師匠の探索
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
イグラン星域からハーウィ星域への旅路だが、シンデン達は傭兵ギルドの護衛依頼をこなしながら進んだ。途中海賊などが出てきた以外はヤマト級の襲撃も無く無事ハーウィ星域へと到着した。
航海の間、シンデンとバックアップ霊子は霊子を持ってしまった響音の処遇に関して話し合った。わざわざ二人になって話し合ったのは、電子頭脳が入ると響音を解体すると言い出すからである。
>『暫くは様子を見守るだけだな』
>『ああ、特に響音の行動は変わっていないからな。少しシンデンに対して積極的に絡むようになったが、誤差の範疇だろう』
>『…シオン達には響音の事は伝えないのか』
>『見かけ上変わっていないし、教える意味は無い。人形ドローンに霊子が宿ったなんて考えるのは、俺達だから理解できる話だからな』
シオンやレマといった現在人類は、人型ドローンやAIは道具であり決して人と同じ扱いはしない。しかし二十一世紀の常識を持った俺は、人型ドローンやAIを人間として扱うし、魂が宿っても不思議では無いと思っている。この考え方の違いは決して埋められない物だ。
とにかく響音に霊子が宿った件は秘密のままである。
★☆★☆
ハーウィ星域の外周部のステーションで護衛依頼を終えたシンデン達だが、そこで一旦行動は停止していた。
「それで、シンデンのお師匠様がどこに居るか分かったの?」
「それが未だ掴めないのだ」
帆船の電子頭脳がハーウィ星域のデータを調査しているが、シンデンの師匠の行方は未だ判明していなかった。ハーウィ星域内にいる事は確かなのだが、師匠は星域内の惑星を転々と移動して回っていた。
>『葛飾北斎は九十三回も引っ越ししたと言うけど、師匠の移動は引っ越しと言うよりまるで誰かから逃げ回っているようだね』
>『元キャリフォルニア星域の軍の施設で気功術を教えていた。そんな師匠が老いて引退したとはいえ、本来他の星域に移住できる物ではないからな』
>『キャリフォルニア星域軍の諜報部が動いているという情報はありますが、それが原因なのかまでは不明です』
>『とりあえず追いかけるしか無いか。電子頭脳さん、師匠が最後に寄った星系に向かってくれ』
>『了解しました。目的地はオフーア星系となります。星系まで傭兵ギルドで何か依頼をお受けしますか』
>『時間が惜しい。依頼は受けずに全力で向かおう』
行き先を決めた俺達は、傭兵ギルドにオフーア星系に向かうと告げると、依頼を受ける事も無くギルドから出て行った。傭兵ギルドの受付嬢は依頼を受けて欲しそうな顔をしていたが、そこは無視して出港した。
「オフーア星系って海が綺麗な観光惑星だよね。シンデン、どうせなら一緒に泳ぎましょうよ」
「海ですか。久しぶりに海鮮料理を食べたいです」
「…あんた達ね~。シンデンの師匠を探すのが目的なのよ。観光に行くんじゃ無いんだからね」
シオンとスズカは海洋観光惑星のオフーア星系に向かうと聞いて、頭の中が観光モードになっていた。二人の脳天気さに比べて、レマは頭を抱えていた。
「レマ、師匠は俺だけで探す。だからお前達は遊んでいて良いぞ」
レマが苦言を呈していたが、シンデンは三人に遊んで良いと告げた。
「わーい。でもシンデンは居ないのよね。うーん、どうしようかな。シンデンについて行った方が良いのかな」
「シンデンさん、一緒に新鮮な海鮮料理を楽しみましょう」
「シンデンの師匠…あの人に会うのはパスかな。シオンとスズカも合わない方が良いわよ」
レマはシンデンの師匠の事を思い出して、会わないことを決めたようだった。まあ、もしシオン達が付いてくると言うならシンデンは命令してでも止めていただろう。
「さて、師匠をどうやって見つけるか…」
オフーア星系に向かうために超光速航法を起動しながら、シンデンは師匠を探し出す方法を考えていた。
★☆★☆
オフーア星系の第四惑星は陸と海の比率が一対九という完全な水の惑星であった。当初は惑星固有の生物しか住んでいなかったが、地球から持ち込まれた魚介類が放たれ、今では惑星固有の生物は絶滅危惧種として研究機関に残るのみとなっていた。惑星の陸地は大陸とは言えない程の巨大な島が一つと、小型の島が点在するだけで、軌道エレベーターを設置する事も出来ていなかった。
ステーションに到着したシンデン達は、シャトルバスで一番巨大な島に向かった。観光客がひしめくシャトルバスの中、タクティカルスーツ姿のシンデンが一人浮いていた。いやメイド姿の響音もかなり注目されていたが、シンデンほどでは無かった。シオン達は全員観光客姿なので注目はされていない。いや美女、美少女のグループなのでなにげに若い男性グループから注目されていた。
「じゃあシンデン、師匠捜し頑張ってね」
「私としてはシンデンについて行きたいけど…」
「シオンさん、レマさんが言っていた通りの人であれば、会うのは避けた方が良いですよ」
「会っても不快な思いをするだけよ」
レマが師匠を思い出して顔をしかめているが、それほど嫌われるような人ではないとシンデンはシンデンの記憶の師匠を思い出していた。
「師匠を探し出して奥義を聞き出すつもりだが、師匠は船の探索システムでも見つからない。もしかしたら何らかの手段で他の惑星に向かったか、あるいは死んでいるかも…いやそれはないな。離島をしらみつぶしに探すとするとどれだけ時間がかかるか。とにかく最長で一週間ほど時間がかかると思ってくれ。必要に応じて通信は送る」
「分かったわ」「はーい」「はい」
シャトルバスの駐機場で三人と別れたシンデンと響音は、まずは師匠が向かいそうな場所に向かった。
★☆★☆
「未来になっても水着はあまり変わらないか」
シオンたちと別れたシンデンは師匠が良そうな場所としてビーチにやって来ていた。観光地だけに家族連れや若い女性や男性のグループが大勢泳いでいた。サーフィンや浮き輪などは未来的に進化していたが、水着は素材以外はほとんどデザインも変わっていなかった。
ビーチには小洒落た雰囲気の店も有るが、中には日本にあったような浜茶屋も存在していた。メニューを見ると、具の少ないカレーや焼きそば、ラーメンも売っていた。
>『師匠を探し終えたら楽しみたいな』
>『そうだな』
>『あの程度の料理なら本船でも簡単に再現できますが』
>『『浜茶屋で喰うから良いんだよ!』』
ビーチでもタクティカルスーツ姿のシンデンは完全に浮いていた。回りの冷たい視線に耐えながらも店を一通り調べ、あとは浜辺を見回して師匠の姿が無いか探した。
「シオン達が来る前に確認してみたが、ここにはいないか。まあ居たら騒ぎになっているだろうから期待はしてなかったけどな…」
ビーチには監視カメラもあり上空からも探査出来るが、シンデンは「もしかして」と念の為の来てみただけである。
「あれ?シンデン、お師匠さんを探しに行ったんじゃ…」
周囲をきょろきょろとしている間に、シンデンの後ろからついさっき別れたばかりのシオン達がやって来た。シオンはその豊満なボディに赤いビキニをまとい、すらりと伸びた手足と肢体を周囲に見せつけていた。その後ろには白いワンピースの水着を着たスズカがついてきており、殿には競泳用の水着を着たレマがいた。
「…シオン、準備体操してから泳げよ」
「子供じゃ無いんだから」
「準備体操は必要ですよ」
「シンデン、あの人本当にいないのよね?」
「念の為に師匠を探しに来たが、ここに居ないことは確認した。安心して泳いでくれ」
ストイックな傭兵という設定のシンデンは、シオン達の水着を一瞥すると、周囲の男性の視線を集めているシオン達の横をすり抜けて、ビーチから立ち去った。その後ろにはメイド服の響音が静かに付き従っていた。
「…ビーチサイドに探しに来なきゃ行けないって、シンデンの師匠って、どんな人なの?」
ビーチから立ち去るシンデンを見送りながら、シオンはシンデンの師匠がどのような人物か分からず首を捻っていた。
★☆★☆
シンデンが次に訪れたのは惑星のカジノ街だった。俺は大学生だったし、シンデンも賭け事などしない。カジノに来たのも師匠を探すためである。
「あら、シンデンがこんな所に…」
ルーレットやカードゲーム、競馬やボートレースの会場を巡り師匠の姿を探して回っていると、とあるカジノでカエデと出会った。彼女は何時もの白衣姿でなぜかカードゲームをしていた。そして彼女の目の前には大量のチップが積み上げられていた。
「カエデ、お前は何をやっている?」
「ちょっと珍しいレリックが有ったので、使ってみたくてね」
カエデは銀色の下フレームのメガネを装着していた。この時代近眼などは簡単に治るため、メガネはファッション程度にしか使われていない。つまりこのメガネがカエデの言うレリックであった。
「イカサマは駄目だぞ」
「別にイカサマじゃ無いわ。このレリックは違法じゃ無いわよ」
「勝てるタイミングが分かるか。やっぱりイカサマじゃ無いのか?」
「さあ?カジノのチェックには引っかからなかったし、大丈夫でしょ」
カエデの話では、「メガネを装着していると勝てる手役であるか分かる」というレリックであった。カードを透視したりするわけでは無く、直感…勝負感がが研ぎ澄まされるといった類いの物であった。
「ほどほどにしとけよ。勝ちすぎると危ないぞ」
「お金が欲しいわけじゃないわ。レリックの調査が目的なのよ。それに勝率は百パーセントじゃないことも分かったし、適当な所で負けて帰るわ」
そう言いながらもカエデは勝ちを重ねていった。ディーラーの顔が青ざめているが、最後には負けて帰るつもりなら良いだろう。シンデンはカエデの護衛に響音をつけてカジノ街を後にした。
★☆★☆
「次はここかな」
シンデンが最後に訪れたのはきらびやかな観光街とは違った、一癖も二癖もあるような人が集まるような、退廃的な裏町の歓楽街であった。もちろん観光客など入ってこない場所であり、酔っ払っているのか麻薬でもやっているのか、薄汚れた服を着た人があちこちに座り込んでいたりする。
この様な場所は各惑星には必ず存在し、惑星ネットワークからも切り離されていたりするため表に顔を出せない連中が集まっている。シンデンの師匠はもちろん犯罪者では無いのだが、キャリフォルニア星系でもなぜかこの様な場所に好んで滞在していた。
「師匠の情報が入手できれば良いのだが」
シンデンはため息をついて最初に目に付いた店に入っていった。
★☆★☆
酒場や違法賭博、麻薬売り場を転々としてシンデンは師匠について尋ねて回った。タクティカルスーツ姿で傭兵だと分かるシンデンから金でも巻き上げるつもりなのか、チンピラや店の用心棒が出てきて絡んできたりするが、それらを全て叩きのめしてシンデンは師匠の居場所を探して回った。
「この男を知らないか?」
「…知らないな」
そろそろ裏町の歓楽街での捜索も諦めようと、最後に入った酒場のバーテンに師匠の写真を見せて尋ねると、バーテンは顔は変わらなかったが気が一瞬ぶれた。
「(当たりか)そうか。知らないか。俺はこいつに金を貸しているんだ。この星に逃げ込んだと聞いて追ってきたのだが…また外れか」
「…そうか。そりゃ災難だったな。しかし借金を返せずに逃げ出したのか。そんな男には見えないがな」
バーテンはシンデンの話を聞いて肩をすくめてそう答えた。
「まあ、人は見かけによらないって事だ。あんたもこの男に会ったら気を付けるんだな」
シンデンはそう言ってグラスの酒を飲み干すと、酒場を後にした。
>『電子頭脳さん、この酒場のバーテンについて調査してくれ』
>『…この酒場のバーテンですが、元はハーウィ星系の諜報部員だったようです。裏町の潜入調査をしていたのですが、そのままなし崩し的に裏町に居着いてしまった様です』
>『師匠が気に入りそうな男だな。小型ドローンを放つから、この男の動向を調査してくれ』
シンデンは蠅のような形をした小型ドローンを放つと、裏町を後にした。
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