目覚めるまでのお話(2)
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『ちっ、強情張りやがって。…とにかく海賊の殲滅は終えた。これで契約は完了だな』
『まだ海賊の殲滅はまだ完了しておりません。よって契約は完了しておりませんよ』
シンデンは資源運搬船に任務完了の通信を送ったが、スーツ男は黒縁眼鏡を光らせてそう返信してきた。
『…海賊船は全て破壊したはずだが』
『シンデンさん、貴方の船に海賊達のコクピット・モジュールが収納されたことは分かっています。我が社との契約は海賊の殲滅です。コクピット・モジュールを破壊…いや海賊達を始末するまでが契約です。それに宇宙海賊を始末する事は、宇宙星間ルールにも反しません。さっさと彼等を処分してください』
人類は銀河系において多数の星間国家が乱立しており法律も各国家で異なっていたが、その中でも大国である数カ国が主導して、宇宙空間で行われる戦闘行為のルールを決めていた。それは星間ルールと呼ばれており、大国以外の小国も皆それを守ることになっていた。その星間ルールでは、海賊行為を行ってきた者に対してどのような処置をとっても良いことになっており、海賊行為と見なされると、反撃で殺しても問題はないということが明記されていた。この場合三隻が海賊行為を行ってきたことは、通信の記録や戦闘行為の映像ログによって立証は可能であるため、スーツ男の言うことは間違ってはいない。
更に言うなら、この宙域には資源運搬船とシンデンの船以外誰も見ている者はいないのだから、海賊どもを始末しても証拠は残らない。星間ルールと言いながら証拠が残らなければ、殺人も平然と行われるのが当たり前という無法地帯とも言えるのが辺境宇宙であった。
『いや、既に此奴らの海賊船は破壊した。このコクピット・モジュールをこの星域軍に渡せば、海賊の殲滅という契約は完了するはずだが。それに契約書には海賊の殺害までとは書いてなかったはずだ』
宇宙海賊はその経歴によってはまれに懸賞金がかけられている場合がある。殺してしまっても契約者がそれを認めれば契約は完了するが、海賊を生かして捕獲すれば、海賊の本拠地や他の海賊の情報を得られる可能性も出てくる。そのため、傭兵の護衛任務で海賊の命をどうするかまで契約書に書くことはない。つまりシンデンの言うことも傭兵として間違ってはいない。該当宙域の星域軍に海賊どもを手渡せば、契約が完了したと傭兵ギルドも認めるであろう。
『その海賊は当社の資源運搬船を襲い、二名の操縦士を殺しています。この星域の法律に照らし合わせても、死刑は確定でしょう。いや海賊であればそれ以上の苦痛を伴う刑が言い渡されるでしょうね。であるなら、この場で殺してやった方が海賊達のためではありませんか?』
スーツ男が言うそれ以上とは、海賊が生きて捕縛された場合で死刑が確定となった時、星域の法によっては死刑以上に厳しい刑…人体実験のモルモットなどが課せられる場合があるという話である。
『まあ、その可能性があるのは分かっているが、こちらも奴らを生きて連れて帰る必要があるからな。契約上は問題がないのだから、とやかく言われる理由はないな』
『契約には海賊の殲滅ではなく、抹殺と書くべきでしたか。まあそういう可能性も弊社は考えておりましたので』
スーツ男は指で黒縁眼鏡を持ち上げると、今度は資源運搬船の全てのコンテナを破棄するボタンを押した。
『コンテナを全て切り離して、どうするつもりだ?』
『海賊と傭兵が戦って、双方相打ちで終了。これで弊社は海賊の脅威も排除できシンデンさんへの高い報酬も払わずに済むと言うことです』
切り離されたコンテナから出てきたのは、戦闘ドローンであった。モヒカンの海賊船を一回り小さくしたような緑色の戦闘ドローンが百機、シンデンの帆船を取り囲んだ。
『チッ、軍用グレードの戦闘ドローンとは準備が良すぎるな。やはり俺を疑っていたか』
『シンデンさんが、キャリフォルニア星域軍から極秘の依頼を受けていたことは弊社も知っております。何せその星域軍は弊社の最大顧客ですので』
『依頼主が裏切っている、いや最初から俺をはめるための罠だったか』
『星域軍も一枚岩ではないのですよ。こちらは弊社の新製品です。貴方のレリックシップと百機の新型戦闘ドローン、星域軍に売り込む前に新製品の実力を試させて貰います』
スーツ男の指示により、シンデンの船を取り囲んだ戦闘機が一斉に襲いかかった。
シンデンの船は見た目が大航海時代の帆船であり宇宙船とは思えない姿である。しかしその実体は、レリックシップと呼ばれる異星人の遺跡から発掘された宇宙船であった。超光速航法技術の開発に繋がった地球の月面裏のレリックシップを始め、銀河に散らばる異星人の遺跡から見つかった宇宙船は、現在の地球人が作る宇宙船を遙かに上回る性能を持つ物が多い。そんなレリックシップは、売り払うとしたら個人が一生どころか千年は遊んで暮らせる程の金額を手にすることが可能であり、王国制の星域国家に持ち込めば貴族に叙爵されるほどの価値を持っている。
そんな船をシンデンは一介の傭兵の身分で所持していた。シンデンの船を狙って個人や企業、そして国家規模での争奪戦も起きたのだが、シンデンはそれをことごとく退けてきた凄腕の傭兵である。
『たかだか百機の戦闘ドローンで俺の船が沈むと思うな!』
襲いかかる戦闘ドローンに対して、シンデンは船を本格的な戦闘状態に移行させた。帆船の帆柱に薄青色に発光する光の帆が張られ、ドクロマークの旗が掲げられた。続いて上甲板には帆船には似合わない巨大な三連装の砲塔がせり上がってくると、星間国家の主力船艦も超える程のブラスターを発射して、戦闘ドローンをまとめて撃破していった。そして側面の砲台もブラスターを発射して次々と戦闘ドローンを撃破していく。
戦闘ドローンは無人であり人が耐えられない高速な移動が可能であり、それぞれが連携を取って攻撃を加えてくる。シンデンしか乗っていない帆船では、戦闘ドローンの動きに対応できないと思われたが、シンデンはまるで多数の乗組員が操作をしているかのように次々と戦闘ドローンを撃破していった。
もちろん戦闘ドローンもただ撃破されているだけでは無く、レーザー機銃や対艦ミサイルをシンデンの帆船に命中させているが、木造に見えるその船体に対して全く効果が無かった。
『ははっ、さすがはレリックシップ、我が社の新型ドローンがまるすら歯が立ちませんか…。では本当の新型ドローンの攻撃に耐えられるか、試させて貰いましょう』
シンデンの帆船に全く歯が立たず、次々と戦闘ドローンが撃破されていく中、スーツ男は少し冷や汗を流しながらも次なる手を打ってきた。今まで解放されていなかったコンテナから十機の赤い戦闘ドローンが放出されたのだ。
『赤く塗ったら三倍の性能という逸話があるようだが、たかが三倍程度では俺には勝てないぜ』
『ふふっ、それはどうでしょう。これは特別製の戦闘ドローンですからね』
シンデンの挑発に対して、スーツ男はそう返した。赤い戦闘ドローンは帆船と距離をとり取り囲むように陣取る。その動きに何かを感じたシンデンは、最優先で赤い戦闘ドローンを落とすべくブラスターを発射したのだが…
『理力を使う戦闘ドローンか!』
赤い戦闘ドローンにはマニピュレータが搭載されており、それが印を結ぶと理力フィールドでブラスターを弾き飛ばしてしまった。
『理力であればシンデンさんのレリックシップにも対抗できる。これが弊社の技術部の回答です』
『やっぱり禁忌技術に手を出していやがったか。星域軍からあった禁忌技術の調査が俺の仕事だったが、そちらは罠だったんだな』
理力を使うには、理力の素質を持った人を開発する必要がある。理力の素質を持った人間の割合は一億人に一人であり、この時代の人口(およそ数十兆人)であれば、探せば見つかるレベルではあるが、理力の力を目覚めさせる開発に耐えて正気を保てる人間は少ない。その為理力使いは、その特異性もあり国家規模で確保されるのだが、そんな理力使いが大企業とはいえ十人もいるはずも無い。
つまり、赤い戦闘ドローンに乗っている理力使いは、何らかの手段で集められ理力を開発された人が乗せられていることになる。人道を無視した理力開発を行う事は星間ルールで禁忌事項とされているが、この様に戦争に役立つ技術であれば、手を出す物は跡を絶たないのが現状であった。
『はてさて、何のことでしょうね。まあ、ここで言い合ってもしかたないでしょう。何せシンデンさんはここで海賊と相打ちになり死ぬのですから』
『この外道が…』
十機の戦闘ドローンが次々と理力による攻撃を繰り出した。ホッケーマスクの滅光波程の威力はないが、鋭く降り注ぐ理力エネルギー波は、今までレーザーや対艦ミサイルの攻撃に耐えた帆船の船体を貫通して損害を与えていく。多方向から降り注ぐ理力エネルギー波は船首像だけでは防ぐ事は不可能で、シンデンの帆船は多数の被害を受けて、煙を吹き出し始めていた。
「このままじゃやばいな。少し無理をするが、俺の体耐えてくれよ!」
そう言ってシンデンは操縦席に座り座禅を組み、瞑想を行う為に目を閉じた。シンデンの力は理力ではなく気の力。それは気を体や船のチャクラを巡らせることで気の質と量を高めることが可能である。シンデンが体内の気をチャクラに巡らせると操縦席は変形しシンデンの体を強化外骨格のように包み込んでいった。
『技術部の予想通りですね。無敵と言われたレリックシップも我が社の戦闘ドローンの前に沈むのですよ。…あれっ?攻撃が通じなくなった?』
シンデンが気を巡らせると同時に船首像が輝き、帆船は薄緑のフィールドに包まれると、赤い戦闘ドローンからの理力攻撃が通じなくなってしまった
。
『…まさかシンデンさん、貴方は気でフィールドを張ったのですか!そんな事が出来るはず、いや出来たとしてもあっという間に死んでしまうはず』
帆船の船体を覆ったのは、気によって作られたフィールドであった。気の力は気功術士の生命力を使って行使されるものであり、三百メートルの船を全て気で包むという使い方をすれば、術者はたちまち生命力を使い果たして死んでしまうだろう。シンデンの無謀とも言える行為にスーツ男が驚くのも当然であった。
『この船を普通のレリックシップと一緒にするなよ!そして、やられた分はやり返すぜ。ふんっ!』
シンデンが気合いを込めると、船首像の手に巨大な気の刀身が出現した。船首像がその気の刀を振り回すと、帆船の周りを飛び回っていた赤い戦闘ドローンが理力フィールドごと切り裂かれていった。
シンデンの太刀さばきは凄まじく、三分どころか二分もかからずに十機の赤い戦闘ドローンは宇宙の藻屑と消え去ってしまった。
『気功術で理力フィールドごと切り裂くとか。シンデンさん、貴方は非常識にも程がありませんね。こうなってしまえば、私の負けは確定のようです』
スーツ男は、新型戦闘ドローンが全て破壊されてしまったことで進退窮まったことを感じたのか、崩れ落ちるように跪いてしまった。
『俺が星域軍や星域国家からも自由でいられる理由をよく考えるんだったな。しかし、赤い戦闘ドローンは全部潰してしまったのは不味かったな。戦闘映像だけじゃ証拠が足りないか…。ふんっ!』
シンデンは資源運搬船の操縦ブロックを狙って、再度気の刀身を振り切った。
『ヒッ!』
気の刀身は、その一振りで資源運搬船の操縦ブロックを船体から切り離した。船首像が切り離された操縦ブロックを手にすると、それを掲げるように頭部に運んでいった。
『あんたには禁忌技術使用の証言をしてもらわなきゃいけない。悪いが拘束させて貰うぜ』
船首像の額が開くと、そこから出てきたのは、船から強化外骨格のような操縦席を着たシンデンであった。シンデンの帆船には彼以外の人は乗っていない。貨物運搬などの作業ドローンは搭載しているが、人を扱うようにはできていないため、この様な作業には、シンデン自身が手を出すしかなかった。
シンデンが操縦ブロックに近づくと、船首像の手がエアロックの一つ目の扉を力任せにこじ開けた。そこで操縦ブロックの気密が少し破れたのか、シュウシュウと空気が漏れ始めた。
『ひいぃ、空気が。止めてください。私は宇宙服を着てないのですよ』
『なら早く宇宙服を着ろ。まあ頭が残っているなら死体からでも証言は撮れるから、俺はそれでもかまわないぞ』
『わ、分かりました』
スーツ男は慌てて宇宙服を身につける。それを見計らってシンデンはエアロックの残りを引きちぎった。スーツ男は空気とともに外に吸い出されたが、船首像の手が彼を捕まえ拘束した。
『さて、証言はお前さんだけで良いが、ついでにもう一つの証拠品も貰っておこうか』
シンデンは操縦ブロックの操縦を外骨格の手に持っていた刀で切り裂いた。そこに埋まっていたのは四角い透明なケースに収まった脳であった。
『新型戦闘ドローンによほど自信があったんだな。スキャンをしてみたが証拠隠滅の仕掛けがなかったのは助かったぜ。何せ証拠隠滅の為に自爆されたら面倒な事になったからな。しかし、新型戦闘ドローンといい、あんたの企業は禁忌技術に手を出しすぎだろ。脳だけのパイロットは確かに安く付くが、バレたら企業は破滅だぞ。しかも海賊に嗅ぎつけられて、そのパイロットを奪われるとか情報管理が杜撰すぎるぜ』
シンデンの言う通り、ケースに収まった脳は、超光速航法を行う為のパーツであった。超光速航法に必要なのは、特殊な金属で作られた魔法陣のような超光速航法回路とそれを動かすだけの精神力を持った人の存在である。
しかし超光速航法回路を動かせるほどの精神力を持った人は、理力使いほどではないが限られていた。そのためパイロットは軍隊や公共交通機関に優先的に回されるため、資源運搬船などでは人員の確保が大変であるのが宇宙の現状であった。そこで注目されたのは、超光速航法を使える人のクローンを作り、脳を取り出して航法装置として組み込む技術であった。
一時期その技術がもてはやされたのだが、クローン脳が一斉に反乱を起こし人類に大混乱をもたらした事件があった。その事件を切っ掛けに、クローンとはいえ人の脳だけを取り出して部品として使う技術は禁忌技術として星間ルールで禁止されることになった。
「…仰る通りですが、それが上層部の意向ですので。私の立場ではそれに逆らえないのですよ」
スーツ男は小さくそう呟いていたが、それはシンデンの耳には届かなかった。
『さて、可哀想な被害者を回収しますか』
手慣れた様子でシンデンはケースに繋がったケーブルを外していったが、彼はその脳が通常のクローン脳とは異なる事に気づいていなかった。最後のケーブルを外し、脳を取り外したところで、その脳を入れているケースから魔法陣のような文様があふれ出した。
『何だこれは』
『ふふ、最後の罠が発動しましたか』
『おい、何を言っている。こんな魔法陣見たこともないぞ』
『それは我が社の発掘部門が見つけたレリックです。間違って作動させた際に研究ステーションが一瞬で全滅したといういわく付きのレリックですよ。技術部門はそれを霊子力兵器とか言ってましたね』
『くそっ、そんなレリックを罠に仕込むとか、お前の所の上層部は頭がおかしいぞ』
そう愚痴を言いながらシンデンは慌ててケースを放り投げて操縦ブロックから飛び出した。
『ははっ、それは私もそう思ってますよ。ですが、これで私の失敗、いや我が社の秘密も守れるのです』
『馬鹿野郎!』
シンデンがそう怒鳴り、操縦ブロックから飛び出すと同時に、ケースを中心として光が…霊子力の嵐が一帯を埋め尽くした。
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