ブラボー艦隊 対 レリックシップ
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
帆船が戦場に辿り着くとまでに穏健派艦隊は超光速航行で撤退を開始し、追いかけて軍拡派艦隊も超光速航行に入った。
残された無人兵器だが、穏健派の無人兵器は防衛行動以外の動きを停止し、軍拡派の無人兵器はレリックシップと戦闘中の艦隊に向かっていった。
>『両艦隊が超光速航法に入ったぞ。あのレリックシップも超光速航法に入ってしまうんじゃないのか?』
>『否定。戦艦の目的は霊子の収集。艦隊を追いかける前に周囲の霊子を収集すると推測』
>『しかし、残された艦隊は大量の無人兵器を持っている。レリックシップでもあれだけの通常攻撃を受ければ損傷するだろ』
>『戦艦が防御せず攻撃を受ければ損傷する可能性大。しかし魔法を使えば損傷の可能性は皆無』
>『つまり、今はあの艦隊の連中を守るべきって事か』
>『肯定』
帆船は全速航行を止めて、ステルスモードと光学迷彩を発動してレリックシップとそれを攻撃している艦隊に近づいていった。
★☆★☆
「よし、残存無人兵器の編入は終わったな」
「はっ、指揮権の引き継ぎを完了。レリックシップを包囲する位置に配置しました」
副官の言う通り、提督が見上げる戦術マップではレリックシップを包囲するように無人兵器と有人兵器が表示されていた。
「気功術士部隊の配置は」
「はっ、其方も提督の御指示通りに配置しましたが、このような作戦で良かったのでしょうか。後で問題になりませんでしょうか」
「このまま時間をかければレリックシップの魔法使いの精神力も回復してしまうだろ。その前に決着をつけるにはこの作戦しかない。準備は整ったな。AI戦艦をレリックシップに突入させろ」
「…了解。作戦を実行します」
ブラボー艦隊の提督がとった作戦とは、気功術士部隊の乗せたAI戦艦をレリックシップに突撃させるという物だった。AI戦艦の装甲とシールドであればレリックシップの通常攻撃なら数発は耐える。その間に質量弾となったAI戦艦が、レリックシップに衝突して動きを止め、取りついた気功術士部隊によって機能を停止させるという、星域軍の主計科が怒り狂いそうな豪快な戦術だった。ブラボー艦隊の提督は、レリックシップを撃破せず拿捕するに無茶な作戦が必要と決断したのだ。
『!』
三百メートル級のレリックシップに対して、AI戦艦は三~四百メートルの大きさ。自分と同じサイズの質量弾が無数に向かってくるとはレリックシップも予想できなかったのか、全火力にてAI戦艦の迎撃を開始した。
「レリックシップ、我が艦隊の質量弾を全て躱すことができるかな」
「(また提督が暴走している)」
ブラボー艦隊の提督は、堅実な戦術と用兵をする人物だが、希にとんでもない戦術や作戦を実行して星域軍の主計科から怒られるという人物であった。それで降格にならないのは、星域軍の戦略AIが提督の戦術・作戦の合理的と判断するからである。しかし提督の無茶な戦術・作戦を実行する副官以下の軍人は、ストレスで胃腸を病んでいる人が大半であった。
『ひゃっほー、AI戦艦ミサイルで移乗攻撃とか燃えるぜ』
『レリックシップとやり合えるとか、最高だぜ』
提督の無謀とも言える作戦だが、一部の気功術士から好評であった。
★☆★☆
>『AI戦艦を使い捨てのミサイルのように使うとか、この艦隊の指揮官は異常だろ』
>『否定。人類の戦艦でレリックシップを撃破・拿捕するには、この戦術は有効』
>『いや、それは分かるが。そんな作戦を思いついても実行する事ができるのが異常なんだよ。AI戦艦が幾らすると思っているんだ』
>『キャリフォルニア星域国民の平均年収の一万年分』
>『電子頭脳さん、聞いたのは俺だが、答える必要はなかったんだよ』
星域国の国民が見たら…いや、首都星の軌道上で戦っているのだから見られているはずだ。そして自分の年収一万年分以上するAI戦艦が、たった一隻の戦艦に突っ込んで撃破されていく映像を見せられては愕然とするだろう。俺も自分の懐とは全く関係無い話なのに、何故か存在しない胃が痛く感じていた。
>『レリックシップに気功術士が取りつきつつあるな。トカゲ人みたいな奴が出てきて戦っているが、あれは戦闘ドローンなのか?』
>『肯定』
>『あれが出てきたって事は追い詰められているって事だな、この隙を利用して俺達でレリックシップを破壊するぞ』
>『了解』
★☆★☆
-レリックシップ内部-
AI戦艦の突撃の効果はあり、少なくない数のAI戦艦がレリックシップに命中した。レリックシップの慣性制御は優秀であったが、巨大なAI戦艦残骸の衝突による衝撃を全て打ち消すことは不可能だった。
「ん、ここはどこ?」
僅かな衝撃が伝わってパイロットシートに座っていたキャサリンは目を覚ました。レリックシップによって強制的に魔法を使わされて精神力が尽きていたキャサリンだが、ある程度の精神力が回復したことで目を覚ますことができた。そして多数のAI戦艦の対応にレリックシップの電子頭脳が操縦者制御機能タスクの優先度を下げたことで、キャサリンは自由になっていた。
「そういえば、トカゲ人に無理やり座らされて…。ええ、その後どうなっていたっけ」
彼女がパイロットシートに座らされた時は真っ白だった部屋だったが、今は宇宙空間と自分に向かってくるAI戦艦が映し出されていた。映像に被るようにホロモニターが出て「緊急事態」表示されているが、キャサリンは理解できていない。そして体はパイロットシートに拘束されているため身動きすら難しい状態だった。
「きゃっ!」
キャサリンの目の前の映像でAI戦艦が爆発すると、そこから人型機動兵器が飛び出してきた。
『敵を排除せよ』
その時キャサリンの頭の中に声が響いた。この「声」はレリックシップの電子頭脳が、操縦者との魔力的な繋がりで送る念話である。レリックシップの電子頭脳はこの魔力的な繋がりを利用して操縦者の意識を乗っ取り操る。しかしAI戦艦や人型機動兵器の対応に処理能力を割いている状況の電子頭脳には、今は操縦者を直接操る余裕は無いため、「声」で命令を伝えるぐらいかできなかった。
「敵って一体何よ。それを言うなら私をこんな所に押し込めた貴方の方が敵でしょ」
どこにいるかも分からない声の主に対してキャサリンは怒鳴り返すが、『敵を排除せよ』と繰り返すばかりであった。
「もう、どうしたらこれから抜け出せるのかしら」
キャサリンはパイロットシートから抜け出そうと試みるが、十二歳の少女の力ではびくともしなかった。
「こうなったら魔法を使って…。攻撃魔法じゃ自分を傷つけちゃうわ。確か体から衝撃波を出して周囲の物を吹き飛ばす魔法があったはず。えーっとこれだったわね…えいっ」
パイロットシートの拘束を魔法で何とかしようと、キャサリンは、「ショックウェーブ」という魔法を使ったが、魔法は発動しなかった。
「ええっ、どうして」
魔法が失敗したことにキャサリンは驚いて周囲の映像まで見る程気が回っていなかった。魔法は失敗したわけではなく、発動対象がレリックシップとなっていたのだ。つまりレリックシップに取りついている人型起動兵器やAI戦艦、その残骸などはキャサリンが放った衝撃波(船により威力は増幅されている)により吹き飛ばされてしまった。
『敵の排除に成功。操縦者制御タスク再起動』
「ヒッ!」
当面の敵の排除に成功したレリックシップの電子頭脳により、キャサリンはその意識を再び乗っ取られることになった。
ブラボー艦隊、手短に書き終えるはずが、何故か頑張ってしまった…
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