首都星への道のりは前途多難
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
時間通りにコンテナと運搬船は完成した。
>『それじゃ出港するぞ』
三百メートル四方の貴重品コンテナを牽引した運搬船が、海賊の巣を出港する。もちろん帆船はコンテナの中入っており、運搬船は禁忌の航法装置とダミーパイロット役のTOYO社の人型ドローンが乗っている。
>『順調だな』
>『設計は完璧』
電子頭脳がどや顔の発言をしているが、コンテナはまだしも運搬船は怪しい宇宙船となってしまった。何しろ元が海賊船のパーツなのだ、普通の運搬船が黒い猫のトラックとすれば、一昔前のデコトラ(デコレーショントラック)の様な外観になってしまった。まあ、田舎の恒星系では個人でそのような運搬船を運用している人も存在するので、どこかで他の運搬船に乗り換えれば、問題無いだろう。
>『さて、手頃に寂れた資源採掘だけの恒星系からの運搬船に偽装すればよいかな。電子頭脳さん』
>『資源採掘のみ行われている最適な恒星系を検索。Z00R0388恒星系が最適』
>『それって、シンデンが罠にはめられた恒星系の近くだな』
>『航法装置は、そこを開発している企業で開発。偽装するならその企業系列の会社に偽装』
>『…なるほど、しかしあの企業の系列に偽装するとか危険な気がするが。いや、今禁忌技術の使用でキャリフォルニア星域の政財界は揺れているから、逆に疑われないって考えもあるか』
>『マスター曰く”虎穴に入らずんば虎児を得ず”』
>『ちょっと違う気もするが、まあその恒星系に向かってみるか。俺にはハッキングとかできないから、そっちに関しては電子頭脳任せだしな』
>『無問題』
自信満々の電子頭脳の提案で、輸送船はZ00R0388恒星系へと超光速航法に入る。まあ辺境の恒星系であるためすれ違う船も見当たらず、目論見通りにZ00R0388恒星系への移動は上手くいった。
>『さて、ここからコンテナを首都星ローサンジェルへ向けて送る事になるのだが、上手く偽装できそうか?』
>『一般の超光速通信回線の暗号化強度は低レベル。本コンテナは、資源採掘中に見つかった低レベルレリックとして企業の研究施設に送るようにデータを作成』
電子頭脳が今回偽装に使った低レベルレリックというのは、異星人の遺跡ではあるが既に発見済みの物や劣化が激しく分析をしても何ら成果が見込めないようなレリックである。今回は「劣化が激しいため研究所で詳しく調査したら何か新技術が得られるかも」という貨物として電子頭脳は偽装した。資源発掘現場では、こういった低レベルレリックがそれなりに発見されており、そこまで怪しまれる物ではない。また「劣化が激しいため、開封厳禁」という設定を付けておけば、不用意にコンテナを開封される危険性もなくなるのだ。
>『流石だな。そして研究所は首都星じゃなくて、反対側。首都星を経由地にとした方が怪しまれないか』
>『マスターの教育』
>『なるほど、シンデンの教育か。凄腕の傭兵と言われるだけあるな。よし、この偽装情報の申請が通ったら、出発するぞ』
>『輸送申請の受諾を確認。二つ目の星系のステーションにて輸送の引き継ぎを実行。そして首都星のステーションで二度目の引き継となるように依頼』
>『首都星で引き継ぎの輸送をキャンセルすれば、しばらくは時間が稼げるか。よし、これでOKだ』
>『了解。今回の作戦名を問?』
>『作戦名って、そんな急に言われてもだな。うーん、「迷子の子猫ちゃん救出大作戦」でどうだ』
>『…やはりバックアップ霊子のネーミングセンスは最悪』
>『それなら聞くなよ!ええい、作戦開始だ。運搬船、早く超光速航行に入れ』
再び電子頭脳に作戦名をディスられた俺は、やけくそ気味に運搬船に超光速航行に入るように命じるのだった。
★☆★☆
コンテナの運搬は順調に進んでいる。コンテナを引き継いだ後、でっち上げた運搬船は何事も無ければ海賊の巣に戻るように、そしてもし海賊に襲われたり星域軍に拿捕されそうになった場合は、自爆するように命令を下した。できることなら「上手く海賊の巣に戻っていてほしい」と、俺は去って行く運搬船の安全を祈った。
>『さて、これで後はお荷物として運ばれるだけだ。楽になったな』
>『否定。本船は自由に航行することを好む。運搬船の電子頭脳をハッキングすることを推奨』
>『電子頭脳さんが優秀なのは分かっているが、長年運搬船を操っている人の勘も侮れない。船内カメラのデータを盗み取るぐらいで我慢しろ』
>『…了解』
>『シンデンの娘はまだ見つかっていないよな』
>『ステーション経由で情報を収集。確保されたという情報無』
電子頭脳は不服そうだが、俺は発見の可能性がある電子頭脳のハッキングは止めさせた。人が死んでしまった戦艦のデータ改竄と異なり、人が実際にオペレートしている電子頭脳をハッキングするのは危険が伴う。電子頭脳が操る船のかすかな動き、その違和感からハッキングを見破るような人物がいるかもしれないのだ。まあ俺の知識は古いし、帆船の電子頭脳は優秀だ。そして運搬船にそんなオペレータが乗っているとは思えないが、万が一を俺は避けたい。
>『どうやら、低レベルレリックのコンテナだから貴重品運搬専門の運搬船に運ばれるようだな。護衛の傭兵まで着いてくる』
>『宇宙船の装備。傭兵のランクを推定。駆け出しレベル』
>『この船やシンデンと比べるな。どうやらキャリフォルニア星域は治安が悪くなっているようだ。護衛に付く傭兵も足りないらしい。それに首都星に向かう航路だ、早々襲われる物じゃないだろ』
キャリフォルニア星域の治安が悪くなっているのは、俺達が流した禁忌技術使用の情報が原因だった。どうやら星域軍内部で軍拡派とそれを排除しようとする穏健派とが内輪もめを起こしているらしい。
星域軍がその様な状況であれば、海賊達も集まってくる。おかげで今まで安全であった航路でも運搬船の護衛に傭兵が雇われて、傭兵は人手不足になっているようだった。
まあ、キャリフォルニア星域の状況は自業自得である。帆船の入ったコンテナを含め五つのコンテナを牽引した輸送船は、出発時刻ギリギリに契約できた三隻の傭兵宇宙船と共に、運搬船はステーションを出発した。首都星までは七日後の到着という航路であった。
運搬船には超光速航行パイロットが一人しかいないため、超光速航法で進めるのは十二時間だけ。傭兵に至っては、超光速航行できるパイロットはリーダー格の傭兵だけで、残りの二隻は超光速航行時は三隻が連結して一つの船になることで超光速航行を行っていた。
>『合体する宇宙船とかロマンあふれるな』
>『否定。連結部の部分が脆弱。非効率』
帆船も船首像という非効率な部分があるのに、電子頭脳には合体というロマンが理解できないようだった。
運搬船は順調に航路を進む。事件は二日目の超光速航法から離脱する際に発生した。
>『おや、予定より早く超光速航法を停止したな』
>『肯定。予定地点から八万四千六百五十二光秒手前のポイントに出現』
>『どうやらパイロットが体調を崩したらしいな。これは予想外だった』
>『人類は虚弱』
>『機械でも突然故障するだろ。それに人は機械と違って予兆も無く体調を崩す事もある。まあこの程度の遅れなら問題ない範囲だろ』
突然に難病を発症してしまった俺にとって、体調を崩してしまったパイロットに同情してしまう。船内カメラでパイロットの様子を見ているが、彼は医療ポッド(医療ナノマシンを使って病気や怪我を治してくれるらしい)にも入らずに、エアロックに向かっていった。
>『パイロットが船外に出るぞ。一体何をするつもりだ?』
>『不明。…傭兵の宇宙船が運搬船を攻撃』
>『はぁ?護衛の傭兵がどうして運搬船を襲うんだ』
まさか護衛の傭兵に襲われるとは思わなかった運搬船の乗組員は、哀れにも宇宙のデブリとなってしまった。
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