星域連合緊急総会(23)レリックの作成
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
メアリーの草案が可決してから五日間かけて、ようやく管理組織の骨組みが出来上がった。管理組織の実働部隊となる傭兵・冒険者の部隊を率いるのはサンダースというSランクの傭兵となった。メアリーはシンデンを推薦したかったようだが、ミスター・ビッグはシンデンの要望を聞いてくれた形となった。サンダースの所属する傭兵チームは現在約五十名という大所帯であり、部隊を指揮する能力は十分にあった。
そして管理組織に出向する星域軍については、傭兵や冒険者の指示には従えないと言う話になり、各星域軍で誰が指揮官となるか決める事となった。
傭兵・冒険者と星域軍で戦力が別れてしまったが、実際に動く場合は、星域総会が指揮官を決定し、緊急事態の場合はジョーンズやミスター・ビッグが指揮官を決める事に落ち着いた。
ベイ星域軍の旗艦がステーションから出港したのは、総会が終わってから半日程経った後であった。ジョーンズとミスター・ビッグも一緒に来ているが、彼らはこれからそれぞれのギルド本部へ、ベイ星域軍によって送り届けられる予定である。
「機会があれば、一緒に冒険したいですね」
「ああ、その時は是非とも仲間に加わって欲しい」
ジョーンズとミスター・ビッグが冒険しようとアプローチをかけているのは、シンデンではなく響音であった。どうやら二人は護衛の際に見せた響音の働きをみて、彼女と冒険に出かけたくなったようだった。
「マスターの命令であれば従います。ですが私はなるべくマスターの元から離れたくはありません」
「響音は自分のチームのメンバーだ。勧誘は止めてほしい」
響音が二人から勧誘を受けて困っていた為、シンデンは二人との間に割って入った。
「シンデンさん、では貴方も御一緒に冒険しませんか」
「そうだな。シンデンの力も見せて欲しい」
すると二人は今度はシンデンも含めて勧誘してきた。
「お二人はこれから管理組織の運営があるのです。運営の目処が立つまで早々冒険なんて出来ませんよ」
「メアリー大統領、運営なら星域連合から事務方が来るじゃないですか」
「俺達が今まで以上に書類仕事をする必要があるのか?」
「事務担当の人員は星域連合から来ますが、決済はお二人にして貰う必要があるのです。それを忘れないでください。とにかくお二人は一旦ギルドの本部に戻って、今まで溜まっていた仕事を片付けてください」
二人を止めたのは、メアリーであった。メアリーに手を引かれて、二人はベイ星域の戦艦に向かう連絡艇に押し込まれてしまった。
「じゃあ、今度合う時は一緒に冒険しましょう」
「最高難易度の遺跡に潜るなら、お前達と一緒がいい」
「仕事が片付いて、暇になった時に誘ってください」
シンデンは二人を見送ると、自分も帆船に戻るために連絡艇に乗る。
「シンデンさん、どうしてもレリックが必要なのです」
「探してはみるが、見つからなかった場合は諦めてくれ」
「…きっとあるはずです」
「いや、それは確約できない」
メアリーに対霊子力フィールド発生装置についてお願いをされた後、シンデンを乗せた連絡艇は帆船に向かった。
★☆★☆
「戻ったぞ」
「シンデンがようやく戻って来た~」
「シンデンさん、お疲れ様です」
「レマが見当たらないが、何処に行ったんだ?」
シンデンが帆船に戻ると、シオンとスズカが出迎えた。シオンが抱きつこうとしてくるが、それを右手で押さえながら、レマの行方を二人に尋ねた。
「レマさんは、要事があると言ってキャリフォルニア星域軍の艦隊に向かいました」
「通信機の修理の件か。それなら仕方ない。しかし、ベイ星域軍が移動を始める前には戻って来ない場合は、置いていくしか無いな…」
もちろんシンデンはレマがキャリフォルニア星域軍の船に向かったことは知っている。しかしシオン達へのポーズとして聞いているだけである。今頃シオンは諜報部長官に絞られているかもしれないが、俺もシンデンもフォローはできないので、レマには頑張ってもらいたい。
「戻って早々だが、直ぐにベイ星域に向かうことになる。出発の準備をするぞ。俺は船首像のチェックをするから、二人は雪風と帆船のチェックをしてくれ。今この船の電子頭脳が使えないからな。シオンは、雪風の電子頭脳にサポートを依頼してくれ」
「はーい」「分かりました」
シンデンは船首像のコクピットに座ると、バックアップ霊子と同期を実施した。電子頭脳の説得について意見が分かれたまま、俺達は霊子の同期を取った。
>『バックアップ霊子の言うことは理解できるが、やはり電子頭脳を説得すべきだと思う』
>『シンデンの言いたいことは分かるが、やっぱり説得は難しいと思うけどね。まあ説得は続けよう』
霊子を同期した時点で、どちらかに意見が統一されるかと思われたが、不思議な事に同一の霊子となったバックアップ霊子とシンデンだが、その意見は統一されなかった。
これは「帆船のハードウェア上に存在するバックアップ霊子と、シンデンという肉体に存在する霊子が多重人格のように、個別の意見を持つようになったでは」と俺達は考えた。もしかすると霊子を同期する度に相違は減っていくのかもしれないが、長期間同期がとれず意見の相違が大きくなると、バックアップ霊子とシンデンは別な人格になる可能性もある。そうなった場合の対策を考えておこうと、俺達の意見は纏まった。
>『マスター、バックアップ霊子との同期は終わりましたか?』
霊子の同期が終わり俺達は自分達の状態を確認していると、電子頭脳が話しかけてきた。どうやら電子頭脳は五日間かけて検討した結果を俺達に説明するつもりのようだった。
>『ようやく検討が終わったのか。それで対霊子フィールド発生装置の提供について可能なのか?』
>『初代マスターの命令と現マスターからの要望…二つを両立させる事は可能と判断しました。よってマスターの提案に合った様に、完全なブラックボックスとして対霊子フィールド発生装置をこの五日間、全力で設計しておりました』
>『そうか。電子頭脳には負担をかけて申し訳なかったが、これで人類はヤマト級の霊子力兵器に対抗できるようになる。それでどのような形で装置をブラックボックス化するつもりだ?』
>『装置のブラックボックス化ですが、解析しようとした瞬間に装置に内蔵された回路が対消滅で消えてしまうセキュリティ機能を搭載することにしました』
>『対消滅で消えるとは危険なセキュリティ機能を付けたな。解析と言うが装置が破壊された場合もその機能が発動するのか?宇宙船や有人機動兵器に搭載するんだ、対消滅では危険では無いか?』
>『霊子力に関する情報を拡散させないためのセキュリティです。解析をさせないように完璧なシステムを構築しました。対消滅と言っても放射能やエネルギーは放出されません。装置のサイズは直径十センチの球形で、解析目的での電磁波の放射や装置の外殻の分解・破壊を検出すると、装置の内部回路だけが消えてしまうという形になります』
電子頭脳は俺達に対霊子フィールド発生装置のイメージを見せてくれた。装置は直径十センチのオレンジ色の半透明な球体(集めると神龍が出現しそうな玉)で、対霊子フィールド発生装置に加え、X線やニュートリノといった装置内部を透視する様な電磁波や、装置の外殻が分解・破損した場合、装置の回路を全て対消滅させて消すセキュリティ機能が詰まっていた。そしてセキュリティ機能が起動した場合、霊子力通信で装置の座標とシリアル番号が帆船に送られる仕組みになっていると電子頭脳は説明してくれた。
そして肝心の対霊子力フィールドを発生する機能だが、装置から半径五十メートの球状に展開し、ヤマト級の霊子力兵器であれば防御可能という性能であった。半径五十メートルとは小さい気もするが、人を霊子力兵器から護るだけであればそのサイズで十分である。
>『対消滅しても放射能やエネルギーが出ない原理は不明だが、機能もセキュリティも完璧だな。それで装置はどの程度でレリックとして作成可能だ?』
>『レリックらしく作り込む時間も含めて、初号機が出来上がるのは二時間後です。試作品の試験が終われば、二号機以降は五分で作成可能です』
装置を作る為の製造機械を作る事に時間がかかるが、製造機械を作ってしまえば後は量産は簡単に行える。
>『電子頭脳さん、対霊子力フィールド発生機能を搭載しない、セキュリティ機能だけの試作装置を作って、カエデに調査を依頼しよう。カエデがセキュリティ機能を突破することが出来なければ大丈夫だろう』
>『了解しました。直ぐに製作にかかります』
数時間後、カエデの研究室から悲鳴と怒声が上がったが、カエデでは装置のセキュリティを突破することは出来なかった。
★☆★☆
ベイ星域軍が出発する五分前になって、ようやくレマの宇宙船が戻ってきた。超光速航法をシオンに任せて、シンデンはレマからキャリフォルニア星域の動向について話を聞くことにした。
「それで、キャリフォルニア星域はどうなった?長官とは話してきたんだろ」
「はい。キャリフォルニア星域はメアリー大統領の草案が可決されたことで、管理組織の実権を握る方向に方針を変更しました。キャリフォルニア星域は、管理組織の実権を握るためにシンデンを使うつもりです」
「俺を管理組織に入れて、操ろうって言うのか。まさか姉さんを人質にでもするつもりか?あの長官がそんなチープな手を使うとは思えないのだが?」
「シンデンを管理組織に入れて操ろうとしているのは、星域のお偉方です。長官は反対しましたが、立場上受け入れざるを得ないという状況です。なおシンデンにそれを伝えて説得する役目は私ですね」
「なるほど。それでお前は長官からそんな命令を貰ってきたのか?」
「命令は受けましたが、長官は期待していないと言いました。『説得はしたが駄目だった』と報告しますが、それで良いのでしょうか?シンデンがレリックシップの行方の調査を行うなら、管理組織に参加する方が都合が良いと思うのですが…」
「メアリー大統領にも同じ事を言われた。組織を使って探す方が効率が良いのは分かっているが、まあ俺にも事情がある。だから今俺は管理組織に入ることは出来ない」
「分かりました。説得は失敗したと長官に報告します。後、シンデンがキャリフォルニア星域の命令に従わなくても、アヤモさんの安全は長官が確保するそうです」
「それを先に言え」
「シンデンが組織に入るなら、言う必要はありませんよね。…痛っ」
レマはしれっとそう言うが、アヤモさんの命に係わる話を最後に伝えたのは悪趣味である。よってシンデンはレマにデコピンを喰らわせた。
「レマ、長官はメアリーが公開した映像について、何か言っていなかったか?」
「映像については、『キャリフォルニア星域に関係の無い傭兵に伝える事はない』と言われました」
「…なるほど。キャリフォルニア星域は未だ諦めてないのか」
「あの映像の最後の攻撃は、シンデンが言っていたレリックと同じ物なのですか?」
「同じ物だ。そしてその対抗策を今準備中だ」
「対抗策?そんな物があるとは私は聞いていないのですが?」
「まあ、カエデが船のレリックを研究して、最近見つけてくれたんだよ」
「…都合の良い話ですね」
「今の俺に可能な事をやった結果だ。『管理組織に対抗策を提供する』と長官に伝えれば、キャリフォルニア星域も諦めるだろう」
「分かりました。長官には今の話を伝えても良いのですよね?」
「ああ、伝えて良い」
キャリフォルニア星域の思惑やら霊子力兵器の開発については、レマからの報告で長官が何とかするだろう。レマにキャリフォルニア星域への対応を頼むと、シンデンは少し休憩することにした。
★☆★☆
ベイ星域に戻る航路で、ベイ星域に入った最初の休憩時に、シンデンはメアリーに「対霊子力フィールドを発生するレリックが見つかった」と通信を送った。
「本当にその様なレリックがあったのですか?」
メアリーはシンデンからの通信を受けて驚いてた。
「ああ、自分のチームにいるレリック研究家が見つけてくれた。しかしこのレリック、機能を検証したが防御フィールドは装置から半径五十メートルの球状にしか展開できない。後、これは注意事項になるが、このレリックを解析しようとしたら装置が動作しなくなる仕掛けになっている。だからこのレリックを解析して複製することは不可能だ。幸いレリックは自分の船にそれなりの数が存在している」
シンデンはメアリーにオレンジ色の玉を見せて機能や注意事項を説明した。メアリーの目はそのオレンジ色の玉に釘付けであった。
「…そんな奇妙な仕掛けのあるレリックなのですか。そのレリックの機能をどうやって確かめたのですか?」
「自分のチームにいるレリック研究家が凄腕なのと船の研究設備があるからだ。レリックシップでも機能を分析するのがやっとのレリックだ、くれぐれも慎重に扱ってほしい。取りあえず連絡艇を寄越してくれれば、この艦隊の有人艦艇や有人機動兵器に搭載する数のレリックを提供しよう」
「それは助かります。しかしレリックを解析して複製できないとなると、レリックの個数は重要な情報となります。正確な数は無理としても、管理組織の全ての船に装備できるかぐらいは教えてください」
「恐らく管理組織全ての船に装備するぐらいの数はあるだろう。…後、レリックを提供するに当たって、その出所が自分だと公開はしないで貰いたい」
実際は帆船で製造しているので、数は無尽蔵だが、それをメアリーに言う必要はない。そしてシンデンがレリックの供給元と知られると、シンデンが狙われることになるので、秘密にしておく必要がある。メアリーには知られているが、基本的に彼女にレリックを渡すつもりなので問題はない。
「レリックがシンデンさんからしか入手できないとなれば、問題となることぐらい分かります。しかし管理組織の宇宙船に取り付けるほどの数のレリックですが、都合良く見つかったとは言えませんね。何か理由を考える必要があります」
「その理由は大統領が考えてほしい。もし自分が出所とバレた場合は、レリックの提供を停止するつもりだ」
「…分かりました。そこはベイ星域が何とかしましょう」
レリックを提供できるのは帆船のみ、そして帆船がレリックを提供していることは秘密にするという難題をメアリーに押しつけて、シンデンは通信を切断した。
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