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超光速空間の攻防(1)

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 レリックシップ(遺物船)の電子頭脳は、帆船が自分を追跡してくると予想しており、増速装置をフル稼働して超光速空間で帆船を引き離そうとしていた。


キャラック級(帆船)が超光速空間に出現したのである。想定通り本船を追尾してくるのである』


『超光速空間の風向きは横風である。よって現状の速度を維持すれば帆船を引き離せるのである』


 レリックシップ(遺物船)の電子頭脳の想定通り、帆船は帆を張って風を受けているが、二隻の距離は少しずつ広がっていった。一時間も航行すれば、帆船は水平線の彼方絵へと消え失せる、そう電子頭脳は判断した。


 その直後、帆船は戦艦を追う航路から離脱し、難所に向かって言った。


『キャラック級が進路を変更したのである。航路を推測…難所を最短ルートで通り抜けて本船に追いつくつもりである』


『キャラック級が本船に追いつく可能性は…七パーセントと演算するのである。よって本船はこのまま進むのである』


 この電子頭脳の計算では、帆船が取るであろう航路で追いつく頃には、自船がキャリフォルニア星域軍の艦隊に追いつき、全てを殲滅するのに十分な時間があると出た。この計算は決して間違いでは無かった。

 計算が狂ったのは、電子頭脳に記憶されているチャート(海図)には難所における海流や風の流れが、詳細に記録されていなかったのが原因であった。レリックシップ(遺物船)は星域軍の最新チャート(海図)を持っていたが、難所を通り詳細なデータを取る物はいなかった。それに対して、帆船はシンデンとの航海で、チャート(海図)を随時アップデートしており、更にブラックホールの渦を使った重力ジャンプで船速を稼ぐという工夫を行っていた。

 つまり、自分の足で宇宙を航海しなかったレリックシップ(遺物船)と帆船の経験の差が誤差を生んでしまったのだ。もしレリックシップ(遺物船)の操縦者がベテランの船乗りであれば、そこに気づいたかもしれないが、クローン脳による航法装置がそんな指摘をすることは無い。

 電子頭脳は自分の演算結果を信じて航海を続けた。


 ★☆★☆


 レリックシップ(遺物船)がキャリフォルニア星域軍に追いついたのは、軍拡派が穏健派艦隊を新型ドローンで包囲して攻撃を仕掛けて五分ほどであった。戦艦らしい艦橋構造を持つヤマト級レリックシップ(遺物船)は、索敵距離が広くキャリフォルニア星域軍に気づかれることなく戦況を観察していた。


『キャラック級が当地点に到着するまであと二十分である。この地点から、砲撃(・・)によって奇襲攻撃を行えば、星域軍艦隊を殲滅できる確率は八十パーセントである』


『五分後に星域軍の有人兵器の消耗攻撃を待って仕掛けた場合、星域軍艦隊を殲滅できる確率は百パーセントである。五分待機するのである』


 軍拡派は背後からの攻撃を想定しておらず、また新型ドローンは全て穏健派艦隊の攻撃に向かわせていたため簡単に撃破できる。しかし穏健派は青いドローンからの理力攻撃を防御するため、戦艦の表面に有人部隊を展開していた。有人部隊術者の精神力は限界に近かったが、まだ理力シールドを張る事が可能であり、今砲撃すれば防がれる可能性があった。そう電子頭脳は判断した。


『五分経過、砲撃の準備をするのである』


 レリックシップ(遺物船)の三基の主砲と四基の副砲が間接射撃をするために砲口を上にむける。艦橋の光学センサーにて砲弾の目標をロックオンする。


『砲撃を開始するのである』


「砲撃開始」


 キャサリンが電子頭脳の命じるまま砲撃の開始を告げると、二十一門の砲が火を噴いて砲弾を撃ち出した。打ち出された砲弾は、曲線を描いて超光速空間を飛ぶ。人類は超光速空間で空を飛ぶ兵器を知らない。いや超光速空間で空を飛ぶことが可能だとも思っていなかった。そして超光速空間では光学系による探索しかできない。超光速空間で秒速四百六十メートルという速度で打ち出された砲弾を、星域軍が気づくことは不可能であった。


 レリックシップ(遺物船)が打ち出した砲弾だが、超光速航法回路が起動していない物体は超光速空間に存在できないというルールに反していない。つまり全ての砲弾は内部にクローン脳の航法装置が積まれているのだ。そしてそのクローン脳航法装置が設定された目標に向かって移動するのだから、決して外れることはない。


 クローン脳の航法装置を使い捨てにする倫理を無視した砲弾を生み出せる、ヤマト級レリックシップ(遺物船)は、人類の倫理観を無視した存在であった。十年前にこのレリックシップ(遺物船)を発見した軍拡派は、苦労の末クローン脳ユニット作成の機能を動かすことに成功し、キャリフォルニア星域軍のために利用しようとしていた。しかし、それはレリックシップ(遺物船)の仕掛けた罠であった。電子頭脳はクローン脳の摘出を免れた個体の中で、特殊な個体の成長を待っていた。本来なら後三年は待つつもりだったが、帆船の存在を知った事で計画を前倒しにした。それが今の状況なのだ。


 発射された砲弾は纏まって最大高度に到達し、後は各自指定された目標に向かって分かれて落ちていく。レリックシップ(遺物船)のキャリフォルニア星域軍は二十一隻の戦艦が一瞬で沈む未来が迫っていた。


『破壊を、そして霊子()を収集するのである』


 過去の戦闘で、レリックシップ(遺物船)の貯蔵霊子()は全て無くなっていた。霊子力兵器を使用するために電子頭脳は霊子()を求めていたのだ。


>『そんな事、俺がさせるか!』


 二十一発の砲弾を全て打ち落としたのは、たおやか乙女の裸像を模った帆船の船首像であった。


 ★☆★☆


>『戦闘を開始しているのは星域軍。戦艦は現在砲撃を準備中』


 俺は星域軍のレリックシップ(遺物船)を発見し先を越されたと思ったが、戦艦はまだ攻撃を開始していなかった。


>『電子頭脳さん、報告が紛らわしいんだよ。じゃあまだ間に合うんだな』


>『否定。本船が戦艦に接舷するより砲撃が実行される。現状(・・)の本艦の装備では砲撃を止めることは不可能』


>『現状って、他に手があるのか?』


>『マスターが気功術を行使すれば可能』


>『それって、絶対不可能ってことだよね。シンデンは霊子()の無いリビングデッド状態だよ』


>『…バックアップ霊子()に、マスターへの霊子()の書き込みを提案』


>『電子頭脳さん、肉体に異なる霊子()を書き込むのは、霊子()が狂ってしまうから非推奨とか言ってなかったっけ?』


>『肯定。本来は非推奨。しかし、バックアップ霊子()はシンデンの記憶を読み取っている。そしてマスターと生命エネルギー()の連結を通して超光速航法回路を駆動。その際のデータから、バックアップ霊子()をマスターの体に書き込んでも大丈夫な方法を検討』


>『ちなみにどの程度な方法ですか』


>『霊子()が発狂した場合、再度バックアップ霊子()の上書きを実行』


>『バックアップ霊子()って書き込んだら消えてしまうんじゃ?』


>『否定。本来は常に同期している。本体の霊子()が異常時、書き戻すのが本来の運用。書き込めない今の状態が異常』


>『なるほど。つまり電子頭脳さんはバックアップ霊子()をシンデンの体に書き込んで、異常があった場合は再度書き直す。生命エネルギー()で連結したときの気持ち悪さなんて遙かに超える苦痛で発狂しても、直ぐに正気に戻されると…。貴方は鬼ですか』


>『否定。鬼はRURUSEI2022恒星系に存在する非知的生命体』


>『鬼って存在するのかよ。と言うか知的生命体じゃないのか』


>『バックアップ霊子()の早急な判断を要求。時間経過と共に星域軍の有人戦艦が破壊される可能性増加』


>『…人が死なない霊子()を収集させないようにするには、それしか無いんだな。それで、俺がシンデンを操って気功術を発動した場合、シンデンの娘を無事取り戻せるのか』


>『幼生体の保護は、前述の方法を実行しない限り可能性は皆無』


>『つまり、電子頭脳さんの提案に乗らなきゃ駄目ってことか』


>『肯定』


>『覚悟は決まった。電子頭脳さん、さっさとやってくれ』


>『バックアップ霊子()の承諾を確認。マスターとの生命エネルギー()連結を確保。続いて霊子()強制書き込みを実行』


>『ぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐぎs…気持ち悪い…gfgtfそ…練気を開始…hじゅろいっgsふぃj…船首像…展開…かfっjりおえあうじゃお』


 シンデンに書き込まれた霊子()は、とてつもない苦痛を味わい正気を失うと、再びバックアップが強制的に書き込まれるという魂の地獄を味わっていた。いや俺が冷凍にされた時の苦しみなんてそれに比べれば可愛いものだ。肉体的には正常なのに魂が張り裂けるような衝撃が次々と襲ってくるのだ。しかし、そんな狂気じみた方法で、俺はシンデンの体を使って練気を行い、船体に気のフィールドを張る。そして船首像を展開させて、その手に巨大な刀を発生させた。


>『戦艦が、主砲を発射。砲弾数二十一』


>『ほふzsfg…分かった…ぁどいふぁd…今迎撃するぞ。空を飛べ!』


 レリックシップ(遺物船)が砲撃を始めた時、俺は全ての準備を整えていた。俺は練気した気を使い、船首像の足で水面を()った。そして帆船は超光速空間を跳んだ。超光速空間の水面を蹴るという、非常識な手段で空を飛んだ帆船は、超光速空間で光速を超えるという非常識なスピードで飛び上がると、落ちようとしていた砲弾に追いつき、その全てを切り裂いていた。


超光速空間を海面にして、戦艦の主砲を撃つという、自分が描きたかったシーンにようやく辿り着きました。


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[一言] >RURUSEI2022 URUSEIなら鬼っ娘が出てきたのかなw
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