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精霊との戦い(1)

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

「龍脈を操る遺跡に関する資料を集めてくれ」


「魔法生物の資料は何処にある」


 シンデンがイグラン星域軍の仮指揮所に入ると、クラーク少佐が指揮を取り、慌ただしく技官や星域軍の兵士達が精霊について情報を集めようとしていた。


「シンデンさん、どうしました」


 仮指揮所に入ってきたシンデンを見つけると、硬直から解放されたのか、マクドゥガル少佐が駆け寄ってきた。


「マクドゥガル少佐、体は大丈夫なのか?」


「はい。遺跡から出てしばらくすると解放されました。今回はあの様な事になり申し訳ありません」


「誰もあの様な事が起きるとは予想していなかった。少佐の行動を押さえきれなかったのは俺の失敗でもある。だから少佐の謝罪は不要だ」


「…そうですか。シンデンさんに言われて少し気が楽になりました」


 シンデンはマクドゥガル少佐が操られていた事を知っているので、特に謝罪は不要と思っていた。そこを追求するとなるとシオンも操られていた事も問題となる。そして現状一番の問題は、あの精霊の封印について話をすることになる。


「クラーク少佐は…忙しそうだな」


「ええ、あの化け物がどのような存在か、クラーク少佐がイグラン星域にある情報を調査しています。」


「ふむ。あの化け物だが、どうやらこの惑星の内包された魔力が具現化した存在…精霊(・・)と呼ぶらしいぞ。俺の船の電子頭脳がそう分析していた」


「惑星の魔力が具現化した存在で、精霊と呼ぶのですか?」


「人類発祥の地の地球では、自然を司る存在を精霊と言っていた。それと同じ存在と思ってくれ」


「自然を司る存在ですか…」


 シンデンからそう告げられ、マクドゥガル少佐は驚きで目を見開いていた。


「シンデンさんは、そこまであの化け物について知っておられたのですね。流石AAAランクの傭兵というべきでしょうか」


「いや、俺の船の電子頭脳が優秀なだけだ」


 クラーク少佐もシンデンの発言を聞いて駆け寄ってきた。どうやら彼もあの精霊が「惑星の内包された魔力が具現化した存在」という事に分析を終えたようだった。


「そうですか。シンデンさんは精霊の対処法も電子頭脳は知っていたのでしょうか?」


「精霊は人の力で倒す事は不可能だ。つまり封印するしかない。しかし封印するレリック(遺物)は持っていない。つまり遺跡の封印装置を修理するしかないというのが、船の電子頭脳の結論だ」


「…やはり封印するしかないのですか。しかし遺跡の封印装置の修理といっても、イグラン星域にはそれを行うだけの知識や技術がありません」


 クラーク少佐は精霊の対処について、シンデンが情報を持っているかと思っていたらしく、困った様子であった。


「修理に関しては、俺達の方で手段を検討している。とにかく急がないと、封印されていたことであの精霊は怒っている。このまま放置すれば、惑星規模で大災害を起こすだろう。イグラン星域も、この惑星で地震や異状気象が発生していることは把握しているだろう。それはあの精霊が行っているのだ」


「この惑星で発生している異常現象は、その精霊が起こしているのですか。それは確かな情報でしょうか」


「船の電子頭脳がそう言っている。現に精霊が解放されてから災害は起きているのだろ?」


「そうですね。たしかに遺跡で精霊が解放されてから、地震や異状気象が起きています」


 マクドゥガル少佐は、自分が封印を破ってしまった精霊が災害を起こしている原因だと聞かされ顔を青ざめさせて俯いた。このままではこの惑星で起きる災害被害の責任は彼にかかることになる。それは今まで順調に出世街道を進んできたマクドゥガル少佐にとって認めたくない事であった。


「シンデンさん、遺跡の装置の修理ですが成功する可能性はどの程度あるのでしょうか」


「本当に修理可能かは、現場で判断するしかない。修理に必要な資料とサポートする人型ドローンは一時間ほどで準備できる。それで封印装置の修理は魔法使いでなければ不可能らしい。修理は俺のチームの魔法使い…シオンにやって貰うつもりだ」


「そうですか。イグラン星域ではその資料もありません。私は魔法使いではないので、力にはなれませんね…」


 クラーク少佐は唇を噛みしめて、悔しそうな顔をしていた。


「魔法使いが必要なのですか。それなら私が参加します」


 魔法使いが必要と聞いて、マクドゥガル少佐が食い付いてきた。


>『確かにマクドゥガル少佐は魔法使いだが、先ほどと同じく精霊に操られる可能性があるな。まあシオンも操られる可能性があるか。電子頭脳さん、少佐を連れて行っても問題はないか?』


>『精霊からの支配に対抗するレリック(手段)はあります。マクドゥガル少佐の使い魔が装置を破壊したのですから、修理も同じように可能と推測します』


>『|シンデン()響音おとねにはマクドゥガル少佐の使い魔を殲滅しないように言い聞かせておいた。今度は暴走しないだろう』


「マクドゥガル少佐の参加を認めよう。だが、再び精霊に操られるようなら、気絶させて人型ドローンに運ばせることになる。それでも少佐は付いてくるつもりか?」


「イグラン星域軍の名誉にかけて、今回の任務は成功させますよ」


「分かった」


 マクドゥガル少佐の必死な顔を見て、シンデンは彼の同行を認めることにした。それからクラーク少佐やカエデ、シオンを交え、封印装置の修理に必要な資料を分析して貰った。


 一時間後、帆船の人型ドローンの調整が終わり、シンデン達は遺跡に入って行った。メンバーは、シンデンとシオン、カエデ、レマ、マクドゥガル少佐と響音(おとね)達人型ドローンである。星域軍の兵士も付いてくるが、もちろん問題を起こしたウォーレン大尉達とは別の部隊である。


 スズカは今回の調査では実力不足のために留守番となった、カエデが同行するのは人型ドローンの資料から封印装置の修復に付いて的確な判断できるのが、彼女しかいなかったからである。クラーク少佐がカエデのレリック(遺物)に対する豊富な知識に驚いていたが、帆船で死ぬほどレリック(遺物)を研究しているのだから、当然である。


「このシールを額に貼れば良いの?ウーン、格好悪い気がするな~」


「このシールがレリック(遺物)なのですか?これで精霊から操られるのを防げるのでしょうか」


「どうせヘルメットで隠れる。魔法使いは操られる可能性があるのだ、しっかり張っておけ」


 シオンとマクドゥガル少佐には、額に三センチ四方のξのような文字が書かれたシールを貼り付けた。これは帆船から送られてきた精霊からマーキングされた魔法使いを護る為のレリック(遺物)である。これで二人が精霊から操られることはないと電子頭脳は言うが、実際試してみるまで効果は不明だ。


 遺跡の地図は出来ており、星域軍の戦闘ドローンも現住生物の対応として実弾兵装を選択しているため、最後の電子機器が動作しない部屋まで問題も無く進むことが出来た。


「シオンとマクドゥガル少佐は人型ドローンの指示に従って封印装置の修理を行ってくれ。レマはその護衛だ。俺と響音(おとね)が精霊の気を引いている間に修理を終わらせてくれ」


「「「「了解!」」」」


 気功術が精霊に通じないことは分かっているが、相手の攻撃も気で防げることは分かっている。響音(おとね)は理力フィールドが張れるので、彼女も精霊の気を引く係である。帆船からはサッカーボールサイズの魅惑の魔弾を六発持ち込んできており、それは人型ドローンが投げて陽動に使う。帆船の計算では魅惑の魔弾一発で一分は稼げるとのことなので、六分は修理の為の時間を稼ぐことが可能と作戦を立てていた。


「解放されてからかなり時間が経っている。精霊の状態がどうなっているかは不明だ。皆注意してくれ」


 シンデン達が部屋に踏み込むと、そこには依然として精霊が居座っていた。相変わらず封印装置の上から動かず、姿も大きさも変わっていないが、その存在感(・・・)は、部屋から逃げ出した時とは比べものにならない程大きくなっていた。


響音(おとね)、行くぞ。…よし、魅惑の魔弾を使え」


「Yes Master」


 人型ドローンの一体が手に持った魅惑の魔弾を精霊に投げつけた。魔弾は精霊の目の前で発動すると、精霊を魅了する。もちろん惑星規模の魔力の塊が、魔弾程度で魅了されるわけではないが、シオンやマクドゥガル少佐から注意を逸らし、シンデン()響音(おとね)に興味を引きつける事には成功していた。


『雷よ!』


 精霊のクラゲのような触手からシンデン()響音(おとね)に向かって雷が放たれる。シンデンは気を込めた愛刀で切り払い、響音(おとね)は理力フィールドをまとったちりとりで受け止める。


『炎よ!』


『水よ!』


『風よ!』


『土よ!』


 精霊のクラゲのような触手から次々と魔法が襲いかかるが、シンデン()響音(おとね)はそれを何とかいなして防ぐ。そして一分が過ぎ去ろうとしたところで、精霊は封印装置の前で修理に取りかかっているシオン達の存在に気づいてしまった。


『また我を封印するつもりか!』


 精霊の怒りの思念波と共に、炎、水、風、土、雷の魔法が、封印装置を修理しようとしているシオンとマクドゥガル少佐に襲いかかる。


「レマ!」


「分かっているって。臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前…喝!」


 レマが、右手に持った聖石(・・)の数珠を使い、強固な理力フィールドを張り、全ての魔法から二人と一体を護った。


 聖石の数珠は、先の戦いでレマ一人の理力フィールドでは精霊の魔法に対抗できないだろうと、帆船に作らせた物である。帆船が持っていたレリック(遺物)として、聖石の数珠をレマに手渡した時、彼女はその力に驚いていた。聖石の数珠は期待通りレマの理力を高めてくれた。


「二発目を使え」


 人型ドローンから二発目の魅惑の魔弾が投げ込まれる。魔弾の発動と同時に、シンデンは昇華した気を纏った愛刀で精霊を切り裂いた。相変わらず手応えがないが、切り裂く度に少しだけ精霊の体から何かが抜けていく様にシンデンには感じられた。


「(気功術も全くの無駄ではないのだな)…カエデ装置の修理は可能か?」


「人型ドローンは修理可能と言っているわ」


 シンデンが装置の修理状況を尋ねると、カエデから修理可能と答えが返ってきた。


「修理が可能なら、俺達が頑張るしかないか。響音(おとね)、時間稼ぎをするぞ」


「Yes Master」


 俺は愛刀に更に気を纏わせ響音(おとね)は理力フィールドを竹箒にまとわせて、二人で精霊に襲いかかった。クラゲのような精霊は見た目通り動きはそれほど素早くない。魔法は狙いを外さないが、逆に必ず命中すると分かっているなら防御は簡単である。


『ぬぅ、面倒な奴らめ』


 精霊はシンデンと響音(おとね)の近接攻撃に対応できない事に怒りをつのらせていった。


「カエデ様、修理箇所が判明しました。今表示します」


 封印装置を調査していた人型ドローンが、装置の内部情報と修理箇所をホロディスプレイに表示した。


「修理箇所はディスプレイに表示されている赤く光っている箇所よ。シオンはあの大型の魔力回路を作り直してちょうだい、マクドゥガル少佐には、貴方の使い魔が壊してしまった、小型の魔力回路の修復をお願いします」


「カエデちゃん、魔力回路ってどうやって修理するの?」


「魔法を使う要領で、この魔法陣をイメージして魔法回路に魔力を流して」


「難しそうだけど、やってみるわ」


「マクドゥガル少佐の方は大丈夫ですか?」


「ああ、自分の使い魔のやった事だ、何とかして見せよう」


 シオンとマクドゥガル少佐は、カエデと人型ドローンの指示で装置の修理に取りかかった。しかし修理箇所は多く、レリック(遺物)の修理は、シオンとマクドゥガル少佐にも初めての作業である。二人は頑張るが、修理はなかなか進まなかった。


 ★☆★☆


 人型ドローンが五つ目の魅惑の魔弾を使った。つまり後二分で修理を終える必要があるが、封印装置の修理状況はようやく半分終わったという所だった。


 シンデンはずっと昇華した気を使って精霊に斬りつけていたが、僅かな手応えが在るだけで効果はほとんど無かった。響音(おとね)の理力フィールドも精霊にはほとんど効果がない。魅惑の魔弾がなければ、精霊は二人の攻撃を無視していただろう。


「(もっと俺が精霊の注意を引きつけないと、レマやシオン、マクドゥガル少佐に危険が及ぶぞ。さて、どうすれば良い)」


 シンデンは残り時間が二分となった事で焦りを感じていた。響音(おとね)と精霊を翻弄しながら戦っていたが、精霊にとっては目障りな羽虫程度の認識しか与えられていない。


「(前の戦いでは、シオンの魔法の支援があれば決定的なダメージを与えることが出来たが、今それをシオンに頼んでいる暇はない。こうなれば響音(おとね)の理力フィールドを刀にまとわせてみるか)」


 見たところシンデンの気功術による攻撃より、響音(おとね)の理力を使った攻撃の方が精霊に効果があった。恐らく理力もマナを使った術であることが理由だと思われた。


響音(おとね)、俺の刀に理力フィールドを張ってくれ」


「了解しました」


 響音(おとね)がシンデンの愛刀に理力フィールドをまとわせる。シンデンは愛刀に纏わり付いた理力フィールドを増幅させるイメージで気を注ぎ込んだ。理力フィールドと気功術は魔法と違って相性が良いとは言えない。しかしシンデンの昇華された気はその相性問題を乗り越えて、理力フィールドを強化していった。


 気によって増幅された理力フィールドは、「ブォン」と妙な音を立てて青白くスパークした刃を形作った。今にも爆発しそうなその刃を精霊に向かって振るうと、今までほとんど効果がなかった斬撃が大きく精霊の体を消し去った。


『ぐぅ』


 シンデンによって大きなダメージを負った精霊は、その傷口を押さえて呻いた。


「(これなら精霊の注意を俺に引きつけられる)響音(おとね)、理力フィールドを俺の刀にかけ続けろ」


 青白くスパークする刃を振るい、シンデンは精霊の注意を引きつけた。

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