キャリフォルニア星域軍の内戦
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
キャリフォルニア星域軍の内戦は、双方が有人兵器を持ち出したことで戦況が振り出しに戻った。
『お前とは一度戦って見たかったぜ』
『私は貴方なんかと戦うつもりはないわ。狙いは新型のドローンのみです』
『はっ、あんな紛い物と戦っても楽しくないぜ。俺と殺し合おうぜ!』
気功術士は気を操る上で武道を習うことが多い。それゆえか自分の力を試したくてしかたのない者や、武人として道を究めようとする者などがいる。そんな気功術士の操る人型機動兵器は、慣性制御と気のフィールドを纏うことで物理法則を無視した動きで戦う。練達の気功術士の操る人型機動兵器同士の戦いは、他者が入ることを拒むかのようなフィールドができてしまう。いやそこに入り込んでしまった無人戦闘ドローンなど、あっという間に破壊されてしまう。
『チッ、以前より気を練るスピードを上げやがったな』
『其方こそ、気の使い方に無駄が無くなりましたわね』
人型機動兵器による、腕や足、刀や槍を使った文字通りの格闘戦があちこちで繰り広げられる。
気功術士の個に特化した戦いに比べて、理力使いや魔法使いは、単独では戦闘ドローンを撃破する程度の術しか放てない者が多いため、三~六機の集団で術を行使して戦う。単独でシンデンに戦いを挑んだホッケーマスクのような術士は希なのである。
魔法使い達が乗る有人兵器は、一見すると気功術士の乗る人型兵器に似ているが、足が無かったり大きさも三~四十メートル前後と大きい。そして顔の部分に魔法の発動媒体である魔石が埋め込まれた仮面を付けているのが特徴である。そして魔法使い達は星域軍人とは思えない「派手な」又は「地味な」衣装を着用している。この服装は魔法使い各自が「最も魔法が使いやすい勝負服」なのである。
『”神の雷”を準備せよ』
『『『『はっ』』』』
『『『『『マナよマナよ、ここに集いて我らが敵を滅ぼす雷となれ』』』』』
リーダー格の魔法使の有人兵器を中心に、部下である魔法使いの有人機が手を繋ぎ機体を連結して輪を作る。全員が同調して呪文を集団詠唱することで仮面の魔石が煌めくと、巨大な魔法陣が宇宙に浮かび上がる。
『大規模魔法の展開を確認したわよ~。協力して防御陣を展開して、あの攻撃を防ぎますね~』
『『『『『はーい』』』』』
魔術に対する理力使いの乗る有人兵器は、ホッケーマスクの海賊船に似た、マニピュレータを搭載した四十メートルほどの中型宇宙船である。理力使い達は、リーダー格を中心にVの字の編隊を組むと、同時に九字を切り印を結び術を発動する。そしてキャリフォルニア星域軍の理力使いは、全員マッチョな体格で、リーダは姉御肌の女性かオネエ言葉のおっさんであることが多い。
『”神の雷”』
魔法により放たれた巨大な雷撃は、物理法則を無視して宇宙を駆け抜ける。途中にいた無人戦闘ドローンを飲み込んだ雷撃は、AI戦艦を縫うように避けて有人戦艦に突き進む。
『金剛陣!』
有人戦艦に雷が飲み込まれる、その直前で理力の防御フィールドがそれを受け止める。
『各自、次の発動場所まで分散して移動せよ。護衛の戦闘ドローンは、術者の防御に全力を尽くせ』
集団魔法を発動した後の宇宙空間ではマナが不足するため、魔法使いは連結を解いて個別に次の集合場所に移動する。
『マナが不足しているので、艦長さん移動お願いしますね~』
『了解した。護衛感謝する』
『あらん、お礼なら戦争の後でお願いするわーん』
『…』
そして防御に術を使った理力使い達は、マナが枯渇した場所から有人戦艦と共にマナが豊富な場所に移動していく。
魔法使いと理力使い、攻撃と防御を入れ替えながら術を行使し、どちらかの術が相手の防御を破るか精神力が尽きて術が発動できなくなるまで戦い続けるのだ。
★☆★☆
>『穏健派が勝ってくれれば良かったのに、有人兵器と赤と黒のドローンが出てきた辺りから軍拡派が有利になったな』
>『肯定。理力と魔法を使っている事から、赤と黒のドローンは禁忌技術を使ったドローンと確認』
>『軍拡派が、なりふり構わずに勝ちにいったか』
>『肯定』
>『こうなったら、俺達が穏健派に手を貸すしかないか』
>『否定。今はまだ双方の戦力大。もう少し戦力損耗の後を推奨』
>『しかし人が死ぬのを黙って見ているのは、シンデンの流儀じゃない。罠を仕掛けられたとはいえ、キャリフォルニア星域軍にはシンデンの知り合いもいる。記憶を見てしまった俺に、”戦いに参入しろ”って霊子が囁くんだよ』
>『バックアップ霊子に影響を及ぼす霊子は非在』
俺と電子頭脳は、ステーションのカメラが捕らえたキャリフォルニア星域軍戦いの映像を見ながら、帆船が参入するかどうかで議論していた。
★☆★☆
-ステーション、ブラックマーケットの一角-
「SOUND ONLY」と表示された四つのホロモニターが浮かぶ会議室では、ブラックマーケットの主催者達がリモートで集まって会談を行っていた。
№1モニター
「軍拡派の提督から『ブラックマーケットからも戦力を出せ』と要請が来た件」
№2モニター
「馬鹿をいうな。確かに俺達は軍拡派と繋がっていたが、内戦に干渉するつもりは無いぞ」
№3モニター
「あの提督ならそう言うんじゃね。まあ無視しておこうよ。後で金でも渡せば良いでしょ」
№4モニター
「いや、あの馬鹿提督なら、戦闘に勝った勢いでブラックマーケットを制圧しようとするかもよ」
№3モニター
「そこまでやるかな~」
№4モニター
「それぐらい馬鹿なんだよ」
№2モニター
「いや、さすがにそこまで馬鹿では無いと…思いたい」
№1モニター
「提督からの参戦要求が多すぎる件。面倒なので多数決で決めたい。自分は賛成」
№2モニター
「反対」
№3モニター
「反対」
№4モニター
「賛成」
№1、2、3,4モニター
「「「…」」」
№1モニター
「多数決で決まらなかった件について」
ブラックマーケットの主催者達が間抜けた会議をやっている間、ステーションの一角にあるブラックマーケットの隠しドックから、一隻の宇宙船が出航しようとしていた。
「おい、誰だあの隠しドックを動かしているのは?」
「分からん。それにあのドックの監視カメラには何も映ってない。船なんか存在しないドックで何が動いているんだ」
「それは俺が聞きたいよ。星域軍の戦闘中に、隠しドックを開いてしまったら不味いんじゃないのか」
「よし、ドックの電源を切断した。…これでドックのハッチは開かない」
「いや、待てあの監視カメラのモニターを見ろ」
「ドックのハッチを破壊して、何か…いや戦艦のような宇宙船が出て行った?」
「どうする?」
「俺が判断できるわけが無い。隠しドックの中身についてはブラックマーケットの主催者の管轄だ。今丁度会議中だし、そこに報告して判断して貰うしかないだろう」
「俺達、叱責程度で済むかな」
「俺は逃げる準備をするぜ」
「待て、俺もだ」
隠しドックを管理していた二人は、逃げ出す前に「ブラックマーケットの隠しドックから宇宙船出港していった」という報告会議室に送った。それを聞いた主催者達は、不毛な会議を止めるとブラックマーケットの店じまいをすること全員一致で決めて、会議を終了させたのだった。
★☆★☆
>『あの白い気功術士の人型兵器は強そうだな。カメラもそっちを追いかけろよ』
>『否定、あの赤い人型兵器の方が戦闘力大』
>『いや、あの白いのが勝つだろ』
>『否定、あの赤い気功術士の人型兵器が勝利する確率大』
ブラックマーケットで起きている事も知らずに、俺と電子頭脳は気功術士の戦いに気を取られていた。
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