遺跡調査(1)
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
しばらく週一の更新となりそうです
温泉旅行を終えて、シンデン達はイグラン星域が出した遺跡調査の依頼を受ける事になった。
「本当に受けてもらえるのですか」
「まあ、俺達に受けて欲しい依頼の様だからな」
「ありがとうございます。もちろん私も監査官として、遺跡の探査に同行します」
マクドゥガル少佐はシンデンが依頼を受けてくれると聞いて、自分も付いてくると言い出した。
「遺跡調査は危険だ。マクドゥガル少佐の身の安全は保証できないが?」
「私も星域軍の魔法使いです。自分の身ぐらい守れます。星域軍からも了解は取っております」
>『電子頭脳さん、マクドゥガル少佐を遺跡調査に同行させて大丈夫か?カエデも連れて行くのに、足手まといが増えても困るぞ』
>『イグラン星域軍のデータを見たところ、魔法使いとしても星域軍正規兵レベルの能力を持っています。同行しても足手まといにはならないでしょう』
>『情報収集だけじゃ無くて、戦闘も出来るのか。それなら大丈夫だな』
電子頭脳が足手まといにはならないと言う判断を下したので、シンデンはマクドゥガル少佐の同行を認めることにした。
「イグラン星域軍がそう言うのであれば了解した。それと、護衛対象が俺の命令に従わず負傷や死亡したとしても、俺達の責任では無いと依頼に追加して貰おう。それが確認できてから依頼を受けよう」
「シンデンさんは慎重ですね」
「星域軍と一緒に仕事するなら同然のことだ。後、星域軍が現在まで入手できた情報も公開して貰いたい」
未探査の遺跡では何が起きるか分からない。後は星域軍が何を仕掛けてくるか分からないので、念には念を入れておいた。
「依頼の修正は行います。情報は、現状分かっている物をお渡しします」
マクドゥガル少佐は個人端末を取り出して、遺跡についてイグラン星域軍が入手した情報をシンデンに情報を送ってきた。
>『やはり、遺跡内は外部との通信が不可能か。霊子力通信も妨害されるか、実際に入って確かめるしかないな。帆船が見つけられなかった遺跡だ、通信は無理だと思うぞ』
>『マスター、帆船の作業ドローンは出せませんが、本船で改造した人型ドローンを同行させます』
>『電子頭脳さん、星域軍のドローンは遺跡内で動作不良を起こしたみたいだが、大丈夫か?』
マクドゥガル少佐から送られてきた情報には「遺跡内部では強烈な電磁パルスが発生し、電子機器やドローンが動作不良を起こして停止してしまった」と書かれていた。
>『情報にある強度の電磁パルスであれば、本船の装備や改造した人型ドローンであれば大丈夫と推測します』
>『了解だ。まあ響音達に問題が起きそうなら、そこで調査を打ち切るぞ』
>『ああ、そうだな。響音達に何かあったら可哀想だ。その場合は直ぐに戻って来い』
>『バックアップ霊子もマスターも妙な所に拘りますね。ドローンは生命体ではありません』
>『『ドローンも大事な仲間だろ!』』
バックアップ霊子の指摘に、電子頭脳は問題無いと言うが、バックアップ霊子もシンデンも響音達人型ドローン達を大事な仲間と思っている。つまり人型ドローンを使い捨てにするつもりはない。
「なかなか厄介そうな遺跡だな。俺は船から人型ドローンを持ち込むが、星域軍はどうするつもりだ?」
「電磁パルス対策を強化した装備とドローンを準備します。明日には準備が整いますが、シンデンさんの方は準備出来るのでしょうか?星域軍で装備を準備することも可能ですが…」
「装備については問題は無い。ただ、装備を降ろすのに俺の船の連絡艇を使いたい。惑星に連絡艇を降下させるが、許可は出してもらえるか?」
「…連絡艇であれば許可します」
今回敵として全長四十メートルの現住生物が出てくる。シンデンの気功術やシオンの魔法でも対処可能であるが、流石に出てくる敵全てをシンデン達が対処していては身が持たない。人型ドローン達には防御シールドや現住生物に対抗できる武器を持たせる予定である。装備も人型ドローンも帆船で改造されている物なので、イグラン星域のシャトルバスや降下艇を使いたくなかった。
★☆★☆
帆船のラグビーボール型の連絡艇が着陸すると、シンデン達は中に乗り込んでタクティカルスーツを着用した。また巨大な対装甲ライフルとシールドを持った四体の人型ドローンが降りてくる。響音は何時ものメイド服である。火口付近の空気は猛毒のためシンデン達はヘルメットを着用して火口に降りていった。火口付近では地面も空気も百度を超えているが、タクティカルスーツの耐熱機能で耐えられる範囲内である。
「シンデンさん、彼らが星域軍の調査部隊です」
火口付近には既に星域軍の調査部隊が集結していた。二十名の軍人と五名の科学者、そして数十台の調査、戦闘ドローンがシンデン達と調査に赴く事になっている。
星域軍は電磁パルス対策の為か、対電磁装甲宇宙服を着ており、ドローンも電磁パルス対応シールドを装備していた。
「技官のクラーク少佐です。軍でレリックの解析を担当しております。今回遺跡調査に同行させて貰います」
「ああ、傭兵のシンデンだ。よろしく頼む」
四十代ほどの技官が、シンデンに握手を求めてきた。傭兵を下に見るイグラン星域だが、クラーク少佐もそんな風には見えなかった。
「マクドゥガル少佐、宜しいでしょうか。傭兵達は女子供ばかりです。それに装備が貧弱過ぎると思われます。彼らに遺跡調査を任せるのは危険であると自分には思われます」
軍人のリーダーらしき男がシンデンチームを見て、マクドゥガル少佐に批判的な意見を述べていた。イグラン星域側の重装備に対して、シンデンチームは軽装であり、人型ドローンも特に電磁パルス対応されていない様に見える。彼から見れば、シンデン達は頼りない傭兵に見える事だろう。それに彼の目にはクラーク少佐やマクドゥガル少佐とは異なり、傭兵に対する軽蔑の感情が見えていた。
「俺達の装備に問題は無い。それにイグラン星域軍は、女子供などと外見だけで戦力を判断するのか?」
「傭兵風情が星域軍に意見を言うのか!」
シンデンの反論に、軍人のリーダーが食って掛かってきたが、シンデンは無視してシオンや響音達の装備の点検を始めた。
「こいつ!」
「ウォーレン大尉、シンデンさんは星域軍より遺跡を調査してきた実績があります。今から一緒に遺跡を調査する方と、ここで仲間割れをしてどうするのですか!」
シンデンに無視されたウォーレン大尉は、シンデンに向かって掴みかかろうとしたが、マクドゥガル少佐がその間に立ちはだかり、彼の愚行を止めた。
「少佐は、イグラン星域軍が傭兵風情になめられて良いとお考えなのですか?」
「大尉、傭兵だからという考えは捨てなさい。遺跡調査は冒険者や傭兵の方が専門です。専門家の意見を聞けないというのであれば、私は大尉をこの任務から外します」
「…了解しました」
任務から外されると聞いて、ウォーレン大尉は悔しそうな顔をしながらも引き下がっていった。彼は納得などしていないだろうが、軍人としてマクドゥガル少佐に反抗することは出来ない。
「シンデンさん、大尉が失礼を言って申し訳ない」
「俺は気にしていない。シオン達、もし星域軍人に絡まれたら、俺かマクドゥガル少佐に報告しろ」
「「「「はーい」」」」
マクドゥガル少佐がシンデンに謝罪するが、シンデンは特に気にしていなかった。シオン達に余計な手出しを出されてもも困るため、俺はあえてウォーレン大尉を無視して、イグラン星域軍人のヘイトをシンデンに集めていた。シンデンにヘイトが集まる分には、何とでも対応可能だ。
出発前に少々揉めたが、シンデンチームとイグラン星域軍による遺跡調査隊は、装備を確認した後、遺跡内に踏み込んだ。
★☆★☆
火口から入った遺跡の内部は、水晶と鍾乳石が混じった様な感じの物質で作られた通路が存在した。全長四十メートルの現住生物が出てくるだけあり、通路の幅はシンデンチームと響音達ドローンが並んで歩けるだけの広さがあった。
>『(霊子力通信は…やはり繋がらないか)』
遺跡に入った途端、シンデンは帆船と通信が繋がらなくなったことを確認した。今は、視界内の調査隊メンバーとの通常通信はリンク出来ていたが、時折電磁パルスによる雑音が入り、通信も途切れがちであった。センサーによる周囲のスキャンも電磁パルスの為か、精々百メートル程度の距離しか出来なかった。一番頼りになるのは自分の目と耳だった。
「電磁パルスでセンサーによるスキャンが妨害されている。それに現住生物が何処から現れるか不明だ。対エネルギーシールドを持った戦闘ドローンは、調査隊の周囲を囲んで移動するように。魔法使いはシールドの魔法を準備して欲しい。理力使いも同様に理力フィールドを準備してくれ。攻撃より防御することを重視だ。シンデンは先行して、通路を調べてくる」
シンデンは調査隊に防御に徹するように指示を出すと、一人前に進んでいった。
「シンデン、一人で先行するって、危ないわ!」
「シンデンさん、大丈夫なのですか?」
「気で周囲を探査しながら進むから大丈夫だ。罠の有無を気で確認する。俺が合図したら調査隊は進んでくれ」
シオンとスズカが危ないと言うが、シンデンはその制止を振り切って進んでいった。
科学的なセンサーが妨害されている遺跡の場合、気功術士が斥候となって気による探査を行うのが、遺跡調査での定石である。魔法使いでも同じ事が可能だが、マナや精神力は有限であり、何かあった時の対処能力を考えると、肉体を強化出来る気功術士が斥候役に適任なのだ。
「(下っているだけの通路か。現住生物の気配は無いな)」
通路には前に入った調査隊が通った足跡が残っていた。現住生物との戦闘した跡も無いので、この辺りは特に問題無く進めそうだった。
『全員進んでくれ』
シンデンが通信で前進の合図を送ると、そろそろと調査隊は進み始める。RPGでマッピングしながら進むような感じでもどかしいと感じるが、焦っても碌な事にならない事は、シンデンの過去の記憶が教えてくれた。
先行した調査隊の後を確認しつつ、入り口から数百メートル程下った所で、直径百メートルほどの半球状の部屋に出た。部屋からは十字の形に通路が繋がっていた。
『全員止まれ。後方に注意しろ!』
シンデンは調査隊に泊まるように命令を出して、部屋に一歩踏み込んだ。先行した調査隊の足跡はこの部屋の中央で終わっていた。ここが、電磁パルスで電子機器やドローン達を停止させてしまう罠のある部屋である。
『何をグズグズしている。先に進まないのか?』
ウォーレン大尉がシンデンに通信を送って来たが、シンデンは無視して部屋の壁際に沿って歩き始めた。壁際を歩いている間は、電磁パルスは襲ってこなかった。
『そのまま待機だ。部屋の中央には入るな!』
シンデンは通信を送ると、右の通路には入らず部屋をぐるりと回り、正面と左の通路を覗いて元の通路の場所まで戻ってきた。
「シンデン、何か分かったの?」
「電磁パルスの罠は部屋の中央に入らないと発動しないようだな。まあ、どの程度の罠か試してみよう」
「ちょっとシンデン、危ないわ」
「シンデンさん、危険です」
シオンとスズカが叫ぶが、マクドゥガル少佐の情報通りならシンデンの装備で対応可能である。
「馬鹿な傭兵だ。あの程度の装備で電磁パルスが防げるわけが無い」
ウォーレン大尉がシンデンを馬鹿にしているが、まあ普通ならそう思われても仕方ない。
シンデンが部屋の中央に入ると、周囲の壁から薄青い雷のような電磁パルスが発生する。シンデンはそれを気のフィールドで一旦受け止めてから、徐々に気の出力を下げて、最後はタクティカルスーツで受け止めてみた。
「どうやら問題は無いようだな」
タクティカルスーツは電磁パルスを無事受け止めた。響音達ドローンも試したが、問題も無く行動可能であった。
一方星域軍の方は、装甲宇宙服は何とか耐えたが、調査と戦闘ドローンの半数は電磁パルスに耐えきれず脱落してしまった。
「シンデンさん、そのタクティカルスーツや人型ドローンは特別製なのですか?」
「まあ、傭兵の装備は星域軍とは違うからな。特別と言えば特別だ」
「…そうですか」
マクドゥガル少佐はため息をついているが、その後ろではウォーレン大尉がシンデンを睨んでいた。彼としては星域軍より優秀な装備を持っている傭兵が許せないようであった。
電磁パルスの罠を抜けたシンデン達は、右の通路を進むことに決めて進み始めた。部屋には星域軍の兵士と戦闘ドローンの半数を残して、他の通路から現住生物が出てこないか見張りに立って貰った。
「この遺跡は何を目的に作られたか分からない。あの電磁パルスの罠も、遺跡の罠としては微妙な物だぞ。人類でも再現可能なレベルだな」
「まあ、未調査の遺跡だからな。今まで発見された文明と共通点でもあれば簡単なのだが」
「今のところ、他の遺跡と共通点は見られませんね。レリックでも見つかれば簡単なのですが」
シンデンが頑張って通路を調べている間、カエデとクラーク少佐達が遺跡について盛んに議論をしていた。危険な遺跡調査なのに暢気な物であるが、カエデとクラーク少佐達技官はレリック研究家として気が合うようだった。
「…敵が来た。全員戦闘態勢に入れ」
カエデとクラーク少佐の議論を遮るかのように、通路に現住生物が現れた。シンデンは調査隊に戦闘態勢に入るように警告を出すと、現住生物の放ったブラスターを愛刀で切り払った。Yの字に切り払われたブラスターは通路の壁に当たって消える。
「戦闘準備。戦闘ドローンを出せ」
前方から現れた巨大なカバのような現住生物は、口からブラスターを吐きながら調査隊に向かってきた。それに対してウォーレン大尉が調査隊の前に戦闘ドローンを向かわせた。
「ギャオーーッ」
星域軍の戦闘ドローンがブラスターをシールドで防ぎレーザー砲で反撃を行うが、巨大カバの皮膚は熱に強いのかレーザーで赤くなるだけだった。それでも効果は出ているのか、巨大カバの動きが徐々に鈍くなっていった。
「エネルギー兵器で倒すのは時間がかかりそうだ。俺達で対応する。…人型ドローンは敵の脚を止めろ。響音はその後で敵に止めを刺せ」
「Yes Master」
響音は毎度の竹箒を、他の四体の人型ドローンは対装甲ライフルを取り出した。
「ギャッ」
四体の人型ドローンの対装甲ライフルが脚を打ち抜き、響音が竹箒で首を切り裂いてようやく巨大カバの動きは止まった。巨大カバの体液は黒いオイルの様な粘着質の液体だった。
「その血は可燃性らしい、気を付けろ。レマ、理力フィールドを展開しろ」
「分かったわ」
響音が巨大カバの死体から離れ、レマが理力フィールを張るのを待ってから、星域軍の戦闘ドローンがレーザーを発射する。レーザーが体液に火をつけると、巨大カバは爆発した。真面に受ければ吹き飛ばされるような爆風を、レマの理力フィールドは受け止めた。爆発の後には黒焦げの現住生物の残骸が残されていた。
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