遺跡調査(3)
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
申し訳ないですが、しばらく週一の更新とさせてください。
マクドゥガル少佐の左手から飛び出した大量のGが部屋を埋め尽くした。
「何よこの気持ち悪い生き物」
シオンはGを見ても気持ち悪いという感想で終わった。
「ヒッ!」
「…」
スズカとシンデンは大量のGに対してSAN値チェックに失敗して、その場で凍りついた。
「これは…昆虫型の使い魔なのか。しかしマクドゥガル少佐はなぜ今それを呼び出したのだ?」
カエデはスズカと異なりGに対する耐性があるのか、自分の足下をうごめく黒いカサカサを興味深そうに見ていた。
「マクドゥガル少佐、貴方の使い魔は秘密ではなかったのか?」
クラーク少佐は、気まずそうな顔でGの群れを見ていた。彼もGには耐性があるようだった。
「緊急事態発生。Gを駆除します。オールウェポンフリー。全力で駆除しなさい」
「「「「「Yes,Ma'am」」」」」
そしてGの発生で一番正気を失ったのは、響音であった。彼女はちりとりと竹箒を取り出すと、Gの駆除に向けて動き始めた。ここでシンデンが正気であったなら響音達人型ドローンに的確な指示を出せたのだろうが、生憎俺は正気を失っていた。
響音が竹箒でシンデンの周囲にうごめくGを処分し、人型ドローン達は対装甲ライフルをGに向けて発射して駆除を行っていった。
「と、止まるんだ」
響音達がGを駆除する中、マクドゥガル少佐は必死にGの動きを止めようとしていた。しかしGは彼の制御を離れ、魔法陣が描かれた封印装置に向かって行った。瞬く間に封印装置はGで埋め尽くされ、真っ黒になった。
「…待て」
マクドゥガル少佐が止める間もなく、Gは装置の内部に潜り込み、内部の魔法回路を囓りだした。Gによる破壊工作で、封印装置が発生させていた魔法陣が点滅したかと思うと、すーっと消えてしまった。
「封印が解けてしまったわ」
「不味い状態になりましたね」
カエデとクラーク少佐が慌てて封印装置から離れる。そして魔法陣が消えると同時に封印されていた異形の生物がゆっくりと動き出した。
『我は解き放たれた!』
周囲に異形の生物の思念波が広がっていく。それと同時に周囲に溢れていたGが一斉に消え去った。
「はっ、俺は一体何をしていたんだ?」
「シンデン、見て。彼奴の封印が解かれちゃったのよ」
Gの消滅と異形の生物の思念波によって正気を取り戻したシンデンは、周囲をきょろきょろと見回した。そこにシオンが抱きつき、異形の生物の封印が解かれた上を指さした。シンデン達の上空に異形の生物が浮かんでいた。封印されていた時と異なり、クラゲのような触手がうねうねと動き、体から黒い光が漏れ出している。
「面倒な事になったな。カエデ、あの生命体の正体は分からないか?」
「…見たところ高次元生命体では無い。恐らく魔法的な生物だと思うが、分からないな」
シンデンも気により異形の生物を探ったが、以前戦った高次元生命体とは異なった気配を感じ取っていた。しかし高次元生命体とは異なるとはいえ、シンデンが感じ取った気配では、異形の生物が内包するエネルギーはとんでもない物であった。
「スズカとカエデ、クラーク少佐は通路の所まで待避しろ。レマは三人の護衛に付いてくれ。俺とシオンは異形の生物の対応を行う。マクドゥガル少佐は…」
シンデンが指示を叫ぶ中、マクドゥガル少佐は理由は不明だがその場で硬直していた。
「響音、マクドゥガル少佐を連れてレマの所まで待避しろ」
「Yes Master」
響音はマクドゥガル少佐を抱えると、レマのいる場所まで運んでいった。これで異形の生物と退治するのは俺とシオン、四体の人型ドローンだけとなった。シンデンは気を練り愛刀を構えた。
『さて、我の封印を解除してくれた者に褒美を与えよう』
異形の生物に目があるとは思えなかったが、奴がマクドゥガル少佐に注意を向けたことがシンデンには感じられた。
「レマ、理力フィールドを張れ!」
クラゲと思わしき触手が光ると強烈な電撃が放たれた。狙いはマクドゥガル少佐を含むレマ達であった。レマは理力フィールドをギリギリで張る事に成功し、電撃は防がれた。しかし、電撃はかなり威力があり、レマの理力フィールドはガラスの様に割れてしまった。
「お前の相手は俺だ!」
レマ達に電撃を放った事で、シンデンは異形の生物を完全に敵として認識した。気で体を強化し空に跳び上がったシンデンが、愛刀で異形の生物を切り裂いた。
「手応えが無い?」
シンデンは異形の生物を確実に切り裂いたが、しかしその手応えは空気を斬ったような感触であった。シンデンの斬撃には気が込められているので単なる物理攻撃ではないが、それでも異形の生物に目立ったようなダメージを負わせられてるように見えなかった。
人型ドローン達も対装甲ライフルを撃っているが、弾丸は異形の生物に命中してもすり抜けるだけであった。
「高次元生命体では無いが、物理無効と言う所か。気による攻撃も効かないとは厄介だな」
「それなら私の出番ね」
シオンが前に出ると、ファイア・アローを唱えた。先ほどの暴発した時とは異なり、正しく発動した炎の矢は、異形の生物に向かって放たれた。そして炎の矢は異形の生物に命中すると、その体の一部を吹き飛ばした。
『魔法使い、我に逆らうとは小癪なり。我は魔の王なるぞ!』
魔法攻撃でダメージを負ったことに怒ったのか、異形の生物から強烈な思念波が全員に届く。
「(魔の王とは魔王って事か?いや、ファンタジー小説じゃ無いぞ。)シオン、魔法は効くみたいだ。俺の刀に魔法をかけてくれ」
「分かったわ。マナよ集いて彼の者に力を与えたまえ…エンチャント・ファイア」
シオンのエンチャント・ファイアの魔法により、シンデンの刀に魔法による炎が纏わり付いた。これでシンデンの愛刀には、気の力に加え魔法的な攻撃力が付与された。
「フン!」
シンデンは異形の生物の頭頂まで飛び上がり、頭頂に向かって斬りつける。魔王はシンデンの動きを阻止しようと雷を放ってくるが、シンデンは気のフィールドで雷を全て受け止めた。
「一刀両断!」
シンデンは刀にかけられた魔法を昇華した気で増幅させると、巨大な炎の刃を作り出して、魔王の頭頂から足下までを落下の勢いを使って切り裂いた。
『ぐぉぉぉ』
シンデンによって真っ二つに切り裂かれてた魔王が苦悶の声を上げる。
「シンデンさん、やりました」
「(分かっている)シオン追撃だ」
スズカの賞賛の声に対して、シンデンも今の一撃で魔王を倒せたとは思っていなかった為、シオンに追撃を命じた。
「うん、マナよ我が手に集いて破壊の炎となれ…ファイア・ボール!」
シンデンが着地すると共に、シオンが追撃の魔法攻撃を放った。巨大な炎の塊がシオンの手から放たれて、苦しんでいる魔王に命中して爆発する。爆発によって生じた衝撃がシンデンとシオンを襲うが、シンデンがシオンの前に立って気のフィールドで護ってやる。
「シンデン、彼奴消えたよ」
「…倒せたのか?」
爆発が消えると、装置の上に陣取っていた魔王の姿は消えていた。
「今度こそやりましたね」
「スズカ、この程度倒せるなら封印はされていないはずだ。シンデン、油断するな!」
カエデがシンデンに注意を促すが、シンデンも倒せたとは思っていなかったので油断などしていなかった。
「シンデン、マナが集まっている」
『…われを滅ぼすことなど出来ぬ』
シオンが言うように装置の上にマナが集まると、再び魔王が姿を現した。
「(マナさえあれば復活するのか。いや、あの姿は見せかけで本体は別にいるのか?あの魔石が怪しいが、破壊すると何が起きるか分からない。ここは一旦撤退しよう)」
帆船と連絡が付けば相手の正体も分かりそうだが、相変わらず霊子力通信は妨害されている。「このまま戦っても勝ち目が無い」とシンデンはこの場は一旦撤退することに決めた。
「復活するなら倒しても意味が無い。シオン、撤退するぞ」
「…ん、分かった」
シンデン達の依頼は遺跡の調査である。魔王を倒す事は依頼の範囲では無い。レマ達がいる通路の方にシンデンとシオン、人型ドローンは撤退を始めた。
『逃がさぬ…ぬ、動けぬ。ならば』
魔王は、逃げ出したシンデンとシオンを追いかけようとしたが、装置の上空から動けずにいた。そこで先ほどとおなじく雷撃を放ったが、殿を努めるシンデンが刀で全て受け止めた。
「彼奴は動けないようだ。今のうちに撤退するぞ」
「アレを放置して撤退ですか?」
「俺達の依頼は遺跡の調査であって化け物の退治では無い。それに倒しても復活する仕掛けも分からないまま戦い続けるのは馬鹿のすることだ。ここは撤退して対策を練るべきだろう」
「…そうですね。わかりました」
撤退することに対してクラーク少佐が異議を唱えたが、シンデンの説得に頷いていた。マクドゥガル少佐は相変わらず硬直して身動きがとれない状態だったので、彼の意見も聞けない。魔王が動かない事を確認して、シンデン達は通路を戻り始めた。
★☆★☆
帰り道では現住生物は出現せず、星域軍の部隊が待つ通路まで問題なく戻って来られた。
「傭兵、一体何があった」
「ウォーレン大尉、拘束されていた筈だが。そして、この状況はどうなっている?」
電子機器が動作しなくなる部屋を通り過ぎて星域軍がいる場所まで戻ってくると、出発された時に拘束されていたウォーレン大尉が解放されていた。そして星域軍の兵士がシンデン達に銃を突き付けてきた。
「ウォーレン大尉の部下が拘束を解いてしまったのです」
「技官は黙っていろ!」
残っていた調査隊の一人が、ウォーレン大尉が解放された理由を話すと、周囲の兵士が彼に銃を突き付けて黙らせた。
「ウォーレン大尉、今こんな事をしている状況ではない。我々は早く遺跡から出て、遺跡の状況について上層部に報告を行い、対策を練らなければならないのだ」
「技官が星域軍に命令するな!」
クラーク少佐が銃を突き付けるウォーレン大尉に止めるように説得を行ったが、彼は聞く耳を持ってはいなかった。どうやらイグラン星域軍では技官の扱いが悪いようだ。いやこのウォーレン大尉が異常なだけかもしれない。技官もマクドゥガル少佐も階級はウォーレン大尉より上であるが、彼の部隊のメンバーでは無い。この場にいる兵士達はウォーレン大尉の命令に従うつもりの様だった。
「イグラン星域軍はどうしようもないな。レマ、みんなは任せたぞ。クラーク少佐、後で証言を頼むぞ」
「はぁ、分かったわよ」
「…分かりました」
レマの理力フィールドを突破できるのは、気功術士であるウォーレン大尉だけである。シンデンは気功術で体を強化するとウォーレン大尉達に向かって行った。
「貴様、何をするつもりだ。撃つぞ…うぉーっ」
ウォーレン大尉は俺に一度気功術を破られている為、気功術士として恥ずかしいことだがその手にはレーザ銃が握られていた。シンデンが向かって行くと、銃を構えて撃ち始めたが、対人レーザーがシンデンの気のフィールドを抜くことは不可能である。つまり、シンデンの拳によって、五分とかからずに星域軍の兵士達は制圧された。
拘束したウォーレン大尉達を戦闘ドローンに運ばせて、シンデン達は遺跡から地上に戻った。
★☆★☆
遺跡を出ると、クラーク少佐は硬直したままのマクドゥガル少佐を連れて星域軍の仮指令所に向かって行った。報告はクラーク少佐に任せて、シンデン達は帆船の降下艇に戻り休憩を取っていた。
シオン達が休憩している間に、シンデンは電子頭脳とバックアップ霊子に遺跡の状況報告を行っていた。
>『なるほど、魔王が封印されていたのか』
>『ああ、気功術は効かないし、魔法で倒しても復活するんだ。電子頭脳さん、魔王の正体って分かるか?』
>『マスターが遭遇した異形の生物は、精霊と呼ばれる物と推測します』
>『『精霊?』』
電子頭脳からの返答に、バックアップ霊子とシンデンは声を合わせて驚いてしまった。
>『はい。人類の基準で言えば精霊という存在が当てはまります。我らの創造主達は、「惑星の内包された魔力が具現化した存在」と呼んでいました』
>『惑星の内包された魔力が具現化した存在か。そりゃ精霊みたいな物だな』
>『精霊か…なぜそんな存在が封印されていたんだ?』
>『自分の意思まで持つまで具現化してしまった精霊は、何をしでかすか分かりませんので封印処理するのが当然です。創造主達もその様な精霊は封印していました』
>『精霊を倒す事は可能なのか?』
>『惑星の魔力を人の力で消しきることなど不可能です』
>『しかし、精霊は封印されていたはずなのに、どうやってマクドゥガル少佐を操ったんだ。シオンもその前に操られていたぞ』
>『「魔石の湯」は龍脈に通じていました。封印されているとはいえ精霊にとって「魔石の湯」はアクセス可能な場所だったのです。そこで「魔石の湯」に訪れた魔法使いで適正のある者にマーキングを行い、自分の封印を解かせようとしたです。そしてその活動を察知した遺跡が、防衛機能を活性化させたのだと推測します』
>『シオンとマクドゥガル少佐に魔王と通じる適正があったのか。これはイグラン星域には話せない内容だな。取りあえず、原因は不明と報告するしかないか』
>『シンデンそれより、再封印する方法を考えないと。精霊は封印されたことで怒っている様子なんだろ?このまま放置してあの場所から出てきたら、この惑星は大変な事になるんだろ』
>『惑星規模での地殻変動や異状気象を発生させるでしょう。現在も規模は小さいですが地震や異状気象が発生しています…』
電子頭脳の説明では、精霊と言うだけはあって惑星規模で力を振るう事が可能とのことだった。
>『電子頭脳さん、精霊を封印するレリックは船に無いのか?』
>『本船にはその様なレリックはありません。製作するとしてもシオンの協力を得て、半年ほどかかる見込みです。それより現在ある装置を修理する事を推奨します』
>『電子頭脳さん、あの装置、帆船のドローンで修復可能か?』
>『ドローンでは修理は不可能です。魔力的な回路のため、魔法使いの力が必要です。その為の資料は提供できますが、シオンが装置を修理できるかは実際に装置を見ないと。人型ドローンの一体に修理可能か判断する機能を追加します』
>『そっちは、イグラン星域…いや、クラーク少佐と相談だな』
電子頭脳との通信を終えたシンデンは、イグラン星域軍の仮指揮所に向かって歩き出した。
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