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監察官とイグラン星域での活動

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 ルフラン星域とイグラン星域は隣接しており、超光速空間の国境線では両星域軍の戦艦が睨み合うように駐留していた。


『AAAランク傭兵のシンデンか、…護衛依頼での入国となっているが、しばらく待つように』


『俺は護衛依頼の途中なのだが。入国申請は既に傭兵ギルドを通して受領済みのはずだが?』


 護衛依頼でイグラン星域に入国することになったシンデンのチームだが、その際にイグラン星域軍から待つように光通信が送られてきた。星域を跨ぐ護衛依頼を受ける場合、傭兵ギルドで事前に入国審査を行う為、依頼を受けた時点で入国許可が下りているはずなのだ。


『傭兵ギルドからの入国申請が通っているのは分かっておる。しかしイグラン星域軍としては、これまで様々な事件に係わりベイ星域と繋がりの深いお前を我が星域内で自由に活動させる事は認められない。そこでシンデンチームを入国させるにあたり、星域軍から監査官を派遣することになった。今から監査官を乗船させるので、本船への接舷を命じる。尚監察官の乗船を断るのであれば、入国は認められない』


『…了解した』


 傭兵の船に、星域軍から監査官が送られてくることは滅多にあることでは無い。しかしシンデンは幾多の星域軍と揉めた事もあるので、何度か監察官を乗せる羽目になったことがあった。もちろんその監察官が帆船を乗っ取ろうとしたこともあったが、当然成功はしてない。本当なら断りたいが、ここで逆らっては今受けている護衛依頼は失敗となる。問題のある奴なら、速攻で船からたたき出すと思いつつ、一旦俺はイグラン星域軍の要求を受け入れた。


 帆船はイグラン星域の戦艦に接舷すると、シンデンは響音(おとね)を連れて甲板に出て、監察官が乗船するのを待ち受けた。戦艦のハッチが開き、宇宙服を着た監察官が帆船の甲板に降り立った。


『本官は、イグラン星域軍、防衛監察室所属の監査官のロデリック・マクドゥガル少佐です。以後、シンデンさんのイグラン星域での活動について監査させていただきます』


 監査官は、二十代半ばの男性だった。その年齢で少佐と言うからにはかなり優秀な軍人である。身長は百九十センチと長身で赤毛のイケメンであった。


『AAAランク傭兵のシンデンだ。貴官の乗船を歓迎する』


 シンデンはマクドゥガル少佐が握手を求めてきたので、自然とその手を握った。


「(マクドゥガル少佐、気功術士?いや違うな、彼は魔法使いだ、しかし何だこの感覚は…)」


 マクドゥガル少佐と握手を交わした時、シンデンは彼の気に違和感を持った。


『どうかされましたか?』


『いや、何でも無い。イグラン星域軍人が傭兵に握手を求めてくるのが珍しかっただけだ』


 シンデンは違和感を持ったために握手が長引いてしまい、マクドゥガル少佐に不審に思われてしまった。慌てて手を放して、握手が長引いた理由を適当に誤魔化した。イグラン星域軍の士官ともなれば、傭兵に横柄な態度を取る連中が多いので、マクドゥガル少佐からシンデンに握手を求めて来るのは、実際珍しいことだった。


『ああそうですね。イグラン星域軍は傭兵を見下す人が多いです。しかしシンデンさんはベイ星域大統領やルフラン星域大統領と懇意にしておられ、しかも近年では数々の偉業を成し遂げた凄腕の傭兵です。他の傭兵と同列には出来ません』


 マクドゥガル少佐はそう言ってシンデンを褒め称える。


『幸運だっただけだ。おっと、こんな所(甲板)で立ち話をしていては、依頼主に怒られる。響音(おとね)、マクドゥガル少佐を客室に案内してくれ』


『Yes Master』


 マクドゥガル少佐の案内を響音(おとね)に任せて、シンデン達は無事イグラン星域に入国することになった。


 ★☆★☆


 護衛依頼は国境の近くの恒星系までだったので、シンデン達のチームはそこで超光速空間から離脱した。ステーションまでの航行は電子頭脳に任せて、シンデンはマクドゥガル少佐をチームのメンバーに紹介することにした。


「俺のチームのメンバーだ、右からシオン、スズカ、レマだ。もう一人スズカの姉のカエデもいるが、彼奴は自分の部屋に引きこもっているので、紹介は後でしよう」


「シオンです。雪風に乗ってます」


「スズカです。金剛に乗ってます」


「レマよ。シンデンと同郷だからチームを組んでいるわ」


「イグラン星域軍、防衛監察室所属の監査官のロデリック・マクドゥガル少佐です。シンデンさんのチームは皆さん、綺麗な方ばかりですね」


 歯の浮くような台詞だが、イケメンのマクドゥガル少佐が言うとなると別だ。シンデン()では真似の出来ない芸当である。


「シンデン、綺麗だって。シンデンもたまには私に言ってよ」


「私達、もしかして口説かれてます?」


「…」


 マクドゥガル少佐は笑顔で歯をきらりと光らせて、三人を綺麗と褒めると、シオンやスズカは少し赤くなっていた。レマはイグラン星域軍の監査官と言うことで警戒している様子だった。


「これでメンバーの紹介は終わったな。それでマクドゥガル少佐だが、今から俺は傭兵ギルドに向かうが、付いてくるのか?」


「そうですね。シンデンさんが選ぶ依頼を見たいので、一緒について行きましょう」


 シンデンはマクドゥガル少佐を連れて傭兵ギルドに出かけていった。


 シンデンはマクドゥガル少佐が部屋を出て行った後、女性三人は集まって話し始めた。もちろん話題はマクドゥガル少佐についてだ。


「イグラン星域軍人って横柄って聞いていたけど、マクドゥガル少佐は違うわね」


「ええ、そうですね。それに笑顔が素敵でした」


「確かにイケメンだけど、シンデンだって負けてないわよ」


 シオンとスズカはマクドゥガル少佐が横柄な態度で無かったことで、拍子抜けしていた。そして精神年意が子供の二人は、イケメンのマクドゥガル少佐の笑顔に若干ときめいていた。


「二人とも、マクドゥガル少佐は監査官なのよ、隙を見せちゃ駄目よ。シンデンのチームメンバーが女性ばかりだから、マクドゥガル少佐みたいな人を送り込んできたのよ。帆船や貴方達の船の情報をうっかり喋っちゃ駄目よ」


 レマはそんな二人に情報を漏らさないように注意する。何しろ監査官がいるのだから、シンデン達のやることは全てイグラン星域に報告される。レマなどキャリフォルニア星域軍の諜報部員なのだ。正体がばれたらスパイとして捕まってしまう。


「分かったわ」


「そうですね、気を付けます」


「特にシオンは魔法を使う時は気を付けてね。優秀な魔法使いだと分かると大変ってシンデンが言っていたでしょ」


「そうだったわ。気を付けないと」


 シオンとスズカは真面目な顔になってレマの言うことに頷いた。


 ★☆★☆


>『電子頭脳さん、シンデン()は何か感じていたようだけど、マクドゥガル少佐に不審な点はある?』


>『スキャンしたところ、彼は魔法使いのようです。それも特殊系の魔法使いですね』


>『何だよ、その特殊系の魔法使いって』


>『彼の手には魔法陣が刻まれています。その魔法を使って情報収集を行う様です』


>『その魔法って何だよ』


>『使い魔を操る魔法です。どうやら本船内に使い魔を放って情報収集を行おうとしているようです』


>『おいおい、大丈夫なのか』


>『今お掃除ドローン(響音)が対応中です。それに重要な区画には侵入されていません』


 響音(おとね)は電子頭脳の命令により、船内に放たれたマクドゥガル少佐の使い魔を追いかけていた。


「私が管理(掃除)する船内に、この様な物を放つとは」


 マクドゥガル少佐の放った使い魔は、彼のさわやかなイメージに合わない、黒くカサカサと動く昆虫であった。人類が生息する惑星、宇宙船にいても全く不思議ではないその昆虫を見て、響音(おとね)怒り()に打ち震えていた。


「悪・即・斬」


 響音(おとね)は、掃除ドローンとして全力を振るって使い魔の駆除を開始した。


 ★☆★☆


 シンデンと一緒に傭兵ギルドに向かっていたマクドゥガル少佐は、自分の使い魔が次々と消え去っていくことを感じ取っていた。


「(使い魔の反応が消えていく。なんだこの馬鹿げた殲滅速度は。船内全てに魔道バル○ンを焚いたとでもいうのか。それに船内ネットワークにすら侵入できないとは)」


 マクドゥガル少佐の使い魔は、見た目は悪いが非常に優れた使い魔で、小さな隙間さえあれば何処にでも侵入可能であり、船内の端末に取りつくことで船内ネットワークに侵入する能力も持っていた。彼はその使い魔の能力で数々の功績を挙げ、若くして少佐に出世したのだが、その彼の使い魔の力が通じない相手がいるとは思ってもみなかった。


 何も情報を得ること無く瞬く間に使い魔が駆除された事に、マクドゥガル少佐は内心焦って、彼は立ち止まってしまった。


「マクドゥガル少佐、どうしました?」


「い、いえ。何もありません」


「そうですか。少し顔色が悪いようですが、大丈夫ですか」


「ええ、問題ありません」


 マクドゥガル少佐はシンデンにどうやって彼の使い魔を処分したのか聞きたかったが、そんな事をすれば自分が使い魔を使って情報収集をしていることがバレてしまう。使い魔の見た目は単なる昆虫だ。凄腕の魔法使いで無ければ使い魔とは分からないのだ。


 ★☆★☆


 シンデンは傭兵ギルドで、イグラン星域にある魔法文明の遺跡に向かう護衛依頼を受けた。魔法文明の遺跡の在る惑星の場所は既に機密でも無く、イグラン星域の首都星となっていた。もちろん遺跡は厳重に星域に管理されているため、見学などは出来ない。しかし首都星なので、そこに向かう輸送船の護衛依頼は多い。


「シンデンさんは、イエル星域の聖地崩壊事件に立ち会ったとか」


「偶然です」


「首都星に向かうのは辞めて。別な方面に向かう依頼を受けてください」


「魔法文明の遺跡を見たかったのだが」


「遺跡は国宝となっています。厳重に管理されておりますので、見ることは出来ません」


「そうか。ではこの依頼を受けよう」


「ソルズベリー恒星系ですか。なぜそんな辺境を選ぶのですか」


「マクドゥガル少佐は、俺が首都星に向かって欲しくないのだろ。だから辺境を選んだのだが?」


「なるほど。ですが、AAAランクのシンデンさんが選ぶ依頼としては物足りないのでは?」


「チームメンバーには低ランクの奴もいる。依頼を受ける連中が少ない辺境への依頼を受けると、ランクが上がりやすいのだ」


「そういう物ですか」


「そうなのだ。ついでに海賊もでやすいから、辺境は稼げる場合もある」


「イグラン星域としては、海賊を倒してもらえるなら助かります」


 シンデンが首都星に向かおうとすると、マクドゥガル少佐が反対するため、シンデンは仕方なくイグラン星域でも辺境に向かう護衛依頼を受けた。辺境でもソルズベリー恒星系に向かう依頼を選んだのは、ソルズベリー恒星系に調査したい魔石の所有者がいたからである。尚、辺境周りの依頼を受けると、ランクが上がりやすい事も本当の話である。


 依頼を受けた後、帆船に戻ったシンデンはソルズベリー恒星系に向かうことになる。マクドゥガル少佐は、自分の使い魔が消え去ったのか懸命に調査していたが、作業ドローンや響音(おとね)によって重要区画に入ることは阻止され、使い魔も出した瞬間響音(おとね)によって駆除されてしまう。


「(なんとガードの堅い船なのですか。これでは情報収集のために監査官として乗り込んだ意味がありません)」


 客室でマクドゥガル少佐が悩んでいるが、彼の使い魔が黒いカサカサである限り響音(おとね)は絶対に見逃さない。シンデンの情報を得るという彼の任務は遅々として進まなかった。


 ★☆★☆


「シンデン、目的地のソルズベリー恒星系だけど、依頼が終わったら、少し惑星に降りてみない」


「うん。私も降りてみたいの」


 ソルズベリー恒星系へ向かう途中で、シオンとスズカが突然そんな事を言い出した。


「二人で惑星に降りたいのか。ソルズベリー恒星系に観光名所とかあったのか?」


「シンデン、ソルズベリー恒星系には有名な温泉があるのよ。もちろん私も降りたいわ」


温泉(・・)だと」


 以前シンデンはシオンとスズカに依頼についてよく調べておくように教えた。二人はその教えを守って、情報収集をしていた。ちなみに俺は電子頭脳任せの為、遺跡といった物以外の情報を知らなかった。


「シンデン、知らなかったの?」


「ソルズベリー恒星系の温泉って有名ですよ」


「そうよ、入ればお肌が艶々になる美人の湯として有名なのに」


 人類は宇宙に進出しても温泉の力を信じているようだった。孤児院育ちで星域軍に入ったシンデンが温泉の知識を持っているわけは無い。しかし俺は日本人だ。温泉と聞いて心が躍らないわけが無い。


「分かった。最近色々あったからな。温泉に入ってゆっくりしよう」


「わーい」


「温泉楽しみです」


 シンデンが「OK」出したことでシオンとスズカは大喜びだった。シンデンと同じく施設育ちのレマも、温泉に行くと聞いて嬉しそうである。


>『温泉につかれば、精神修行の良いアイデアがでるかもしれないな』


>『くぅ、こういうときは肉体が無いのが悔しい。シンデン()、温泉の感触を後でしっかり同期させてくれよ』


>『温泉ですか。現生人類は地面から吹き出すお湯が好きなのですか。本船にはお湯のでる浴槽も、ナノマシンで体を清潔に保てる設備があるのですが…』


>『『温泉は良いものなのだ!』』


>『…そうなのですか。現生人類の感性は理解できません』


 バックアップ霊子()シンデン()の剣幕に、電子頭脳は呆れた感じでそう言った。


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