師匠の治療
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
すいません、職場がテンパっている状態でコロナっぽい風邪が流行って、自分もしばらく寝込んでました。おかげで未だ職場は混乱状態です。更新不定期になりますし、今回も短めとなります
シンデンは師匠を帆船の医療ポッドに入れると、後は電子頭脳に治療を任せた。
>『電子頭脳さん、師匠の治療にはどれぐらいかかるかな?』
>『…クローンした臓器の生成に二十四時間、悪性の腫瘍部を取り除きクローンと置き換え、定着を待つとするとに七十二時間が必要です』
>『帆船の医療ポッドでもそれだけ時間がかかるのか。師匠はかなりやばい状況だったようだな』
>『はい。生きているのが不思議なほどの重症でした。しかし脳に腫瘍が無いのは幸いでした。これなら治療を行っても霊子に影響はないでしょう』
脳に損傷があった場合、その部分を削除するかクローン脳と入れ替える必要がある。削除すると当然脳の機能に支障がでる。クローン脳の部位を移植レベルとなると、霊子に影響が出てしまう。この世界で、クローン脳を医療に使った治療が行われているが、その結果治療後に「突然人が変わってしまった」と言う話が出てくる。これは霊子が変質してしまった結果である。
>『そうか。治療が終わったら教えてくれ。俺はしばらく休む』
>『シオン達は放置で良いのか?』
>『温泉はまだしも、ストイックなシンデンがビーチで若い女性と休暇を楽しむのはありえない話だろ』
>『…そりゃそうだが。シンデンを演じるのも大変だな』
>『ふぅ、早く自分の体を取り戻したいな』
>『そうだな。だがまずは在善対策だ』
霊子力兵器として使用された俺の脳ユニットを修復する技術は未だ見つかっていない。それが見つかれば、バックアップから俺は解放されるはずなのだ。
とにかく師匠の治療が終わるまで俺は帆船で待機することにした。
★☆★☆
四日後、電子頭脳から師匠の治療が終わったと報告が来た。
「ここは何処だ?」
「師匠、気がついたようだな」
医療ポッドの中で目を覚ました師匠は、四日前とは見違えるほど顔色が良くなっていた。
「シンデンどうして…そうか、あの時再会したんだったな。ちっ、儂が医者嫌いだと知っているくせに、お前は儂をこんなモノに押し込めたのか」
「そうしないと師匠は死んでいた。だから強引に治療させて貰った」
「弟子に不覚を取るようじゃ、儂も焼きが回ったようだな」
医療ポッドから師匠を解放すると、シンデンは師匠を抱えて医療ポッドの隣にあるベッドに座らせた。今の師匠は体の大部分をクローンした臓器で置き換えた為に体力がほとんど無い状態である。まあ、しばらく医療ポッドの治療と師匠が自分で気功術を使って体の調子を整えていけば、直ぐに昔の様な状態に回復するだろう。
「とにかく暫くは安静にしてくれ。響音、師匠の世話を頼むぞ」
「了解しました」
「…シンデン、お前TOYO社の人型ドローンを持っているのか。堅物だと思っていたが…」
シンデンは動くことも満足に出来ないであろう師匠の世話を響音に頼んだ。そして響音の容姿を見た師匠は、不機嫌な顔から笑顔を浮かべていた。
「師匠、言っておくが響音は海賊退治で鹵獲した物だ。師匠が思っているような事には使ってない!」
「海賊の物なら売り払えば良いだろう。手元に残しておくと言うことは、やはり…」
「違う!」
「お前も男だ、恥ずかしい事ではあるまい」
「師匠と一緒にするな!」
体が動かせなかったシンデンを世話するために響音を残したのだが、今では公私共に無くてはならない相棒の様な存在である。しかしシンデンは響音を本来の目的使うつもりは無かった。それは今のシンデンがへたれな大学生の霊子が入っているからであり、ストイックな傭兵であるシンデンのイメージを壊したくなかったからである。
「シンデン、師匠が目覚めたって聞いたんだけど…」
「シオン、近づいちゃ駄目って言ったでしょ!シンデンの師匠は…」
「えっ、子供と女性には優しい人って聞いたけど?」
「女性に優しいのは違う意味なのよ」
部屋に入ってきたのは、シオンとレマであった。レマはシオンが部屋に入らないように必死の顔で食い止めようとしていた。
「シオン。来るなと言っておいたはずだが」
「おいおい、シンデン。お前は何時からこんな綺麗な女性達を船に乗せるようになったんだ。儂はそんな話は聞いてないぞ?」
シオンとレマをみて師匠が笑みを浮かべた。それは好々爺とした笑顔ではなく、ニマニマとしたいやらしい笑みであった。
>『健康になった途端これか』
>『施設じゃ、若くて綺麗な女性職員はみな師匠のおかげで退職しちゃったからな』
ここまで来れば分かるように、シンデンの師匠は凄腕の気功術士である。しかしその実体は綺麗な女性が大好きで、大酒飲みで、博打にも手を出すろくでなしである。
しかし師匠は、「気功術を人に教える」という類い希な才能があったため、キャリフォルニア星域軍を退役後に施設で子供相手に気功術を教えていたのだ。もちろん師匠の行動については、レマは施設の女性職員から聞いて知っている。だからシオンが興味本位で師匠に近づくのを食い止めていたのだ。
「シオン、金髪の女の方だが、たまたま仕事の途中で拾ったんだ。行くあても無いし、傭兵をやりたいと言うから独り立ちするまで仲間にしたのだ。赤毛の方はレマといって、俺と同じ施設出身だから師匠のことはよく知っているぞ」
「施設出身だと…。シンデン、お前はやはりキャリフォルニア星域軍とよりを戻したのか?」
「俺がキャリフォルニア星域軍に従うと思うか。それに俺は今キャリフォルニア星域国では指名手配犯だ」
「キャリフォルニア星域では指名手配か。アマモさんが聞いたら悲しむぞ」
「…姉さんも承知の上だ」
「…なるほど。それで、シンデン…」
師匠はシンデンがキャリフォルニア星域国から指名手配されていると聞いて神妙な顔つきになった。それは師匠が気功術を教えている時と同じ真剣な顔であった。シンデンは何を言われるのか分からずゴクリと唾を飲み込んだ。
「…すまんが、儂を匿ってはくれないか」
師匠はベッドの上で土下座をしてシンデンに頭を下げていた。
「…師匠頭を上げてくれ。師匠を匿うのは構わない。だが理由は聞かせて欲しい」
シンデンの師匠と言うことはシンデンにとっても師匠である。昔の恩義で匿うことはやぶさかでは無い。だがそれがキャリフォルニア星域から逃れるためであれば良いが、借金や女性問題であるならシンデンとしても考えなければならない。
「理由は…まあ、過去の因縁だな」
「過去の因縁?」
「シンデンも星域軍にいたなら分かるだろう。戦争では様々な事が起こる。儂もまさかこの歳になってそれが来るとは思わなかったのだ」
「星域軍での因縁か…」
>『電子頭脳さん。師匠の因縁が何か分かるかな?』
>『マスターの師匠の因縁…調査しましたが、判明しません。本船の情報網にも引っかからないという事は、情報は念入りに隠蔽されているようですね』
>『…そうか』
シンデンの記憶の中にも戦場での様々な因縁が記憶されている。キャサリンもこの前戦ったテッドも過去の因縁といえるだろう。師匠も星域軍にいたのなら、シンデンと同じ様な因縁を持っていても不思議ではない。
「分かった。師匠には頼みたい事もある。俺の船で良いなら匿おう」
「そうか。それは助かる。あのまま孤島で死のうと思って追ったが、もう少し余生を楽しむとしよう」
師匠が嬉しそうにするが、その視線は響音やシオンとレマの顔や体を彷徨っていた。
「…師匠、俺の船の女性に手を出すのは止めて貰おう。もし彼女達に師匠が手を出せば、俺は師匠を斬らねばならぬ!」
シンデンは気を昇華して体にまとわせ、愛刀をカチンと鳴らして師匠を睨み付けた。
「分かった。今のシンデンには儂では勝てそうに無いな」
「師匠には昔の感を取り戻して貰わないと困る。そして昇華した気で俺を浄化してもらいたいのだ」
「ふむ。気を昇華できるほど腕を上げたお前が、儂の気を必要とするとは思えぬが…」
「確かに気を昇華出来るようになったが、彼奴への感情だけは押さえきれないのだ…」
「お前にそれほど恨まれるとは…。そいつはお前に一体どんなことをしたのだ」
「俺に生き地獄を味あわせた。いや一度俺を殺し…いや、何でも無い…」
「ふむ。儂と別れてからお前が何をしてきたのか、少し話でもするか…」
「分かった。…だが酒は出さないぞ。師匠の体は未だ回復中でアルコールは当面禁止させて貰う」
「ちっ。けち臭いのう」
師匠は舌打ちしたが、先ほどまでシオン達に向けていたいやらしい笑みは消えて、施設で気功術を教えていた時のような顔になっていた。シンデンは師匠のことを記憶でしか知らないが、今の顔をしている師匠であれば信頼できると感じたのだった。
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