帆船 対 戦艦
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
-レリックシップ内部-
操縦者制御機能により意思を乗っ取られているキャサリンは、レリックシップの電子頭脳によって魔法を発動以外はできない状況だった。
『敵、キャラック級を発見したのである。これより本船はキャラック級の破壊を最優先事項とするのである。魔法砲撃の目標をキャラック級に変更である。副砲はブラスターにて接近するAI船艦を破壊するのである。対空機銃は戦闘ドローンの破壊を実行するのである』
キャサリンの意識にレリックシップの電子頭脳が命令する。
「はい。目標をキャラック級に変更して魔法砲撃を発射、発射、発射」
虚ろな目のキャサリンは、電子頭脳の言うままに魔法砲撃を発動し続ける。
『魔法砲撃がシールドの魔弾により防御されたのである。原因は操縦者による魔法砲撃の練度不足である。魔法砲撃の威力を上げる為に操縦者とのシンクロ率を上昇するのである』
「んっ!」
電子頭脳が操縦者とのシンクロ率を上げたことにより、操縦席に横たわるキャサリンが声にならない悲鳴をあげる。
『シンクロ率、四十パーセントで限界である。現在の操縦者の精神と肉体では、これ以上のシンクロ率の上昇は危険と判断するのである』
『シンクロ率不足により、演算能力の負荷が増大。魔法攻撃を続行しつつ、操縦者とのシンクロ率上昇を検討するのである』
「はい、魔法砲撃を発射、発射、発射」
レリックシップの操縦席にキャサリンの虚ろな声が響く。
★☆★☆
レリックシップの主砲(ヤマト型なので、前後合わせて三基)が、魔法砲撃を帆船に向けて撃ってくる。魔法砲撃は、途中に障害物があろうが狙った目標に命中するまで追ってくるため回避することはできない。つまり当たって耐えるか、魔法や理力、気による防御を行うしかない。シンデンが亡き後の帆船が使える手段はシールドの魔弾しかない。
>『シールドの魔弾を連続発射。…敵魔法砲撃を防御成功?』
シールドの魔弾で魔法砲撃を防御したのだが、電子頭脳が何か違和感を持ったようだった。
>『電子頭脳さんは魔法砲撃を防げたのに、納得していないようだな』
>『肯定。一発のシールドの魔弾ではヤマト級戦艦の魔法砲撃を防ぐのは不可能。よって複数弾の魔弾にて対応。結果は一発で防御成功』
>『なるほど、あっちの魔法砲撃の威力が低いのか。帆船と同じ時代の船って事は年代物だからな、性能が落ちてるんじゃないのか?』
>『否定。本船も戦艦も経年劣化による性能低下は皆無』
>『そりゃ失礼。まあ威力が低いならシールドの魔弾が節約できるし、こちらも接近しやすいだろ』
レリックシップにシンデンの娘が乗っているため、帆船は戦艦を破壊するような攻撃ができない。そして通じそうな攻撃が光速魔弾だけだからだ。魔法で防御されなきゃレリックシップを破壊可能だが、それじゃ不味いのだ。よって帆船がとれる戦法は接舷しての移乗攻撃しかない。
『戦艦の魔法砲撃の威力について検討。…偽装している可能性…否定。…操縦者とのシンクロ率不足…可能性有。操縦者は人類種の幼生体。シンクロ率が低いために魔法の威力不足の可能性大』
>『シンクロ率って何だ、巨大人型兵器とかの操縦で必要な奴か?』
>『否定。シンクロ率は戦艦と操縦者の同調率。気功術士と人型兵器との間にあるのは気力値』
>『気力値って、スーパー○ボットかよ。…いや、それでシンクロ率が低いとどうなるんだ?』
>『戦艦の基本性能が低下。その為電子頭脳に負担増』
>『なるほど。つまりシンクロ率が低いって事は、俺達にとっては有利な話だな』
>『肯定。…バックアップ霊子に主砲による実体弾攻撃を提案』
>『主砲で実体弾射撃って、…まさか霊子力兵器じゃないよな』
>『否定。本船の主砲(三連砲塔)はレーザやブラスター以外にも実体弾(対消滅弾、榴弾、徹甲弾)が発射可能』
>『宇宙船のくせにそんな物まで準備されているんだよ。それで実体弾ってどれを撃ち込むんだ?』
>『戦艦の装甲には徹甲弾による純粋な運動エネルギーが有効。現状AI戦艦の衝突にて敵は慣性制御機能が過負荷状態。それに本艦の砲撃が加わることで、敵電子頭脳は操縦者の操縦者制御が不可能となる可能性大』
>『つまり敵をもっと物理的に攻撃しろってことか。それなら弾種は徹甲弾しかないな。徹甲弾で発射だ!』
>『主砲、徹甲弾を選択…射撃開始』
帆船はAI戦艦を盾にするようにレリックシップに接近中だが、その隙間を縫うようにして主砲から徹甲弾が発射された。敵のレリックシップがヤマトと同じスケールなのでその主砲は四十六センチらしいが、帆船の主砲はそれを上回る八十センチ、五十口径である。これは第二次世界大戦でドイツが使用した列車砲に匹敵する。宇宙空間のため発射音が聞こえないが、八十センチ、五十口径の三連主砲が文字通り火を噴くと、帆船の慣性制御機構ですら衝撃を吸収しきれず船体が震える。
慣性制御機構が吸収できない程の威力を持つ巨大砲だが、元は帆船の船体材質である植物生命体の種子をばらまく為の仕組みを応用している。中性子星の重力を振り切って種子を宇宙に飛ばす為の炸薬は、対消滅による爆発なのだ。レールガンの砲弾が秒速二千四百メートル(マッハ7)というが、主砲の砲弾は最大で秒速二十万メートル(約マッハ588)なのだ。しかし、普通の宇宙船ならとても耐えられない威力だが、レリックシップの装甲であればせいぜいで一次装甲を抜ける程度というから恐ろしい。
>『レリックシップの動きが鈍ったな。全速前進。船をぶつけるつもりでいけ』
>『了解。衝角アタックモード起動』
徹甲弾の直撃を受けたレリックシップの動きが止まったのをみて、帆船は全速で進んでいった。
★☆★☆
-レリックシップ内部-
徹甲弾の直撃を受けたレリックシップでは、慣性制御機能が一時停止し、電子頭脳が対処に追われていた。
『敵物理攻撃により慣性制御機能が停止したのである。再起動するのである』
『キャラック級が接近しているのである。キャラック級の操縦者は、本船に接舷して操縦者を取り戻すと推測するのである』
『現状ではキャラック級が本船に衝突する可能性は九十パーセントである。現操縦者では対応不可能である。よって本船は超光速航行にて回避をするのである』
『第一プランの残存有人兵器の破壊による霊子の収集を断念するのである。第二プラン、超光速空間での艦隊殲滅による霊子の収集に移行にするのである』
『クローン脳による超光速航法開始するのである』
帆船が衝突する直前で、超光速航法に入ったレリックシップが消えてしまった。
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>『クソッ、レリックシップに超光速航法で逃げられた。電子頭脳、レリックシップはここに戻ってくると思うか?』
>『否定。戦艦は当船が幼生体を取り戻す為に行動中であることを知っていると推測。そしてこの宙域で戦うことは不利と判断し超光速航法で逃走。先に離脱した艦隊を追って襲う可能性大』
>『じゃあ、俺達もさっさと超光速航法に入って追いかけるぞ。ってその前に提督に通信は送っておくか』
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-ブラボー艦隊旗艦-
「超光速航法に入って逃げたか。しかし、シンデンの助力が無ければ危なかったところだな」
提督は、レリックシップが超光速航法に入ったことを知り、安堵のため息をついた。AI戦艦の突撃という無謀とも言える作戦でレリックシップ追い詰めていたかのように見えたが、シンデンの介入が無ければ、作戦は途中で破綻していたと提督は思っていた。
「レリックシップの捕縛はできなかったが、まあ仕方あるまい。本艦隊も超光速航法で追撃すべきなのだろうが、星域軍としてはこの状況を放置してはいけないか」
今首都星の衛星軌道には、大破、破壊されたAI戦艦や戦闘ドローンが漂っている。このまま残骸を残すと、ステーションや軌道エレベータ、最悪惑星場に被害が出てしまう。
「つまり、デブリ掃除をやるしかないか。しかし特大の不燃物ゴミってどこに捨てりゃ良いんだろうな」
そう呟きながら提督は肩をすくめた。
「提督、傭兵のレリックシップから通信が来ております」
「ん、シンデンからか。よし繋げ」
「はっ」
ブラボー艦隊旗艦のメインスクリーンにシンデンの姿(CG映像)が映し出される。
『俺はあのレリックシップを超光速航法で追う。貴艦隊は追跡してこないことを望む』
シンデンはそう一方的に告げると、通信を打ち切ってしまった。帆船はすぐさま超光速航行に入って言った。
「提督、あんな事を言われて追跡をしないとなれば星域軍の威信にかかわります。最低限の部隊を残して、我が艦隊は追跡すべきです」
シンデンの一方的な通信に副官は顔を真っ赤にして提督に「追跡」を進言してきた。
「いいか周りを見ろ。ローサンジェルの衛星軌道は星域軍の内戦によってデブリだらけだ。このまま放置すればステーションや軌道エレベータに危険を及ぼすだけではなく、地表に落下する可能性もある。それを放置することはできん」
「しかし、デブリ掃除など民間の業者に任せておけば…」
「馬鹿もん。星域軍が第一にすべきは、星域の人民の安全を守ることだ。しかし我々は軍拡派と穏健派に分かれて内戦をしてしまった。そのことをキャリフォルニア星域の民に見られているのだ。そして今ここで戦闘の後始末をせずに離脱などしてみろ、完全に民衆からの支持を失うのだぞ。軍の威信などより民衆の支持の無い事の方が重要だと分からないのか。そんな者は星域軍にいる資格は無い」
提督の言葉を聞いて、席を立って副官に同調しようとしていた艦橋のオペレータ達も席に座り直した。
「しかし、我が艦隊だけではデブリ掃除に時間がかかりすぎる。民間の業者にも協力を仰ぐ必要があるだろう。君は民間業者を知っているようだな。すぐに連絡を取ってくれたまえ」
「は、はいっ!」
一喝されて青ざめていた副官と艦橋のオペレータ達は、提督の言葉で落ち着きを取り戻すとデブリ掃除に向けて動き始めるのだった。
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