シンデンの参戦
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
俺達はステルスモード状態で、レリックシップへの攻撃の機会を窺っていたのだが、レリックシップが再び魔法を使い始めた瞬間、俺は違和感を持った。
>『今レリックシップが使った魔法だが、電子頭脳は何か感じなかったか?』
>『不明。魔法自体はショックウェーブと呼ばれる魔法。通常の魔法使いであれば発動可能』
>『そうか?今までレリックシップが使った魔法は魔法砲撃とシールドだけだったのに、さっきの魔法は違うよな。ショックウェーブの魔法だっけ、それが使えるならもっと先に使うだろ』
レリックシップがショックウェーブの魔法を使ったのは先ほどの一回だけであり、それ以後はシールドの魔法だけ発動している。俺はそのショックウェーブの魔法の発動に対して違和感を抱いていた。
>『戦闘宙域の魔力波計測ログから、レリックシップが使った魔法のデータのみを抽出。……データの抽出完了。ショックウェーブとシールド魔法における魔力波を比較。魔力波は一致。魔法を発動した人物は同一と確定。魔力波パターンから個人を特定。マスターが保護した幼生体と一致』
電子頭脳言う魔力波とは、魔法使いが魔法を使うたびに発生させる波紋の様な物である。その魔力波は個人で波形が異なるようで、それによって魔法の使用者が特定できるらしい。魔法使いであれば魔力波を感じられるが、個人を特定するほどの正確さは無い。そして人類の精神系技術は魔力波の存在と検出まで辿り着いていない。霊子まで記録できる性能を持つ帆船だからこそ、魔力波から個人を特定できたのだ。
>『シンデンの娘があの船で操縦しているのか。俺が感じていたのは娘の存在だったのか』
>『…バックアップ霊子が魔力波センサーの出力から、シンデンの記憶と魔力波データを検索した可能性…』
>『理屈なんてどうでも良いんだよ。シンデンの娘があの船に乗っていることが重要だ。つまりあのレリックシップは娘を取り返すまで撃破なんてできないって事だ』
>『肯定』
>『何か良い手は無いのか。魔弾とか使えばあの船を魅了できるとか…』
>『魔弾は戦艦も情報を所持。本船に対して戦艦は魔法に特化した船。本船の持つ魅了の魔弾は効果無。破壊に特化した光速魔弾であれば効果有』
>『光速魔弾なんて撃ち込んだら、シンデンの娘に当たるかもしれないだろ。しかし魔法特化な船だから魅了も効果無しと。…あれ、魔法特化なのにレリックシップには仮面もないし魔石も付いてないよな?』
星域軍の魔法使いが乗っていた有人兵器は魔石が埋め込まれた仮面を付けていた。しかしレリックシップにはそのような物が見当たらない。魔法の発動体である魔石を壊してしまえばたとえレリックシップでも魔法を使えなくなる。俺は魔石があるか見つけようとしたのだが、
>『魔法の発動体である魔石を外部に露出しているのは、人類の魔法技術が未熟なため。戦艦の魔石は船体中央の操縦室の背後に存在』
>『その位置じゃ、魔弾で打ち抜くとか無理だな』
電子頭脳がレリックシップのどの辺りに魔石があるか見せてくれたが、戦艦の艦橋(に見えるセンサー集合体)直下の操縦室の真後ろに存在していた。操縦室も魔石も重要なので、一緒の場所に置くのは正しいが、シンデンの娘を助け出すためには魔法を無力化したい俺達には困った配置である。光速魔弾では威力がありすぎるため、命中箇所が少しズレただけで魔石もろとも操縦室が吹っ飛ぶだろう。
>『こうなったらステルス状態で接近してドローンを乗船させるか…』
>『ドローンを放出した時点で、戦艦が本船を探知。ステルス機能を追加するには最短三十分は必要』
>『ステルススーツの予備を用意しておくべきだったか』
俺は後悔するが、まさか探していた娘がレリックシップに乗っているとは想定外であった。
>『注意。星域軍の人型機動兵器が破壊される可能性大』
俺と電子頭脳のやり取りは正に光の速度で行われているが、それでも戦闘は進んでいる。電子頭脳が注意を促さないと、人型機動兵器がレリックシップの魔法によって狙われている事に、俺は気づけなかっただろう。標的になっている人型兵器達は、ブラボー艦隊の無謀な作戦によって気を使いすぎ気を失った気功術士の物で、AIによる自動運転で後方に撤退中だった。理力使い達も守らなければいけない人型兵器が多く、手が回っていない。恐らくこの攻撃が成功すれば、五、六人の戦死者が出てしまうだろう。そうなればあのレリックシップが霊子を収集してしまう。
>『魔弾を使用して人型兵器を守れ』
>『…』
>『シンデン、マスターならそう命令するだろう』
>『了解』
電子頭脳は俺の命令を拒否しかけたが、シンデンの名前を出すことで命令を了承した。
既に舷側から顔を出していた砲塔から、人型機動兵器に向けてシールドの魔弾が発射される。魔弾はレリックシップの魔法で破壊される予定の人型機動兵器に命中すると、人型兵器を包み込む球体の魔法陣を出現させた。レリックシップの魔法砲撃はその魔法陣を貫けず消えさる。撃破を免れた人型兵器は次の魔法砲撃が発動する前に射程外に逃げ去った。
『ようやく見つけたのである』
魔弾の攻撃で帆船の存在を見つけたレリックシップから、喜悦混じりの通信が届く。俺にはまるで亡霊の声のように聞こえたが、電子頭脳は当然臆することなど無かった。
>『悪・即・斬』
>『電子頭脳さん、「悪・即・斬」って、それはどこの斉藤一ですか。それにシンデンがいないのだから斬は無理だって』
レリックシップの不気味な通信に萎縮しかけた俺だが、電子頭脳の応対に突っ込むことで、そんな気が吹っ飛んでしまった。
>『戦闘状態に移行。とにかく人命優先で行くぞ』
ステルスモードを解除した帆船の帆柱に薄青色に発光する光の帆が張られドクロマークの旗が掲げられる。上甲板には巨大な三連装の砲塔がせり上がってきた。
>『電子頭脳、星域軍の作戦を利用するぞ。AI戦艦に対して魅了の魔弾を発射。レリックシップに突撃継続だ』
帆船が突然出現したことで、ブラボー艦隊の動きが止まってしまった。突撃していたAI戦艦も動きを止めてしまったので、魅惑の魔弾を打ち込んでハッキングを行い、ブラボー艦隊の作戦通りにレリックシップに突撃させる。気功術士の人型兵器は作戦が継続されたと勘違いして戦艦に取り付こうとする機体もいたが、そちらには先ほどと同じくシールドの魔弾を打ち込んで動きを止めてしまう。
『邪魔だ、有人機は引っ込んでろ』
俺は共通周波数でブラボー艦隊に通信を送る。
『シンデンのレリックシップだと、どこから現れた』
『ふん、それぐらい自分で考えろ』
『シンデン、貴様はキャリフォルニア星域軍指名手配中だぞ。のこのことこんな所に出てきて、無事で済むと思っているのか』
『無事で済む?あのレリックシップから気功術士を助けてやったのは俺だぞ』
『ふん、攻撃しておいて本当に助けるつもりだったのか疑わしいものだ。それに我が軍のAI戦艦をハッキングしてレリックシップに突入させている事は重大な犯罪だぞ』
『AI戦艦を突入させていたのは元々星域軍だろ、それを手伝っているだけだ。それに元同僚の気功術士を使い潰すような作戦、無様で見てはいられなかっただけだ』
『ふん、星域軍から追い出された貴様ごときの手は借りん。こちらの攻撃の邪魔をするなよ』
『邪魔なのは有人兵器達だ。あのレリックシップの相手は、俺の船と無人兵器で十分だ。星域軍も撃破したくないのだろ。俺もあのレリックシップにちょっと用があってな。機能を停止させてもらう』
『ふん、貴様と無人兵器であのレリックシップを止められるというなら、やってみせろ。副長、AI戦艦の突撃を続行。気功術士部隊は補給のために一時帰還。状況が変わり次第再度出撃させる』
「はっ。…提督、あの傭兵を放置しておいて良いのですか?」
「我が艦隊の受けた命令は、レリックシップの拿捕だ。傭兵の帆船の捕縛では無い。目的を忘れるな。現場では臨機応変にしろと何時も言っておるだろうが」
「…了解しました。有人兵器の回収とAI戦艦の突撃を開始します」
ブラボー艦隊の提督だが、実は彼はシンデンの元上官だった。そしてシンデンが軍を去る事を手助けしてくれた人でもある。だからシンデンの真意を理解してくれていた。だから先ほどの通信のような三文芝居に付き合ってくれたのだった。
「(シンデンへの借りがまた増えたな)」
ブラボー艦隊提督は、レリックシップ向かっていく帆船を見つめてそう思っていた。
お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたらぜひ評価・ブックマークをお願いします。