遺跡調査(2)
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
現住生物を退治して調査隊は通路を進んだ。そして五百メートルほど進むと、最初の部屋と同様な大きさの部屋に辿り着いた。最初の部屋と異なり、通路は正面のみに存在した。
「通路は一つだけか。真っ直ぐ進めという感じだな」
「最初の部屋と同じ罠があるのかな?」
シオンがそう言うが、同じ罠を仕掛けても意味はない。
「一応気で探ってみるが、…これは落とし穴か」
シンデンが気で壁や天井、床を調べると、今度は床に明確な穴があることが分かった。どう見ても落とし穴の罠である。
「みんな、少し待っていてくれ。罠を発動させてみる」
「シンデン気を付けて」
シンデンは、人型ロボットにフック付きワイヤーを持たせると、先端をタクティカルスーツの腰につけて、部屋の中央に進んで行った。
「おっと!」
「シンデン!」
「シンデンさん!」
部屋の中央まで進むと、部屋の床が大きく消え失せて巨大な穴が出現した。シンデンはワイヤーで繋がれているため、落下は途中で止まる。下を見ると穴の奥底には真っ赤なマグマが見えた。単純な落とし穴の罠だが、落ちればひとたまりも無く燃え尽きてしまうだろう。人型ドローンにワイヤーを巻き取らせてシンデンが通路まで戻ると、部屋の床は元に戻った。
「今度は壁際を進んでみる」
今度はシンデンは壁にワイヤーを打ち付け、安全を確保しながら、壁際を進んで行った。試しに壁から十メートルほど離れても罠は発動しなかった。そのままシンデンは壁際を進み、正面の通路まで辿り着いた。
『みんな、壁際を歩いてここまで来てくれ。念の為にワイヤーを掴んで進んでくれ』
調査隊はワイヤーを掴み、そろそろと壁際を進んで行った。そして誰も落とし穴の罠を発動させずに部屋を通り抜けることに成功した。
部屋を出て、正面の通路を進んで行くと、今度は現住生物が二体襲ってきた。一体は対装甲ライフルと響音で始末し、もう一体は戦闘ドローンの対戦車ミサイルで迎え撃った。対戦車ミサイルは現住生物を倒すだけの威力があったが、ミサイル爆発により現住生物は大爆発する。爆風はレマが張った理力フィールドで防いだが、二体の現住生物が同時に爆発した衝撃は、彼女の理力フィールドでも防ぐのがやっとだった。
「理力使いの消耗を考えると、彼奴らを爆発させるのは良くないな。現住生物の対応は、こちらの人型ドローンでやることにする。星域軍の戦闘ドローンは攻撃に参加せず、みんなをブラスターから護るだけにしてくれ」
「分かりました。戦闘ドローンは、対戦車ミサイルとエネルギー兵器を使わないようにしろ。シールドで調査隊を護るんだ」
マクドゥガル少佐はウォーレン大尉以下の兵士に命令を伝えた。シンデンの命令に従う事にウォーレン大尉は不満そうな表情を浮かべたが、他の兵士と同じく渋々と行った感じで戦闘ドローンにシールドを装備させていた。
★☆★☆
遺跡は部屋と通路が繋がる迷宮となっていたが、各部屋にはそれぞれ異なった罠が仕掛けられていた。
ある部屋では、中央に踏み込むと周囲の壁からブラスターが発射された。また別の部屋では天井が落下して、調査隊を押しつぶそうとした。罠の確認はシンデンが全て行い、全て無傷で罠を回避していた。
幸い、ほとんどの罠は、部屋の中央付近に踏み込まなければ発動しない物だったので、調査隊は壁際を進むことで罠を回避して進むことが出来た。
部屋と部屋を繋ぐ通路に出てくる現住生物の数は、先に進む毎に少しずつ増えていた。エネルギー兵器を使用しなければ爆発せずに倒せるので、響音達人型ドローンで倒していく。試しにシンデンも一体を斬ってみたが、何とかなる範囲であった。星域軍の兵士も戦いに参加したそうであったが、彼らの武装はエネルギー兵器である。シンデンは星域軍に戦う事を禁止していた。
遺跡の調査だが、右側と左側の通路と部屋を調査し追え、最後に残った正面の通路に繋がる迷路の調査を残すのみとなった。罠の種類もほぼ解明したので、調査隊は順調に迷路を進んで行った。もちろん現住生物も出てきたが、響音達とシンデンで対処可能な数で済んでいた。
そんな順調な調査だが、そろそろ遺跡の最深部と思われる部屋の手前で問題が発生した。
「スーツが動きません。戦闘ドローンも停止しました。シンデンさんはどうですか?」
「俺達のチームは特に問題は無い」
星域軍の装備は戦闘ドローンどころか装甲宇宙服も機能を停止してしまった。一方シンデン達のタクティカルスーツや人型ドローンは正常に稼働していた。部屋には黒い霞の様な物が充満しており、それがどうやら電子機器を停止させる様だった。電磁パルスと異なり、何か非科学的な方法で電子機器を停止させ、ついでに視界も遮られるので、部屋を進むには手探り状態となる。
「困りましたね。装甲宇宙服が動かないのであれば、私達は動けません」
クラーク少佐が残念そうな顔をする。装甲宇宙服はその重量からパワードスーツとなっており、電子機器が停止してしまえば、中の人の力では指先一本動かせない。部屋に踏み込んだ途端、ただの置物となってしまう。シンデン達がいなければ、星域軍はこの部屋で置物となってしまっていただろう。
「星域軍はここで待機してもらおう。後の調査は俺達だけで行う。マクドゥガル少佐、それで良いか?」
「シンデンさん達だけで調査させるのは許可できません」
「ここまで来て最深部が調査できないとか、研究者として我慢ならん。私は装甲服を脱いででもついて行くぞ」
マクドゥガル少佐とクラーク少佐が、シンデン達に連れて行けと装甲宇宙服を抜き始めた。それを見てウォーレン大尉以下の兵士と残りの四名の技官も装甲宇宙服を脱ぎ始めた。
「待ってくれ。マクドゥガル少佐とクラーク少佐の二人だけなら俺達で守れるが、流石に他の連中まで守って迷宮を探査することは不可能だ。俺達に同行するのは二人だけにしろ」
「何をいう。そんな事、認められるか」
「ウォーレン大尉、シンデンさんの言う通り似してください。彼がいなければ私達はこの遺跡で何回も死んでいるのですよ」
予想通りウォーレン大尉がシンデンに文句をつけるが、マクドゥガル少佐が彼を制止した。
「少佐。傭兵が星域軍よりよい装備を持っている事が問題なのです。今まで我慢してきましたが、それも限界です。イグラン星域軍が傭兵の命令に従うだけなど、私には我慢できません」
「どの星域でも同じ様な連中がいるな。傭兵がどれだけ苦労してその装備を準備したのか、それも分からないほど馬鹿なのか?」
「貴様、星域軍を愚弄するな!」
ウォーレン大尉は気功術士であった。彼は気で体を強化すると、シンデンに殴りかかってきた。
「ウォーレン大尉、止めるんだ!」
「イグラン星域軍の気功術士は、実力差も分からないのだな」
マクドゥガル少佐は魔法使いの為、気功術士のウォーレン大尉の行動に付いていけない。しかし、ウォーレン大尉行動を予想していたシンデンは、彼の攻撃を紙一重でかわすと、気を纏った指でデコピンを放った。シンデンの気をまとったデコピンが、ウォーレン大尉の頭頂のチャクラを揺らして、彼はまるで酔っ払ったように足下がおぼつかなくなった。
「何…を…し…た」
「気功術士なら、俺が何をしたかぐらい分かるだろ…」
転倒し這いつくばるウォーレン大尉に、シンデンは実力差も分からず襲いかかってきた彼に呆れていた。ウォーレン大尉の部下達は、デコピンだけで彼が倒された事で驚き、動きが止まっていた。シンデンは彼らが攻撃を仕掛けるようなら、容赦なく叩きのめすつもりだった。
「(シンデンという傭兵。レリックシップの力だけでAAAランクとなった傭兵では無い。彼がキャリフォルニア星域軍で特殊部隊に所属していたという情報は確かなようだな) お前達、ウォーレン大尉を拘束しろ」
マクドゥガル少佐は、兵士達にウォーレン大尉を拘束するように命じた。魔法使いであるマクドゥガル少佐だが、気功術士の戦いを知らないわけでは無い。ウォーレン大尉はイグラン星域軍でもそれなりに強い気功術士である。そのウォーレン大尉をデコピン一つで倒したシンデン実力に内心驚きを隠せないでいた。
「それで、連れて行くのはマクドゥガル少佐とクラーク少佐の二人で良いのか?」
「私が戻るまでウォーレン大尉を拘束しておけ。シンデンさん、ウォーレン大尉の暴挙について謝罪する。ついて行くのは私とクラーク少佐の二人だけにしよう」
「謝罪は不要だ。後で問題とならないように、この事はしっかり記録してくれ」
「プークスクス。星域軍がシンデンに敵うわけ無いじゃん」
「本当に、イグラン星域軍は傭兵を見下しているんですね…」
「シオン、スズカ。口を慎め。イグラン星域軍は一応依頼主だぞ」
シオンとスズカに口を閉じるようにシンデンは言いながらも、内心はイグラン星域軍兵士のだらしなさに呆れていた。マクドゥガル少佐とクラーク少佐達技官は、シンデン達と普通に接していたが、ウォーレン大尉と彼の部下の兵士達は、シンデン達に横柄な態度をとり続けていた。
残った兵士にウォーレン大尉が拘束されるのを待って、シンデン達とマクドゥガル少佐とクラーク少佐は遺跡の最下層へ続く通路を進んだ。
★☆★☆
最下層の手前で出現した現住生物は十体であった。響音達で瞬殺とは行かないため、シンデンとシオンも退治に参加していた。
「レマは四人を護ってくれ。シオン、爆発させないように水系統の魔法で倒せ」
「分かったわ」
スズカとカエデ、マクドゥガル少佐とクラーク少佐は、レマの理力フィールドに包まれた。響音達人型ドローンは、次々と現住生物を倒していく。それに負けない速度でシンデンとシオンも現住生物を倒していった。
シオンは爆発しないようにフリーズアローという氷の矢の魔法で現住生物の頭部を凍らせて倒していた。
「(シオンという魔法使い、なかなかの腕前だ。傭兵にしておくには勿体ない)」
シオンの魔法の腕前を見て、マクドゥガル少佐はようやくシオンに興味を持った。もちろんシオンは詠唱を行ってから魔法を使っているので、彼女としては実力を隠しているつもりだったが、それでもマクドゥガル少佐の目に留まるほどの使い手として認識されてしまった。
十体の現住生物を倒して通路を進むと、今までの部屋の倍はあるかというような巨大な部屋に辿り着いた。
部屋の中央には巨大な魔石があり、周囲にはそれを護るかのように、十二面体菱形の銀色の金属物が六つほどクルクルと回っていた。魔石の下には巨大な魔法陣が描かれた装置があり、その中にはカバのような現住生物とは異なった、異形の生物が浮いていた。
異形の生物の姿は、クラゲのような頭に恐竜のような手足、そして背中にはコウモリのような小さな羽が生えていた。気の弱い女性が見てしまえば、SAN値チェックに失敗するほど醜悪な容姿だが、シンデンチームやマクドゥガル少佐、クラーク少佐は顔をしかめる程度だった。
「…どうやらこいつは襲ってこないようだな」
異形の生物は空中で動きを止めており、シンデン達を襲ってくる様子は無かった。
「シンデンさん、この装置はあの生物を封じ込める為の物の様です。似たような装置を資料で見たことがあります」
「クラーク少佐の言う通り、あの装置は封印の為の魔法陣だよ。あの生命体は魔法的な産物で生み出されたものか、高次元生命体じゃ無いかな。それをこの装置で封印しているんだ」
クラーク少佐とカエデが魔法陣を見て、装置の機能について所見を語った。専門家の二人の意見が一致したので、装置の機能はそれで正しいのだろう。
「この遺跡はあの生命体を封印するために作られたのですね。しかし今まで何事も無く沈黙していた遺跡が、突然動き出して現住生物を出し始めました。何か原因があるはずです。クラーク少佐、装置を調査して、その原因を調べて下さい」
マクドゥガル少佐の疑問に答えるべく、クラーク少佐とカエデが装置を調べ始めた。何がキーとなって封印が解けるか分からない為、他のメンバーは装置に触れない様にして、閉じ込められている高次元生命体が動き出さないか見張っていた。
『『『『(我を解放せよ)』』』』
クラーク少佐とカエデが装置を調べ始めてから数分ほどすると、その場にいた全員の頭に謎の声が届いた。響音は首をかしげているが、他の人型ドローンにはその声は届いていない様だった。
「今の声は、生命体からか?」
「封印されている生命体からの思念波?興味深いな」
クラーク少佐とカエデが生命体を見上げる。声は聞こえたが、装置には特に変化はなかった。シンデンの霊子力通信は反応しなかったので、今の声は霊子力を使った通信ではなかった。
「このまま放置してよいのでは無いでしょうか。『解放しろ』と言うからには、この装置がどうにかならない限り解放されないのですよね?」
「スズカ、遺跡が動き出したって事は何かあるのよ。放置は不味いわ」
「そうです。動き出した理由を調べないと、装置を放置するのは危険です」
スズカの言葉に頷きかけていたシンデンは、カエデとクラーク少佐の発言を聞いて、顔を引き締めた。
「シンデンさん達がこの惑星に来た事で遺跡が活動を開始しました。シンデンさんのレリックシップとこの遺跡に関係があったりしませんか?」
「いや、俺の船と関係があるなら、この惑星に来るわけがない。どう見てもこいつは厄介な物だぞ」
「貴方の訪れるところ、常に騒動が起きていると思うのですが…」
「濡れ衣だ!」
マクドゥガル少佐がレリックシップとの関連性を疑っていたが、遺跡にヤマト級や帆船の仲間の船が封印されていないので、これは濡れ衣である。
『『『『(解放せよ)』』』』
再び声が全員の頭に響き渡った。そして今度は魔石が輝き始めた。魔石から漏れ出したのは濃密なマナであった。封印装置がある部屋は「魔石の湯」のようにマナに満たされた。
「えっ、なにこれ。…止めて」
シオンの驚く声にシンデンが振り向くと、彼女の頭頂部にマナが集まりファイア・アローが浮かび発射されそうになっていた。このままでは装置に向かってファイア・アローが放たれてしまう。
「シオン、何をしている!」
シンデンはシオンの前に立ち塞がり、ファイア・アローの発射を止めようとしたが、僅かの差でそれは間に合わなかった。放たれたファイア・アローが装置に命中する…と思われた所で、響音が辛うじて魔法をちりとりで受け止めた。
「響音、良くやった。…シオン、なぜ魔法を使った」
「分からないわ。額にマナが集まったと思ったら、突然魔法が発動しちゃったの」
シオンは訳が分からないという感じで首を横に振った。どうやら今の魔法はシオンが意識して放った物ではなかったようだ。
「とにかく魔法を使わないように意識を集中しろ。それぐらい出来るだろ」
「うん、分かった」
シンデンは、シオンが魔法を使わないが彼女を見守っていると、背後からマクドゥガル少佐の叫び声が上がった。振り返ると、シオンと同じように彼の左手にマナが集まっていた。
「くーーっ、止められない」
マクドゥガル少佐の叫び声とともに、左手から彼の使い魔であるGが勢いよく飛び出した。
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