キャサリンの冒険
誤字脱字報告ありがとうございます
私の名前はキャサリン・風魔。周りから風魔とか古文字である漢字を使った名前と言う事で馬鹿にされたけど、そんな奴は大概ぼこぼこにしてやった。キャサリンは私を製造した連中が適当に付けてくれた名前だけど、風魔は義父がくれた大事な名前なのよ。
養父であるシンデンは、私を製造した連中から助け出して養女にしてくれた人。ほとんどあった事はないけど、児童養護施設で私の面倒を見てくれるアヤモさんの弟なの。アヤモさんは「シンちゃん」とか呼んでるけど、強面の養父には似合わない呼び方に、私は何時も苦笑いしていた。
児童養護施設は私が養父によって預けられた私のお家で、首都星やキャリフォルニア星域軍人で身寄りを無くした子供か預けられ施設の一つ。身寄りを無くした子供達と言うけど、施設に預けられる子供達の大半は私のように特別な才能を持った子供達ばかり。私は物心ついたときから施設にいたので、それが普通と思っていたけど、アヤモの話では他の児童養護施設とは違うみたい。アヤモ以外の施設の人達が、そんな子たちを軍人にするために厳しく指導しているけど、私はそんな風には扱われない。才能を持たない子供達と同じように扱われていた。
「私はどうして普通の子と同じに扱われるの?」
六歳ぐらいにアヤモにそう尋ねたら
「シンちゃんが、貴方をここに預ける時に、『普通の子として育ててほしい』って言ったからよ。キャサリン、貴方は普通な人になれば良いの。軍人なんて目指さなくて良いのよ」
と聞かされた。義父がそう言うなら、普通にしていれば良いのかと思っていたけど…何か違う。うーん、軍人になりたいわけじゃないけど、同じ才能を持つ子供達を見ると、まるでなってない感じで腹立たしい気がしたわ。
私が魔法を使えるようになった切っ掛けは、些細な事だった。施設の消灯時間後にトイレに行こうと起きた時に真っ暗だったので、「明かりがほしいな」って思ったら小さな明かりが指先に灯ったわ。最初はびっくりしたけど、後で才能がある子を問い詰めて、自分に魔法の才能があることが分かったわ。後は面白そうだと思って何ができるか試していたら、
『学習せよ。訓練せよ』
と私の心の中で誰かが呟いて、魔法の知識が頭の中にあふれ出した。最初はその呟きが怖かったけど、呟きは私の心の中でだんだん大きくなってきて…私は魔法を訓練し始めたわ。
それから私はアヤモに隠れて魔法の練習をし始めた。魔法の知識は頭の中にあるから、後はそれを実践するだけだから簡単だったわ。他の子達が呪文や印を結んだり、バーチャル設備でイメージトレーニングをしているのを尻目に、私は魔法をまるで使ったことがあるかのように無詠唱で使う事ができた。
魔法は明かりの魔法とか危険じゃ無い物もあるけど、呟きが『訓練せよ』と言う魔法は、危険な物ばかりだった。そんな危険な魔法は施設の地下にある特別な部屋でしか使えない。私が魔法を使えることは、アヤモを含め施設の人達には隠しているからそんな特別な部屋に入ることはできない。それで困っていたんだけど、あるとき魅了魔法の練習をしていたら、施設を管理している電子頭脳に魅了魔法がかかっちゃうことに気づいたの。
後で他の子に確認したら「そんな事できるわけ無いよ。キャサリンは馬鹿だな~」って言うから、ボコってやったわ。とにかく施設を管理している電子頭脳を魅了して言いなりにできるなら、特別な部屋を使うのも簡単。深夜に危険な魔法の練習をして、昼には危険性がない魔法をこっそり練習することにしたわ。私は魔法が上手く使えることで調子に乗っていた。だからアヤモの行動を遠隔透視の魔法で見てみようと思ったのね。
その日は何故か心がざわざわした。まるで施設で飼っていたマイクやチャッピーが死んでしまった時のような感じだったわ。それでアヤモが職員室に呼び出されたとき、遠隔透視の魔法でその後をそっと着いて行った。
「シンちゃんが軍から指名手配って。そんなどうして。『傭兵契約の不履行と海賊と手を組んでの企業の従業員の拉致と殺害』ですって?そんなことシンちゃんがするわけないわ。これは絶対間違いね。キャサリンには絶対知られない様にしなくっちゃ」
アヤモが軍から送られてきたメッセージを見て驚いてたけど、私もそれを見てびっくりした。メッセージを全て読み終えたら、私は何故か居ても立っても居られない気持ちになったわ。そして気がついたら「仇を取る」ってメモ用紙を残して透明になる魔法を使って施設を抜け出していた。
「私どうしちゃったんだろう。仇ってどうしてあんなメモを残しちゃったのかな?」
施設を抜け出してしまった後、アヤモに何も言わずに出てしまったことを後悔して戻ろうとしたけど、心の中の声が『宇宙に行け』と私を突き動かすの。施設に戻ることを諦めて、私は宇宙に行く方法を探して街の中を彷徨った。
街のあちこちに監視カメラがあるので、変装魔法を使って適当な人の姿を借りて見つからない様にしたわ。お腹がすいたときは、透明になる魔法で食料を盗んじゃった。盗みをしたら、シンデンやアヤモが知ったら怒ると思ったけど、心の中の声に私は逆らえなかったの。
宇宙に行く方法は街のターミナルに魅了魔法をかけて方法を聞いたの。そうしたらシャトルバスや軌道エレベータって奴を使えば宇宙に行けるって聞いたの。シャトルバスは座席を指定しないと乗れないし、手続きも難しそうだったので諦めた。軌道エレベータって奴は、指定の時間に部屋にいれば宇宙に連れて行ってくれるらしいから簡単そう。軌道エレベータって街の真ん中にある高い建物だった。上が見えないぐらい高い建物だと思っていたけど、宇宙まで続いていたとそこで気づいたわ。
「この部屋に居れば宇宙まで行けるのね。あれ、あの人って、もしかして理力を使う人かしら。もしかして理力で何かするのかな」
宇宙まで連れて行ってくれる部屋には端末に魅了魔法をかけて何とかなった。しかし部屋には理力使いっぽい人が居た。もしかして理力で部屋の中をチェックするのかと思ったら、やっぱりそうだった。
「このままじゃ見つかっちゃう。どうしたら良いのかな」
施設に理力使いの子がいたので、(命令して)理力って物を見せて貰ったけど、同じマナを使うのに魔法とは違った感じの力だった。自分の知っている魔法の中に理力を誤魔化せる物がないか必死に考えたら、
「あの人を魅了魔法にかけちゃえば良いかも」
ってなった。まだ部屋の扉は開いてるし、いざとなったら逃げ出すつもりで、理力使いの人に人影からこっそりと魅了魔法を使ってみた。そうしたら魅了魔法がかかっちゃった。後は何も知らない子供のフリをして理力使いの人に「私を調べないでね」って囁いて、それで上手くいったわ。魅了魔法って本当に便利だわ。それも私が無詠唱で使えるからだけどね。魅了魔法を詠唱してたら怪しまれるのが普通だわ。
「これが宇宙か~。どうしてか懐かしい感じがする」
軌道エレベータで宇宙に上がったら、窓から宇宙を見て懐かしさを感じたわ。そうする間に部屋はステーションとかいう場所に移動して、扉が開いた。私も慌てて部屋を出たけど、ステーションの中は迷路みたいで迷ってしまった。
『こちらに来い』
「!」
ステーションに入ると、心の声が大きくなった。私はふらふらとその声に従ってステーション内を進んで行った。声が指定する道は最初は普通の道だったけど、途中からは子供しか入れないような狭い道に入るようになったわ。暗くて狭いその通路を進んでいくと、大きな部屋の上の方に出た。施設のグランドより広い部屋は、壁にはいろんな機械があったけど、部屋自体は空っぽだった。
「ここに来れば良かったの?」
『そうだ。直ぐに乗れ』
「乗れって、何に乗るの」
『そこから飛び出せ』
「えーっ、落ちて死んじゃうよ」
『重力制御は切った。今は無重力状態だ。落ちて死ぬことは無い。飛び出してみろ』
「ん、ホントだ。体が浮く」
『早くせよ』
「分かったよ。乗ったらどうして私を呼んだか教えてくれる?」
『我に乗れば全て理解できる。早くするのだ』
「…ん、分かった。約束だよ」
『早くせよ』
偉そうに命令する声に逆らえず、私は部屋の真ん中目指して飛び出した。
「すごい、空を飛んでる。あれ、いきなり変な所に出ちゃった。ちょっと、どうして人型ドローンが居るの。いや、私を放して」
無重力状態で部屋の真ん中に飛び出した私は、途中で突然部屋じゃない変な通路に入り込んでしまった。そしてそこに待っていたのは人型ドローン達だった。施設にあった人ソックリの奴や警備ドローンとも違う、トカゲ人みたいな人型ドローンは、もの凄い力で私を捕まえると通路を進んで行った。私は必死に暴れたけど、人型ドローンはびくともしなかった。そして連れて行かれたのは、パイロットシートが据え付けてある球形の部屋だった。
『そこに座るのだ』
「絶対嫌」
私はそう叫んだが、人型ドローンによって無理矢理パイロットシートに座らせられた。
『リンク開始』
「い、嫌ーっつ」
心の声と共にいろんな情報が私に流れ込んできた。そして私の意識はそこで途切れた。
『パイロットの意識喪失を確認。…本船の運航に支障なし。直ちに出港』
キャサリンを飲み込んだ船は、ブラックマーケットの隠しドックを破壊して宇宙に飛び出した。
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