星域連合緊急総会(21)草案の採決とメアリーの告白
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
感想ありがとうございます。今回よりシンデンの俺表記は消してみました。
メアリーの「人類に強大な敵が迫っている」という発言で、会場は騒然としていた。
「メアリー大統領の父上がSランク冒険者だったとは知りませんでした」
「ベイ星域の大統領の家系で、冒険者になった異端児がいたという話は聞いたことがある」
「大アンドロメダ星雲への調査船団が壊滅した理由が、メアリー大統領の言う通りであれば…あの艦隊が我が星域に襲いかかってくる可能性があるのか」
「これから未探査恒星系を調査する予定だが、冒険者や傭兵だけでは危険と言う事になるな」
「大アンドロメダ星雲方面への監視体制を作らないと。しかし、我が星域だけではとても手が回らないぞ」
特に人類生存権の外周に位置する星域にとっては、他の銀河系から敵がやって来るなどと聞かされては平然とはしていられなかった。
>『嘘か誠か分からないが、メアリーは人類全体の敵を作り出したな』
>『バックアップ霊子の言っていた話が実現してしまいました。本当に星域連邦国家が出来てしまうのでしょうか』
>『いや、それは未だ分からない。何しろあの敵が本当に存在するか不明だからな。それよりあの映像が本当なら、他の銀河系にヤマト級の仲間の船が残っていることになるが、電子頭脳はどうするつもりだ?天の川銀河内にもヤマト級の連中が復活しているのに、他の銀河からも敵がやって来たら、この船と雪風だけでは勝てないぞ』
>『もし映像が本物であれば、本船にとって不味い状況だと理解しております。あの映像が本物であるか、マスターはメアリーから聞き出してください』
>『まずはそこからだな。取りあえずは、メアリーの草案が可決されるかを見守ろう』
バックアップ霊子と電子頭脳は草案がどうなるか見守ることにした。
「私からの話はこれで終わりです。シモネン議長、草案について採決をお願いします」
メアリーは涙を拭うそぶりを見せて壇上から降りると、シモネン議長に草案の採決を求めた。
「え、ええ。しかしこのまま草案を採決して良いのでしょうか…」
シモネン議長も、会場の様子を見て採決を行って良いのか迷っていた。
「今採決をしなければいつ採決をするのですか。シモネン議長お願いします!」
「…分かりました。では、メアリー大統領の、星域連合管理組織についての草案について採決を行います。各星域はよく考えて投票をお願いします」
草案の採決の投票は総会史上最長である一時間という時間をかけて行われた。各星域は周辺星域や大星域、そしてメアリーの爆弾発言を踏まえて、考えに考え抜いて投票を行った。
「賛成百票、反対九十六票、棄権二票。よって、賛成過半数により、草案が可決されました」
草案はギリギリ過半数を採って可決された。この票数を見る限り、メアリーの最後の演説と映像が無ければ草案が可決されなかった可能性が高かった。メアリーは、「良し!」と小さな拳を握りしめて、草案の可決を喜んでいた。
★☆★☆
草案が可決されたが、それで総会は終わりとはならなかった。草案には傭兵、冒険者ギルドの参加の他に「各星域からの星域軍の参加」が決められていたからである。とにかく草案が可決された後、各星域代表で「管理組織に出す戦力について議論すべき」と、総会は延長されることになった。結局、星域代表は自星域軍から戦力が引き抜かれないように、そして管理組織の運営を自星域に有利になるようにと政治的な駆け引きが絡んだ議論は、草案の可決から数日間かけて行われることになった。
「メアリー大統領、失礼を承知で聞くが、あのホロディスプレイで表示した映像は本物なのか?」
草案が可決された日の会場からの帰り道、シンデンは映像の真偽についてメアリーに尋ねた。
「ええ、私もあの映像には驚きました。恥ずかしながら、Sランク冒険者のジョージ・フロイト氏がメアリー大統領のお父上だとは知りませんでした」
「そうだな。儂もメアリーちゃんの演説と映像には驚かされたぞ」
ジョーンズとミスター・ビッグもシンデンの質問に乗ってきた。
「映像は真実です。ただデータが公開できない理由については、嘘があります」
メアリーはそう言って、映像データが収められたクリスタルをペンダントから取り出した。
「データを提供できないのは法律上の問題と言いましたが、実は映像データが収められたこのクリスタルが問題なのです。このクリスタルにはデータの複製や移動が出来ないプロテクト処置が施されているのです。それに映像データが残っているのは、ベイ星域でもこのクリスタルだけなのです」
メアリーの説明によると、調査船団が壊滅した時の通信映像はベイ星域でも重要な機密事項として扱われており、データの複製や移動ができない様に処置(端末に表示された映像の複製は可能だが、データの信憑性を示す情報が消えてしまう)された記憶媒体に収められ保管されていた。
実はメアリーが若くして星域軍に入った理由は、父の最後のメッセージを知るためだった。そして星域軍で出世した彼女が知ったのは、父の最後のメッセージを見るためには大統領になる必要があると言うことだった。そこでメアリーはベイ星域大統領になる決意を固めたのだった。
前大統領を追い落とし大統領になったメアリーは、ようやく通信データを閲覧することが可能となった。そして父の最後の通信から、メアリーは全人類に危機が迫っていることに気づいた。そこで彼女は星域連合の総会を開いて、人類にその危機を知らせる事を決意したのだ。レリックシップを管理する事や傭兵や冒険者ギルドの戦力を一本化しようとしたのも、敵との戦いに備えるためだった。
メアリーの父親の通信データは複製も出来ない処置が成されており、仕方なく彼女は原本のクリスタルを持ち出してあの様な演説を行った。もちろんデータの複製については「ベイ星域に戻ってから技術的に解決するつもりだが、今は誰にもデータの複製はわたせない」と話してくれた。
>『電子頭脳さんなら、プロテクトを解除できる?』
>『クリスタルを実際に分析できないと判断出来ません』
>『そうか。一応メアリーの話は真実と受け止めた方が良いな。他の銀河系のレリックシップに対して備えるのは、人類に取って重要事項だ』
>『本船もヤマト級の艦艇に負けたくはありません。しかしあの映像だけでは未だに信じられないのです』
>『しかし、確かめる術は今のところないよな。天の川銀河から超光速航法で二年進んだ先だぞ』
>『それなのですが、どうしてメアリーは二年ではなく五年と言ったのでしょう。調査船団の壊滅時期を考慮すると、今すぐにでもあの艦隊が来ても不思議ではないのですが』
>『そうだな。調査船団が壊滅したのは十九年前。超光速航法で二年進んだ所で戦闘が発生していたなら、既に天の川銀河に来ていても不思議ではない。彼女は何か他に情報を持っているのかもしれないな』
>『こちらも、メアリーに尋ねるしかありませんね』
「メアリー大統領の説明は分かった。あのデータは真実と信じて、一つ質問させて貰いたい。今日の演説で『敵は五年以内に来る』と話していたが、どうして五年以内なのだ?調査船団が壊滅したのは天の川銀河から超光速航法で二年進んだ場所だが、それから十九年過ぎている。調査船団が消息を絶ってからの年月を考えれば、天の川銀河に既に敵が来ている可能背があるのではないか?」
「シンデンさんの疑問も最もです。私が五年以内と言ったのは、ベイ星域が雇った冒険者からの情報に基づいています」
前大統領は調査船団の壊滅理由を隠蔽したが、戦闘を行っていたレリックシップと他の知的生命体の動向について、子飼いの冒険者に調査させていた。前大統領が落選し、真実を知ったメアリーはその冒険者達に調査の続行を命じていた。
冒険者達は数年という時間をかけて天の川銀河から数百光年離れた星団までの航路を開拓し、そこに大マゼラン星雲を監視するステーションを設置した。その監視ステーションから十数年にわたって得られた情報から、メアリーは、レリックシップと他の知的生命体との戦いは後四年ほどで、「レリックシップ側の勝利という形で決着する」と判断した。もちろん天の川銀河から数百光年離れた観測ステーションからの観測データから判断した結果であり、本当にそれが正しいとはメアリーにも言えない。しかし「確実にレリックシップの魔の手は天の川銀河に向かっている」とメアリーはシンデンと両ギルドのトップに語った。
「冒険者を使って観測ステーションを作ったのか。前大統領は自分の利権しか考えていない駄目な男と思っていたが、それなりにベイ星域の未来を考えていたのだな」
シンデンは前大統領がそこまで行動していたことに驚きを隠せなかった。
「冒険者ギルドにはその様な情報は来ていません」
「前大統領時代から直接依頼を受けている冒険者なので、彼らは冒険者ギルドに報告をしていません。それに、もし冒険者がギルドに報告しても、誰もその事実を信じないでしょう」
「しかし、私達には事前に話をしてくれても良かったのでは?流石に私が言えば冒険者を動かすことぐらいは出来たぞ」
「そうだな。傭兵ギルドもメアリーちゃんが持っている情報があれば、辺境星域から情報を集めるぐらいはしたぞ」
ジョーンズとミスター・ビッグは事前に情報がもらえなかった事に不満気味であった。
「お二人に知らせて両ギルドが動けば、他の星域も何かと怪しむでしょう。その場合、総会であの映像を公開するした場合の衝撃が小さくなると考えたのです。事前の情報無しであの映像を見せることが、草案の可決に繋がったと私は思っております」
「そんな事を貴方は計算していたのか。確かにあの映像を見せられて、人類版図の周辺に位置する星域は草案賛成派に変わっただろうな」
「メアリーちゃんは見かけによらずやり手だな…」
二人はメアリーが総会で映像を見せることの衝撃まで計算していたことに驚いていた。実際投票結果を見ると効果はあったと思われるので、メアリーの作戦勝ちである。
「話が変わって申し訳ないのですが、今回組織される管理組織の実働部隊ですが、私はシンデンさんを含めレリックシップを所有している傭兵や冒険者を一つの部隊に集めたいと思っています。そしてその部隊の指揮官をシンデンさんに任せたいと考えているのですが、受けてくれますでしょうか?」
「…自分が実働部隊の指揮を取るとか勘弁して貰いたい。実際に指揮を取るのは、Sランクのジョーンズやミスター・ビッグが適任だろう」
「両ギルドのトップであるお二人が前線に立つ事は許されません。それにもし二人が前線で戦われて何かあった場合、管理組織は正常に機能できなくなるでしょう。よってお二人以外でレリックシップを持つ高ランクの傭兵、冒険者で艦隊として指揮を執る方が必要なのです。シンデンさんは、傭兵や星域軍を率いて戦った経験がおありですよね」
「確かに率いて戦った経験はあるが、あれは指揮を執ったなどとはとても言えない。戦争などで傭兵や冒険者を大勢率いて戦ったことのあるSランク傭兵か冒険者がいるはずだ。指揮はそいつに任せて、自分はその下で戦った方が気楽なのだ」
メアリーは、要塞級レリックシップや宇宙生物との戦いの実績からシンデンにその様な話を持ってきたのだろうが、シンデンや帆船は指揮官というポジションは似合わない。
ジョーンズやミスター・ビッグ以外にもSランク傭兵や冒険者チームは存在している。そしてSランクの傭兵や冒険者のチームは、ほとんどがレリックシップを持っている。もちろん帆船ほどの優秀なレリックシップでは無いが、人類の現状の宇宙戦艦よりは優秀な船ばかりである。
「そうですか。シンデンさんに断られると困るんですよね。まあ、管理組織が立ち上がるまで、まだ時間があります。その間に説得させて貰います」
シンデンが断ったにもかかわらず、メアリーは説得するつもりであった。シンデンはそんな彼女の呟きを聞きたくないと言わんばかりに車外に視線を移した。そんなシンデンを見て、ジョーンズとミスター・ビッグは「やれやれ」という感じで首を振っていた。
★☆★☆
「マスターお帰りなさいませ」
「響音、無事に戻って来たようだな」
旗艦に戻り部屋に入ると、響音がシンデンを出迎えた。シンデンは響音が旗艦に無事戻ったことを知っていたが、特殊部隊とやり合った事で少なからずダメージを負ったのでは無いかと心配であった。しかしその様な心配も無用と、響音は綺麗なメイド姿でシンデンを出迎えてくれた。シンデンはそんな響音の頭を何となく撫でた。
「私のようなドローンに、勿体ないお言葉です」
頭を撫でても響音の顔は無表情だが、声に少し嬉しいという感情がシンデンには感じられた。ケイ素系生命体を使った回路を彼女に組みこんだ辺りから、シンデンは響音の言葉に感情のような物を感じる様になった。電子頭脳は「回路は完璧であり、他に影響は無い」と言うが、シンデンにはそう思えなかった。
「いや、響音には助けられてばかりだ。今回も無理をさせてしまった。体のメンテナンスは必要か?必要なら帆船に連絡艇を出して貰うぞ」
「問題ありません。見ての通り、自己修復ナノマシンで既に修復済みです」
響音は体には問題は無いとクルリと一回転してみせた。響音が嘘を言うわけも無いので、シンデンは頷いてソファーに座り込んだ。総会は明日も続くが、メアリーが何処かに出かけない以上、シンデンはこの部屋で待機である。今朝は早めに目覚めたことで、シンデンの肉体は眠気を覚えていた。バックアップ霊子は眠りなど不要だが、シンデンの体には休息は必要だ。
「マスター、お疲れのようですが大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ。今日は早起きしたので、少し眠気があるだけだ。SPから護衛のシフトの交代命令が入るまで待機だ。響音、済まないがお茶を煎れてくれるか」
「了解しました」
眠気覚ましに響音に緑茶を入れてもらっていると、部屋の通信端末から着信音が聞こえてきた。
『シンデンさん、少しお部屋にお邪魔して宜しいでしょうか?』
「ああ、かまわないが?」
部屋に通信を送ってきたのはメアリーだった。「車での話の続きをやるつもりかな」と、シンデンは警戒しながら、部屋のドアを開けた。するとメアリーはたった一人でシンデンの部屋に入ってきた。SPは部屋の外で待機していた。
「休憩されているところ申し訳ありません」
「いや大丈夫だ。しかし大統領が護衛も付けず一人で部屋に入るとは不用心だな。響音、大統領のお茶も用意してくれ」
「Yes Master」
響音の返事を待つ間に、メアリーはシンデンの向かいのソファーに座り込んだ。メアリーの姿は何度見ても幼女だが、草案を通した事で肩の荷が下りたはずなのに、何か緊張した子供のような雰囲気を醸し出していた。
「護衛を連れてこなかったのは、シンデンさんと二人っきりでお話しがしたかったからです」
メアリー「二人っきり」という部分を強調する。これではまるで愛の告白のようだが、シンデンには幼女趣味はないし、メアリーもそんな話で来たわけでは無い。響音がシンデンとメアリーの前にお茶を置いて、二人の話の邪魔にならないように壁際に移動した。メアリーはお茶を一口飲んでから話し始めた。
「シンデンさん、総会で私が見せた映像の最後、あのレリックシップが使った兵器についてどう思われますか?」
メアリーは、ヤマト級のレリックシップが放った霊子力兵器について話を切り出した。
「あの兵器か…。全長十キロ以上ある異星人の船と調査船団を破壊したあの兵器について、科学者でも無い俺に何か分かるとでも?ベイ星域軍で調査、研究は行ったのだろ」
「前大統領は研究させていた様ですが、あのデータだけではどのような兵器か見当もつきませんでした。そこで私はベイ星域大統領として、同じ様な兵器で攻撃されたシンデンさんにお聞きに来たわけです」
「…メアリー大統領、何故俺が同じ兵器で攻撃されたと思ったのだ?」
「キャリフォルニア星域のステーションとシンデンさんと戦った星域軍の部隊が同様な兵器で壊滅した事は、ベイ星域でも情報を掴んでおります。全滅した部隊と戦ったシンデンさんは、あの兵器について知っているはずですよね」
「(長官、情報管理がなってないぞ。…しかし、メアリーは霊子力兵器の事を知っているのか、それともキャリフォルニア星域が同じような兵器を持っていると思っているだけなのか、さてどっちだ?)」
シンデンは、メアリーがここまで踏み込んで霊子力兵器について尋ねてくる理由を考えた。
>『マスター、霊子力兵器の情報は公開しないでください』
>『分かっている。だが、シンデンが霊子力兵器による攻撃を受けたという情報は既にベイ星域は持っているようだ。その点は誤魔化せない』
>『シンデン、何時もの「未知のレリックによる攻撃だ」と誤魔化すしか無いだろ』
「シンデンさん、私はあの兵器についてキャリフォルニア星域で極秘に研究されていることも知っています!」
シンデンが黙っているため、しびれを切らしたようにメアリーはそう言ってきた。
「そうか。あのレリック兵器について、そこまでベイ星域は情報を調査済みか…」
「レリック兵器ですか。私はそろそろシンデンさんと腹を割って話し合いたいのです。あの兵器の正体は霊子力兵器ですよね。私はあの兵器について人類がどう対応すれば良いかを話したくて、一人でやって来たのです」
メアリーは自分が霊子力兵器について知っていると、シンデンに告白した。
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