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帆船の航海と超光速空間での戦い

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 レリックシップ(遺物船)を追って超光速航法に入った帆船だが、超光速空間に浮上したところで、レリックシップ(遺物船)が遙か先に進んでいることに気づいた。


>『レリックシップ(遺物船)の航行速度が速い』


>『戦艦は超光速空間で使用可能な増速装置を搭載。本船も帆を張らなければ追いつくことは不可能』


>『それなら直ぐに帆を張れ』


 メインマストに帆を張り、帆船は追跡開始する。しかし煙突(・・)から煙をたなびかせ疾走するレリックシップ(遺物船)に少しずつ距離を離されていく。


>『このままでは距離を離されるばかりだ。帆も張ったのに速度が出ないぞ』


>『現在の風向きは横風。この状況では戦艦のボイラー式増速装置の方が高速』


>『何とかする方法はないのか』


>『戦艦の進路から、キャリフォルニア星域軍の航路を推測…サーフランコ星系の可能性大』


 電子頭脳がチャート(海図)にサーフランコ星系の位置とそこまでの航路を表示する。超光速空間での航路だが、途中に幾つかの難所があり、サーフランコ星系への航路はそれを迂回するために大きく蛇行していた。


>『レリックシップ(遺物船)はこの航路で進むつもりか?』


>『肯定。戦艦はクローン脳の航法装置を使用。難所を大きく迂回する安全な航路を選択』


>『なるほど。電子頭脳さん、この船は俺が航法をやっているが、どの程度難所をショートカットできるか計算してくれ』


>『了解。キャリフォルニア星域軍の推測位置と戦艦の航路、その間にある重力異常(難所)地点から、本船が取れる最短航路を計算。……安全マージンを限界まで削ることで、三割の短縮が可能』


 チャート(海図)に新しい航路が表示されるが、難所と呼ばれる箇所をギリギリ掠める航路だった。速度を稼ぐために巨大なブラックホールが巻き起こす渦を利用して船を加速することまでやっている。そしてその航路の最大の問題は、レリックシップ(遺物船)と難所を挟み距離が離れるため、船の姿を確認できなくなる。つまり星域軍の位置によっては、レリックシップ(遺物船)を見失う可能性があることだった。


>『この航路なら追いつくことができるんだな』


>『キャリフォルニア星域軍の位置が推測値通りなら追いつくことは可能』


>『俺は電子頭脳さんを信じている。だからこの航路でレリックシップ(遺物船)に追いつくことができるはずだ。直ぐに航路を変更だ』


>『…了解』


 俺は電子頭脳を信じている。だから電子頭脳が可能というならそれを信じるべきだ。先行するレリックシップ(遺物船)と航路を変更して難所がひしめく海域に舵を切った。


>『後は、追いつけるように神様、仏様に祈るだけだな』


>『神は一億五千年前に既に死亡。仏様の存在についてはデータ不足』


>『電子頭脳さんの神様は既に死んでいるのか。まあ、俺が祈るのは日本の八百万の神だからな。万物に宿る神様が全員死んでいることなどないのさ』


>『理解不能』


>『神なんて物を理解できる方がおかしいのさ。そういう意味じゃこの船を作った連中は、神が死んでいると思ったから、霊子力兵器なんて物を作ったんだろうな』


>『…』


>『さて、最初の難所(重力変動による霧の発生地点)に到着。この中に入ればレリックシップ(遺物船)の姿を見失う。電子頭脳さんのチャート(海図)が頼りの目隠し航行だ。頼りにするぜ』


>『無問題』


 神の存在という哲学的な話を電子頭脳とやっている間に、難所だらけの海域に突入した。ここからは俺も電子頭脳も帆船を操ることに集中する必要がある。


>『電子頭脳さんを信じると言ったが、この航路で大丈夫か?』


>『渦に巻き込まれないように帆の角度を斜め四十五度に修正。バックアップ霊子()は本船を西に向けて進むように意識集中』


>『了解した』


>『重力ターンにより航行速度上昇』


 霧を抜けて、暗礁や浅瀬縫ってすすみ、最後はブラックホールが作る大渦を使って増速した帆船は、チャート(海図)ではそろそろキャリフォルニア星域軍が視界に入る位置に辿り着いていた。


>『まだ船影は見えないか』


>『…右舷、二時の方向に船影を確認』


 電子頭脳がカメラ(視線)を向けた先、距離として五キロ程度の位置にようやく薄らと煙を上げる星域軍の艦隊が見え始めた。


>『レリックシップ(遺物船)は…』


>『戦艦を確認。既に戦闘を開始』


>『間に合わなかったか…』


 苦労して航路を短縮して追いかけたが、レリックシップ(遺物船)の方が先にキャリフォルニア星域軍の艦隊に追いついていた。


 ★☆★☆


 -穏健派旗艦-


 首都星から撤退する穏健派艦隊は、続々と超光速空間に浮上した。


「全艦、超光速航行に入りました」


「よし、艦隊行動を維持しつつ、サーフランコ星系に航路をとり進め」


 全艦が超光速空間に現れたのを確認して、提督は進軍を号令する。


「後方に軍拡派艦隊の出現を確認」


「やはり軍拡派は追撃してきたか。全艦、予定通りに全速で航行せよ」


 艦橋で後方を観測していた索敵要員から軍拡派艦隊発見の連絡が届くが、穏健派提督はそれを予想していたので慌てることなく艦隊を進ませた。


 -軍拡派旗艦-


 穏健派艦隊追って超光速空間に浮上してきた軍拡派艦隊だが、


「艦隊の編成は終わったか」


「前方の数隻が進路修正に手間取っており、もう少し時間がかかります」


「ええい、何をしておる。超光速空間での艦隊行動など基本中の基本であろうが」


「穏健派艦隊の直後に超光速空間に浮上した影響で、各艦の出現位置や向きがバラバラになりましたの…」


「言い訳はいい。さっさと艦隊行動を取らせるのだ」


 艦隊編成に手間取っていた。


 超光速航法で超光速空間に浮上する場合、同じ位置に宇宙船が出現しないように超光速回路が自動で位置を調整する。そして超光速空間が荒れていなければ、宇宙空間で艦隊を組んで同時に超光速航法に突入した場合、ほぼ陣形は崩れずに超光速空間に浮上することができる。穏健派は陣形を崩さずに超光速空間に出られたのだが、それを追ってきた軍拡派は、超光速航法に入るタイミングを同期しておらず、しかも直前に穏健派艦隊が出現した余波で超光速空間が波打っており、艦隊としての陣形が乱れていた。宇宙空間と異なり、水上艦のように振る舞う必要のある超光速空間では、船の旋回をするだけでもかなり時間を必要とする。


「提督、艦隊の編成が終わりました」


「ようやく終わったか、穏健派の艦隊と少し距離を取られたが、まあ追いつける範囲か」


「航路の安全マージンを削るおつもりでしょうか」


「そうしなければ追いつけないだろう。それに新型ドローンを操るには接近しなければならない。航法士には追いつけるだけの航路を進むように伝えろ」


 穏健派も軍拡派も同じキャリフォルニア星域軍の宇宙船を使っているため、超光速空間の移動速度は変わらない。つまり、同じ航路を進めば追いつけないのは当然である。そうなれば難所を迂回する航路の安全マージンを削った最短航路を取らなければ、軍拡派は追いつけないのは当然である。


「…はっ、了解しました」


 副官は人員の安全の為にも安全マージンを削る航路設定に異を唱えたかったが、内戦に勝利するためには提督の判断は正しいと思い、航法士に安全マージンを削った航路で進むように伝えるのであった。


 ★☆★☆


 両艦隊が超光速空間に突入してから二時間ほど過ぎた頃、軍拡派の艦隊は穏健派の艦隊に追いついた。


「新型ドローンを発進させろ」


「了解。超光速空間対応ドローンの出撃開始」


 旗艦とその周りの数隻の戦艦から青い魚雷艇のようなドローンが合わせて五十艇発進した。超光速空間航行に特化したその船体は、波をかき分けて穏健派艦隊を包囲するように進み始めた。



 -穏健派旗艦-


「後方艦隊より、戦闘ドローンと思わしき物が発進、艦隊を包囲しつつあります」


「何だと。まさか軍拡派は、超光速空間対応型ドローンまで持っていたのか!」


 索敵要員からの報告で艦橋の頭上のスクリーンに新型ドローンが表示される。穏健派提督は超光速空間での戦いは接舷による移乗戦しかないと思っていたため、超光速空間対応型ドローンに対する策は何も考えてはいなかった。


「副長、あの超光速空間対応型ドローンはどのような攻撃をしてくると思う?」


「マニュピレータを装備している形状から、恐らく理力による攻撃をしてくると思われます」


「なるほど。接舷ではなく理力による攻撃か。それでは一方的に攻撃されることになるな。良し超光速航法を停止して通常空間に出るぞ。各艦に通達」


 提督の決断で超光速航法を停止する命令が光信号で伝えられるが、その判断は時既に遅く、艦隊を包囲した青いドローンから理力の網が投射されて、艦隊は超光速空間から出られない状態になっていた。


「理力にあのような使い方があるとは」


「敵青いドローンが理力による攻撃を始めました。提督どういたしますか?」


「こちらは有人部隊を艦外に出して応戦するしかないだろう」


「提督、それは危険です。もし超光速航法回路を持たない有人兵器が超光速空間に落ちれば、どのような空間に出現するか、最悪恒星や惑星に衝突することも…」


「だが、そうしなければ艦隊は全滅する。有人部隊には絶対(・・)に船から手を放すなと伝えるのだ」


「…了解しました。有人部隊に出撃命令を出せ」


 穏健派艦隊は青いドローンの攻撃から船を護る為に、有人兵器を出撃させた。戦艦の表面に張り付いた彼等は、青いドローンからの理力攻撃を防ぐべく、防御の術を展開する。そして青いドローンに攻撃を仕掛けるが、超光速空間の移動に特化した彼等の動きは素早く、攻撃は回避されるか理力フィールドで防御されるのだった。


 穏健派艦隊は超光速空間の罠にはまり、後は壊滅を待つだけの状態となってしまった。


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