出航
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
シンデンと響音は無事帆船に戻ることができた。傭兵でのお約束な出来事など起きなかった。ならず者が多い傭兵だが、黒いスーツで身を包みメイドを連れ回すようなやばそうな奴に絡むほど馬鹿ではなかったようだ。
>『出港に必要な消耗品とか大丈夫か?』
>『不要。本船は、ほぼ無補給で航行可能』
サラリと電子頭脳がとんでもない事を言っているが、俺もそれを理解している。
>『今回はシンデンの娘を捜索するのが目的だ。今の帆船の装備で対応可能か?』
>『…否定。人型ドローンの購入が必要と推測』
>『今、人の前で動かせるのはシンデンと響音ぐらいだ。それにシンデンの身に何かあれば、この帆船がどうなるか…。やはり人型ドローンをもっと増やすべきだ』
>『…マスターは人型ドローンを否定』
>『それは聞いたが、今この船の制御をしているのはバックアップ霊子だ。シンデンの娘を探す為には人型ドローンを多数投入するのが最適だと電子頭脳も分かっているだろう』
>『肯定。性能を考慮した場合、人型ドローンは購入ではなく本船での製造を推奨』
>『却下だ!この船で作ると、シンデンのスーツの様なデザインになるんだろう。そんな目立つ物は使い物にならない。人類が作った物、量産品であれば目立たない』
>『…バックアップ霊子の判断が人類社会での行動に最適と判断。人類が製作したドローンの購入に同意』
>『そういえばステーションでは人型じゃない、非人型の作業ドローンも見かけたな。よし人型じゃなくても惑星やステーションで動作可能なタイプの物を一通り購入しろ。それと入手可能か分からないが、TOYO社の人型ドローンでも男性タイプの奴を二体、シンデンの姿に似た物を購入しよう。男性向けの女性型は悪目立ちするからな。…いや、響音もメイド服を着せてたのが目立った原因か。女性が着るような普通の服も購入しておこう。そっちは俺が見積もっておくぞ』
>『了解。バックアップ霊子は響音の為の趣味の服を購入』
>『待て、俺には着せ替え人形する趣味はないぞ。あくまで響音や人型ドローンが目立たないようにするためだ。』
>『…了解』
>『その間はどういう意味だ。とにかく出航を急ぐ。早く購入しないと。資金は…シンデンがかなりため込んでいるから、何とか足りそうだな。後は納期は…二時間で納入可能か。さすが未来世界。物品の流通も早いな』
電子頭脳と俺は、人間とは比べものにならない速度で商品の選択・見積もりの発注と購入処理を行っていく。相手にする商会も人ではなくAIが応答する店が大半だった。AI相手であれば、取引ももの凄い早さですすみ、目的としていたドローンもほぼ手に入れることができた。そして入手は難しいかと思ったTOYO社の人型ドローンだが、このステーションに支店があり、要求する容貌を伝えたら、カスタマイズ料金は取られたが二時間きっかりに納入してきた。
ステーションにTOYO社の支社があったのは、需要があるからだ。超光速航法で移動が短縮されたといっても宇宙は広い、目的地によっては数週間船に閉じ込められる場合もある。人を増やせば空気と水、食料が必要だが、人型ドローンであればそんなコストはかからない。俺がやってしまったようにメイド服姿をさせて連れ回さなければ、問題は無かったのだ。
★☆★☆
>『注文した納品と検品は終わったな』
>『肯定』
>『出港手続きは』
>『完了』
>『よし、出港するぞ』
ステーションから出航する傭兵の宇宙船など見慣れた物だろうが、帆船の姿をしたレリックシップであるシンデンの宇宙船はもの凄く目立つ。何せ航路の優先権を持つ宇宙船の方が避けてしまうぐらいである。
>『この船が目立ち過ぎる』
>『本船が優秀な結果』
>『…いや、このままキャリフォルニア星域に入るのはやはり無理だろう。何か手を考えないとな。何か手はないのか』
>『船の形状を変更する事は、自動修復機能を阻害。よって不可能』
>『自動修復か…。たしかに船の素材は特殊だからな。装甲材がジェネレーターを兼ねているとか、この帆船を作った連中は、科学技術も凄かったんだな』
>『設計者は天才』
電子頭脳が自慢げであるが、それも当然である。宇宙船で一番コストがかかりそして重いのが動力源であるジェネレーターである。ジェネレーター出力が大きいほど宇宙船は速度も出せるし、シールドや武装の出力も大きくなる。星域軍の戦艦がキロメートル単位であるのは、内部にドローンを搭載する為でもあるが、巨大なジェネレーターを持たざるを得ない為だ。つまり宇宙船は大きい=速い・強いという図式となる。
しかしこの帆船は装甲材がジェネレーターを兼ねている。宇宙空間を飛び交う宇宙線や漂う微粒子、果ては理力が使うマナまで吸収してエネルギーとして利用している。(超光速空間でもマナが存在するためそれをエネルギーとして利用している)つまり、エネルギーだけでいうなら無補給で済むのだ。
>『凄い船だとは思うが、デザインのセンスがな』
>『問題無』
超光速空間で使える帆があるため、百歩譲って帆船というデザインは理解できるが、昆虫のような作業ドローンやシンデンのスーツを見る限り、設計者…いや電子頭脳のデザインセンスは人類とは相容れない物である。そして船の中枢にある霊子を貯蔵して兵器として使用する機能。あれは悪魔の兵器であろう。
>『「お前は神様にも悪魔にもなれる」とか聞いたことがあるが、霊子をもてあそぶとか悪魔の船だろうな』
>『否定。設計者は本船を「神の船」と命名』
>『俺は設計者と理解し合えないだろうな。…まあ、そんな設計者が存在して、この帆船を作ってくれたから俺は今こうして生きている訳だが』
>『否定。バックアップ霊子は非生命体』
>『八百万の神。人型だろうがモノだろうが、霊子があれば、いや霊子すら無くても明確な意思があるなら、神と言うか生きているモノとして扱うのが俺達日本人の考えなんだよ』
まあ、俺の八百万感の解釈が、大多数の日本人の考えと一致しているかと言われれば、まあ違うかもしれないが、俺は今生きていると感じている。それが大事なのだ。
>『たとえ体が無くて食事も睡眠もしないが、俺という意識があれば俺は生きている。…この帆船は補給も不要だし、俺は不眠不休で働ける。よし超光速航法開始して、直ぐにキャリフォルニア星域に向かうぞ』
>『外観を変更の検討が未』
>『良い案があるんだよ』
このときの俺に肉体があれば、もの凄く悪い顔を俺はしていただろう。
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