施設からの逃走と内戦の始まり
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
「姉さん、俺の指名手配はキャリフォルニア星域軍による陰謀だ。その証拠はキャリフォルニア星域軍やハーウィ星系軍、傭兵ギルドにも提出してある。だが、キャリフォルニア星域軍は俺の指名手配を取り消さないだろうな」
「…そうね、シンちゃんが嫌いな人型ドローンを操ってまで、わざわざここに来たって事は…そういうことなのね」
>『アヤモはとっくに人型ドローンと見破ってたのか。TOYO社の技術も姉の洞察力には勝てなかったようだな』
>『ステルススーツの偽装は完璧。人との区別は不可能』
「姉さん実は俺は…」
「…貴方はシンデンですらない」
>『ええっ、そこまで見破られていた』
>『…理解不能』
「どうして俺がシンデンでは無いと分かった?」
「だって、シンちゃんならここから”逃げ出す”って言うわけがないわ。ここはシンちゃんの家だったのよ、本物なら”家出”って言うでしょ」
>『そんな事で…。いや確かにシンデンは施設を自分の家の様に思っていたんだろうけど、そんな事は記憶からは読み取れないわ』
アヤモはどや顔をするが、何か姉弟の絆的な事で見破られたと思っていた俺はガッカリしてしまった。
「…そうか。アヤモさん、俺はシンデンじゃないけど、キャサリンの事は、…俺の実の子のように心配してる。だから必ず連れて帰ると約束するよ」
「そう。それで本当のシンちゃんは一体…」
「シンデンは、…彼は今。」
俺がシンデンの事を伝えようか迷ったところで、談話室び包囲を完了した警備ドローンが談話室になだれ込んできた。
>『直ちに撤退を推奨』
>『…分かった』
襲ってくる警備ドローン(某人類最強女性を模した人型ドローン)の腕を躱し、人型ドローンはステルススーツの機能を使って姿を消す。アヤモは光学迷彩で消え去った人型ドローンに驚いたようだが、警備ドローンが彼女を要保護者として運び去っていった。
>『アヤモさんを人質に取られるかと思ったが、警備ドローンに取っちゃ職員だからそんな事はしないのか』
>『この施設の職員は軍人若しくは退役軍人。人質に取ればキャリフォルニア星域軍の権威は失墜』
>『禁忌技術の使用がリークされてるんだから、既に失墜してるだろ』
人型ドローンは姿を見失って辺りを見回す警備ドローンの間をかいくぐり、まんまと談話室を抜けだした。そしてロック解除コードがシンデンがいた当時と同じであった裏口を使い、施設から脱出した。裏口が開いたことで警備ドローンが集まってくるが、ステルス状態の人型ドローンを見つけ出すことはできない。人型ドローンは施設から軌道エレベータに向けて走り出すが、施設を出てまで追いかけてくる警備ドローンはいなかった。
>『逃亡は成功したようだな。それで首都星の警察機構と星域軍の地上部隊は動き出したのか?』
>『否定。警察機構は軍部と独立。星域軍から正式な要求が無い限り無対応。キャリフォルニア星域軍は禁忌技術の使用問題で、軍拡派と穏健派が内部抗争中のため、地上部隊も迂闊に動けないと推測』
>『なるほどな。警察と軍隊でいがみ合うのは未来でも一緒か。それで、シンデンの娘の捜索状況はどうなってる。首都星がこんな状況じゃ進展してない気もするが』
>『肯定。幼生体が魔法を行使可能であるなら、姿を別人に変えたり光学迷彩も可能。よって監視カメラでの探索成功確率は極小と推測』
>『理力や魔法があるのにその辺は対策できてないのか。しかたない、このまま当てもなく捜索するのも時間の無駄だし、一旦人型ドローンを船に戻すとするか』
>『人型ドローンがステーションに戻る事は不可能。先ほどから、軌道エレベータ及びシャトルバスが運行を停止』
>『運行停止って、宇宙で何か起きたのか?』
>『衛星軌道で軍拡派と穏健派の艦隊が戦闘を開始』
>『それは内戦状態に入ったって事かよ』
>『肯定。ステーションも戦闘に巻き込まれる可能性大』
>『ブラックマーケットが軍拡派と繋がっているから、ステーション内部でも戦闘が始まるかもか』
>『可能性大』
キャリフォルニア星域が内戦状態となり、人型ドローンを帆船まで戻す手段が無くなってしまった。そしてステーション内部も一触即発の状況である。
俺は人型ドローンの制御を電子頭脳に任せて意識を船に戻し、軍拡派と穏健派の艦隊戦の様子を窺うことにした。
★☆★☆
首都星ローサンジェルの衛星軌道上では、軍拡派と穏健派の艦隊が部隊を展開し、AI戦艦や無人戦闘ドローンを戦わせていた。
『禁忌技術を使った軍拡派の連中をキャリフォルニア星域から追い出せ。そうしなければキャリフォルニア星域が潰されるぞ』
『軟弱な穏健派め。禁忌技術を使ってでも勝てば良いのだ』
『星間ルールに従って、戦争に勝てば良い。そう言って我らの星域を支配した貴様らが、星間ルールで禁止されている禁忌技術を使用する。兵士諸君よ、おかしいと思わぬのか』
『はあ、負け犬の遠吠えだな。勝てば官軍、負ければ賊軍。星間ルール以前から戦いとはそれがルールなのだ』
軍拡派と穏健派の提督が舌戦を繰り広げる中、有人の戦艦は動かず、AI制御の兵器だけで戦闘を行っていた。同じ星域軍のAI兵器であり性能は互角。そんな兵器同士が戦うのであれば、戦力が多い方が勝利する。まれに有能な指揮官の戦術で数の劣勢を覆して勝つ場合もあるが、そんな奇跡は起きない。
元々キャリフォルニア星域軍では軍拡派の方が多数を占めていたが、禁忌技術の利用という、重大な星間ルール違反の情報がリークされてからは、穏健派の方が勢力を増やしていた。現状では穏健派の方が戦力的に多く、まだ有人戦艦は落とされていないが、このままでは穏健派の勝利で終わるかに見えた。
しかし、軍拡派のリーダーである提督の一人は、諦めてはいなかった。
-軍拡派艦隊旗艦-
「クソッ、戦力が足りない。こうなったら、新型ドローンを出撃させて戦力不足を、いや逆転勝利を狙うのだ」
「提督、新型ドローンを首都星の軌道上で出撃させると、もう言い訳が利きませんが?」
「ここで我らが負けてしまえばどうなる。禁忌技術を使ってしまったことはもう知られているのだ。今使わずして何時つかうのだ。こうなれば総力戦だ、有人部隊も出撃させろ」
「有人部隊もですか?彼等をこの様な戦いで失うのは非常に不味いと思うのですが」
「馬鹿者!あのレリックを使えば、気功術士だろうが理力使いや魔法使いだろうが、いくらでも作り出せるのだ。今勝つことを優先せよ。命令に従わないのであれば…」
軍拡派の提督は血走った目で腰の銃に手をかけた。
「は、はっ、了解しました。直ちに出撃させます」
命の危険を感じた副官は、有人部隊の出撃を命じた。軍拡派の艦長の中にはその命令に従わず、戦線を離脱する者も現れたが、それでも多数の有人兵器が出撃し、それに続くように多数の赤いドローンや漆黒の人型ドローンが旗艦より出撃した。
-穏健派艦隊旗艦-
「軍拡派は有人部隊を出撃させたのか。クソッ、無人兵器だけではなく貴重な人材を内戦で消耗させるつもりか。軍拡派はやはり馬鹿ぞろいだ」
有人兵器が前線で戦い出したことに気づいた穏健派リーダーの提督は苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
「提督、軍拡派の艦隊からは有人兵器だけではなく新型のドローンも出撃しております。新型は禁忌技術で製造したドローンの様です。新型ドローンにはAI戦艦や無人ドローンでは対応ができません。こちらも有人部隊を出撃させるべきです」
「それでは星域軍人同士が本当に殺し合うことになるのだぞ。星域間戦争ならまだしも、内戦で貴重な人材を消耗させるつもりか!」
副官の進言に、穏健派リーダーの提督は怒鳴り返していた。
「…」
「申し訳ない、興奮してしまったようだな。確かにこのままでは軍拡派によって被害が増すばかりだ。有人部隊の出撃を命じる。ただし有人部隊の目標は新型ドローンの撃破だ。それ以外の有人兵器については各員の判断に任せると伝えろ」
「はっ、了解しました。提督の命令を伝え、有人部隊の出撃を行います」
穏健派艦隊からも有人兵器が出撃する。その数は軍拡派より多いが新型ドローンの数を入れると軍拡派の方が数が多い状況だった。
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