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偽装工作

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 帆船が超光速空間に入ると、俺は周囲の船影を見渡した。


>『巡洋艦は…いた。船体番号はHWーC20215。映像ログと船体形状も違うし、この恒星系で俺達を臨検しようとした巡洋艦じゃない』


>『肯定』


 ハーウィ星域軍に限らず、星域軍の戦艦は船体番号を外装に表示している。隠密行動とか不正規行動だと消す場合もあるらしいが、超光速空間での監視任務であれば、船体番号や艦名を表示するのが習わしらしい。


>『やはり、超光速航法を連続で行う事は不可能か』


>『肯定。超光速航法回路の駆動には生命体の意思が必要。人類では長時間の駆動は不可能』


>『人間は食事も睡眠も必要だからな。まあ別なパイロットがいれば、再び超光速空間に戻って来られるが、超光速航法回路を起動できるパイロットの数は限られている。星域軍でも戦艦に乗せられるのは五人もいれば上等な方だろう。俺の予想は当たっているかな?』


>『肯定』


>『そして宇宙船は乗組員のための食料やジェネレータのエネルギー補給も必要だ。つまり、超光速空間を連続で進むには限界があって、それに合わせてどの船も同じような航路を進むんだろ?』


>『肯定』


 超光速空間には、難所などを避けた航路が存在する。そしてその航路は宇宙船のパイロットの休息と物資・エネルギーの補給を考慮して決まった航路ができてしまう。そして何も無い宇宙空間ではパイロットの休憩や入れ替えはできても、物資やエネルギーの補給はできない。つまり航路は恒星系を通るようになってしまうのだ。もちろん戦時下などであれば、補給艦を配置したりして、違った航路を通る場合もあるだろうが、平常時にそんな事をしているとは考えられない。


>『この船の超光速航法のパイロットは、バックアップ霊子()である俺だ。そして船はエネルギーの補給が不要ときている。つまり普通の宇宙船や軍用宇宙船でも不可能な時間を、いや無限に超光速空間を進むことが可能というわけだ』


>『肯定。しかし恒星系に近づく場合、他の船との接触は不可避』


>『人が近寄るような恒星系ならそうだろうが、目指すのはそこじゃない』


>『説明を要求』


>『あの誰もいない赤色巨星の海賊の巣。あそこを目指すんだ。俺達が逃げ出した後、キャリフォルニア星域軍もあの星系から移動しただろう。そして、あの星系に人は寄りつかないし、何よりも海賊の巣がある。俺達はそこで、身を隠すための装備、この帆船を運べるほどのコンテナと運搬船を作るんだよ。これは人目の着くところでやることじゃない。だから海賊の巣を目指すんだ』


>『…理解』


 俺の提案に、電子頭脳は少し考え込んだが賛成してくれた。


>『これで最初の目的地は決まった。ステーションから出た宇宙船もそれぞれの目的地に向けて航路を変えるだろう。俺達はその後から進んでいき、誰も追跡しないことを確認してから航路を修正するんだ』


>『了解』


 超拘束空間を進む宇宙船は、その性能に応じた航路を進む。そして途中の恒星系で離脱したり、また加わってくる宇宙船もいる。


>『確かこの先に丁度良い感じの難所があったな』


>『磁場を持って回転した中性子星パルサーによって視界不良の場所が存在。丁度良い難所とは、そこと推測』


>『そう、そこだ。視界が悪い場所で最後の船が消えても中々気づかれないだろう。この帆船は目立つから、いなくなった事は少しすれば気づくだろうが、俺達がどこに向かったかまでは分からないはずだ』


>『肯定。妥当な判断』


 電子頭脳も俺の意見に賛成してくれたので、後は実施あるのみだ。俺は予定地点の難所に着くまで、他の宇宙船から徐々に離れるように速度を調整して進んだ。他の宇宙船は、帆船が離れていくことには気づいたようだが、傭兵のレリックシップ(遺物船)と関わり合いを持ちたいとも思わないのか、そのまま進んで行く。おかげで目的の難所で、俺達は他の船から見られること無く進路を変更した。しばらく進んで追跡者がいない事を確かめてから海賊の巣に向けて進路を修正した。


 ★☆★☆


 海賊の巣まで有人の恒星系を避ける航路を設定したが、通常空間と異なり、超光速空間では、恒星間の距離が数十メートルという至近距離の場合もある。まあ三次元である通常空間が、二次元である超光速空間に投影されているのだから、そういった場合もあるのだ。

 そういった場所では、宇宙船が超光速空間に出現しては消え去るという状況となる。そんな超光速航行が過密な超光速空間では、「出現した宇宙船同士の衝突事故が起きるのでは?」と思ったが、そんな事は無かった。超光速航法を行う際、宇宙船同士が接触事故を起こさないように、回路が自動的に位置の調整をしてくれるのだ。もちろん超光速航法を停止する場合も同様である。

 この自動で事故を防ぐ機能だが、その原理を人類は理解できていない。いや人類は超光速航法を使ってはいるが、人の精神力で起動する回路について理解できていないのだ。


 閑話休題


 恒星系に近づいた際に、他の宇宙船に見つかりそうな場面があったが、帆船は無事キャリフォルニア星系に入り、海賊の巣がある恒星系の近くまでやって来た。


>『まだ艦隊の戦艦が残っているか、超光速空間から調べることは…』


>『不可能』


>『じゃあ、センサーで探索可能な限界距離に出て調べるしか無いか。帆船のセンサーなら星域軍の戦艦より探索可能距離は広いだろ?』


>『三十四万五千光秒離れた空域への離脱を推奨』


>『…約四光日離れた距離だが、この船はそんな距離まで有効範囲が広いのか。流石レリックシップ(遺物船)はチート性能だな』


>『否定。電子的なセンサーは範囲外。光学観測は範囲内』


>『光学観測って…ああそういうことか』


 電子頭脳の言いたいことを理解した俺は、電子頭脳が指定した座標で超光速航法を停止させた。


>『なるほど、あのときの戦闘は外から見たらこうなるのか。これを使えば宇宙空間で起きた事を全て観測できるな』


>『否定。本船でもこの距離が限界。人類の技術では、一光時が限界』


>『結局この帆船、レリックシップ(遺物船)がチートだったじゃないか』


 どうして電子頭脳が帆船が約四光日離れた位置に出現することを推奨したか。それは帆船とキャリフォルニア星域軍の戦いを観測するためであった。あの星域軍との戦いがあってからおよそ四日の時間が経過している。つまり戦いの光景は、理論上四光日離れた位置にいれば観測できるのだ。帆船の光学センサーは優秀であり、人類の物より遠く離れた位置の光景を観測可能である。そして四日前の戦闘シーンを、恒星に近づきながら観測することで、ビデオの早回しのように戦闘の様子や、その後の艦隊の行動を見ることができるのだ。


>『どうやら旗艦に着いていかなかった連中は、直ぐに超光速航法を起動して移動したようだな。禁忌技術の情報を星域軍司令部に伝えに行ったのだろう。観測結果を見る限りあの恒星系には誰もいないと思うが…』


>『肯定』


>『よし、じゃあさっさと海賊の巣に戻って、作業に取りかかるぞ』


 一瞬の超光速航行を抜けて、俺達は再び赤色巨星に出現する。もちろんステルスモードと光学迷彩を張っているが、超光速航行から離脱した際の重力異常は隠せない。そして星域軍がトラップや監視ドローンの類いを残していないか、電子頭脳による綿密なセンサーチェックを行って帆船は進む。

 まあ、誰もチェックには引っかからなかったし、海賊の巣も帆船が出航した状態のままであった。


>『警戒しすぎだったかな』


>『油断大敵』


>『そうだな。シンデンの記憶もそう言ってるな』


 海賊の巣のドックに帆船を入れると、作業ドローン達がワラワラと出てきて、作業に取りかかった。


>『コンテナと運搬船をでっち上げるのに、どれくらいかかりそうだ』


>『コンテナの製作に七十二時間。運搬船の製作には四十八時間』


>『運搬船よりコンテナの方が時間がかかるのか。運搬船も二日で作り上げるとか、途中で壊れるようじゃ困るぞ』


>『運搬船は、海賊船の予備パーツを組み合わせることで製作。コンテナは資材製作とスキャン対応が必要』


>『なるほど。それで運搬船のパイロットは…』


>『禁忌技術の航法装置を使用。通信などはこちらで対応』


>『まあ、それしか手が無いよな』


 運搬船が超光速航法をするためには、人が必要である。しかし帆船には俺と航法装置しか超光速航法を使える者がいない。つまり禁忌の航法装置を使うしか無いというのが現実だった。


>『運搬船には自爆装置を搭載』


>『使わない事を祈ろう』


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