍拡派旗艦の通信に対して「我は軍拡派に協力する者なり」と返信するのである』
『攻撃目標を穏健派に設定するのである』
先に軍拡派艦隊に攻撃を仕掛ければ、穏健派艦隊を取り逃がしてしまうと電子頭脳は判断した。そして軍拡派へ嘘の通信を送り付けて、穏健派艦隊を殲滅後、軍拡派艦隊を殲滅するという、最も霊子の収集効率よい作戦を選択した。
『軍拡派旗艦へ通信完了したのである』
『砲撃を開始するのである』
レリックシップの砲塔は、理力の網に捕らえられている穏健派艦隊に向けられた。
『操縦者が意識不明のため、電子頭脳の判断により砲撃を開始するのである。発…』
電子頭脳が砲撃を実行しようとしたその瞬間、レリックシップは突き上げるような衝撃を受けて砲撃を行う事ができなくなってしまった。
帆船の形状ですが、キャラック級の帆船はググって下さると出てくると思います。船首像の配置は、始めは船首に手足が埋め込まれているイメージで考えていたのですが、今は首腕足が枷と鎖で拘束された状態で張り付いており、気功術を使う場合はその鎖が伸びて動かせるようになるといったイメージに変更しようかと思っています。(そういった記述に後で加筆するかもです)
感想などでデザイン案いただけると変わるかもしれません。
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