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シンデンの過去と姉

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

>『ここがシンデンの娘のいた施設か』


>『肯定』


 シンデンが娘を預けた施設は、表向きは身寄りの無い子供を預かる児童養護施設である。キャリフォルニア星域軍が関わっているのも、軍人だとそのような子供ができてしまう事が多いからである。


>『しかし、その裏ではいろんな才能を持った子供を育てて、星域軍に入隊させることが目的と…』


>『肯定』


>『シンデンはどうして彼女(養女)をここに預けたんだ。別な施設もあっただろうに』


>『あの幼生体は通常の人類の幼生体とは異質。クローン・エラーから発生した特別個体。それにマスターもこの施設の出身』


>『それはシンデンの記憶を見てるから分かっている。だからこそ、キャサリン()を預けるべきじゃないと思わなかったのか?いくらシンデンの姉が施設で保母をしているからって…』


>『…回答不能』


 シンデンの両親はキャリフォルニア星域軍人だった。そして彼が物心つく前に両親そろって戦死していた。シンデンには超光速航行パイロットと気を操る素質があった為、キャリフォルニア星域軍はこの施設にシンデンを引き取った。シンデンの二歳年上の姉、名前はアヤモというが、彼女は特別な才能など無い普通の少女だった。しかし幼いシンデンと姉を引き離すのは彼の成長にマイナスと星域軍のAIが判断(・・)し、彼女も一緒に施設に入れられた。幼い頃のシンデン達は、人型ドローンの保母に預けられたのだが、その人型ドローンのAIが酷いできだったことで、彼は人型ドローンに対してトラウマを植え付けられたのだった。

 施設でシンデンは気功術士として英才教育を受けて育った。一方アヤモ()は普通の軍人になるように育てられた。気功術士として才能を開花させたシンデンは、十五歳と言う異例の若さで施設から出ると、キャリフォルニア星域軍人として働き始めた。アヤモ《姉》は十八歳で施設を出て軍のオペレータとして勤務についた。


 二人ともキャリフォルニア星域軍人であったことから直接会うことはほとんど無かったが、軍のネットを通じて連絡を取り合っていた。しかしそれもシンデンが二十二歳で気功術士だけの特殊部隊に配属されるまでだった。特殊部隊の任務は軍事機密扱いの物が多く、肉親とはいえ連絡は制限される、私的な通信はほぼ禁止となった。軍務が多忙なこともあり、シンデンは姉と連絡を取らなくなってしまった。

 一方アヤモ()方は、シンデンとの連絡が取れなくなった頃に同僚の軍人と結婚し退職。しかし結婚して直ぐ後に夫は病気で亡くなってしまった。子供もおらず再婚するつもりもなかった彼女は、軍に復職せずに自分がいた施設の保母として働き始めた。

 たった二人の姉弟ではあるが、しばらく(四年)音信不通となりそれぞれの生活を歩み始めていた。そして二人が次に出会ったのは、十年前。シンデンが二歳のキャサリンを連れてこの施設を訪れた時だった。十年前の作戦で軍を「作戦中の行方不明(MIA)」扱いで退役したシンデンは、傭兵として生活するので精一杯であり、子供を育てる事などできなかった。そこで自分がいた施設で働いているアヤモ()を尋ね、子供を預けたのだった。以後、彼は傭兵の稼ぎの大半を施設に送り、たまに施設を訪れ娘を見守るだけだった。


「あの、この施設に何か御用でしょうか?もしかして、キャサリン(あの子)の事でしょうか……貴方、もしかしてシン…ちゃんなの?シンちゃんよね。星域軍から追われているのにどうしてここに?」


 俺が操っているTOYO社の人型ドローンの姿は、シンデンとほぼ同じである。アヤモは帽子で隠していた顔を見て、シンデンと誤解してしまった。いや、この人型ドローンはシンデンの身代わりのために作ったのだから、姉が間違えるほど出来が良いとTOYO社の技術を褒めるべきだろう。


>『いきなりお姉さんが出てきてびっくりした。電子頭脳さん、お姉さんが出てくるなら教えてほしいぞ。それにしても三十六歳のおっさんに、シンちゃんはないだろ』


>『施設内は星域軍のネットワーク網。侵入リスク大のため監視不能。マスターの姉はあの省略呼称がデフォルト』


 俺は、アヤモに心の準備も無く出会ってしまい困ってしまった。シンデンが最後にあってから十年がたつが、アヤモの姿はそれほど変わっていなかった。


「…」


「ここまで来られたって事は、軍からのメッセージは間違いだったのね。傭兵ギルドへのメッセージは慌てて送っちゃったから詳しく無くてごめんね。…ああ、こんな所で立ち話できないわね。シンちゃん、施設(ここ)の談話室でお話しましょ」


 どう答えるべきが悩み無言で立ち尽くしていた人型ドローン()の手を、アヤモが掴む。


「?」


「分かった。五年ぶりだが、談話室の場所は一緒だな」


>『TOYO社の人型ドローンって、人間と見分けが付かないレベルなのに、今気づかれそうになったな』


>『肯定。何故発覚したのか、説明不可能』


>『まあ、姉弟ならではの直感ってやつかな』


>『マスターも直感という理解不能な感覚を重要視』


>『直感を電子頭脳に説明するのはゲームの楽しさを教えるより難しいかな』


>『…了解』


 人型ドローン()の手を掴んだ時、アヤモは何か違和感を感じた風に見えた。それを誤魔化すように、俺はシンデンの口調で答えると、自分から進んで施設内に踏み込んだ。


「え、ええ。十年前と一緒よ」


「そうか。じゃあ談話室で、詳しく話を聞かせてくれ」


 アヤモの手を振り切るようにして、俺はシンデンの記憶にある施設の談話室に足を向けた。背後ではアヤモが俺を訝しげな目で見つめている。


「どうしたんだ?」


「いえ、何でもないわ」


 人型ドローン()はアヤモが感じた違和感を消そうと、手を握り返して歩き出した。


「!」


「シンちゃん、どうしたの?」


 施設の入り口をくぐった時、人型ドローン()の体がスキャンされた事を検出した。施設だけに、入り口にはカメラを含めセンサーが仕掛けられており、不審人物であればすぐさま警報を出すのだろうと推測できた。


>『軍のセンサーでスキャンされた。アヤモと会話に意識を割きすぎた』


>『無問題。ステルススーツの機能でスキャン時の容姿を偽装。しかしマスターの姉との会話内容は盗聴されている可能性大。早々に偽装は発覚すると推測』


>『その場合、どの程度の時間でばれそうだ』


>『星域軍のAIであれば十分ほどと推測。会話の内容によっては即時発覚。現状施設内に動きは無いが注意』


『十分か、まあその時間でどれくらい聞けるかだな』


 シンデンの娘を探す手がかりを得るために必要な時間は十分。いや話の内容次第ではAIはシンデンだと見破ってしまうだろう。


「いや、ちょっと施設の雰囲気が変わった気がしただけだ」


「そう?まあシンちゃんは久しぶりだからね」


 時間制限ができてしまったため、俺はアヤモを急かして談話室に入り込んだ。


「それで、どうしてあの子は逃げ出したんだ。メッセージにあった内容だけじゃ良く話からない。子供がどうして俺の情報を知ったんだ?」


「ごめんなさい、私が悪いの。軍からシンちゃんが指名手配されたと連絡があったのだけど、丁度あの子がそれを見てしまったらしいの。それぐらいしか家出した理由はないわ」


「軍からの連絡なら職員室の端末で見たんだろ。職員室には子供は入れないはず。あの子はどうして端末の情報を見ることができたんだ?」


「シンちゃんもあの子には魔法使いとしての素質があることを知っているでしょ。貴方との約束で魔法について施設では訓練していなかったけど、独力で魔法を学習していたのよ。それで、視線を飛ばすって魔法があるらしいのだけど、あの子は練習がてら私の行動を覗いていたらしいの。それで軍からの連絡を見てしまったみたい。あの子を見ていた子供達が、連絡に書かれていた内容を呟いていたって言うから、それしか考えられないわ」


>『そんなゲームみたいな魔法が存在するのか?』


>『肯定。遠隔透視の魔法は存在。遠隔透視の距離と時間は術者の技量により拡大』


「そうか…。ここから逃げ出す際に、あの子は手掛かりになる…何かを残していなかったか」


「それが…”仇を取る”って、それだけメモ用紙に書いておいていったわ」


「”仇を取る”」


>『電子頭脳さん、シンデンの娘さんの仇になるような奴を知っているか?』


>『…推測不能』


>『シンデンの記憶からも読み取れない。手掛かりが”仇”とか抽象的すぎるだろ』


>『肯定。…どうやら今までの会話の内容で軍のAIがシンデンが施設にいると判断。施設の警備ドローンが起動』


>『手掛かりが少なすぎるが、逃げ出すしか無いか』


「どうやら、軍に気づかれたようだな」


「えっ、どういうこと?警備ロボットが動き出すなんて。シンちゃん、貴方本当に指名手配されているの」


 警備ドローンが廊下を進む音を聞いて、アヤモは驚いた顔で人型ドローン()の顔を見つめた


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