精霊との戦い(2)
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
シンデンが刀を振るうたびに精霊は大きなダメージを負う。だが、精霊は龍脈からマナを吸い取り直ぐさま回復するという、そんな攻防がしばらく続いた。その間にシオンとマクドゥガル少佐による封印装置の修理は進んだが、修理完了まで時間はなかなか進まなかった。そして修理が完了しないまま、最後の魅惑の魔弾の効果が切れてしまった。
「(後は俺の刀で何とかするしかないか)フンッ」
魅了が切れてしまった精霊の注意を自分に引きつけるため、シンデンは更に速度を増して愛刀を振るった。昇華した気をありったけ注ぎ込んだ愛刀で精霊を攻撃し、ヘイトを自分に集めようとしていた。
『鬱陶しい!』
そんなシンデンの攻撃に対し、精霊は今までとは異なった攻撃を放った。それは全方位に広がる魔力による衝撃波攻撃だった。全方位に広がる魔力の衝撃波は、部屋にいる全員を襲った。
「クッ、これは…」
シンデンは気のフィールドを超えて伝わってきた衝撃によって、弾き飛ばされた。響音は液体金属コーティングで魔力を弾いたが、それでも衝撃を吸収しきれずに壁に叩きつけられていた。
そして、理力フィールドで護られていたレマ達も封印装置の側から弾き飛ばされてしまった。
「不味い、使い魔が…」
「せっかく構築した魔法陣が壊された…」
精霊が放った魔力の衝撃波によってマクドゥガル少佐の使い魔は全て消え去り、シオンが修理していた魔法陣もかき消えてしまった。
「封印装置の修復は失敗しました。再修復は…不可能です」
レマ達と一緒に弾き飛ばされ、封印装置の状態をチェックしていた人型ドローンがそう告げると、衝撃によって回路が破壊されたのかそのまま倒れ込んで機能を停止してしまった。
「クソッ、せっかく修理できていたのに」
「シンデン、どうするの?」
シオンとマクドゥガル少佐がシンデンに指示を仰ぐ。といってもシンデンもこの状況を打破するアイデアは持っていない。
「カエデ、封印装置の修理はもう無理なのか?」
「先ほどの攻撃で装置の魔力回路が完全に破壊されたようだ。人型ドローンが言っていたように、シオンとマクドゥガル少佐ではもう修理は不可能だろう」
機能を停止していた人型ドローンからデータを引き出していたカエデが、シンデンにそう告げた。
「修理ができない以上、撤退するしかないか。帆船に戻って何か対策を…グッ」
撤退を指示しようとしたシンデンに、精霊が魔法を放ってきた。封印装置が壊れた影響か精霊の魔法の威力も上がっていた。シンデンは何とか愛刀で魔法を受け止めたが、愛刀は気と魔力の衝突によってギシギシと音を立てていた。
「シンデンに攻撃するな~!」
シオンがファイア・ボールの魔法を唱えるが、その攻撃は精霊に届く前にかき消されてしまった。龍脈から魔力を吸い上げている精霊に取ってシオンの魔法はもうそよ風のような物なのだろう。精霊が触手を振るうと魔力の衝撃波がシオンを襲い、彼女を壁に弾き飛ばした。
「シオン!」
「クッ、大丈夫よ」
壁に叩きつけられたシオンだが、チート性能のタクティカルスーツのおかげで大きなダメージは負っていなかった。しかし壁に叩きつけられた時に噛んだのか、口から血を流していた。
「全員撤退しろ」
カエデが修理不可能と判断したことで、シンデンは撤退することに決めた。
「しかし、このままではこの惑星が…」
「封印装置が修理不可能となった以上、このままここにいても俺達がやられてしまうだけだ。撤退しかない!」
撤退に反対するマクドゥガル少佐にシンデンはそう言うと、精霊に向き直った。精霊から逃げ出すにしても、誰かが殿を努める必要がある。そしてこの場で精霊に対抗できるのは、シンデンしかいなかった。
「撤退と決めたんだ、さっさと逃げましょう」
「シンデン、私も戦う」
「シオン、無茶を言わないの!」
カエデが真っ先に逃げ出す、マクドゥガル少佐が渋々と言った感じでそれに続き、シオンはレマに引きずられていった。
『逃さん!』
撤退を始めたシンデン達を見た精霊がそう言うと、精霊から攻撃とは異なった魔力の並が発せられた。
「出口に見えない壁がある。これじゃ通れないじゃないか」
しかしシンデン達の撤退は、精霊によって阻まれた。部屋から出る通路に入ろうとしたカエデは、魔力による障壁によってその行く手を阻まれてしまっていた。
「これはシールドの魔法とは違う。純粋な魔力による障壁だ。こんな物人の手で破れるわけが無い」
「試しても無いのに、諦めないでよ。こんなもの私の力で…くうぅ、なんて頑丈な障壁なのよ」
マクドゥガル少佐とシオンが魔力による障壁を解除しようと攻撃魔法やシールドの魔法を唱えたが効果は無かった。幾ら二人が凄腕の魔法使いとはいえ人である。この星の魔力を司る精霊が張った障壁を破ることは、蟻が像を動かそうとする様な物であった。
「(退路も断たれたって事か…)」
魔力障壁を張りながらも、精霊は攻撃を仕掛けるシンデンに反撃をしてきた。シンデンは愛刀を軋ませながらもその攻撃を切り払い、逸らして凌いでいた。しかし撤退が出来ない状況の為、シンデンも心に余裕がなくなっていた。そんな焦りが、気功術に影響する。シンデンの呼吸が乱れ練気が乱れれば、精霊の攻撃は容赦なく彼の体を削っていった。魔法に夜衝撃波がタクティカルスーツをえぐり、シンデンの体から血がほとばしった。
「マスター」
「きゃーっ、シンデン」
「シンデン!」
「来るな。それより退路を探すんだ!」
体を負傷して血を流すシンデンに響音やシオン、レマが駆け寄ろうとするが、シンデンは近づくなと手で制した。攻撃は今シンデンだけを狙っている。そのシンデンに近づくと精霊の攻撃を受けてしまうのだ。それにシンデンを護ってもこの部屋から脱出できなければ、結局全員精霊に倒されてしまう。今は退路を何とか見つけ出すのが重要なのである。
シンデンは再び気功術に集中すると、傷口からの出血を気で止める。そしてタクティカルスーツの応急治療機能を起動させた。応急治療機能はシンデンの体にマイクロマシンを注入し傷口からの出血を止めてくれた。一応これでシンデンは戦える状態となったが、流れた血の分体力は落ちている。
「(焦るな。ここで俺が倒れたら全滅だ。退路が見つかるまで、いや、退路がなくても精霊を何とかする手を考えるんだ)」
不思議なことに、シンデンが負傷を治している間、精霊から攻撃は行われなかった。おかげでシンデンは一息付くことができた。とにかく他のメンバーがこの部屋から脱出する方法を見つけるまで、シンデンは気功術と攻撃を繰り返し、精霊に対して何か打てる手は無いかと考えを巡らした。
「(気の斬撃は効果は効果がない様に見える。だが、何かが引っかかる)」
気の斬撃は精霊には全く効果を及ぼしているようには見えない。だがシンデンが攻撃する度に、その攻撃は精霊から何かを削っているような感触を得ていた。それは精霊の魔力でも存在でも無い、何か分からない物だった。
『ヌッ!』
精霊もシンデンに切られる度にうめき声とも付かない反応を返す。シンデンの攻撃が何か影響を与えている為、精霊はシンデンにだけ攻撃を行っていると考えられた。
「(俺の攻撃で精霊の中に何が起きてる?)」
シンデンは攻撃を仕掛けながら精霊の様子を窺う。しかしクラゲのような外観の精霊を見ても感情らしき物は判断できなかった。
『我はもう封印できぬ。小さき物よ諦めるのだ!』
シンデンによる何度目かの攻撃の後、精霊から再び全方位の魔力衝撃が放たれた。この攻撃で残っていた人型ドローンは全て機能を停止し、シオン達も壁に貼り付けられ身動きがとれなくなっていた。動けるのは気のフィールドを張っているシンデンだけであった。
「(封印を諦めろと…もう封印装置は壊れているが、精霊にはそれが分からないのか。…今俺達を攻撃しているのは、再び封印を恐れているからなのか?…そう言えば、なぜ俺は戦うだけで彼奴と話をしていなかったのだ)」
愛刀を杖にして、シンデンは立ち上がる。そして精霊が何を恐れているのか考えた。そしてシンデンは今まで封印しようと攻撃するだけで、精霊と話をしていないことに気づいた。
「お前は封印されるのが怖いのか?」
シンデンはそこで始めて精霊に問いかけた。普通の人間の声では届かない可能性があったが、シンデンは気の波動に質問の意味を含ませて精霊に放った。
「…お前は封印されるのが怖いのか?」
シンデンの問いかけに対して精霊から返事は無かったが、シンデンは何度も繰り返し問いかけた。
『ぬ。小さき物よ、それは我に言っているのか?』
精霊への攻撃を止め、シンデンが何度目かの問いかけをしたところで、ようやく精霊はシンデンの問いかけに気づいた。今まで攻撃の相手として見ていたシンデンを精霊はようやく対話する相手と認識した瞬間だった。
「ああ、お前に言っている。精霊…いや、お前は魔の王と名乗っていたな。お前は封印されるのが怖いのか。だから暴れているのか」
『当然だろう。封印されて喜ぶ物などいない。なのに小さき物は我を封印した。だが我は封印から解放された。そう、我は封印された事に怒っているのだ!』
精霊から激しい怒りの感情が伝わってきた。どうやら精霊には彼を封印した古代の異星人と人類の区別が付いていないようだった。そして封印が解放されたことで、封印されたことに対する怒りを関係の無い人類に対して向けていただけだった。
「(やはり怒りのために暴れていたのか)…俺達はお前を封印した小さき物とは異なる。お前を封印した小さき物は既に滅び去ったのだ。だからお前の怒りを向ける者達は猛威無いのだ」
『…信じられぬ。お前達も我を封印しようとしていた』
「俺の仲間を操り、封印を解かせたからだ。そして封印が解けると惑星…この世界に異状気象や地震が起きた。そのため俺達はお前を封印しなければならないと思ったのだ」
『…我はこの星の魔の王。感情が高ぶればそうなる。長い間封印されてきたことに対する怒りで意識せずともその様な事になってしまうのだ』
「そうか。だが俺達はお前を封印した物とは違う。それは分かってくれ」
『ふむ…』
精霊はシンデンの側に降りてくるとその触手で体をなで回した。シンデンとしては触手から逃げ出したかったが、ここでそうしてしまえば対話の機会が消えてしまうだろう。シンデンは精霊のされるがままに身を任せた。
『…確かに。我を封印した小さき物とは異なる。だが、我は封印された事に対する怒りは忘れられぬ』
「お前の怒りを静めることはできないのか」
『我は魔の王。感情を抑えることは出来ない』
「時分の感情を制御できないのか…」
精霊は人類が彼を封印した異星人と異なると認めたが、封印されたことに対する怒りの感情は抑えられないといった。つまり、このまま怒りの感情が残り続ける限り、この惑星には異状気象や地震が起きるという事である。
『…我から怒りを取り除く方法が一つだけある』
「それは、俺達に出来る方法か?」
『お前の攻撃が当たる度に、封印された事に対する怒りが少しずつ薄れていった。つまり、お前の攻撃は我から負の感情を消し去る効果がある』
「それは、俺の攻撃がお前の怒りの、負の感情を削っていったと言うことか?」
『そうだ。お前の攻撃で我の怒りの感情を削ることは可能だ』
「気による攻撃で怒りの感情が削れる…いや浄化しているのか。(俺の考えていた、気による精神の浄化はやはり有効だったのか)」
シンデンは精霊との会話で、攻撃する度に感じていた物が、精霊の感情を浄化している行為であったことに気づいた。シンデンは自分の負の感情を消すために気を遣う事を考えていたが、それは精霊相手にも効果があると言うことが判明した。
「怒りの感情が無くなれば、お前は大人しくなるのか?」
『我はこの星の魔の王である。感情が高ぶらなければ何も起こさぬ』
「つまり、怒りの感情を消せば何も行動を起こさないと言うことか」
『そうだ。だが、それがお前に出来るのか?』
「俺の攻撃で怒りの感情が薄れていったと言うが、その怒りを消すには後どれほど攻撃すれば良いのだ」
『後幾万の攻撃を我が身に喰らわせれば…消えるやもしれぬ。だが攻撃をするのであれば、当然だが我はお前に反撃をするぞ。攻撃されれば反撃することは、我にも止められぬ』
「(つまり、今までの攻撃を何万回と繰り返さなければ、精霊の怒りの感情は消えない。そして反撃もしてくるということか…)」
精霊の言い分を聞いて、シンデンはその作業の困難さに絶望を感じた。精霊の言った通りの事を実現するには果てしない時間がかかってしまう。そしてその間シンデンは気功術を使い続けなければならない。シンデンは人間であるので体力が持つわけが無い。
『まあ、我にとって小さき者達がどうなろうと知ったことでは無い…』
精霊はそう言って再び空中に浮かび上がった。
「シンデン、どうするの」
精霊が解放したのか、壁に貼り付けられていたシオン達は解放されていた。そしてシオンがシンデンの元に駆け寄ってきた。
「未だ魔法の障壁は張られたままだ」
マクドゥガル少佐は通路への入り口を指さしてそういう。カエデとレマは通路を調べているが、魔法の障壁は破れていなかった。
「(魔法の障壁を解除していないと言うことは、俺達を解放するつもりは無いということか。しかし攻撃は仕掛けてこなくなった…つまり、精霊は俺に怒りの感情を消し去ってほしいと言うことなのか。そうしてほしいと言わないのは、魔の王としてのプライドなのか…)」
魔法の障壁が解放されないことで精霊はシンデン達を解放するつもりが無い事を、そしてシンデンによって怒りの感情を消して貰いたいという事に気づいた。
「みんな集まってくれ」
シンデンは全員を集めると、精霊との会話を元にこれからどうすべきか話し始めた。
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