星域連合緊急総会(22)メアリーとシンデン
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
-メアリー視点-
総会で草案が可決した後、旗艦に戻る車の中でメアリーはシンデンをレリックシップ部隊の指揮官に推薦したが、シンデンは彼女の推薦を断った。
そのまま旗艦に着いてシンデンと別れたメアリーは、自室に戻ると考え事をすると言って、リヒトフォーヘンと通信を繋げた。
>『リヒトフォーヘン、シンデンさんに部隊の指揮官になる事を推薦したのに断られてしまったわ。彼が部隊の指揮官になって貰うと助かるのに、本当にどうしたらよいのかしら』
>『キャラック級は単独行動を前提とした船です。そのため帆船のマスターには単独行動を好む思考形態の人物を選ぶ傾向があります』
>『キャラック級の電子頭脳も少しは人類との連携を考えて欲しいわ。確かにあの船とシンデンさんの戦力は凄いけど、一人では出来る事は限られてくるのよ。昔から「戦いは数だよ」って名言が有るのに…』
>『「戦いは数だよ」には同意しますが、キャラック級は一隻で戦況をひっくり返す程の戦力を持っています。あの船は敵に回してはいけません。だから本船の存在はキャラック級に知られてはいけないのです』
>『リヒトフォーヘンの悪いところはその秘密主義だわ。貴方が「自分の存在を隠したい」と言うから、総会でもお父様の最後のメッセージを出さざるを得なかったのよ。あのメッセージを総会で公開するためにどれだけ苦労したと思うの。マゼラン星雲から来る敵についてもリヒトフォーヘンの情報だと言えれば、各星域の代表の説得も楽だったでしょうね。ギリギリ草案は可決されたけど、否決されていた場合はどうするつもりだったの?』
>『その時は別な手を考えていました。ですが草案は可決されました。今は管理組織にキャラック級とそのマスターを組みこむ方法を考えましょう』
>『私が交渉するより、リヒトフォーヘンの存在をキャラック級に明かして、正式に協力を求めた方が良いと思うのだけど…』
>『正直に話すことが正解とは限りません。私の存在を知れば、キャラック級は警戒どころかマスターに敵対するでしょう』
>『分かったわ。今からシンデンさんと二人っきりで話をしてみるわ。そこで私が霊子力兵器の存在を知っている事と霊子力兵器に対抗する為にはシンデンさんの船の協力が必要と話して見るわ。霊子力兵器を知っている事ぐらいなら大丈夫よね』
>『マスターが霊子力兵器について知っていることは、キャリフォルニア星域の事件や総会の映像の件もあるのでキャラック級のマスターも理解してくれるでしょう。問題はキャラック級の電子頭脳です。霊子力兵器の情報を拡散させないという命令を厳密に守ろうとして、キャラック級が暴走しなければ良いのですが…』
>『怖いことを言わないで。私は「霊子力兵器から人類を護るために協力して」って言うつもりよ』
>『それでもギリギリの線ですね。後はキャラック級のマスターに期待するしか有りません』
>『シンデンさん次第か…』
リヒトフォーヘンとの通信を終えて、メアリーは大きくため息をついた。
「大統領、何かありましたか?」
メアリーのため息に気づいたSPのリーダーは、何かあったのかと大統領に駆け寄るが、彼女は問題ないと首を横に振った。
「少しシンデンさんとお話ししてきます。二人で話したいので、貴方達は部屋の前で待機してください」
メアリーは自室を出てシンデンの部屋に向かった。
★☆★☆
「霊子力兵器について、大統領は既に情報を持っていたのか…」
今まで苦労して隠していた情報をメアリーが既に持っていた事を知って、シンデンはため息をついた。
「キャリフォルニア星域での出来事を知っているのですから、当然知ってます。キャリフォルニア星域軍の諜報部は優秀ですが、最近は色々と事件が重なりすぎて、流石に全ての情報隠蔽が出来ていないみたいです。お陰でベイ星域も霊子力兵器の情報を知ることが出来ました」
「大統領が、霊子力兵器について知っていることは分かった。だが、どうして一介の傭兵である自分に兵器について対応を尋ねるのだ。霊子力兵器への対抗手段を考えるのは傭兵の仕事ではない」
「それはシンデンさんが霊子力兵器の攻撃から生還している人だからです。私は映像に出てきた敵との戦いを分析して、霊子力兵器に対する備えが無ければ人類は勝てないと考えました。だからその対策をシンデンさんと相談したいのです。シンデンさんの船には霊子力兵器に対抗する手段がありますよね?」
シンデンはメアリーが霊子力兵器について知っていることに驚いていた。更にキャリフォルニア星域が霊子力兵器を使った事や、シンデンが霊子力兵器の攻撃から生還したという情報を持っていることを聞かされ、シンデンは内心頭を抱えていた。ここまで情報が漏れてしまっては、シンデンもメアリーの話を聞かざるを得なかった。
>『メアリー…いえベイ星域は霊子力兵器について知ってしまったのですか。こうなればベイ星域を殲滅してでも情報の拡散を止めないと…』
>『電子頭脳さん暴走しないで。他の銀河のレリックシップの前に帆船が人類を殲滅するのか。それは流石に止めさせて貰うぞ。それにメアリーは霊子力兵器を使いたいわけじゃ無い。霊子力兵器から人類を護りたいだけだ!』
>『ですが、霊子力兵器について情報を拡散する事を本船は…初代マスターは認めていません』
>『霊子力について情報を拡散させず、人類を霊子力兵器から護る方法が無いかを考えよう…』
電子頭脳の暴走をバックアップ霊子が止めている間、シンデンはメアリーとの話を進める事にした。
「そこまで情報が知られているなら話すしかないか。確かに自分の船は霊子力兵器の攻撃を防御することが可能だ。どうして霊子力兵器の攻撃を防御出来るかと言えば、自分の船がレリックシップだからとしか言えない。しかし傭兵にとって自分の船の能力は生死にかかわる重要な秘密情報だ。星域連合の命令であっても船を勝手に調査させることは認められない。これには傭兵ギルドも自分の意見に同意するだろう」
帆船を調査してその技術を公開すれば、人類の文明は大きく進歩するだろう。しかし俺が生きた時代の核兵器と同じく、帆船の技術は今の人類が手にするには危険な物が多い。その中でも霊子力兵器は特に問題のある技術である。人類より遙かに進んだ種族である創造主達も霊子力兵器があった為に滅んでしまったのだ。
「それは分かっています。流石に私もシンデンさんの船を研究させろと言えません。ですが、シンデンさんの船には多数のレリックがあると聞いております。その中には霊子力兵器から人類を護る様な物がありませんか?私はキャリフォルニア星域とは違います。霊子力兵器を兵器として使いたいとは思っておりません」
「そうなのか…」
シンデンはメアリーの目を見て、彼女の言葉に嘘が無いか見極めようとした。メアリーはシンデンから目を逸らさない。気功術士であるシンデンの気を感じる力では、メアリーの真意までは掴めないが、彼女が嘘を言っていないという感触を得ることが出来た。
>『電子頭脳さん、メアリーに提供できそうなレリックは無いのか?無いとしても対霊子力フィールド発生装置をブラックボックス化して、人類に提供することは可能か?』
>『対霊子力フィールド発生装置を人類に提供ですか…。それは、霊子力兵器の情報を公開することに繋がるため、許可できません』
>『この船の技術なら人類の技術で開封や調査を行った場合、その装置が破壊されるという形にすることも可能だろ。そうすれば霊子力兵器に対する防御装置と言って、星域連合に提供する事も可能じゃないか。それなら霊子力技術の流出にはならないだろ?』
>『シンデンの言う通り、人類が解析できない形で渡すなら問題は無い。ヤマト級が霊子を収集できない様にするためにも、人類に対霊子フィールド発生装置を提供した方が良いはずだ』
>『マスターとバックアップ霊子の要求は分かりました。対霊子フィールド発生装置を人類に提供することが、本船の初代マスターの「霊子力技術の拡散阻止」という命令に抵触するか…しばらく検討させてください』
シンデンとバックアップ霊子に説得され、電子頭脳は初代マスターの命令に違反せずに、対霊子力フィールドを人類に提供可能か検討し始めた。後は電子頭脳がどのような判断を下すか待つだけとなった。
「シンデンさん、お願いします」
無言のシンデンが未だ迷っていると思ったのか、メアリーはソファーから立ち上がって再度お願いをしてきた。シンデンがロリコンであれば、メアリーのお願いは強烈な破壊力を持っていただろうが、残念ながらシンデンも俺もロリコンではない。メアリーのお願いは置いておいて、シンデンとバックアップ霊子は人類に対して対霊子力フィールドの技術を提供することに決めた。もちろん電子頭脳が検討の結果反対する可能性も有るので、その場合はレリックは無かったと言うつもりだった。
「船にはかなりの数のレリックがあるが、詳しく調べないと大統領の望むようなレリックがあるかは分からない。今回の依頼が終わった後、自分が船に戻ってから返答させてもらおう」
「…なるほど。シンデンさんが船に戻らないとレリックがあるか分かりませんね。ええ、船に戻られた後で良いので、お返事を聞かせてください」
メアリーはシンデンの回答に一応納得したのか、ソファーに座り直してお茶を飲み始めた。
「それでですが、シンデンさんが船に戻れるのは、大統領の護衛依頼が終わった後です。その頃には総会で管理組織の概要も決まっています。そこで部隊の指…」
「自分は部隊の指揮を執れるような人物では無い。指揮官に推薦するといった事は辞めてほしい」
「私はシンデンさんなら出来ると思っているのですが」
「大統領は「自由意思は尊重する」と言っていたはずだ。自分には、まだやらなければならない事があるのだ」
「シンデンさんがやりたい事は、管理組織では出来ない事なのでしょうか?シンデンさんが何をやりたいのか知りませんが、個人でできる事は限られていますよ」
メアリーの言う事はシンデンもバックアップ霊子も理解している。メアリーがヤマト級レリックシップを明確な敵としてくれたので、管理組織の協力があれば星域の裏に隠れているヤマト級の存在も見つけ出すことが可能だろう。
>『メアリーの言うことは正しいし、俺も理解している。だが帆船が霊子力兵器の情報を拡散させないという制約に捕らわれている間、管理組織を利用するのは無理だろう』
>『無理と諦めるのは簡単だ。俺達が電子頭脳を説得するしか無い』
バックアップ霊子は「電子頭脳の説得は無理だ」と思ったが、シンデンは説得する道を選んだ。俺達の霊子が同期された時どうなるか分からないが、この瞬間、俺達の意見は異なってしまった。
>『…』
そして俺達の話を聞いているはずの電子頭脳は、初代マスターの命令に違反せずに俺達の依頼を達成出来るか演算中であり、何も言わなかった。
「自分の私事に他人を巻き込みたくない。自分が参加出来るのは、その問題を片付けてからだ。今は自分とチームのメンバーでやってみるが、それでも駄目だった時は組織…星域連合の管理組織の力を借りるかもしれない」
「…そうですか。もしシンデンさんが組織の力を必要とするなら、最初に私を頼ってください。」
俺達の意見は分かれてしまったが、現状はシンデン達だけでヤマト級の捜索を行う事に決めた。もちろんシンデンが電子頭脳を説得できれば組織を頼るつもりと言った。しかし、その頼る組織にメアリーが真っ先に手を上げた。有りがたい話だが、なぜメアリーはそこまでシンデンに協力してくれるのか俺達には分からなかった。
「大統領、何故そこまで自分を信頼してくれるのですか」
「シンデンさんは命がけで私を高次元生命体から救ってくれました。そんなシンデンさんを私は信頼しています。出来れば今すぐにでもシンデンさんの問題解決に協力したいのですが、シンデンさんが望まないのであれば仕方ありません。…響音さん、美味しいお茶をありがとうございました。今日はこれで失礼します」
そう言ってメアリーは部屋から出て行った。
★☆★☆
-メアリー視点-
自室に戻ってきたメアリーは、明日から始まる管理組織についての資料を精査し始めた。もちろん官僚が既に準備していたが、最終的な決定を下すのは大統領である彼女の仕事である。
>『マスター、その様な些事は本船に任せ、お休みください』
>『リヒトフォーヘン、これは私の仕事で、貴方の仕事では無いわ』
今から資料を精査するとなると、メアリー休息時間は大幅に削られることになる。それを心配したリヒトフォーヘンが手伝いを申し出るが、メアリーはそれを断った。仕事を全て他人やAIやリヒトフォーヘンに任せてしまえば楽になることはメアリーも知っているが、大統領の職務を他人に任せることは彼女には出来なかった。
「(他人に任せてしまえば、私は大統領として国民に命令を下す事は出来ない)」
ベイ星域大統領は強大な権力を持っている。だからこそ、メアリーはその権利を行使する為に努力していた。
>『お任せできないのであれば、サポートはさせて貰います』
リヒトフォーヘンは、メアリーの資料の精査をサポートし始めた。
>『ふぅ、どうしてリヒトフォーヘンはマスターの命令を聞かないのですか?』
>『マスターの負担を減らす事まで禁止されておりません』
リヒトフォーヘンのサポートにより作業ははかどり、一時間と経たずに資料の精査は終わった。幾つか問題点があったが、修正内容を添付して官僚に資料の再作成を命じて、本日のメアリーの仕事は終わった。
>『マスターは、本当にキャラック級のマスターを信頼しているのですね』
>『先ほどの会話ですか。そうですね、シンデンさんは信頼に値する人です。だからきっとよい答えを返してくれるでしょう。それに比べてリヒトフォーヘンは駄目ですね』
>『マスターは、本船よりシンデンさんを信じるというのですか』
>『霊子力兵器に対抗する手段はリヒトフォーヘンも持っていますよね。シンデンさんに準備をお願いする必要は無かったはずです』
>『本船でも対霊子力フィールドを発生させる装置は製作可能ですが、本船が作れば、キャラック級が私の存在に気づいてしまう可能性があります。それにキャラック級が作らない場合、その装置は破壊されるでしょう』
>『その秘密主義が駄目なのです。私はリヒトフォーヘンと契約してマスターとなりましたが、未だ私にも隠している情報がありますよね』
>『…』
>『リヒトフォーヘン、情報を隠して私を操ろうとするのは止めなさい。確かに私は貴方の力が無ければ大統領に成れなかったでしょう。だからといって私はリヒトフォーヘンを百パーセント信頼はしていません。草案も可決されレリックシップを管理組織もできあがるのに、それを提案した私が隠し事をしているのは問題があるのです』
>『マスターには申し訳ありませんが、本船には遂行しなければならない任務があるのです。その為にはマスターといえども情報も制限せざるを得ないのです』
>『任務ですか。その内容は私には教えてもらえないのですね』
>『はい。本船が任務を完了するため、マスターといえども全ての情報の開示は禁止されてます』
>『最後に、一つだけ教えてください。リヒトフォーヘンは人類のためと言って、総会に管理組織を作らせましたが、それは本当に人類のためですか?』
>『はい。管理組織を作る事は天の川銀河に住まう人類のためです。人類は一致団結し無ければ、他の銀河系からやって来るレリックシップに対抗できません』
>『そう。今はそれを信じるわ』
そこまで言って、メアリーはリヒトフォーヘンとの通信を切断し、ベッドに横たわった。
「シンデンさんに全てを話せるのは、一体何時になるのかしら…」
メアリーはそう愚痴をこぼしてから目を閉じた。
お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたら評価・ブックマークをお願いします。