回り道に見えて実は近道だった
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
運搬船が護衛の傭兵達に破壊された後、パイロットは傭兵達…いや海賊達の船に回収された。そしてコンテナは海賊船に引っ張られて移動することになった。
>『まさかパイロットが企業を裏切っているとは。これは困ったことになったな。禁忌技術の件がここまで影響が大きいとは…』
>『反省』
>『いや、俺は昔の人だからね。この世界のルールとかシンデンの記憶と電子頭脳さんの説明でしか知らないから』
>『…』
禁忌技術を使用した疑惑は、キャリフォルニア星域軍だけではなくシンデンに依頼した企業にも当然かけられている。企業はキャリフォルニア星域内の経済圏を仕切る、まあ揺り籠から戦艦まで作る某宇宙世紀のA○社のような複合大企業のため、禁忌技術を使用した疑惑があったとしても、キャリフォルニア星域国としても簡単に切り捨てることはできない。
とにかく海賊達の動向を知らなければ、俺達の方針も決められない。電子頭脳が海賊のリーダーとパイロットの会話をハッキングして盗聴してくれたのだが…
「お前の手はず通りに上手くいって良かった」
「ああ、船長が傭兵ギルドに確認もしなかったからな。俺が作った偽情報で簡単に騙されてくれて助かったよ」
「しかし、大企業のパイロットを辞めるとか、最初は疑ったぜ」
「給料は良かったが、運搬船の超光速航法のパイロットとか、長時間じっと座っているだけの苦痛しか感じない仕事だからな。それに社内の裏チャットの噂じゃ、クローンどころか本物の人間を航法装置にしているという話もあったからな。そんな企業に怖くていられないぜ」
「大企業の運搬船のパイロットも大変そうだなぁ」
「海賊だって大変だろ、それで、コンテナはどこで売りさばくんだ?」
「ブラックマーケットで売りさばくつもりだ。お前はこのまま海賊になるのか?」
「いや、海賊にはならないかな。まあ分け前を貰ったらキャリフォルニア星域を出て行くよ。まあ俺は死んだことになってるだろうから、何処かで個人IDを入手する必要があるけど…海賊なら個人IDを売買している奴とか知っていないか?」
「…無計画だな。そうだな、個人IDを扱っている奴を俺は知っている。ブラックマーケットにいるはずだから、そこで聞いてやろう。まあそれなりに金が必要だから、コンテナが高く売れることを祈れよ」
「低レベルとはいえレリックだ。俺はこれが高く売れそうだと目星を付けたから、お前達に声をかけたんだよ」
「そうか、まあ中身は期待したいところだが、確認は…」
「”専門の設備がある場所以外で開封すると劣化してしまう”とコンテナ情報にあるからな。ブラックマーケットならその手の設備もあるだろう。ここで開封するのは止めてくれ」
「分かった。さっさとブラックマーケットまで行くぞ。お前達も迂闊にコンテナに触るなよ」
「「分かりやした」」
と言う流れであった。
>『このままだと海賊のブラックマーケットに向かうことになるが、どうするべきか。ここで海賊達を制圧してもよいが、そうしても首都星に向かう手段がなくなるな。海賊を脅して連れて行かせるというのも無理だろうし…』
>『肯定。キャリフォルニア星域のブラックマーケットの位置をマスターの記憶から特定。このままブラックマーケットに運搬される事を推奨』
>『ブラックマーケットの位置って…こりゃ、どうしてそんな場所にあるんだよ。キャリフォルニア星域国って、本当に大丈夫なのかと聞きたくなるな』
>『星域軍も把握しているが、軍拡派とブラックマーケットは繋がっていると、マスターは推測』
>『なるほど。そういうことか。まあ、電子頭脳の提案通りこのまま運ばれるのが確実そうだな』
電子頭脳の言う通りシンデンは「キャリフォルニア星域軍の軍拡派とブラックマーケットの元締めとの繋がり」を疑っていた様だった。しかしそれを疑っていた時のシンデンでは、その繋がりを証明するだけの証拠を集めることは、不可能だった。
>『その時に、シンデンがこの帆船を持っていれば…』
>『同意』
シンデンが何を思っていたか、記憶から読み取れるのは情報であり、そこに意思は存在しない。シンデンの霊子が消え去ったために、彼がどうしようとしていたか永遠に分からないのだ。
>『記憶と霊子を分けて保存するのは、霊子には意思があっても記憶がないと言うこと…。しかし俺は自分の記憶を持っている。それは何故だろう?』
>『霊子力兵器によって起こされる現象は、本船の制作者も理解不能な事象』
理力や魔術、そして気功術も物理法則を無視する精神系技術である。そして霊子力は更にその上位の技術である。帆船を製作した異星人も霊子を扱えても、その本質にはたどり着けなかった。いや霊子の本質を知っていたなら、兵器として使用しなかっただろう。霊子を兵器にした異星人は、それ故に霊子すら残さず滅びてしまった。ブラックマーケットに移動する航海の間、俺はそんなことを考えていた。
★☆★☆
帆船が入ったコンテナは、海賊達によってブラックマーケットが開かれる星系のステーションに運び込まれた。もちろん帆船がコンテナに入っていることは気づかれていない。
>『さて、目的地に着いたのだがどうするか。海賊達の話だと、開封せずに一週間後のオークションに出されるみたいだな。まあ低レベルレリックとはいえ、中身次第じゃ一角千金じゃ済まない価値を生み出すからな』
>『肯定。しかし、低レベルレリックと言われる物の大半は偽物』
>『まあ、偽物な俺達が言うのはおかしい気がするが』
>『否定。本船は低レベルレリックではなく、最高級レリックシップ』
>『そりゃそうか。失礼しました』
まあ、そんな馬鹿なやり取りをしているが、もちろん俺達は既に行動を起こしている。帆船が入ったコンテナが保管されている倉庫は厳重にロックされているため外部から進入する事はほぼ不可能である。
>『しかし、内部からなら簡単に抜け出せるんだよな。うはっ、お宝が一杯あるな。ル○ン三十世なら全部盗み出すんだろうな』
>『お宝など不要。早く目的を達成すべき』
>『分かっているよ、まずはこのステーションのネットワークに侵入しなきゃだな』
俺はTOYO社の人型ドローンをコンテナの隠し扉からから倉庫内に送り出す。人型ドローンは、布に包まれたボーリング球サイズの魔弾を持っていた。人型ドローンと魔弾だが、人型ドローンは帆船との超光速通信チャネル以外は電波も漏らさないし光学迷彩や服装まで変更可能と言う、ザ・チートとも言うべきステルススーツを着用している。当然、魔弾を包む布も同じ素材である。つまり、倉庫内ある各種センサーや監視カメラでは人型ドローンを捕らえることは不可能。ステルススーツを悪用すれば、一国でも落とせそうな気がするが、シンデンはスーツを使用することはほぼ無かった。彼が善人であった事を宇宙は感謝すべきだろう。
人型ドローンを操り、手に持った小型の魔弾を倉庫内の荷物の陰に隠すように、そして通信配線が通っている床の上に設置する。そして魔弾を発動させると、星域軍の戦闘でも使った魅了魔法が通信配線を介してステーションの電子頭脳を魅了する。この魔弾の恐ろしいところは、相手が電子頭脳だけではなくオペレータである人間すら、魅了されている間は帆船からの通信に違和感を持たないことである。
人間の魔法使いでも魅了の魔法を使って同じ事は可能なのだが、人間は機械相手に魅了の魔法は効果が無いと思い込んでいる。魔法に必要なのはイメージであるため、人間の魔法使いが電子頭脳を魅了することはできないし、対策もしていない。
魔法には”イメージ”が重要と言うが、魔弾を作った電子頭脳はイメージができるのかと尋ねたところ、
>『否定。本船の武装開発担当者が考案した魔法文字の成果。人類の魔法技術は未熟』
と一蹴されてしまった。
まあその魅了魔法だが、機械相手では発動する時間は良くて二、三秒程度である。いくら凄腕のハッカーでも、その短い効果時間ではステーションの電子頭脳をハッキングすることは難しい。しかし帆船の電子頭脳であれば、その短い効果時間内でハッキングだろうがデータ送信だろうがやり放題である。便利な魔弾であるが、空間のマナを圧縮して作り出すのに時間がかかるため、残念だが際限なく使うことはできない。
>『魔弾の発動は成功っと。電子頭脳さんお願いしますよ』
>『ブラックマーケット主催者権限で新規IDを作成…完了。首都星ローサンジェルのネットワークに接続…完了。データ操作ログの修正完了。人型ドローンにIDを付与』
>『これで人型ドローンは大手を振ってであるけるな。さてシンデンの娘さんの捜索状況は…まだ見つかっていないようだな』
俺達が運び込まれたブラックマーケットが存在するステーション。そのステーションはキャリフォルニア星域の首都星ローサンジェルの軌道上を巡っていた。
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