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精霊との戦い(3)

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

「魔法の障壁を解除するには、私では力不足です。シンデンさんの気功術ならもしかしたら…」


 マクドゥガル少佐がそう言うが、シンデンは首を横に振った。


「どうやら精霊の怒りを浄化しない限り、俺達はこの部屋からは逃げ出せないようだ」


「精霊の言葉は聞こえてました。しかし浄化するには攻撃を数万回する必要があると言っていました。そして攻撃をするなら反撃もすると言っていましたが」


「その解釈で間違いない」


 シンデンと精霊の会話は全員に聞こえていたようだった。


「シンデンが攻撃するしか方法が無いの?」


「精霊の話を聞く限りではそれしか方法が無いようだ」


「数万回も攻撃して反撃されるとか、シンデンの体が持たないよ」


「まあ無茶な話ではある」


 シオンが不安そうにシンデンを見てくる。シンデンとしてもやりたくは無いが、それしかこの部屋から抜け出す方法が無いと理解していた。そしてこの絶望的な状況を打破する方法も思いついていた。


「…数万回の攻撃だが、もっと減らせると思う。しかしそんな攻撃をするとなると、俺は精霊の反撃から身を守る事が出来なくなる。そこでシオンとレマ、それとマクドゥガル少佐にお願いがある。俺が攻撃を仕掛けた後やって来る精霊の反撃から俺を護って欲しい」


「私達がシンデンを精霊の攻撃から守るのは分かったわ。だけど攻撃の回数を減らせるって、シンデンは一体何をするつもりなの?」


「俺の体の気を全てこいつ(愛刀)に集めて攻撃する。上手くいけば攻撃を一回で終わらせることが出来る…はずだ」


 シンデンはレマにそう答えて愛刀を目の前に掲げた。


「全ての気を使うって…確かそれは気功術士でも危険な方法だったはず。シンデン、それは駄目だわ」


 気とは言い換えれば体を巡る生命力そのモノである。気功術士ではない人でも気を感じたりすることが出来るのは、気が生命力だからである。シンデンがやろうとしているのは、その気を全て愛刀に集め、通常の数倍いや数千倍の気を愛刀に込めて攻撃するという方法であった。これは数万回の攻撃を繰り返すよりは圧倒的に効率が良いが、下手をすれば気の枯渇=生命力の枯渇となる危険な技である。もちろんシンデンは死ぬつもりなど無く、勝算があってやる行為だが、星域軍人として気功術士について知っているレマには非情に危険な行為に思われた。


「大丈夫だ。気功術士として限界は見極めている。俺も死ぬつもりなど無い。それに数万回の攻撃を続けるほど、俺達もこの惑星にも時間が無い事は皆分かっているだろ?」


「…そうだけど」


「シンデン…」


 レマとシオンが心配そうな顔でシンデンを見るが、シンデン()はもう覚悟を決めていた。


「イグラン星域軍人としてこの惑星の事を考えると、私はシンデンさんを止める事は出来ません。だから私は全力でシンデンさんをお守りします」


 マクドゥガル少佐は覚悟を決めた様にシンデンにそう告げて、シンデンの左脇に立った。シールドの魔法を唱えるだけであればシンデンの側に立つ必要は無い。つまりマクドゥガル少佐は身を挺してもシンデンを護るという彼の意思を示していた。


「無理はしないでくれ」


 マクドゥガル少佐に声をかけると、シンデンは床に座り込み練気に取りかかった。体のチャクラを回し気を練り、そして頭頂のチャクラで気を昇華させる。その昇華した気を更にチャクラを使って増幅して気を更に昇華・増幅させて体中の気を集めていった。


「(師匠が俺に伝えなかった奥義は、この先にある筈…)」


 座り込んでから十分ほどでシンデンの体は昇華された気で満ちていた。気功術士がシンデンを見れば、今彼の体は太陽のように光り輝いていただろう。シンデンは立ち上がると練った気を全て愛刀に送り込んだ。


響音(おとね)、理力フィールドを頼む」


「Yes Master」


 シンデンの今の(・・)実力ではこれだけ大量の気を愛刀に込めて止めておくことは出来なかった。そこで響音(おとね)によって愛刀に理力フィールドを張らせることで、気を刀の周囲に纏わり付かせた。流石にこの段階になれば気功術士ではない人にも気の存在を目にすることが出来る。膨大な気により青白くスパークした愛刀が今にも爆発しそうに「ジジジッ」と音を立てていた。


「行くぞ!」


「分かったわ」


「シンデン頑張って!」


 シンデンは愛刀を振るって精霊に斬りつけた。今までとは桁違いの威力の気による斬撃を受けて精霊から何かが失われていく。だがこのまま斬り捨てるだけでは効果は薄いとシンデンは考えていた。


「フン!」


 シンデンは円を描く様に刀を振るい、そして最後にその円を二つに割るように斬撃を放った。シンデン()がイメージしたのは、精霊の中にある怒りの感情を全て円の中に閉じ込め圧縮し、そして最後の一刀で斬り捨ているという物だった。


『グォッ!!』


 今までとは桁の違う気の斬撃を受けた精霊は、嘔吐するような気持ちの悪い思念を吐き出すと、攻撃を仕掛けたシンデンに対して魔法による反撃を行った。

 

精霊の反撃はシンデンの攻撃の威力に比例するのか、先ほどまでとは比べものにならない程激しい物だった。部屋の中に幾百もの雷球や炎球が渦巻き、全てがシンデンに向かって収束する。マクドゥガル少佐とシオンがシールドの魔法を唱えレマが理力フィールドを張るが、それでも全ての攻撃を受けきることは出来なかった。防御を抜けた攻撃がシンデンを襲うが、シンデン()にはその攻撃を受け止めるだけの余力は無かった。


 シンデンに魔法が命中する寸前、彼の目の前に飛び出したのは響音(おとね)だった。彼女はちりとりで魔法をたたき伏せ、液体金属をコーティングしたメイド服で魔法を散らした。

 しかしそれでも魔法は尽きない。帆船が作り出した特別製のちりとりが魔法の熱によって融解し、液体金属も蒸発していく。


響音(おとね)止めろ!」


「その命令は聞けません」


 このままでは響音(おとね)が破壊されると思ったシンデン()が叫ぶが、響音(おとね)は命令に従わなかった。既にメイド服はボロボロになり、左手は表皮が燃えてしまい機械のフレームが露出していた。


響音(おとね)をやらせはしない!」


 このままでは響音(おとね)が破壊されると感じたシンデン()は、前に立ち塞がる響音(おとね)を体当たりで弾き飛ばすと、体に残った最後の気…生命力を全て注ぎ込んだ一閃を精霊に放った。


 ★☆★☆


「…俺は…一体どうして」


「シンデン、気がついたのね。良かった~」


 気がつくと、シンデン()はシオンに膝枕をして横たわっていた。シンデンが目覚めた事に気づいたシオンが両目に涙を浮かべて喜んでいた。


「シンデン、気がついたの」


「シンデンは無事だって、私が言った通りだろ。だが目覚めて良かった」


「マスター。大丈夫ですか」


「シンデンさん…」


 そしてシンデンの周囲にレマや響音(おとね)、カエデやマクドゥガル少佐が集まってきた。


「みんな無事か。…そうだ精霊は」


「精霊の方は大丈夫よ。しばらく大人しくしていなさい」


 慌てて起き上がろうとしたシンデンをレマが押さえつけた。膝枕されたままシンデンは視線を精霊に向けると、封印装置の上に精霊は浮かんでいた。その姿はほとんど変わっていなかったが、戦う前に比べ落ち着いた雰囲気が感じ取られた。


「俺は精霊の怒りを消し去ることに成功したのか。俺の感覚ではもう何度か攻撃する必要があると思っていたのだが…」


「そうなの?でも精霊はもう惑星に何かするつもりは無いみたいよ」


『小さき物よ、お前のおかげで我の中にあった怒りの感情は消え去った。我はもう小さき物に対して何かするつもりは無い』


 シオンの言葉を肯定するように精霊からの思念波が届いた。どうやら本当に精霊から怒りの感情は消え去ったようだった。


「…そうか。それなら良かった。じゃあもうこの部屋から脱出できるんだな」


「そうよ。でもシンデンが気絶したままじゃ危ないと思って、目が覚めるのを待っていたのよ」


 シオンやレマの話では、シンデンの最後の一撃は精霊からの魔法攻撃を全て切り裂き、精霊もその姿が消し飛ぶほどの威力であった。もちろん精霊は直ぐに姿を取り戻したが、その直後に『我の怒りは収まった』と言うと、そのままシンデン達に攻撃も仕掛けず、部屋の魔法の障壁も消えていたとのことだった。


「(俺の最後の一撃が負の感情を全て消し去ったのか。命を賭けた一撃だったが、それが良かったのか…)じゃあ、さっさとここから出よう。俺の方はもう大丈夫だ」


 シンデンはシオンの膝枕から頭を外すと、フラフラとしながらも立ち上がった。気功術も弱々しいながらも使える。精霊と戦うのは無理だが、通常に歩くことは出来るほど体力は回復していた。


「無理しないで」


 フラフラするシンデンをレマが支える。レマが右手を支えると、左手は響音(おとね)が支えた。響音(おとね)はメイド服がボロボロとなった事で、機能停止した人型ドローンの服に着替えていた。服のサイズが合っていないので胸の谷間が凄い事になっていたが、左手以外は普通に動かせるようだった。


響音(おとね)も無事で良かった」


「マスターのおかげです。もしマスターが庇ってくれなければ九十九パーセントの確率で私は破壊されていたでしょう。…でもマスターにはもう二度とあの様な事をして欲しくはありません」


 響音(おとね)はシンデンにそう言って俯いてしまった。


「いや、響音(おとね)を失いたくは無いから同じ様な事があれば、俺は響音(おとね)を護るぞ?」


「私はマスターに奉仕するために作られた人型ドローンです。マスターを護ることがあっても護られることが有っては駄目なのです」


 どうやら響音(おとね)にとって、シンデン()に護られた事が彼女の存在意義に反していると言いたいようだった。しかしシンデン()にとって響音(おとね)は人にしか見えないし、家族のような物である。シンデンの犠牲となり破壊されて良い物ではない。


響音(おとね)、俺は…」


「シンデン、響音(おとね)が困っているわ。それ以上は人型ドローンのプログラムに影響が出ちゃうから言っちゃ駄目よ」


 シンデン()響音(おとね)に自分の気持ちを伝えようとしたが、それはレマによって止められた。どうやらシンデン()が言おうとした事は、人型ドローンのプログラムに悪影響のある内容らしい。レマの空気を読めという雰囲気を感じ取って、シンデン()は黙ってしまった。


 帰りの遺跡内ではもう現住生物が発生せず、シンデン達は邪魔をされることも無く遺跡を抜け出すことが出来た。


「マクドゥガル少佐、惑星の異状気象や地震は無くなりました。精霊の封印に成功したのですね」


 火口から出るとクラーク少佐が駆け寄ってきた。精霊の封印は出来ていないが、彼の言う通り怒りが収まったことで惑星規模の異常事態は発生しなくなったようだった。


「クラーク少佐、精霊の封印については失敗した。だが精霊はもうこの惑星に影響を及ぼさないだろう」


「封印に失敗したのですか。それでは危険が残ったままなのでは?」


「詳しいことは指揮所で話す」


 マクドゥガル少佐はクラーク少佐を伴い仮指揮所に向かっていった。シンデン達は帆船の連絡艇に乗り込み休むことになった。シンデンはシオンとレマにより医療ポッドに入れられた。シンデンはもう大丈夫だと思っていたが、最後に生命力を使った一撃を放った事で体はかなり問題が出ていた様だった。医療ポッドのチェックでは、「二日ほど安静にすべき」と診断結果が表示され、シンデンはそのまま眠りに落とされてしまった。


 ★☆★☆


 シンデンが次に目覚めたのは、帆船の医療ポッドの中だった。


>『ようやく目覚めたか』


>『バックアップ霊子()か。どうやら帆船に担ぎ込まれたようだが、シンデン()はどうなったんだ?』


>『シンデンの肉体は生命力をほとんど使い果たして体のあちこちにガタがきていた。あのままじゃ危険だから帆船で治療したんだ』


 バックアップ霊子()の話によると、生命力を使い果たしていたシンデンの体は見た目は問題が無かったが体内は崩壊寸前だった。そこで連絡艇の医療ポッドでは治療が間に合わないと電子頭脳が判断し、シンデンは帆船まで運び込まれたのだった。そして二日間に及ぶ帆船の超技術治療によってシンデンは一命を取り留めることが出来たということだった。


>『かなりやばい状況だったんだな』


>『はい。後一歩本船での治療が遅れていれば、マスターは死んでいました。今後は気功術の行使に気を付けて下さい』


>『響音(おとね)を助ける為とはいえ、生命力まで使い尽くすほど気功術を使うのは止めておけ。今回は何とか間に合った、次は間に合うか分からないからな』


>『分かった。気を付けるよ』


 バックアップ霊子()と電子頭脳に注意を貰ってシンデン()は医療ポッドから解放された。



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