レリックシップの参戦
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
ステーションから出航した戦艦は、一路内戦が行われている宙域を目指して進んでいった。宇宙船とは思えない海上戦艦の姿をしたレリックシップは、同じレリックシップである帆船とひけを取らない速度を発揮していた。
>『おいおい、どうしてブラックマーケットで売っていたレリックシップが内戦に出しゃばってきてるんだ。軍拡派とブラックマーケットは繋がっていたから、それで参戦したのか?それにしてはタイミングがおかしいな』
>『出港についての理由は不明。ブラックマーケットも混乱中。主催者は逃亡を準備中』
>『ブラックマーケットの主催者が逃げ出すって…。あのレリックシップは主催者の意向で出撃したんじゃないのか』
>『肯定。戦艦を誰が動かしているかも不明』
>『不明って、誰が動かしてるかぐらい監視カメラを映像から分かるだろ』
>『ブラックマーケットの主催者IDで監視カメラ映像取得。カメラ映像に搭乗者の情報無。映像が偽装されている可能性大』
>『なるほど。ステーションの監視カメラにハッキングかけられる人物が乗っていると。レリックシップを盗むならそれぐらいやれる連中だろうな。しかし貴重なレリックシップを盗み出したのに、わざわざ内戦に参加するのはどうしてだろう。まさかレリックシップの性能を試したいってことか?』
>『否定。船の電子頭脳が戦いを要望』
>『電子頭脳が戦いたがるって、…そういえば電子頭脳さんはあのレリックシップの情報を欲しがっていたよな。あの船について何か知っているのか?』
>『不確定情報』
>『不確定情報でも良いから教えろって…これは』
電子頭脳が俺に見せた情報が正解であれば、あのレリックシップは戦う為に内戦に介入しようとしている可能性が大きい。何故そんな事を電子頭脳が知っているかというと、あのレリックシップと帆船は同じ時代に作られた船だからだ。帆船を作った異星人は、水上船のデザインを模した宇宙船を作るという思想というかデザインセンスがそうだったらしい。まあ超光速空間とか海のように感じられるのだから、水上船のデザインを持ってくるのは正しいかもしれない。
現にこの帆船は、帆を張ることで超光速空間で速度を上げたりできるのだ、水上船のデザインは超光速航法と相性が良いのだろう。そしてそれが地球の古代の船に似ているのは、まあ水上船の収斂進化みたいな物なのだろう。現に帆船もよく見れば地球の物とは異なっている。
>『あのタイプの船の電子頭脳は、操縦者をコントロールする機能を搭載。本船とは設計のコンセプトが相違』
>『そんな機能まで。…んっ?バックアップ霊子がシンデンを操っているのは、それとは違うのか?』
>『本来バックアップ霊子はマスターと同一。よってバックアップ霊子が肉体を操るのは当然の行為。しかし現在の肉体とバックアップ霊子が不一致である状態は本船の機能としては想定外』
>『なるほど。じゃあ、あの船は操縦者を操って戦いに向かっている可能性もあるのか』
>『操縦者がいない状態での行動は不可能。操縦者が操られているかは情報不足にて不明』
電子頭脳とそんなやり取りをしている間に、レリックシップは軍拡派と穏健派が戦っている宙域のど真ん中に突っ込んでいった。
★☆★☆
軍拡派が有人兵器と禁忌技術を使ったドローンを出したことで、穏健派は苦しい戦況に立たされていた。有人兵器同士は互角でも、無人兵器では禁忌技術を使ったドローンには手も足も出ない。何しろ禁忌技術を使ったドローンは理力や魔法を使ってくる。禁忌技術を使ったドローンに対抗できるのは有人兵器だけだが、そちらは有人兵器同士の戦いで手一杯であった。穏健派艦隊はAI戦艦や戦闘ドローンが次々と禁忌技術を使ったドローンに破壊され、既に有人戦艦も何隻か撃破されていた。星域軍の有人戦艦は乗組員を保護するための機能が充実しているので、戦死者は少ないのだが、それでもゼロでは無い。そして数少ない戦死者が出てしまったことで、穏健派の士気は落ちていった。
-穏健派艦隊旗艦-
「提督、このままでは我が方の戦線が崩壊します」
「禁忌技術を使ったドローンが厄介すぎるな。何か手は無いのか」
提督は副官に尋ねるが、
「有人兵器であれば対応できるのでしょうが、軍拡派の有人兵器の相手もしなければならず、戦力が足りていません」
提督にも分かりきった返答を返すだけだった。
「何か状況を変える一手が欲しい」
提督は旗艦の戦術マップを睨みながら、唸っていた。
「ステーションから三百メートルクラスの宇宙船が発進。本宙域に向かってきています」
提督が戦況をひっくり返す手を考えているところに、索敵オペレーターが、ステーションから発進した船があると方向を上げる。すぐさま手前の戦術マップにその船が表示されるのだが、
「今ステーションは封鎖状態のはずだな。となれば出てきた宇宙船は民間船ではない。ステーションと言えばブラックマーケット。つまり…」
「あの宇宙船はステーションの正規の宇宙港ではなく、外壁を破って出港した模様。おそらくあの宇宙船はブラックマーケット所属かと思われます」
「ブラックマーケットの連中が勝ち馬に乗りに来たか。穏健派が勝利しても取り締まりを強化しないと伝えてあったが、軍拡派の方が有利になったら出てくるとは。軍拡派と繋がっていた連中を信用するだけ無駄だったか」
提督は戦場に割って入ろうと近づく宇宙船を睨み付けて、悔しそうな顔をする。
軍拡派に組みするブラックマーケットの船が加わることで、穏健派は更に劣勢になると提督は思ったのだが。
「ステーションより出航した宇宙船が発砲。いえ、これは魔法による攻撃です。そして狙いは敵旗艦です」
索敵オペレーターが伝えてきたのは穏健派の提督の予想を裏切るものだった。
★☆★☆
-軍拡派艦隊旗艦-
「参戦要請を送った我が方に攻撃を仕掛けてくるとは、ブラックマーケットの連中は何を考えている。戦況が分からないのか、それとも穏健派に寝返ったのか?」
ブラックマーケットのレリックシップの参戦に、「これで勝った」とほくそ笑んでいた軍拡派の提督は、逆に攻撃を受けて慌てていた。なおレリックシップからの魔法攻撃は護衛の理力使いが防ぎ、旗艦は無傷で理力使いと共にマナの濃い場所に移動している。
「レリックシップから、再度魔法攻撃を確認。目標は当艦です」
第二次世界大戦の水上戦艦…まあ大日本帝国の誇るヤマトにソックリな形をしたレリックシップは、主砲である三連砲塔の砲身に魔法陣を浮かべると、砲撃のように攻撃魔法を発射した。ブラスターに似た三条の攻撃魔法が、途中で一条にまとまると、旗艦を狙って迫ってくる、旗艦は何とかマナの濃い場所に移動が間に合い、理力使いによる防御フィールドで防ぐ事に成功した。
「護衛の理力使いから入電。『我精神力の枯渇により、術の発動不能。直ちに撤退を開始す』だそうです」
「ええい、肝心な時に役に立たない理力使いめ。こうなれば新型ドローンの半数を旗艦の護衛に呼び戻せ。残りはあのレリックシップを攻撃せよ」
「て、提督、あのレリックシップを撃破してしまうのは不味いのではありませんか」
提督の決断に、副官が慌てるが、それもそのはずである。実は新型ドローンに搭載されているクローン脳ユニットを作り出しているのは、旗艦に攻撃を仕掛けているレリックシップだからである。つまり撃破してしまっては新型ドローンが作り出せなくなってしまうのだ。
「こちらに攻撃を仕掛けてくるのだ、それを何とかせねばなるまい。攻撃は武装や推進機を狙うのだ」
「は、はい、その様に新型ドローンに指示を送ります」
新型ドローンの制御は全て旗艦で行われていた。レリックシップに襲われた事で軍拡派の提督は新型ドローン呼び戻し、旗艦の護衛とレリックシップへの攻撃に割り当てた。
これによって戦況は大きく変わり、双方互角の状態となった。
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