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目覚めるまでのお話(1)

誤字脱字のご報告ありがとうございます

主人公が目覚めるまでのお話の前半です

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 有馬拓也が冷凍処理されてから、どれだけの時間が流れたであろう。本来決して目覚めるはずのなかった俺は、今この瞬間確かに目覚めていた。


『これは一体どんな状況なんだ…いや、状況は分かったが、一体どうしてこうなってしまったんだ!』


 意識を取り戻した俺こと有馬拓也の目の前に広がるのは、広大な宇宙空間であり、そこには爆発する資源運搬船と大破した海賊船とその死体、そして俺、いや、俺のマスターであった男の体であった。そう状況はしっかり分かっている。


『おい、俺…いやシンデン…シンデン・風魔。どうしてこんな事になってしまったんだ…』


 しかし俺の手の中で漂うシンデン・風魔から返事はなかった。


>『…呼吸、脈拍、体温ともに正常。体に損傷はないのに動かない。脳死?いや脳にも損傷は無い。これはまるで体から魂が抜けた、リビングデッド(生きる屍)じゃないか』


 そうやってシンデンの体を分析している俺の意識に、唐突に割り込みが入った。


>『ピッ、本機は霊子力兵器による障害から復旧。マスターは所定の位置に戻ってください『って俺は何を言っているんだ?』』


 俺の意思とは別に、まるで電子頭脳であるかのような台詞を口走ってしまった。今の俺には口が無いので、発せられたのは通信電波であるが、俺の意識にそれは割り込んできた。


『誰だ、俺の意識に割り込むのは?』


>『ピッ、マスターの霊子()損傷を確認。バックアップ霊子()からの復旧…失敗。バックアップ霊子()に異常を検出。バックアップ霊子()の復旧処理を実行…失敗。マスターから霊子()の再読み込みを実行…失敗』


>『誰だ、お前は?俺の意識に割り込むな。いや、何故こうなったか知っているなら教えてくれ』


 俺に意識に割り込んできた相手に、無駄とは思いつつ状況の説明を求める。


>『ピッ。バックアップ霊子()からの要求を確認。…現状況において、優先権を持つのはバックアップ霊子()と判断。本船の電子頭脳は、バックアップ霊子()が要求するメモリー(記録)の再生を開始』


 意識に割り込んできたその声がそう言うと、俺の意識に広大な宇宙空間の光景が流れ込んできた。


 ★☆★☆


 再生されたメモリー(記録)は、天の川銀河系のペルセウス腕にある、人類がキャリフォルニアと名付けた星域、それもZ00R0367と番号でしか名称が割り振られてない恒星系の小惑星帯を、一隻の資源運搬船が通り過ぎようとしているシーンから始まった。

 なお、記憶にはシンデン以外の情報も混じっているが、それはある兵器によってその宙域で飛び散った霊子()の内容まで記憶されてしまったからであると、電子頭脳が答えてくれた。


 通り過ぎようとした資源運搬船は、小惑星帯で採掘された資源を別な恒星系に運ぶための物である。もちろん通常航行では他の恒星系にたどり着けるわけもなく超光速航法を使う必要があるのだが、小惑星帯では重力場の関係から超光速航法に入ることができない。つまり資源運搬船は、小惑星帯から超光速航法に入ることが可能な宙域に向かっている途中であった。


 そんな資源運搬船を小惑星の影から見つめる三隻の船があった。小惑星帯の外側はほぼ掘り尽くされているため、こんなところに資源採掘船が居るわけもなく、三隻の宇宙船は宇宙海賊であった。


『ひゃっはー。お頭、またカモがネギ背負ってやって来ましたぜ』


 リーダーである男の宇宙船、その通信モニター左半分では、モヒカン刈りでトゲ肩アーマーを付けたいかにも世紀末風な男が、嬉しそうにナイフをなめながらそう喋っていた。


『これで三隻目か。海賊(俺達)に襲われているのに護衛を付けぬか、採掘会社は馬鹿揃いであろうか?』


 通信モニターの右半分では、ホッケーマスクを被った筋骨隆々とした男が、護衛船を付けていないことに首をかしげていた。


『そうだな。そろそろ護衛ぐらいは付けてくると思ったが…。罠かもしれん。今回は見逃して次を待とう。元々護衛が付いていたらここでの狩りは止めるつもりだったからな』


 カッパ禿げで動物の毛皮で作ったジャケットを纏った男…海賊のリーダーは、その外見に似合わず慎重であった。


『ひゃっはー。どうせ採掘会社は、資源運搬船に護衛を付けるとかもったいないと思っているんでしょうぜ。おかげで俺達が美味しい目をみられるってもんですぜ。さっさと襲っちまいましょうぜ。つか、俺行っちゃいますよ』


 しかし、モヒカン海賊はリーダーの意見を聞かず、さっさと飛び出していった。


『馬鹿、見逃せと言っただろうが』


 リーダーの制止を振り払うかのように小惑星の影からモヒカン海賊の海賊船は飛び出し、派手な噴射炎を上げて資源運搬船に向かっていった。


『頭領殿、モヒカン殿が先走ってしまわれたが、我らはどうしますか?』


『仕方ない、モヒカンの奴を追いかけるぞ』


 モヒカン海賊の後を追い、残りの海賊船も資源運搬船に向かって加速を始めた。


『ひゃっはー、今回も一番乗りだぜ。オラオラ、さっさとお宝を渡しな』


 モヒカン海賊の海賊船は全長二十メートルほどの航空機とも言える程の小型船で、ホッケーマスクの船は四十メートル、リーダの船は五十メートルの中型船である。つまりモヒカン海賊は三隻の海賊船の中では一番加速力に優れている。他の二隻を置き去りにして、モヒカン海賊は真っ先に資源運搬船に接近すると、曳航するコンテナにレーザー機銃を撃ち込んだ。


「本当に海賊が襲ってきましたか。やはり前の二隻は事故ではなく、海賊に奪われたということで確定ですね」


 攻撃を受けた資源運搬船のブリッジでは運搬船の操縦者とは見えないスーツ姿の男が、突然の海賊の襲撃に対して驚く風もなくそう呟いていた。資源運搬船は、千メートル級の資源運搬コンテナを複数連結して引っ張り、超光速航法に入るだけの機能を持つため、船体は数百メートルという巨大船である。しかしコストの安い小惑星の資源を運搬するだけの船であるため、巨大と言っても武装はデブリ破壊用の小型レーザーしかなく、運用人員も操縦者一人という割り切った設計である。そしてデブリ破壊用のレーザーでは、変則軌道を動き回る海賊船を退けることは無理である。つまり、資源運搬船は海賊の言うことを聞くしかない状況なのだが、スーツ男は落ち着き払っていた。


『シンデンさん。海賊が襲ってきました。敵の海賊船は小型船が一つに中型船が二隻です。当初の打ち合わせ通りコンテナを切り離したら直ぐに出てください』


 スーツ男は別回線で接続していた通信パネルに向かってそう告げると、


『…』


 返事はなかったが、モニターに表示された男…シンデンは黙って頷いた。


『高い金で雇っているんですよ、少しは愛想良くしてください。それがビジネスマナーですよ』


 スーツ男は返事がないことを愚痴ると、最後尾の資源運搬コンテナを切り離す非常スイッチを殴りつけるように叩いた。スイッチの押下によって、コンテナ係留アームの爆発ボルトが作動して、資源運搬船の最後尾のコンテナが切り離された。


『ああ、なんで最後尾だけのコンテナを切り離してるんだよ。何時もみたいに全部切り離せって言ってんだよ!』


 モヒカン海賊は、資源運搬船の操縦ブロックに対して、脅しをかけるようにレーザー機銃を撃ち込んだ。


『ヒッ、彼奴ら何を考えているのです。ここが破壊されたら貴方たちの言うお宝(・・)が壊れてしまうでしょうに。シンデンさん、早く片付けてください』


『…分かった』


 操縦ブロックにレーザー機銃を撃ち込まれたことにスーツ男は悲鳴混じりの声で通信モニターの中のシンデンに命令した。そこまでしてようやくシンデンは声を出して返事をした。

 資源運搬船の護衛という依頼は、シンデンに取って受ける程の価値のない依頼であった。ただ、シンデンが恩義を感じる人からの依頼もあったために引き受けた物だった。スーツ男とのやり取りに不満の気持ちが出てしまうのも仕方ない…いや単にシンデンが人付き合いの悪い男なだけだった。


 切り離された二千メートル級のコンテナが内部の圧力で膨らんだと思うと、バラバラに分解する。そしてコンテナの中から出てきたのはシンデンが操る船、全長三百メートルはある大型の帆船(・・)であった。巨大な船首像(フィギュアヘッド)を持ち、帆をはるマストを持つ木造船(・・・)に見えるそれは、とても宇宙船には見えない物だった。歴史を知るものであれば、その姿は大航海時代の帆船の様に見えただろう。


『はぁ?何だありゃ。船っちゃ船っぽいが、どう見ても戦闘用には見えないぜ。ソーラセイル船か?あんな金持ちの道楽の船が、どうして資源運搬船のコンテナの中から出てくるんだぜ?』


 モヒカン海賊は、コンテナから出てきた船を見て目を見開いて驚いた。コンテナから出てきたのが鉱石や傭兵の戦闘艦、戦闘用ドローンならば分かるが、まさか惑星上の海を走るような帆船が出てくるとは思わなかったのだ。と言っても、モヒカン海賊は宇宙育ちのため地上で運用される帆船とは考えず、金持ちがスポーツとして行っているソーラセイル船(太陽光を帆に受けて推進する宇宙船)と勘違いしていた。


『おい、あんな物が出てきたということは、資源運搬船(これ)は罠だ。さっさと撤退するぞ』


『お頭、あんな武装も無い船が一つ出てきたぐらいで引き下がっていたら、俺達黒い疾風団の名がすたりまずぜ。直ぐに片付けてやりますよ』


『おい、待つんだ!』


 禿げ海賊からの通信を無視してモヒカンの宇宙船は、コンテナから出てきたシンデンの帆船に襲いかかった。


 モヒカン海賊のレーザー機銃が全く動かない船に襲いかかる。微動だにしない帆船に攻撃はその右舷に命中したが、レーザーは命中した跡も残さず木製に見える船体に吸い込まれてしまった。


『へっ? どうしてレーザーが効果ねーんだよ。…妙な素材をしているが、もしかして対レーザーコーティングでもしてるのか』


 モヒカン海賊は宇宙育ちであり、木製の製品など見たこともなかった。そのため帆船が対レーザーコーティング(この場合レーザーは反射されるのだが)されていると考えたようだった。レーザ機銃掃射の後、帆船の後方に回り込んだモヒカン海賊は、反転すると今度はぶつかるような軌道で帆船に接近した。


『対レーザーコーティングされているなら、こいつを喰らいやがれ!』


 モヒカン海賊は、接近すると帆船に対して海賊船の両端にぶら下がった対艦ミサイルを発射した。対艦ミサイルは反物質の対消滅をエネルギーとする兵器で、直撃すれば星域国家軍の主力戦艦ですら一撃で破壊できるだけの威力を持っている。並の傭兵が使用する宇宙船であれば、至近弾でも一発で破壊可能な必殺の武器である。


 対艦ミサイルはモヒカンの狙い通りにシンデンの帆船の船に接触し起爆する。小型の太陽でもできたような爆発が広がり帆船を包み込み、その光を背に受けてモヒカンの海賊船は飛び去っていった。


『ひゃっはー。わけの分からん船は始末したぜ!おら、さっさとお宝を渡し『モヒカン殿、早く逃げられよ』』


 シンデンの帆船を撃墜したと思ったモヒカン海賊は、海賊船の向きを資源運搬船の操縦ブロックに向けたが、そこにホッケーマスク海賊から通信が割り込んだ。


『はぁ?誰から逃げるんだよ。俺様がデブリ破壊用の小型レーザーなんかにやられるとでも…ヒッぁ』


 ホッケーマスク海賊からの通信にいきり立ったモヒカン海賊だが、それは突然彼の海賊船を襲った衝撃で中途半端なものとなった。

 モヒカン海賊の小型船は爆発の中から無傷で現れた帆船が放ったブラスター(熱線)攻撃を受けると、一気に爆発炎上してしまった。


『馬鹿な、対艦ミサイル(あれ)を喰らって無傷だって。嘘だろ、おい』


 脱出機構が上手く動作したことで辛うじてコクピット・ブロックが切り離されて生き延びたモヒカン海賊は、無傷の帆船をみて驚いていた。


 帆船の舷側には、その姿にマッチした火薬式の砲塔が顔を覗かせており、モヒカンの海賊船を攻撃したのは、その古めかしい砲塔から放たれたブラスター攻撃だった。


『馬鹿野郎。だから罠だと言っただろうが。クソッ、どうする』


『生きているのであればモヒカン殿を見捨てるわけにも行かぬ。我があの船を引きつけている間に、頭領殿はモヒカン殿を回収してくだされ』


『…分かった、あの船の相手は任せるぞ』


 ホッケーマスク海賊の通信に禿げ海賊は頷いて、モヒカンのコクピットブロックに向かって進路を変更した。一方ホッケーマスク海賊の船は帆船の方に進路を向けると、船に備わった巨大な手の形をしたマニピュレータを展開した。


『巨大な腕を装備しているか。まさか理力(・・)術者がどうして海賊となった』


 シンデンは辺境の海賊には不釣り合いな力…理力使いであろうホッケーマスクに興味を持ったのか思わず公共周波数で通信を送っていた。


『問答無用、臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前…遮蔽陣!』


 ホッケーマスク海賊の呪禁に合わせて巨大なマニピュレータが九字を切り印を結ぶと、海賊船の周囲に曼荼羅のような魔法陣が出現し、宇宙空間のマナ(・・)をかき集めた。そうして発動した理力エネルギーは、巨大な球体フィールドとなり、シンデンの帆船を包み込んだ。


 ホッケーマスク海賊が使った理力とは、恒星間に進出した人類が、とある星の遺跡で見つけた精神系技術(サイコテクノロジー)である。理力の才能がある物は、その力を開発(・・)することで、宇宙に満ちるマナ(・・)を使い様々な現象を起こすことが可能となった。理力は個人でも宇宙船でも使う事が可能である。理力を使用するためには、術者の精神統一と発動するための手(船の場合は外付けのマニピュレータ)にて複雑な印を結ぶという動作を行う必要があった。宇宙船に巨大なマニピュレータを取り付けるという非効率な真似までして理力を使うのは、それが物理法則を無視した現象を起こせるからである。

 今ホッケーマスクが使った理力フィールドは、包み込んだ相手の移動を停止させ、更に相手からの攻撃を通さないという科学技術では実現不可能な物だった。


『ほぅ、これだけ大きな理力フィールドを作れるとは、本当に海賊にはもったいない。これほどの理力術者であれば軍が厳しく管理しているはずだが…』


 船のジェネレーターのエネルギーで発生する科学的なフィールドと異なり、理力フィールドは理力術者の精神力と宇宙空間に満ちるマナを使って行われる精神系技術(サイコテクノロジー)である。

 全長三百メートルの宇宙船を囲い込むほどのフィールドを維持するとなると、優れた術者…三位クラスの理力術者程の精神力がなければ実現不可能な術である。そして三位クラスの理力術者ともなれば教会(・・)や星域軍に所属するのが普通であり、海賊などにいてはいけない存在であった。


『問答無用と言ったはず。頭領殿、早くモヒカン殿の回収を』


『おう、もう少し踏ん張ってくれ』


 シンデンからの通信に答えず、脂汗を流しながらホッケーマスク海賊はフィールドを維持していた。理力フィールドでシンデンを封じ込めている間に禿げ海賊はモヒカン海賊のコクピット・ブロックを回収しようとしていた。


『シンデンさん、海賊とのお喋りは契約には入ってませんよ。契約通りさっさと海賊を殲滅してください』


『…チッ、しかたないか。契約通りに海賊(おまえ)達を殲滅する。荒っぽくなるが、勘弁してくれよ』


 シンデンは資源運搬船のスーツ男からの通信に舌打ちすると、仕方ないと言わんばかりそう言って、理力フィールド内で船体を回頭させて、砲口を禿げ海賊船に向けた。


『我がフィールド内で動いた? だが、その砲がどれだけ威力があろうとも、科学(・・)兵器である限り我の理力フィールドを貫けぬぞ』


 理力フィールドは物理法則を無視するが故に、たとえ戦艦の装甲を一撃で貫けるほどのエネルギー兵器や対艦ミサイルの爆発でも貫くことはできない。先ほどモヒカンの海賊船を攻撃したのは高出力ではあったがブラスターによる攻撃だった。つまり理力フィールドを貫けるわけはないとホッケーマスク海賊は思っていた。


『(理力を知っておるなら、理力フィールドが科学的な攻撃を通さぬ事は知っているはず。それでありながら砲塔を向けると言うのは…。いや、先ほどのモヒカン殿の対艦ミサイル攻撃でもあの船は無傷だった…まさか、理力フィールドを張ったから。となれば奴も実は理力術者か!)』


 ホッケーマスク海賊は、理力フィールドを張りながらもシンデンの行動からそう結論づけた。


『頭領殿、その場から逃げてくだされ』


 ホッケーマスク海賊は禿げ海賊にそう通信を送るが、彼はモヒカン海賊のコクピット・ブロックを回収中であり、回避行動を取ることは無理というものだった。


「理力フィールドを貫くぞ。魔弾を発射」


「ピッ、攻撃を魔弾に切り替えます」


 シンデンがそう言うと、帆船の電子頭脳が攻撃を魔弾に切り替えた。そうして帆船の砲塔から黒色火炎のような黒煙を吐いて放たれたのは、中世の大砲のようば球体の砲弾であった。その砲弾が見た目の通りの物であれば、理力フィールドを貫くことはできないが、砲弾の表面には渦を巻くようにルーン文字に似た文字が刻み込まれていた。そして砲口から数メートルほど砲弾が進んだ所で刻まれた文字が光ると、砲弾は輝く光弾となって理力フィールドを貫いてしまった。発射された数発の砲弾は、モヒカン海賊を回収中である禿げ海賊の海賊船に命中した。


『馬鹿な、ホッケーマスクの理力フィールドを抜けてくる攻撃があるとか、信じられねぇ…』


 光弾に貫かれた禿げ海賊の海賊船は、命中箇所にまるで巨大な虫にでも喰われたような巨大な大穴ができていた。その穴の一つが海賊船のジェネレータを壊したのか、はげ頭の海賊船は瞬く魔に爆発四散してしまった。


『頭領殿、モヒカン殿! おのれ、無抵抗の者を撃つとは非道な奴め』


『無抵抗の資源運搬船を襲ったのは、お前達の方だろ。海賊が非道とか言うなよ』


『問答無用!』


 シンデンの突っ込みをスルーして、ホッケーマスク海賊は印を解いて理力フィールドを張るのを止め海賊船を加速させた。そしてマニピュレータは、海賊船の上甲板にくくりつけてあった巨大なチェーンソーを取り出した。


 ホッケーマスク海賊の船は理力を使う事からマニピュレータはあるが、科学的な攻撃兵器は搭載していなかった。しかし、そのマニピュレータを用いて格闘攻撃するという常人が考えれば非常識とも言える攻撃手段を持っていた。秒速数キロという速度ですれ違う宇宙船が格闘戦をするといえば、マニピュレータや船に掛かる衝撃で攻撃を仕掛けた方もバラバラになりそうだが、物理法則を無視できる理力があれば、宇宙船での格闘戦も成り立つのだ。


『猪突猛進!』


 ホッケーマスク海賊はそう叫ぶと、帆船に格闘戦を仕掛けるべく海賊船を帆船に向けて加速していった。


「格闘戦とは、やはり理力術者は面倒だな。だがチェーンソー(それ)を持ってちゃ理力は使えないだろ。魔弾はもったいない、ブラスター発射だ」


「ピッ、了解。照準、ブラスターを発射します」


 シンデンの帆船が旋回し砲塔をホッケーマスクの海賊船に向けると、今度は砲塔からブラスターが発射された。複数の火線がホッケーマスクの海賊船を貫こうとする。


『無手で格闘を仕掛けたと思うか。遮蔽盾、喝!』


『ちっ、まだ手を隠していたのか』


 ホッケーマスクの海賊船には巨大な手に隠れるようにして小さなマニピュレータが付いていた。ホッケーマスク海賊は突撃と共にその小さな手で印を結び理力フィールドを張っていた。理力フィールドでブラスターをはじき飛ばしたホッケーマスクの海賊船は勢いよくシンデンの帆船に襲いかかっていった。シンデンの帆船といえどブラスターの連射はできないのか、再度のブラスター攻撃を諦めて船首を回頭させた。


『チェストー』


 ホッケーマスクのかけ声とともに巨大なチェーンソーが帆船に切りかかった。それに対してシンデンは帆船を旋回して艦首を海賊船に向けており、チェーンソーは船首にある船首像に斬りかかる形となった。


『まさか海賊相手に船首像(これ)を使う羽目になるとは思わなかったぜ』


 帆船が切り裂かれると思った瞬間、チェーンソーの歯を受け止めたのは、船首像であった。たおやか乙女の裸像をかたどったそれは、単なる飾りではなく、稼働する手足を持った巨大な人型のマシーンであった。


『まさか、御主も理力使いであったか』


『知り合いに理力使いはいたが、俺は使えない。まあ、宇宙船で文字通りの格闘戦を挑むのは、理力使いだけ(・・)じゃ無いってことだ』


 チェーンソーを受け止めていた船首像の腕は、どれほどの力を秘めていたのかチェーンソーごと海賊船の大きなマニピュレータを引きちぎってしまった。


『たおやかな乙女と見えて怪力であるな…。だがこれは防げるか、滅光波!』


 ホッケーマスクは小さなマニピュレータで印を結ぶと、理力を使ったエネルギー波を放ってきた。亀な仙人の必殺技のような理力エネルギー攻撃は、レーザー程の射程はないが威力は対艦ミサイルに匹敵する。レーザーやブラスターとも異なる理力エネルギーには、科学的なシールドや対レーザーコーティングも意味を成さない。そしてシンデンの船の両手はホッケーマスクのマニピュレータを持っており、たとえ理力を使う船であってもエネルギー波を防ぐ事は不可能であった。


『そう来ると思った』


『馬鹿な、滅光波を受け止めただと』


 ホッケーマスクが驚愕するのも当然である。シンデンは理力によるエネルギー波を船首像の手で受け止めていた。攻撃が放たれた瞬間に、船首像はチェーンソーを放り投げ、コマ落としのような速度で動いてエネルギー波を受け止めたのだ。こんな事ができるのは、科学技術ではなく理力かまたはそれに等しい精神系技術(サイコテクノロジー)による物しか無かった。


『俺の力は理力じゃない…気だ、俺は気功術士なのさ』


『気功術を宇宙船で使うとは…非常識な』


 気とは理力と同じように異星人の遺跡を調査して得られた精神系技術(サイコテクノロジー)である。古来の地球でも気という概念があったが、とある遺跡から発掘された異星人により、人類は気を機械的に増幅し利用する技術を手に入れたのだった。


 この気を遣った技術は、理力が空間に存在するマナを利用する事に対して、人の体にある生命力を利用するものである。気功術士は体のチャクラによって増幅された気を練り、理力と同じく物理法則を超えた現象を起こす。それを機械的に行うためには、マニピュレータ()だけではなく人体を模した形である必要があった。帆船の船首像は、気を使うために用意された物だったのだ。

 気功術士はその才能と研鑽が全てであるため、戦闘で気を使えるほどの気功術士は理力使いより少ない。また気の力が生命力を使うため、気を使用しての戦闘は、二十メートル以下の人型の機動兵器での利用がせいぜいというのが常識であった。つまりシンデンのように百メートル近い船首像で気を扱うのは非常識であると言われてもしかたないことだった。


『理力使いに常識を問われてもな。それでどうだ、そろそろ降参してくれないか』


『頭領殿もモヒカン殿も倒れた今、我だけ生き延びようとは思わぬ』


 シンデンの降伏勧告に対し、ホッケーマスクはそう言って再度理力を放つべく印を結ぼうとしたが、それよりもシンデンの動きの方が早かった。


『それが答えか…』


 シンデンが気の力で受け止めた理力のエネルギーは、巨大な光の弾として船首像の手に集まっていた。アンダースローで投げ返された光の弾は、狙い誤らずホッケーマスクの海賊船に命中した。


『我の役目もここまでか。…南無』


 エネルギー波を投げ返されたホッケーマスクは、観念した声で呟くと諦めたように項垂れた。それと同時にホッケーマスクの海賊船は爆発四散してしまった。


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[一言] 初っ端からモヒカンだのホッケーだのでふざけた後に 追い打ちの突発的オカルトで読者ふるいにかけてくるのアクが強すぎる なかなかパンチが効いてるのと作風を誤解なく知らしめる意味では良いと思います…
[一言] いみわかりません、なぜ宇宙船に気や理力が出るんですかね?別の意味でカオス化してますよ?
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