超光速空間の攻防(2)
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
超光速空間で華麗な跳躍を決めた帆船は、巨大な水しぶきを上げて海面に着水した。そして、レリックシップの周囲を旋回して攻撃の機会を狙っている…様に見えるのだが、実際の所俺にそんな余裕は無かった。レリックシップの砲弾を全て切り裂いたが、俺は体の違和感に苦しんでいる。最初より頻度は減っているが、シンデンの体の霊子が狂気に陥る度に強制的に上書きされる。その状況で練気にて気を増幅することは非常に難しい事である。シンデンの気功術士としてのスキルが無ければ、不可能だっただろう。
>『…気持ち悪い』
>『我慢』
>『我慢って、電子頭脳さんにはこの気持ち悪さが分からないから、そう言えるんだよ。それより星域軍の方はどうなっている』
>『本船と戦艦の存在を発見。穏健派艦隊の理力による捕縛は継続中だが、軍拡派は青いドローンを防御に呼び戻したため、戦闘は膠着状態』
>『こっちの戦いの様子を見てるってことが。まあその方がいい。誰かが戦死したらあの船に霊子を収集されるからな』
>『同意』
>『今の俺には長期戦は無理だ。さっさと決着を付けてしまうぞ』
気の力を使い、帆船は水面をスケートでも滑るように素早く移動する。レリックシップは必死に砲口を帆船に向けようとするが、それを上回る速度移動する帆船は、背後に回って機関部に巨大な気の刀で斬りつける。
★☆★☆
-レリックシップ内部-
『キャラック級が砲弾を破壊したのである。想定外の事態である』
『索敵をしっかりするのである』
『キャラック級の移動速度が異常なのである。原因は気の力による物である。操縦者が気功術士と判断するのである』
『砲撃での照準が追いつかないのである。このままでは機関部に攻撃を受けて、重大な損傷が発生するのである』
『魔法砲撃を行うのである』
「はい、魔法砲撃を発射」
未だ操縦者制御にとらわれているキャサリンが魔法砲撃を発動する。主砲は帆船に照準を付けられていないが、魔法砲撃は狙った目標に向かって飛んで行く。レリックシップの後部主砲から放たれた魔法砲撃が、今まさに機関部に斬りかかろうとしていた船首像に命中する。
至近距離での魔法砲撃を受けた船首像は、辛うじて刀の刀身で魔法砲撃を受け止めた。しかし魔法砲撃の爆発の衝撃までは吸収しきれずに、弾き飛ばされる。
『魔法砲撃の威力不足である。送受者は威力を上げるのである』
『現在の操縦者ではシンクロ率は限界である。操縦者への緊急措置を提案するのである』
『本状況では本船の機能損失の可能性が七十パーセントを超えたのである。操縦者への緊急措置を実行するのである』
「ぎぎゃーっ」
電子頭脳がそう告げると、操縦席が繭のような物で包まれた。その中でどのような処理が行われているのか不明だが、キャサリンの悲鳴が操縦席に響く。
★☆★☆
レリックシップの機関部を切り裂こうとした俺の攻撃は、魔法砲撃によって失敗した。魔法砲撃事態は刀で受け止めたが爆発の衝撃を受け止めきれず、帆船は吹き飛ばされた。気のフィールドで船体に被害はないが、また練気をしなければならないほど気の量が大きく減っている。レリックシップが魔法砲撃を行ってこない事もあり、帆船への気のフィールドを止めて練気を行い気の量を増やしていく。
>『魔法砲撃を何とかしないと近づいても弾き飛ばされるだけだ』
>『シールドの魔弾の使用を推奨』
>『魔弾は超光速空間じゃ使えないだろ。打ち出した瞬間に沈んでしまうぞ』
>『船首像が手に持って使用すれば解決』
>『なるほどな。それなら大丈夫か』
俺は練気を行いながら、シールドの魔弾を作業ドローンから受け取った。右手には先ほどより細身の竹刀のような刀を持ち、左手にはシールドの魔弾を持つと、帆船は再びレリックシップに向かって行った。船首像の足が水面を蹴って光速超える勢いで帆船を前進させる。
>『これで決めるぜ』
魔法砲撃をシールドの魔弾で受け止めれば、右手の刀でレリックシップに攻撃が届く。超光速空間では水抵抗があるため通常空間に比べ船の動きは鈍い。上手くすれば魔石や電子頭脳を狙うことも可能だ。
側面に回り込んだ帆船は、船をぶつける勢いで進む。この勢いであればシールドの魔法でも打ち破ぶれる。レリックシップにそれを防ぐすべは無い。
★☆★☆
-レリックシップ内部-
『操縦者への緊急措置完了したのである』
操縦席が繭に包まれていたのは十秒にも満たない。繭が溶けるように消え去り操縦席が現れるが、現れた操縦席には少女ではなく、女性として成長したキャサリンの姿があった。成長したキャサリンは長い金髪を振り乱し汗まみれで豊かな肢体を振るわせていた。そして急激な肉体成長によって服装がはじけ飛びそうになり、かなり危険なビジュアルだが、見ている者がいないので問題は無い。
『シンクロ率の上昇…七十五パーセントまで上昇したのである。本船の機能制限は解除されたのである』
『キャラック級が再び接近しているのである。気功術による格闘戦を仕掛けるつもりである』
『ショックウェーブの魔法を発動するのである』
「し、ショックウェーブを発動」
急激に成長させられ、シンクロ率まで上げられたキャサリンは息も絶え絶えだが、命令されるままに魔法を発動する。
レリックシップ中心に以前発動したショックウェーブの数倍の衝撃波が発生する。その衝撃で超光速空間の水面が球形に割れ、レリックシップは空中に浮かぶ形となった。
帆船は船首像の足で水面を蹴って進んでいたため、その足場である水面が割れてしまえばその動きも乱れてしまう。ショックウェーブの衝撃はシールドの魔弾で防いだが、魔石を狙った斬撃はレリックシップの艦底を僅かに掠めただけであった。そして帆船はレリックシップの下を通りすぎてしまった。
★☆★☆
>『戦艦が空を飛んだ』
>『否定。超光速空間の水面が下降したため、本船が下に移動』
>『冷静な分析ありがとう。だがこちらの攻撃が躱されたのは確かだ。それに今この船は戦艦に対して背後をさらしている状態だ。そして気を使い切ったんだ、魔法砲撃が来たら防げないぞ』
>『肯定。魔法攻撃を受けた場合、本船の機能停止の可能性、中…』
>『まさか、また霊子力兵器を使うつもりか?待つんだ、そんな物使ったらシンデンの娘が死んでしまうんだぞ』
以前帆船の損失に繋がるような状況に陥ったとき、電子頭脳は自動的に反撃行動をとってしまった。その際に使ったのが霊子力兵器であった。そんな物を使えばシンデンの娘や今超光速空間にいる星域軍も無事で済むとは思えない。俺はあの時の惨劇を繰り返すつもりはなかった。
お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたらぜひ評価・ブックマークをお願いします。