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再会

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

何度か書き直した為に違和感があるかも。済みません。


 三日間でチームの戦力の増強を行った後、俺達はルフラン星域に向けて再び進み始めた。ルフラン星域のステーションで金剛の船体登録を行ったりしながら、ジョンから入手した魔石の情報を追いかけた。ルフラン星域はミクロン大統領とイプシロンによる騒動で、政財界が大きく揺れ動いたため、魔石の調査を行うのはなかなか大変出会った。魔石の持ち主がジョンが調べた時点から変わっていたりするので、その為俺達は魔石を追いかけて一月ほどルフラン星域を彷徨っていた。


『シンデンさん、ルフラン星域にはどのような御用で来られたのでしょうか?』


 情報にあった全ての魔石について行方を確認し終え、シナノ級の情報も集まらなかった為、俺達はそろそろイグラン星域に移動しようと考えていた。そこでステーションの傭兵ギルドでイグラン星域行きの手頃な依頼が無いか調べようと思った矢先、唐突にルフラン星域のヤルエ大統領からシンデンに超光速通信が送られてきた。


『ベイ星域大統領の護衛依頼の途中で、ルフラン星域は傭兵ギルドに依頼が多数でていたからな。ベイ星域の護衛依頼を終えて、チームに新しい船を入れたので、その調子を見ながら傭兵ギルドの依頼をこなしていたのだ。それに、そろそろ手頃な依頼も無くなった。俺のチームは今からイグラン星域に向かうつもりだが?』


『なるほど、ルフラン星域は今は星域軍が混乱しており、傭兵への依頼が多数有りました。シンデンさんはそれで、依頼を受けるためにやって来たと。…それで、素直にお聞きしますが、シンデンさんはベイ星域とは無関係と思って宜しいのでしょうか?』


『ベイ星域との関係だと?俺はどの星域とも関係を持つつもりは無い。もしかして俺はルフラン星域からは「ベイ星域に雇われてしまった」と思われているのか。それは酷い誤解だな』


『総会でのメアリー大統領の警護やベイ星域軍の活躍を知る人からは、そう思われも仕方ないでしょう。それに前大統領の件もありますので、星域軍や政財界から「あの傭兵はベイ星域から何か依頼を受けてやって来たのでは無いか?」と私の方の問い合わせが来ているのです。私はシンデンさんと直接面識が有りますので、どうせなら直接聞いてみた方が早いと思ったのですが、そうですかイグラン星域に向かわれるのですか』


 ミクロン前大統領の失脚から野党のトップから大統領となったばかりのヤエル氏は、それほど政財界や星域軍との人脈が無く、政治的、軍事的にかなり苦労しているようだった。そこに前大統領を失脚させたシンデンが、ルフラン星域をあちこち彷徨いて、何かしら情報収集をしていれば、怪しまれるのも当然であった。

 そこでシンデンに何をしているか探りを入れることになったのだが、ルフラン星域でシンデンと繋がりのある人は大統領本人しかいなかった。それならとヤエル大統領はシンデンに直接通信を送ってきたのだった。


『ヤエル大統領、ルフラン星域の大統領である貴方が、俺のような傭兵に直接通信を送るのはおかしいと思うが?』


『シンデンさんは、メアリー大統領とは直接通信されて依頼を受ける間柄と聞いております。私もシンデンさんと同じ様な関係になりたいと思っております』


 ヤエル大統領の通信から、厄介事の臭いを感じた俺は、やんわりと断ろうと思ったが、話術で政治家に勝てるわけもなく、俺のお断りのメッセージはスルーされてしまった。


『メアリー大統領とは偶然が重なっただけだ。一介の傭兵の俺としては政治の世界には関わりたくない。傭兵としての依頼なら受けるが、依頼は傭兵ギルドを通して貰おう』


 メアリーから直接依頼を受ける場合も、一応傭兵ギルドを通して依頼を受けていた。人命がかかっていたので、依頼を受ける前に動いたりしていたので、他の星域からは「シンデンはメアリー大統領子飼いの傭兵」に見えたのかもしれない。


『なるほど、傭兵ギルドですか。では傭兵ギルドを通せば、シンデンさんに依頼は可能なのですね』


『依頼の内容次第だな。それでヤエル大統領は、そんな事を話すために俺に通信してきたのか。ルフラン星域の大統領はそれほど暇とは思えないが…』


『もちろんです。今も前大統領の後始末で忙しいですよ。私がシンデンさんに直接通信を送ったのは、先ほどの話の他に依頼をしたかったからです。実は、我が星域でベイ星域軍を襲ったレリックシップ(遺物船)について情報を入手したので、その調査にシンデンさんを雇えないかという話ですが、イグラン星域に向かわれるのであれば依頼は受けられませんよね』


 ヤエル大統領は、肩をすくめて「残念です」とポーズを取った。これは演技では無く、彼は「シンデンは依頼を受けない」と思ったからであった。


『ベイ星域軍を襲ったレリックシップ(遺物船)の情報を入手したのですか』


 俺はヤエル大統領がシナノ級レリックシップ(遺物船)の情報を入手した事に驚いてしまった。俺達が魔石の情報を元に一月もかかって得られなかったレリックシップ(遺物船)の情報を、ヤエル大統領が持っていると聞かされれば驚くのも当然である。


>『マスター、大統領から詳しく情報を聞き出してください』


>『分かっている』


『ええ、入手しました。何しろあのレリックシップ(遺物船)は。我が星域内でベイ星域軍を襲ったのです。ルフラン星域の威信をかけて星域軍は調査を頑張りました。私も星域内の傭兵ギルドや冒険者ギルドに懸賞金までかけて情報を集めました。そしてようやく傭兵の一人が情報を持ち帰ったのです…』


 シンデンの驚く顔を見て、ヤエル大統領は嬉しそうな顔で、どうやってレリックシップ(遺物船)の所在を突き止めたかを話し始めた。


>『傭兵ギルドや冒険者ギルドに懸賞金を出したのか。電子頭脳さん、やはりヤマト級の情報を集めるなら組織を利用するのが正解だよ。俺達だけじゃ駄目だな』


>『バックアップ霊子()に反論できません。ですが、懸賞金なら本船も出せば集まります。傭兵ギルドや冒険者ギルドに依頼を出せば良いのです』


>『いやいや、そんな大金は持ってないぞ。それに俺達がヤマト級を探していると知られるのは不味いだろ』


>『…確かに。偽名で依頼を出しましょう』


>『それは犯罪だろ。それに先立つもの()が無い。とにかく今はヤエル大統領の持ってきたシナノ級の情報だ。真偽はともかく、この依頼は受けざるを得ないだろう』


>『はい。依頼を受ける方向で進めましょう』


『…という事で、レリックシップ(遺物船)艦隊の所在が判明しました。レリックシップ(遺物船)艦隊はバラモース恒星系に潜んでいるのは確実です。星域軍を送って殲滅をと思ったのですが、相手はベイ星域軍が苦戦したレリックシップ(遺物船)艦隊です。星域軍の船だけで大丈夫なのかと私は思ってしまいました。そこに我が星域にシンデンさんが来ていると情報が来たので、シンデンさんに助力を願おうと考えました。星域軍の中にはシンデンさんの力など不要と言う者もいますが、私はシンデンさんの力を借りるのが最善と判断しました。それで、傭兵ギルドに指名依頼を出せば、シンデンさんは依頼を受けて頂けるのでしょうか?』


レリックシップ(遺物船)艦隊と戦うならという依頼なら受けよう』


 俺としてはヤエル大統領のどや顔は気に入らないのが、シナノ級の所在が分かったのであれば、依頼を受けるしかない。


 数時間後、帆船が停泊しているステーションの傭兵ギルドから、「ルフラン星域軍からシンデンチームへの指名依頼が入った」と連絡が来た。シオン達には既に依頼の話はしておいた。傭兵ギルドに「依頼を受ける」と返事を返し、帆船はルフラン星域軍が集結している地点に向かった。


 ★☆★☆


 レリックシップ(遺物船)艦隊を殲滅するためにルフラン星域軍が集結していたのは、バルロセナ恒星系であった。ベイ星域軍が苦戦したレリックシップ(遺物船)の艦隊と戦うということで、ルフラン星域軍は第二艦隊全艦を集結させていた。第二艦隊は、二キロメートル級の有人艦艇百隻からなる大艦隊である。通常のレリックシップ(遺物船)であれば倒せるだろうが、シナノ級とカゲロウ級の艦隊を相手にするには、戦力として微妙な数であった。


『貴様が大統領の言っていた傭兵か。早かったな』


 バルロセナ恒星系に降りたシンデンに通信を送ってきたのは、第二艦隊の司令官である、シモダ提督だった。ケイ素系生命体事件で被害を免れた提督の中では最高齢であり、真っ白な髭を蓄え帽子を深く被った提督は、歴戦の勇士という風格を漂わせていた。


『AAAランク傭兵のシンデンだ。ヤエル大統領から指名依頼を受けて来たが、自分はシモダ提督の指揮に従えば良いのか?』


 ベイ星域での護衛では、俺達はかなり自由に行動してきたが、それはメアリー大統領が許してくれたからであった。ルフラン星域ではその様な行動は出来ないだろうと、俺はシモダ提督に指示を聞こう思った。


『テロ犯が乗るレリックシップ(遺物船)は星域軍が殲滅する。適当に艦隊の後ろに付いてくれば良い』


 シモダ提督はそう言って帽子を深く被ると通信を切ってしまった。そして帆船に黙って付いてこいと言わんばかりに第二艦隊は次々と超光速航法に入って行った。


『私達、ルフラン星域軍に歓迎されてませんね。この前私達が第一艦隊と戦った事が原因でしょうか』


『襲ってきたのは第一艦隊(あっち)なのに、理不尽だよね』


 スズカとシオンはシモダ提督の通信に呆れていた。


『文句を言っても相手がいませんよ。シンデン、さっさと超光速航法に入って艦隊を追いかけましょう』


『レマの言う通りだな。追いかけるぞ』


 俺としてはシナノ級レリックシップ(遺物船)と戦う前に対霊子力フィールド発生装置を配布したかったが、あの提督の様子ではそれは受け入れてもらえそうになかった。帆船は第二艦隊を追いかけて超光速航法に入った。


>『シナノ級と戦う賭して、霊子力兵器を使われるのを警戒する必要があるな。出来れば先行して戦いたいのだが…』


>『シモダ提督の指揮に従えとは命令されていません。本船は独自に動けば良いと思います』


>『確かに、指示に従えとは言われてないな。それでシナノ級はどんな霊子力兵器を持っているんだ?』


>『シナノ級は、艦載機に搭載するタイプの霊子力兵器を保有しています』


>『艦載機か。超光速空間での戦いになると、ルフラン星域軍が一方的にやられるな』


>『その場合は、本艦と雪風、金剛で何とかするしか有りません』


>『水中ドローンで敵を発見したら、艦隊を追い抜いて行くしか無いな』


 帆船が水中ドローンで先行偵察をしつつ、第二艦隊は順調にバラモース恒星系に向かって行った。

 バラモース恒星系は恒星が燃え尽きて中性子星となった恒星系で、人類の生存可能な惑星が無い為、価値の無い恒星系と見なされていた。その様な恒星系なので、シナノ級のレリックシップ(遺物船)の隠れ家として最適と選ばれたのだろうが、偶然その近辺を通った傭兵の船によって存在を確認されてしまった。見つけた傭兵はなぜバラモース恒星系に向かったかだが、酒場での賭け事で負けた為の罰ゲームとしてバラモース恒星系に行く事になったからだった。


>『賭け事の罰ゲームで中性子星に向かうとは。現生人類は馬鹿なのでしょうか』


>『電子頭脳さんが呆れるのは分かるが、傭兵なんて荒くれ者が多いからな。中には度胸試しとか言ってブラックホールにどれだけ近づけるかなんてやる連中もいるぐらいだ。それに比べれば中性子星は未だましな部類だ。それにその馬鹿のお陰でシナノ級の居場所が分かったんだ』


>『馬鹿にならなければヤマト級の所在が掴めないとなると、本船では対処不可能です』


>『いや、そういう意味では無いだろ。電子頭脳さんでも推測できない所に敵は潜んでいるって事だよ』


 バラモース恒星系まで数時間の航海だが、シモダ提督はシンデン達に光通信一つ送らず進んで行った。シンデンは水中ドローンを出して航路の先を探っていたが、今のところ伊号潜水艦もシナノ級、カゲロウ級も姿を見せていなかった。第二艦隊は順調に航路を進み、バラモース恒星系である巨大な渦が見える所まで近づいていった。


『シンデン、そろそろ目的地点だよね』


『ああ、そろそろ超光速航法を解除する。油断するなよ』


『分かりました。金剛、理力フィールドの展開をスタンバイしておいて』


『了解しました』


『うう、金剛が来たせいで私の出番が無くなっていく』


 金剛が理力フィールドを張れる為、理力使いであるレマの出番は随分と減っていた。


>『シナノ級は通常空間で戦うつもりか?』


>『シナノ級は戦闘空母です。超光速空間で艦載機を使って戦うと思うのですが』


 バラモース恒星系付近にはシナノ級の姿は無かった。第二艦隊は恒星系の外園部で超光速航法から次々と離脱していった。超光速航法の離脱は上手く離脱ポイントを合わせないと通常空間で艦隊がバラバラになってしまうため、艦隊行動を取りながらの離脱は難しい。しかしシモダ提督の部下は優秀らしく、ほぼ同じ離脱ポイントで超光速航法を停止して通常空間に降りていった。

 帆船は電子頭脳が航法を担当しているため、旗艦と同じ離脱ポイントで超光速航法を停止して後を追った。


 ★☆★☆


 超光速航法を停止して通常空間に降りた帆船だが、降りた先の宇宙空間には第二艦隊が存在しなかった。それどころか直ぐ目の前には中性子星が見えていた。あと少し降りるポイントがズレていれば帆船は中性子星に激突していただろう。中性子星の強い重力に帆船が引きずられるが、重力制御によって船体を立て直した。


『第二艦隊が見えないよ。シンデン、離脱ポイントを間違えた?』


『おかしい。離脱ポイントは電子頭脳がきっかり合わせたはずだ!』


 シオンの通信にシンデンはポイントは間違えていないことを伝えた。


『まさか、第二艦隊は中性子星に激突してしまったのでは…』


 最悪の状況を想像したのか、スズカは青い顔をしていた。


>『電子頭脳さん、第二艦隊はどうなっている?』


>『第二艦隊はバラモース恒星系から五光年離れた地点に降りました。幾ら現生人類の超光速回路が不正確でも、ここまで離脱位置がズレることはありません。本船の超光速回路は正常に動作していましたし、第二艦隊の旗艦と同じ離脱ポイントで超光速航行を解除しました。本船と第二艦隊の出現位置がこれだけ大きくずれてた原因は分かりません』


 電子頭脳も、なぜ帆船が第二艦隊と離れた位置に出現したのか原因は分かっていない様だった。


>『シナノ級の仕業か。しかし帆船も知らない何らかの手段で、帆船と艦隊の出現位置をずらしたのか』


>『そう推測するしか在りません。どうやらシナノ級は本船を狙ってきたようで』


『シンデンさん、レリックシップ(遺物船)が出現しました』


『超光速空間に敵は見当たらなかったのに、こんな距離に出現するなんてあり得ないわ』


 スズカとレマが言うように、帆船を包囲するようにカゲロウ級駆逐艦が出現した。その数は五隻と、以前より二隻増えていた。そしてカゲロウ級駆逐艦の背後にはシナノ級空母が現れた。

 レリックシップ(遺物船)艦隊は、帆船を中性子星に押し込むような形で宇宙空間に現れた。


>『ステルスフィールドか?離脱位置がずれたのはシナノ級の仕業か?』


>『そうとしか推測できません。しかしどのような方法で本船と第二艦隊を引き離したのでしょう』


>『今はそのカラクリを探る暇は無い。攻撃に備えるぞ』


>『了解です』


 帆船は超光速航法を離脱する前から戦闘モードであった。カゲロウ級駆逐艦や艦載機がやって来れば、すかさず迎撃する体勢を取った。


『シオンとスズカはとりあえず護りに徹してくれ。レマは中性子星の重力に気を付けて移動しろ』


『分かっているわ。まさかこんなに中性子星の近くに来るとは思わなかったわ』


 帆船と雪風、金剛はレリックシップ(遺物船)ということもあり、重力制御装置は人類の物より高性能である。現在の位置なら余裕で中性子星の重力に耐えられる。しかしレマの船は高性能だが、人類が作った船なので、これ以上中性子星に近寄ると、重力制御が限界に達して星に落下してしまう。


 シンデン達はレマの船を庇うように攻撃を待ち構えていたが、シナノ級とカゲロウ級は帆船に攻撃を仕掛けてくる気配が無かった。


>『おかしいですね。計算通りなら帆船は中性子星に衝突しているはずなのですが…』


>『先生、どうやらあの新しい船が加わったことで、計算に誤差が出たようです』


>『なるほど。あの船の分計算が狂ったのか。事前情報が間違っていたのだ。実験が成功するはずが無いのは当然だな』


>『先生、実験は失敗しましたが、敵は不利な体勢です。このまま攻撃を仕掛けますか?』


>『今回はあの装置の実験が目的だ。データは十分確保した。攻撃は不要だ』


>『『『『『了解しました』』』』』


 以前ベイ星域艦隊を襲った時と異なり、今回帆船の霊子力通信回路には、シナノ級とカゲロウ級の通信が入ってきた。ヤマト級や伊号潜水艦と違い、六隻の霊子力通信はまるで人間同士の様に会話を行っていた。


 そして、俺はその霊子力通信(会話)に何か感じる物があった。


>『『先生(・・)だと』』


 バックアップ霊子()シンデン()霊子()がなぜか怒りに震えた。


>『お前は』


>『貴様は』


>『『在善先生なのか!?』』


 「先生」と呼ばれたシナノ級から発せられた霊子力通信の口調は、俺を冷凍睡眠の実験に使った主治医にソックリであった。そしてその周囲を護るカゲロウ級は、あの時実験を行った看護婦達のようであった。


>『在善先生とは懐かしい名前だな。そんな名前はもう捨てた。しかし、どうして帆船のマスターは私の名前を知っているのでしょう。確か帆船のマスターは…誰でしたっけ?』


 シナノ級から返ってきた霊子力通信で、俺の霊子()が怒りでどす黒く染まっていった。シナノ級に乗っているのは主治医(在善)だったのだ。


>『バックアップ霊子()、マスター、何があったのですか。霊子()が汚れていきます。このままでは危険です』


 電子頭脳が叫んでいるが、バックアップ霊子()シンデン()霊子()は怒りに震え、どす黒く染まっていった。


>『先生、あのキャラック帆船のマスターは、AAAランク傭兵のシンデンという人物です』


>『先生は、実験以外は興味がありませんね。少しは人の名前を覚えてください』


>『そうだった、シンデンという傭兵だったな。しかし、彼は私とは面識がないはずだが?』


>『シンデンは知らなくとも、俺が…有馬拓也はお前を知っている』


 あの時味わった苦痛を思い出し、霊子力通信に殺意を込めて俺はシナノ級に名乗った。


>『有馬拓也?はて、そんな人知らないな~。もしかして人違いじゃ無いの?』


>『昔先生が実験に使ったモルモットの一人では?』


>『モルモットか~。済まないが、モルモットの名前まで覚えてはいないんだ』


>『先生、酷いですよ。彼のお陰で冷凍睡眠技術が大きく進歩したんです』


>『こうして私達が今いるのも、彼のとうとい犠牲のお陰なのですよ』


>『そうだったね。いや~有馬君、君のお陰で私は冷凍睡眠を実現したのだよ。あれ、最初の成功例は君たち(看護婦)のはずなのに、どうして有馬君が生きているのだろう?』


>『分かりません。私達もどうしてこの時代に解凍されて、こんな船に乗っているのか分からないんですから~』


 シナノ級とカゲロウ級の霊子力通信を聞く度に、バックアップ霊子()シンデン()霊子()が怒りに打ち震える。


『『殺す!』』


 バックアップ霊子()は主砲から徹甲弾を、シンデン()は船首像で気の斬撃をシナノ級に向かって放った。


>『『『『『先生、危ない』』』』』


 しかしその攻撃は五隻のカゲロウ級が張ったシールドの魔法で防がれた。


『シンデン、「殺す!」って何よ。攻撃するなら先に言ってよ』


『シンデンさん、どうしたんですか』


『シンデン、如何したの。一体何があったの?』


 シオンが、スズカが、レマがシンデン()に話しかけるが、その言葉は俺達の霊子()に届かなかった。


『電子頭脳、全速で突っ込むぞ』


『船首像を切り離せ』


 遠距離攻撃を防がれたが、バックアップ霊子()シンデン()も殺意に溢れていた。


『マスター、バックアップ霊子()、その状態で戦っては駄目です!』


 しかし、電子頭脳はここでバックアップ霊子()シンデン()の命令を拒絶した。気がつくと帆船のコントロールは奪われており、船首像も拘束具で船体に縛り付けられていた。


『『止めるな!』』


 命令を聞かない電子頭脳に俺達は怒鳴った。そう、彼奴を殺すまで俺達は止まらない。どす黒い怒りをあの主治医(在善)にぶつける事だけを俺達は考えていた。


>『実験は失敗だったが、まあ次に生かせば良い。さて失敗した装置は破壊しないとね』


>『『『『『はい、先生』』』』』


 電子頭脳によって俺達の行動が止められている間に、シナノ級とカゲロウ級は実験に使った装置を破壊しようとしていた。


>『盛大にいこう。次の実験は成功させるよ。そうすればあの方(・・・)も私を認めてくれるだろう。ではポチッとな』


 シナノ級から中性子星に向けて霊子力通信が送られると同時に、中性子星の中心に埋め込まれた重力場を操る特殊な装置が破壊され、膨大な対消滅爆発が発生した。対消滅による爆発は、中性子星を砕くと周囲にその破片をまき散らした。角砂糖のサイズで十億トンにもなる高密度の散弾が周囲に飛び散る。対消滅爆弾に耐える帆船の装甲でも、中性子星を構成する高密度物質の散弾には耐えられない。


>『中性子星を破壊するなんて。星を破壊するのは協定違反です。シナノ級、貴方は創造主達の決めた協定を破るのですか?』


>『協定とはなんだね。そんな物、私は知らないね~。では私は次の実験に向かうよ』


>『『『『『はい、先生』』』』』


 帆船の電子頭脳がシナノ級に霊子力通信を送るが、シナノ級とカゲロウ級はその通信を聞き流すと消え去っていった。中性子星は砕かれたといっても周囲の重力場は乱れたままで、超光速航法は行えない。その中でシナノ級とカゲロウ級は超光速航法に入ったかのように消え去った。


『『在善、必ず殺す』』


 そして、消え去ったシナノ級とカゲロウ級に向けて、俺達の怨嗟の声が響いた。

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