星域連合緊急総会(20)迫る脅威
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
>『メアリーが巨大な敵とか言い出したが、電子頭脳さんに心当たりはあるか?』
>『本船の敵はヤマト級ですが、メアリーにとって巨大な敵とは言えません。彼女の言う「巨大な敵」について本船は情報を持っておりません』
>『そうか、帆船にも分からないか』
>『電子頭脳さん、シンデン、俺が前に言った話は覚えているよな。「人類全体に対して明確な敵を作ってやる」だよ。メアリーはこのタイミングでそれを言ってしまったんだ。しかし五年以内に敵がやって来るとか、彼女には聞きたい事が山ほど出てきたな』
シンデンは電子頭脳に確認したが、彼も巨大な敵には心当たりは無かった。バックアップ霊子はメアリーが草案を通し、人類が連邦国家として団結するための仮想敵を作るつもりだと考えていたが、五年以内という具体的な時間を言い出したことで、彼女は本当に敵が存在すると確信していると分かってしまった。帆船ですら知らない敵とは、どのような敵であるか、総会が終わった後にメアリーから聞き出す必要がある。
「メアリー大統領、貴方は人類が巨大な敵と戦うと言いましたが、一体敵とは何なのでしょう。巨大な敵など、どの星域も認識しておりません。敵とは何か説明していただけないでしょうか」
会場の沈黙を破り、キャリフォルニア星域の代表がメアリーに問いかけた。
「敵の説明ですか。それが出来れば良いのですが、現在私も敵について詳細な情報は持っていません」
「敵の情報が無い?」
「情報が無いのに、巨大な敵であると言えるのか」
「メアリー大統領、情報も無い敵について、何故総会で話をする必要があったのだ?」
メアリーは敵について情報を持っていないと返答したことで、会場は再びざわめきだした。キャリフォルニア星域の代表も「敵の情報も持っていないのか」と呆れた顔をしていた。
「皆さんは、二十一年前に大マゼラン星雲に向けて送り出した調査船団に付いてご存知でしょうか。そしてその調査船団が二年の航海の途中で消息を絶ったことは、当時銀河でも話題になりました」
そんな会場のざわめきを無視して、メアリーは「巨大な敵」の話とは関係の無い大マゼラン星雲の調査船団について語り出した。
大マゼラン星雲までの距離は十六万光年であり、現在の人類の持つ超光速航法を使っても往復で十年程かかる距離となる。航路情報も無い手探りの航海であり、当時冒険者ギルドのSランクの冒険者が調査船団の指揮を取っていたが、銀河系を出発して二年航海した途中で、調査船団は消息を絶ってしまった。
調査船団からの連絡が途絶えた理由について送り出した星域や冒険者ギルドからは何も発表が無かった。当時のマスコミは、「長期間の航海に乗員が耐えきれず、反乱が起きて壊滅した」や「新種の宇宙生命体に襲われて壊滅した」とか「他の知的生命体の襲撃を受けた」といった様々な憶測を報道したが、真実は謎のままだった。そして連絡を絶った調査船団まで超光速航法でも二年もかかることから、救助の船団を出す事も無意味と判断され、そこで調査船団の件は終わってしまった。
この事件は有名であり、世間の情報に疎いシンデンでも知っていた。つまりここに集まっている各星域の代表で知らない者はいないというレベルの話である。
>『人類は天の川銀河系の半分も調査出来ていないのに、大マゼラン星雲に向けて調査船団を出したのか。なかなか無謀な奴もいたんだな』
>『本船なら余裕で往復することは可能ですが、当時の人類の技術では大マゼラン星雲まで調査に赴くのは無謀ですね』
>『冒険者らしいと言えばらしいが、無謀だったか』
「私もその話は知っている。だがそれとメアリー大統領のいう巨大な敵と、どのような関係があるのですか。まさかあの調査船団が消息を絶ったのは、その巨大な敵とやらが原因とでも言われるのでしょうか。未だに『人類以外の知的生命体の襲撃を受けて全滅した』と主張する輩もいますが、メアリー大統領はその様なゴシップ記事を真に受けておられるのでしょうか。ああ、あの調査船団を出したのはベイ星域でしたね。当時の大統領が天の川銀河だけでは無く、他の銀河系も手中に収めようとSランクの冒険者を無謀な調査に送り出したんでしたね。貴重なSランク冒険者を無謀な調査にかり出した件で冒険者ギルドから非難声明が出ていましたね」
今度はイグラン星域の代表が呆れ顔で話し出した。
彼の言う通り調査船団はベイ星域が送り出したが、調査船団を指揮したSランク冒険者は強制では無く、自分の意思で調査船団を組織して航海に乗り込んだ事は知られている。冒険者ギルドから非難声明も、調査船団が消息不明となったことで、ベイ星域に対する嫌みのような物だった。
「無謀だったのは確かですが、彼らは望んで調査に向かったのです。その点についてはベイ星域大統領として訂正させて貰います。…それでその調査船団が消息を絶ったことと私の言う強大な敵が関係あるという話ですが、それは事実です。しかしそれはゴシップ記事やインチキ書籍に書かれている事とは関係ありません。私、メアリー個人とベイ大統領だけが知る情報から判断した結果です」
イグラン星域の代表が言った発言をメアリーは否定した。しかし、彼女は調査船団が消息を絶ったのはその「巨大な敵」に原因があると言い切った。
>『この船の創造主達は大マゼラン星雲どころか、アンドロメダ銀河まで進出していたんだよね』
>『はい。当時は本船より高速な船もあり、その船であれば半年程度でアンドロメダ銀河まで到達可能でした』
>『それぐらいじゃ無いと、銀河を跨いだ文明は築けないか。しかし、この船の創造主達は戦争で他の銀河系に進出していた人も含めて滅んだんだよね?』
>『戦争が激しくなると、各銀河からの船による往来も無くなり、超光速通信も入らなくなりました。そして本船が封印されるまでその状況は変わりませんでした。よって、本船を封印したマスターは、他の銀河系に存在した創造主も滅んだと判断していました』
>『実は、他の銀河系に創造主達が生き残っていた…なんて可能性は無いの?』
>『他の銀河の創造主達が生き残っていれば、天の川銀河系に船を送るか、最低でも超光速通信を送って来るでしょう。その痕跡すら無いという事は、他の銀河系に創造主達が生存している可能性は無いと推測します』
>『じゃあ、他の銀河ではこの船やヤマト級は封印されず、未だに戦い続けているという可能性は?調査船団はそれに巻き込まれてしまったとか』
>『船が封印されていなければ、本船にも連絡が来ると思うのですが。可能性はゼロではありません』
>『銀河系に封印されているヤマト級だけでも厄介なのに、他の銀河系から帆船やヤマト級のレリックシップがやって来るなら、そりゃ「巨大な敵」だな。だが、それだと幾ら人類が協力しても太刀打ちできないと思うが…』
>『本船やヤマト級を所持していないメアリーには、それは分からないのでは?』
>『そうか。彼女には「敵は巨大でも人類が協力すれば太刀打ちできる」と考えているのか。…メアリーのいうことが本当なら、人類は絶滅の危機が迫ってきているという事になるな』
>『そうなります』
>『とにかくメアリーの話を最後まで聞くか』
バックアップ霊子と電子頭脳は、メアリーが何を語るのか聞くことにした。
「何を言い出すと思えば、ベイ星域大統領だけが知る事実ですか。そんな戯言で私達が騙されるとでも思っているのでしょうか」
イグラン星域の代表は呆れた顔でメアリーの発言を戯言と切って捨てた。
「メアリー大統領、貴方の話が本当であるというなら、貴方個人とベイ星域大統領が知っているという証拠を見せて貰いたい」
ルフラン星域は、つい先日までレリックシップに政権のトップが操られていたという事実があるため、メアリーの言うことを否定できなかった。もしあの地上戦艦のようなレリックシップが人類の生存権に向かって迫ってきているならば、「巨大な敵」になり得ると彼は思っていた。
「証拠ですね。ではベイ星域大統領が隠してきた情報を一部公開します。というか現在はこれしか情報を開示できないのです」
メアリーは壇上の端末を操作すると、自分の胸元のペンダントから取り出したクリスタルをセットした。端末はクリスタルから情報を読み出すとメアリーの背後に巨大なホロディスプレイが出現し、そこにノイズ混じりの映像が映し出された。
『今大マゼラン星雲調査船団は、所属不明の宇宙船の戦いに巻き込まれている。何度も双方に通信を送ったが、相手から返信は無かった。それどころか通信を送ったことで、一方は、我々に攻撃を仕掛けてきた。超光速航法で逃げようとしたが、何故か回路を起動することが出来ない。そのため大マゼラン星雲調査船団は壊滅しようとしている。この旗艦も後どれだけ持つか分からない』
ホロディスプレイに向けて語りかけていたのは、調査船団の指揮を取っていたSランク冒険者だった。彼の話が終わると、映像は船外カメラに切り替わり、調査船団の船が攻撃を受けている様子が映し出された。調査船団に攻撃を仕掛けているのは、第二次世界大戦の海上戦艦と似た外観を持つレリックシップだった。
そしてレリックシップと戦っている宇宙船は、曇りガラスの様な半透明の外装をまとい、三角錐を寄せ集めた様な姿の巨大な宇宙戦艦(全長十キロメートル以上)であった。巨大宇宙戦艦は調査船団に対して攻撃を行っておらず、逆に調査船団を護ろうとしていた。しかし巨大宇宙戦艦は単艦で、防御力はあるが小回りがきかない為、調査船団の宇宙船は海上艦艇スタイルのレリックシップの攻撃によって旗艦を残して次々と撃破されていった。
>『電子頭脳さん、あのレリックシップはヤマト級か?』
>『いえ、ヤマト級と同じ様式ですが、ヤマト級ではありません。本船のデータベースにも載っていない船です。もしかすると、他の銀河の創造主が製作した船かもしれません』
シンデンの目を通して映像を見ているため、電子頭脳にはレリックシップの細かな形状まで伝わらなかった。ぱっと見には外見はヤマト級に近い外見であったが、主砲の数や大きさなどが異なっていた。しかしヤマト級達と同じ思想の創造主が製作した船だと思われた。
>『ヤマト級と同じく第二次世界大戦の頃の海上艦艇に酷似している。恐らくヤマト級の系譜のレリックシップだと思うが、戦っている相手の船は見たことも無い形だ』
>『本船のデータベースにもありません。全く未知の種類の艦艇です。防御力と火力はヤマト級を超えています』
バックアップ霊子と電子頭脳がシンデンの目から得た情報を解析している間にも、映像は続いていた。
巨大宇宙戦は最後に残った調査船団の旗艦を自身の防御フィールド内に入れて護ることにした。こうなると海上艦艇スタイルのレリックシップの攻撃は通用しなくなり、逆に一方的に攻撃を受けて次々とレリックシップは破壊されていった。
このままいけばレリックシップ艦隊の敗退で終わると思われたが、そのままでは終わらなかった。
レリックシップ艦隊の旗艦とおぼしき戦艦が、主砲である三連装砲からブラスターの代わりに砲弾を発射した。砲弾は巨大戦艦の防御フィールドを貫けなかったが、そこで爆発すると宇宙空間を強烈な光で塗りつぶした。
『メア…』
最後に冒険者がもう一度映像に出たが、そこで旗艦が破壊されてしまったのか、ホロディスプレイにはノイズまみれの画像が表示されて止まってしまった。
>『最後の砲弾は霊子力兵器か?』
>『恐らく、霊子力兵器と思われます』
>『あの巨大戦艦の防御フィールドでも霊子力兵器は防げなかった。調査船団はレリックシップの霊子力兵器にやられて全滅したのか』
>『困りました。メアリーによって、星域連合の総会で各星域に霊子力兵器について情報が広まってしまいました』
>『大丈夫だろう。砲弾が霊子力兵器だと他の星域は気づいていない。この場で砲弾が霊子力兵器と理解できるのは、キャリフォルニア星域の諜報部長官ぐらいだ』
>『マスターにはこの後、あの映像データについてメアリーから情報収集を行って貰いましょう』
>『シンデン、お前にしか出来ないからな。頼むぞ』
>『分かった』
「これがベイ星域が隠し通してきた大マゼラン星雲調査船団の最後です。銀河系を出発して二年目に、調査船団は人類とは異なる知的生命体の戦闘に巻き込まれて全滅したのです。他の銀河に知的生命体がいる事を知られたくない前大統領は、この事実を公表しませんでした」
ホロディスプレイの表示が終わるとメアリーは映像について説明を始めた。
「調査船団は他の知的生命体との戦争に巻き込まれて壊滅したのか」
「調査船団を攻撃していた宇宙船は、キャリフォルニア星域が所有していたレリックシップに似ている気がするが。まさかキャリフォルニア星域がレリックシップを使って調査船団を襲ったのか?」
「もう一方の宇宙船も見たことが無い形状でした。大マゼラン星雲には二種類の知的生命がいると言うことですか?」
「いや、あの程度の映像なら簡単に作り出せる。メアリー大統領が草案を通すために作ったフェイク動画では無いのか?」
「敵がキャリフォルニア星域が所有していたレリックシップに似ている点が気になる。キャリフォルニア星域を陥れるためのフェイク動画でしょう」
会場で盛んに代表同士が今の映像について話し始めた。
「メアリー大統領、何故あの映像データを提出されないのですか。捏造映像でないのであれば、データの提出をお願いします」
会場でメアリーが移した動画に対して議論が成されようとしたが、動画はホロディスプレイに映し出されただけで、データとして星域代表には配信されていなかった。
そこでロスア星域の代表が映像データの提供を彼女に呼びかけた。
「調査船が消息不明となった際の映像データ提供ですが、現状ベイ星域の法律では他星域に提供する事が許可されておりません。先ほどの様に映像としてご覧いただくしか無いのです。映像データの提供はベイ星域内で法的に解決した後、星域連合に提出させていただきます」
「法的と言うが、ベイ星域は大統領の裁量でいかようにも出来そうな物だが?」
「前大統領と異なり、私は大統領の特権を使って法律をねじ曲げる気はありません」
イグラン星域の代表に対して、メアリーは法律を守るという姿勢で。
「データを提供できないとなると、やはりフェイク動画では無いのか?」
「データが提供されない以上、そう言わざるを得ないな」
メアリーが直ぐにデータを提供できないと言った事で、会場では先ほどの映像は創作物という認識が広まりつつあった。
「皆さんは、データを提供できないことであの映像はフェイクだと思われているでしょう。ですが、あの映像は真実なのです。最初に映像に出ていた調査団の責任者…Sランク冒険者の名はジョージ・フロイト。彼は私の父なのです」
メアリーは端末から抜き出したクリスタルを握りしめると、目に涙を浮かべて映像が事実だと主張した。
お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたら評価・ブックマークをお願いします。