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メアリーとの別れと伊号潜水艦の改造

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

2023/02/28:スミスが名前を変えていることを忘れていたのでジョンに修正

 ベイ星域の首都星で超光速航法を解除し、ようやく俺達のメアリー護衛依頼は終わった。傭兵ギルドに依頼完了報告前にメアリーに超光速空間でレリックシップ(伊号潜水艦)の襲撃に遭ったことを説明する事になった。


レリックシップ(遺物船)の襲撃があったのですか」


「うむ、超光速空間の水面下に潜む厄介な敵だった。ベイ星域軍では攻撃どころか索敵すらも出来ないレリックシップ(遺物船)だった。だから自分が対応することにしたのだ」


「…星域軍が対応できないとしても、事前に連絡して欲しかったのです」


「光通信を送れば、敵に察知される恐れがあった。あの敵に逃げられると追いかける事は不可能だ。よって事前の通知を行わなかったのだ」


「そうですか。確かに光通信は目立ちますが…。それで、あの光の爆発はやはり霊子力兵器(あの兵器)だったのでしょうか?」


「そうだ。まさかいきなりあの様な攻撃をしてくるとは自分も想定外だった。星域軍を危険にさらしてしまって申し訳なかった。しかし、レリック(装置)のお陰で人的被害は無かったと聞いているが、被害が出たのか?」


「いいえ、星域軍には被害は出ていません。シンデンさんが事前にレリック(装置)を配って頂いたお陰で助かりました。…それで、あの鹵獲したレリックシップ(遺物船)はベイ星域で調査させてもらえませんか。それと、レリックシップ(遺物船)霊子力兵器(あの兵器)は積まれていませんでしたか?」


 メアリーから鹵獲した伊号潜水艦を調査したいという話が来ることは分かっていた。よって対応も決まっていた。


レリックシップ(遺物船)の調査だが、ベイ星域が調査するのはかまわない。だが調査結果はベイ星域で秘匿せず、管理組織を通して公開して欲しい。後あのレリックシップ(遺物船)は自分達のチームで使うつもりだ。傭兵としてこれは譲れ無いな。それと、調査すれば分かるが、メアリーが懸念している霊子力兵器(あの兵器)は搭載されていなかった。霊子力兵器(あの兵器)は、最後に発射された物だけだったようだ」


「…そうですか。鹵獲したのはあのレリックシップ(遺物船)を発見し、撃退して鹵獲したのもシンデンさんのチームです。レリックシップ(遺物船)の所有権はシンデンさんのチームに有ります。それでですが、超光速空間の水面下の敵を索敵する方法も公開して貰いたいのですが、どうでしょうか?」


 メアリーが潜水艦の索敵方法について尋ねてくるのも想定内である。


「水面下の敵だが、自分が気を使って索敵していたのだ、星域軍の気功術士でも可能だろう。艦隊の気功術士で気の探査が出来る連中に水中を探らせてくれ」


 液体金属を使った水中ドローンの提供は不可能な為、シンデンは気による探査をメアリーに教えた。しかし、気による探査は範囲が狭いため、今後は超光速空間の艦隊の陣形に工夫が必要だろうが、そこは星域軍で研鑽してもらうしかない。


「気功術士の気の探査ですか。魔法使いの探査の魔法でも出来そうですね」


「魔法は自分の専門外だ。ベイ星域で研究してくれ」


「ええ、魔法に関してはベイ星域で研究させます。それでレリックシップ(遺物船)の調査ですが…」


「ああ、さっさと終わらせたいから直ぐにでも始めてほしい」


 ベイ星域との伊号潜水艦の共同調査だが、結局三日間ほど時間を取られてしまった。パイロット役のクローン脳ユニットは「鹵獲時に破壊してしまった」と誤魔化したが、魚雷ユニットに搭載されているクローン脳ユニットはそのまま公開した。もちろん禁忌技術に触れているため、ベイ星域軍監視の下で破壊することになった。


 超光速空間で水面下を移動できる超光速航法回路については、星域連合の管理組織で管理され、各星域に技術公開される事になった。各星域が潜水艦を作るかだが、ただでさえ超光速空間は通信が難しいのに、潜水艦ともなれば更に通信が面倒な事になる。つまり霊子力通信や液体金属による有線通信といった技術が無ければ、潜水艦は艦隊行動も出来ないし、超光速空間で利用可能な魚雷は禁忌技術に触れるため、星域軍で運用されることは無いだろう。


 伊号潜水艦の調査を終えて首都星を離れる事になったシンデンに、メアリーが挨拶に訪れた。


「シンデンさん、半年以内には管理組織と傭兵と冒険者達による艦隊が設立されます」


「そうか。半年後か…」


「シンデンさん、艦隊に参加してもらえませんか?」


「ミスター・ビッグからも自分に参加要請は来ているが、回答は保留中だ。自分の問題が片付けば参加するつもりだ」


 問題とは、電子頭脳の説得である。シンデン()バックアップ霊子()は、「天の川銀河系でのヤマト級の探索に管理組織の力を借りるべき」と電子頭脳を説得しているが、今のところ電子頭脳は人類がヤマト級に付いて詳しく知ることを拒絶している。他の銀河系から来るヤマト級のレリックシップ(遺物船)に対しても、本当なら「帆船だけで戦いたい」と言うぐらいである。


「…問題が速く片付けば良いのですが」


「ああ、そう思っている」


「もしシンデンさんのチームで対処不能な問題であれば、ベイ星域()を頼ってください」


「いや、自分達で解決可能…いや解決しなければいけない問題だからな。ベイ星域を頼ることではない」


「分かりました。それでシンデンさんは今後、何処の星域に向かわれるのでしょうか?」


 シンデンの問題に協力できないと分かったメアリーは、彼の向かう先を尋ねてきた。


「そうだな。今来た道を戻る事になるが、ルフラン星域方面を抜けてイグラン星域、そして辺境星域に向かう事になるだろう」


「ルフラン星域に向かうのですか?」


 メアリーが驚いた顔をするが、帆船がルフラン星域に戻るのには訳がある。今更だが、ベイ星域を襲ったシナノ級とカゲロウ級の艦隊が潜んでいないかを探るためだ。情報屋のジョンには既にルフラン星域とイグラン星域の魔石の情報調査を依頼してある。その流れからルフラン星域かイグラン星域がヤマト級のレリックシップ(遺物船)を解放していないか調査していくつもりであった。もちろんその間にスズカが乗る伊号潜水艦の改造や対霊子力フィールド発生装置の生産も行うつもりだった。


「うむ。しかし半年後にはここに戻って、レリック(遺物)を引き渡す予定だ。それまでに金の問題を解決しておいて欲しい」


 帆船が対霊子力フィールド発生装置だが、「ベイ星域内の遺跡から大量に発掘された」というシナリオで、監査組織に提供されることに決まった。管理組織は半年後に発足するので、それまでに帆船内で生産されることになっている。もちろん生産しているとは言わず、管理組織が立ち上がるまではベイ星域に一定数の譲渡しただけで、残りは帆船で保管することになっている。


 なぜ帆船が装置を一気にベイ星域に渡さないかというと、未だ生産が追いつかず数が足りないという事が事実としてあるが、ベイ星域の予算の問題も絡んでくる。ベイ星域に提供するのは貴重(・・)レリック(遺物)なので、ただで提供される訳ではない。つまり、高額な商品が一時期とはいえベイ星域に上とされ在庫となると、予算やら税金やらと、ベイ星域大統領でも何とも出来ない事情が発生する。だから管理組織が立ち上がり金の都合が付くまで、装置は帆船に詰まれたままとなったのだ。


「ええ、分かっております」


 メアリーは対霊子力フィールド発生装置の対価となる金額を考えたのか、厳しい顔になった。シンデンはベイ星域に装置を卸す金額を決めたが、管理組織との値段の交渉はメアリーの役目である。管理組織を立ち上げた発起人であるベイ星域が、管理組織から大金をせしめては問題となるだろうから、恐らくベイ星域は赤字覚悟で装置を売ることになるだろう。ちなみに装置の値段交渉をしたのは、会計監査プログラムである。お陰でシンデンは半年後にはかなりの大金を得ることになっていた。


「では、自分は失礼する」


「半年後の再会を待っております」


 シンデンとメアリーは握手を交わして、別れた。


 ★☆★☆


 ベイ星域を抜けてルフラン星域に向かう途中の航路で、帆船は無人の恒星系に降りた。シンデンは雪風のリビングルームに全員を集めた。


「シンデン、こんな無人の恒星系に降りてどうするつもりなの。まさかこの恒星系にあのレリック(遺物)シップがいるとかなの?」


 シオンとスズカは理由が分かっているので黙っているが、レマはなぜこんな恒星系に立ち寄ったか分かっていなかった。


「いや、ヤマト級達とは関係ない。ここでスズカの為にレリックシップ(遺物船)を改造するから、二日ほど帆船は恒星籠もる事になる」


「はぁ?帆船が恒星に籠もるって、シンデン何を言っているのよ」


 帆船が恒星に籠もると聞かされてレマは驚いていた。


「そう言えばレマは知らなかったな。帆船は恒星の中に入っても耐えられるだけの性能を持っている。恒星内のエネルギーを使ってあのレリックシップ(遺物船)を改造することになる。もちろん俺達は恒星内に入るのは無理だから外で待つことになる。ついでにレマの船の為の丈夫な増加装甲も作るから、恐らく三日程この恒星系で待機する事になる」


 シンデンが話をしている間にも、雪風と船首像を分離した帆船は伊号潜水艦を引き連れて恒星に潜っていった。


「本当に恒星に入って行ったわ…」


「諜報部には報告するなよ」


「こんな話報告したって、誰も信じないわよ」


 レマが驚くが、二日後に戻って来た伊号潜水艦の姿をみて再度驚いていた。


「何処から見ても普通の中型宇宙船よね。しかも雪風にそっくり。どうしてレリックシップ(遺物船)ままにしなかったの?」


レリックシップ(伊号潜水艦)のままだと目立つからな。スズカが余計なトラブルに巻き込まれないように外装を変えただけだ」


 伊号潜水艦の姿は人類製の中型宇宙船のような形に変わっていた。外装は帆船由来の素材に変わっているため、レリックシップ(伊号潜水艦)とは誰も気づかないだろう。形はほぼ雪風と同じで有るが、スズカは魔法が使えないので、魔法格闘戦モードといった大げさな変形機能はない。しかしシグマの分体が電子頭脳として組みこまれているため理力を使う事が可能なので、マニピュレータと少し変わった機能を搭載してある。戦闘になればそれを使う事になるが、当面は雪風と並んで帆船の下部に合体して超光速空間での移動速度の底上げに役立って貰う。


>『それで、君はなんと呼べば良いのかな。シグマの分体だからシグマ2かな』


>『儂は既にシグマとは別の個体。シグマ2とは呼ばれたくは無い。そうだな…儂は、タウとでも名乗ろう』


>『分かった。タウと今後は呼ぼう。タウ、スズカの事をよろしく頼む』


>『心得た』


 霊子力通信でシグマと枝分かれした分体と話したところ、()はタウと名乗る事になった。船の電子頭脳とスズカの間のインターフェイスは、雪風と同じく会計監査プログラムが元になるが、その根底はタウが制御することになる。


「今更ながらだけど、シンデンの船は規格外ね。大造船所でも無ければ、二日でこんな改造できないわよ」


 レマは呆れるが、帆船ならエネルギーさえあれば簡単な作業である。


「スズカ、君の船だが船名はどうする?」


「シオンと話して『雪風』の名前の由来を聞いたの。それで、私もちょっと調べて、私にもらえる船は防御力が高いみたいだから、『金剛』ってのが良いかなって…」


「なるほど『金剛』か。良い名前だ」


 外装は帆船由来の素材で理力も使える。つまり防御に徹すればまさに金剛というべき防御力を誇るだろう。ヤマト級との戦いでも活躍してくれるだろう。


「後はレマの船の追加装甲だな」


 帆船の上にはレマの船に付ける増加装甲が乗っていた。今は船の作業ドローンがレマの船に取り付け中である。レマの船はキャリフォルニア星域軍の諜報部の船であるため大きく改造は出来ない。しかし今後の戦いでは人類の船では耐えきれない。レマは凄腕の理力使いだが、それだけでは厳しいのだ。そこでレマの船に帆船由来の増加装甲を付けて防御力をアップすることにした。増加装甲は対艦ミサイルぐらいには耐えるだけの防御力をレマの船に与えてくれる。そして取り外しも可能なので、キャリフォルニア星域に戻る際は外してしまえば良い。


「私もレリックシップ(遺物船)欲しいな~」


 金剛の試運転をするスズカを見て、レマがシンデンをチラチラと見ながらそう言うが、流石にレマにレリックシップ(遺物船)を与えたら、キャリフォルニア星域軍が出張ってくることになる。


「お前がキャリフォルニア星域軍を辞めたら考えるが…辞める気は無いだろ」


「このまま諜報部としてシンデンの監視としている方が、シンデンには都合が良いでしょ」


「済まないな」


 レマには悪いが、キャリフォルニア星域軍の諜報部長官との接点は残しておきたい。シンデンのレマに対する態度は、男として最低ではあるが、彼女も納得していた。だから少しでもレマの助けとなるようにと、増加装甲を作る事にしたのだ。




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